業績

3【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)当期の経営成績の概況

(全般の概況)

当連結会計年度(2021年4月1日から2022年3月31日)は、新型コロナウイルスの防疫と経済活動の両立により、落ち込みからの回復の傾向がみえました。一方、感染の再拡大、2022年2月に勃発したロシアのウクライナ侵攻による資源価格の高騰、部品・原材料不足の深刻化、米国を中心としたインフレによる需要抑制など、世界経済の回復ペースを鈍化させる兆候も見られております。また為替は前年比で円安となりました。当社グループの主要な需要業界の動向としては、半導体市場は、第5世代移動通信システム(5G)関連やPC、データセンター向けの需要が引き続き拡大していることにより、メモリー、ロジック半導体共に好調に推移しました。フラットパネルディスプレイ市場はテレワークの推進などの影響により年度を通じては堅調に推移しましたが年度の後半にパネル市況が軟化し、パネルの生産調整が行われました。バイオ医薬品市場は引き続き高い成長となりました。世界の自動車生産台数は、半導体不足や海外生産部品の調達難などによる自動車メーカーの減産の影響により、回復スピードが鈍化しています。

このような状況のもと当社グループにおきましては、2024年度に向けた経営方針に沿い持続性と強靭(レジリエンス)性を重ね持った企業体となるために事業構造及び経営体制の強化を進め、積極的な研究開発および事業投資を実行し、事業を推し進めてまいりました。その中でもコア事業と位置付けるデジタルソリューション事業とライフサイエンス事業につきましては中長期的な成長に向け注力致しました。半導体材料事業を中心とするデジタルソリューション事業においては、EUV(極端紫外線)リソグラフィー用メタル系フォトレジストの設計・開発・製造で世界をリードするInpria Corporation(Inpria)を完全子会社化しました。また、主力の四日市工場にてEUVレジストを含む最先端リソグラフィー材料の新工場建設に着手いたしました。マーケティングと顧客対応力をさらに強化するため、シンガポールと台湾に現地法人を設立いたしました。半導体製造における重要な市場において、さらなる事業拡大を目指してまいります。ライフサイエンス事業につきましてはグループ企業のKBI Biopharma,Inc.(KBI)による欧米でのCDMO事業(バイオ医薬品の開発・製造受託事業)の新工場の建設と立ち上げを進めたほか、Crown Bioscience International(Crown Bio)による高度な細胞の3Dイメージング技術を保有するOcellO B.V.の買収、新規事業創出にむけた新研究所「JSR Bioscience and informatics R&D center (JSR BiRD)」の開所など、将来の事業拡大に向けた施策を確実に実行いたしました。エラストマー事業につきましては、2021年5月11日開催の取締役会において、当社のエラストマー事業を当社の子会社として新たに設立する日本合成ゴム分割準備株式会社に吸収分割の方法により承継させ、当該承継会社の全株式をENEOS株式会社に譲渡することを決定しました。そのため、当連結会計年度より、非継続事業に分類しております。この結果、当連結会計年度の表示形式に合わせ、前連結会計年度の連結損益計算書及び関連する連結財務諸表注記を一部組み替えております。なお、2022年4月1日にENEOS株式会社への株式譲渡は完了いたしました。

以上の結果、当期の業績といたしましては、売上収益3,409億97百万円(前期比9.3%増)となり、前年比では増収となりました。コア営業利益は、433億6百万円(前期比14.3%増)となり、前年比では増益となりました。営業利益は、437億60百万円(前期比27.8%増)となりました。また、親会社の所有者に帰属する当期利益は、前期551億55百万円の赤字から373億3百万円の黒字となりました。

 

 

 

 

 

(単位:百万円)

区 分

前期

当期

増減

金 額

構成比

金 額

構成比

金 額

比 率

売上収益

 

 

 

 

 

 

デジタルソリューション事業

151,420

48.5%

165,030

48.4%

13,610

9.0%

ライフサイエンス事業

55,197

17.7%

72,452

21.2%

17,255

31.3%

合成樹脂事業

79,123

25.4%

90,606

26.6%

11,483

14.5%

その他事業

26,259

8.4%

12,910

3.8%

△13,349

△50.8%

調整額

0

0.0%

0

0.0%

△0

△99.9%

合計

312,000

100.0%

340,997

100.0%

28,998

9.3%

 

 

 

 

 

 

 

国内売上収益

108,248

34.7%

110,688

32.5%

2,440

2.3%

海外売上収益

203,752

65.3%

230,310

67.5%

26,558

13.0%

 

 

 

 

 

 

 

区 分

前期

当期

増減

金 額

売上収益比

金 額

売上収益比

金 額

比 率

コア営業利益

37,902

12.1%

43,306

12.7%

5,405

14.3%

親会社の所有者に帰属する当期利益

△55,155

△17.7%

37,303

10.9%

92,458

-

 

(部門別の概況と分析)

当社グループは、「デジタルソリューション事業」、「ライフサイエンス事業」、「合成樹脂事業」の3事業を報告セグメントとしております。報告セグメントの位置づけは下図の通りです。

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<デジタルソリューション事業部門>

デジタルソリューション事業部門は前期比で増収増益となりました。

半導体材料事業は、メモリー、ロジック半導体向け材料ともに堅調に推移しました。先端リソグラフィー分野におけるリーダーとしてのポジションを強化するために、Inpriaを子会社化し、EUVフォトレジストの製品ポートフォリオに将来技術となるメタルレジストを加えました。主要顧客の先端デバイスが立ち上がるなど、最先端フォトレジストを中心に販売が堅調でした。加えて、実装材料においても主要顧客向け製品が順調に立ち上がりました。洗浄剤につきましては米国工場での立ち上げ遅れに起因し減損損失を計上いたしました。以上の結果、売上収益、コア営業利益ともに前期を上回りました。

ディスプレイ材料事業は、引き続き成長が期待される中国市場において競争力のある製品を中心に拡販を進め、注力している大型TV用液晶パネル向けの配向膜と絶縁膜が中国向けに販売を拡大しました。配向膜や絶縁膜の販売が堅調に推移した一方、液晶ディスプレイの生産が韓国、台湾から中国にシフトしている中で、当社グループの事業再編による台湾、韓国での現地生産の閉鎖や縮小、事業再編に伴う費用の増加により、売上収益とコア営業利益は前期を下回りました。

エッジコンピューティング事業はNIR(近赤外線)カットフィルターの販売減により減収減益でした。

以上の結果、当期のデジタルソリューション事業部門の売上収益は1,650億30百万円(前期比9.0%増)、コア営業利益390億2百万円(同12.8%増)となりました。

 

 

<ライフサイエンス事業部門>

ライフサイエンス事業は、米国の統括会社が当該事業全体の戦略を主導し、自社材料の他、バイオ医薬品の創薬支援、製造プロセス開発および製造受託事業を中心に売上収益拡大に努めました。グループ会社のCrown Bioが手掛けるCRO事業(医薬品の開発受託事業)やKBIでは、順調にパイプラインを増やしています。株式会社医学生物学研究所(MBL)については診断薬事業が堅調に推移し、バイオプロセス材料につきましても、商業生産で使用開始されるなど、売上収益に貢献しました。コア営業利益につきましては、成長投資による先行した費用の増加などにより前期を下回りました。

以上の結果、当期のライフサイエンス事業部門の売上収益は724億52百万円(前期比31.3%増)、コア営業利益31億68百万円(同9.7%減)となりました。

 

<合成樹脂事業部門>

合成樹脂事業は、主に自動車業界の需要回復を取り込み販売数量は前期を上回り、売上収益も前期を上回りました。コア営業利益は販売数量の回復により前期を上回りました。

以上の結果、当期の合成樹脂事業部門の売上収益は906億6百万円(前期比14.5%増)、コア営業利益53億23百万円(同20.2%増)となりました。

 

(経営方針、経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等)

経営方針では、今後の社会の発展に重要であり、市場の成長が期待され、技術革新の要求が高くJSRグループの強みを発揮できる、デジタルソリューション事業とライフサイエンス事業をコア事業と定めました。2024年度の数値目標としましては、デジタルソリューション事業とライフサイエンス事業の拡大の結果、二事業で売上収益3,000億円以上、過去最高利益の更新、全社の株主資本利益率(ROE)10%以上を目指します。また、各事業については投下資本利益率(ROIC)による投下資本リターンの管理を行い最大化を図っていきます。

 

 

生産、受注及び販売の実績は、次のとおりであります。

①生産実績

 当社グループの生産品目は広範囲かつ多種多様であり、同種の生産品目であっても、その容量、構造、形式等は必ずしも一様でなく、セグメントごとに生産規模を金額あるいは数量で示すことは行っておりません。

 このため、生産実績につきましては、(1)当期の経営成績の概況 における各セグメント業績に関連付けて記載しております。

 

②受注実績

 当社グループは受注生産を行っておりません。

 

③販売実績

 当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示しますと、次のとおりであります。

 

 

(単位:百万円)

セグメントの名称

金額

前期比(%)

デジタルソリューション事業

165,030

9.0%

ライフサイエンス事業

72,452

31.3%

合成樹脂事業

90,606

14.5%

その他事業

12,910

△50.8%

調整額

0

△99.9%

合計

340,997

9.3%

(注) セグメント間の取引については相殺消去しております。

 

(2)当期の財政状態の概況と分析

当社は、2021年5月11日開催の取締役会において、当社の子会社として新たに設立する日本合成ゴム分割準備株式会社に当社のエラストマー事業を吸収分割の方法により承継させた上で、日本合成ゴム分割準備株式会社の全株式をENEOS株式会社に譲渡することを決定し、同日付で、ENEOS株式会社との間で株式譲渡契約書を締結いたしました。本株式譲渡は2022年4月1日に予定通り実行されました。本件譲渡の決議に伴い、エラストマー事業の資産及び負債を売却目的保有に分類される処分グループに分類し、エラストマー事業は当連結会計年度から非継続事業に分類しております。

①資産

当連結会計年度末の総資産は、前期比1,365億98百万円増加し、8,093億71百万円となりました。

流動資産は、エラストマー事業も含めた棚卸資産の増加等により、前期比1,077億23百万円増加し、4,370億2百万円となりました。

非流動資産は、Inpria Corporationの完全子会社化に伴うのれん等の増加により、前期比288億75百万円増加し、3,723億69百万円となりました。

②負債

負債は、エラストマー事業も含めた社債及び借入金の増加等により、負債合計で前期比925億95百万円増加し、3,946億31百万円となりました。

③資本

資本では、親会社の所有者に帰属する当期利益の計上等により、親会社の所有者に帰属する持分合計は前期比420億16百万円増加し、3,760億11百万円となりました。非支配持分を加えた資本合計は、前期比440億3百万円増加し、4,147億39百万円となりました。

 

(3)当期のキャッシュ・フローの概況と分析

当連結会計年度における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、前連結会計年度末に比べて398億9百万円減少し、当連結会計年度末には455億67百万円となりました。

営業活動による資金収支は、182億71百万円の収入(前期比521億32百万円の収入減)となりました。主な内訳は、税引前利益455億21百万円、減価償却費及び償却費224億82百万円、棚卸資産の増減額△464億54百万円であります。

投資活動による資金収支は、631億17百万円の支出(前期比104億31百万円の支出増)となりました。主な内訳は、有形固定資産等の取得による支出476億14百万円、連結の範囲の変更を伴う子会社株式の取得による支出473億48百万円、投資の売却による収入172億3百万円、関連会社の売却による収入152億24百万円であります。

財務活動による資金収支は、229億94百万円の収入(前期比186億98百万円の収入増)となりました。主な内訳は、短期借入金の増加額393億38百万円、長期借入金の返済による支出153億38百万円であります。

なお、当社グループでは、年間事業計画に基づく資金計画を作成し、直接調達と間接調達そして短期と長期の適切なバランスなどを考慮し、流動性リスクを管理しております。

 

 

 

資金調達及び資金の流動性

当社グループの資金需要は、製造販売にかかる原材料費、経費、販売費及び一般管理費等の運転資金、設備投資、M&Aを含む事業投資、有利子負債の返済になります。これら資金需要に対しては主に営業キャッシュ・フロー、金融機関からの借入により対応しております。

当社グループは年間事業計画に基づく資金計画を作成し、事業拡大と財務体質強化に配慮しつつ、直接調達と間接調達そして短期と長期の適切なバランスなどを考慮し、流動性リスクを管理しております。なお、当社グループは、当連結会計年度末現在において、1,000億円を上限とした社債発行登録ならびに150億円を上限としたコマーシャル・ペーパー発行枠の設定を行っております。当連結会計年度は総額100億円の短期社債を発行し、資金調達手段の多様化も進めております。

また、資金の効率的な活用を目的としてCMS(キャッシュ・マネジメント・システム)の導入、グループ内の資金調達・管理の一元化を進めております。

 

 

(重要な会計方針及び見積り)

当社グループの連結財務諸表は、IFRSに準拠して作成しております。この連結財務諸表の作成にあたり、必要となる事項につきましては合理的な基準に基づき、会計上の見積りを行っています。

なお、当社グループの連結財務諸表で採用する重要な会計方針、会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定は、「第5 経理の状況 1連結財務諸表等(1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 4.重要な会計方針、6.重要な会計上の見積り及び見積りを伴う判断」に記載しています。

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