当社は、「驚きを心に」をコンセプトとして、人々の生活が便利に楽しくなるように、AIを活用したサービスを、個人向けには頭脳ゲーム等のアプリケーションとしてスマートフォンやタブレット端末上で展開し、企業向けには様々な領域における機械学習等のAIサービスとして提供しております。当社では将棋AIの研究に取り組み続け、当社エンジニアが開発したAIが現役プロ棋士に勝利するなどの実績を残してきました。また、「将棋ウォーズ」のような頭脳ゲーム(思考能力を用いて競うゲーム)に代表されるアプリケーションの開発を通じて当社が蓄積した機械学習(注1)等のAI関連技術は、当社のコア技術となっております。当社は、一般社団法人「日本ディープラーニング協会」の正会員及び一般社団法人「人工知能学会」の賛助会員として最先端の動向を把握するなど、AIを戦略的な重点分野と位置付け、ビジネスを行っております。当社が属するAI市場は、ディープラーニング等の機械学習関連アルゴリズムの高度化に加えて、機械学習に利用可能な計算機の能力向上やデータの増加により、更なる成長が続いております。
当社は、AI関連事業の単一セグメントであるため、セグメント別の記載はしておりませんが、主たるサービスの特徴を分類すると、(1)AIをBtoCビジネスとして展開する「AI(BtoC)サービス」、及び(2)AIをBtoBビジネスとして展開する「AI(BtoB)サービス」になります。それぞれの収益は、AIサービスのライセンス料やスマートフォンアプリでの有料課金収入となりますが、AIは、継続的にデータを入力し、その結果をフィードバックして機械学習を続けることにより、その精度が高まっていくという性質を持つため、当社のAIサービスを活用しているユーザーには継続利用するインセンティブが働くことになります。
(1)AI(BtoC)サービス
当社のAI技術は、将棋のような頭脳ゲームAIの開発過程で蓄積されました。具体的には、ビッグデータと呼ばれる、従来のデータ処理技術では処理することが困難であると考えられる膨大なデータ群から、機械学習等の技術に基づいて重要な示唆を導き出す技法になります。例えば、将棋AIの開発においては、過去のプロ棋士の棋譜を活用した機械学習の導入以降、評価関数と呼ばれる局面の優劣を判断する関数の精度が大幅に向上し、コンピューター将棋の棋力の向上が見られました。
図:将棋AI開発について
上図のとおり、機械学習導入以前の将棋AI開発においては、エンジニアによる手作業、つまり最善と考えられる指し手を規定するためのプログラムを一行ずつ記述することによって、AIを開発することが一般的でした。しかしながら、手作業によるプログラミングでは将棋AIの棋力向上には限界がありました。そこで、より精度が高い将棋AIを高効率に開発するために機械学習が導入されることになりました。機械学習を用いることにより、コンピューターが過去のプロ棋士の棋譜データを自ら反復学習し、パラメーター調整等を自動で行いながら、手作業では記述しきれない精緻なプログラムを構築することが可能となりました。その結果、当社エンジニアが開発した将棋AIが2013年に現役プロ棋士に勝利するなど、AIが日進月歩で進化していることが示されております。また、2015年10月には、情報処理学会から「コンピューター将棋プロジェクトの終了宣言」が出されております。
図:将棋AI分野での機械学習の適用とその進歩
現在は、このような手法に加えて、深層学習(ディープラーニング)(注2)や強化学習(注3)といった手法を実施しながら、日々AIの精度を向上させております。
当社ではこのAIを活用したアプリケーションを、主に、Google Inc.が運営するGoogle PlayやApple Inc.が提供するApp Store等世界標準のプラットフォーム(注4)を通じてBtoCサービスとして展開しており、主な収益はそれらの有料課金収入となります。またアプリケーションの運営効率化のためにもAIを活用しております。現在提供しているアプリケーションの特徴としては、当社の戦略的な重点分野であるAIの活用に加えて、リアルタイムオンライン対戦技術を活用したサービスとしていることが挙げられます。当社では、同時対戦型アプリケーションの豊富な開発経験をもとに、高品質なリアルタイムオンライン対戦をユーザーに提供することが可能となっております。主力アプリケーションである将棋ウォーズは、会員数600万人以上を誇る世界最大のスマートフォン将棋ゲームアプリ(日本将棋連盟公認)で、現代特有のAIとグラフィックや音楽により、ユーザーは新しい将棋の世界観の中で全世界のプレイヤーとオンライン同時対戦が可能です。本アプリにおいては、ユニークな課金を行っております。これは、ユーザーがオンライン対戦しているときに、アプリ内で「棋神」と呼ばれる、当社エンジニアが開発したAIが、ユーザーに代わって指し手を進めてくれる機能であり、5手120円でユーザーに販売されております。また、終局後にはAIが算出する評価関数に基づいてプレイ中の分析結果を振り返ることもでき、棋力向上に役立てることができます。日本将棋連盟公認の免状・認定状(六段~5級)申請も可能となっており、将棋の全国大会の予選において使われることもあるほか、民放キー局のAIをテーマにしたテレビドラマで使用される等、各種メディアとの連携を強化しています。また、2022年5月より、当社の将棋AIを活用したプロ仕様の将棋AI研究をサポートするプラットフォーム「棋神アナリティクス」の提供を開始しております。「棋神アナリティクス」は、ブラウザで手軽に最新の将棋AI解析が出来るサービスであり、高額な初期投資をせずに、誰でも簡単に操作できるUI/UX環境を用意したところに特徴があります。主にプロ棋士を対象にサービスを提供しておりますが、将来的にはサービスの提供対象を拡大し、多くの将棋ファンに利用されるサービスとなるよう検討を進めております。さらに、2022年5月には世界コンピュータ将棋選手権で当社エンジニアが開発した「dlshogi with HEROZ」が優勝を果たしており、当社が提供する「将棋ウォーズ」や「棋神アナリティクス」にもこの「dlshogi with HEROZ」を活用し、ユーザーがより楽しめるサービスを提供するよう努めております。
(2)AI(BtoB)サービス
将棋や囲碁といった頭脳ゲームにおけるAI開発では、深層学習等の機械学習を活用しておりますが、こうしたAI開発の手法の根幹となるのは、ニューラルネットワークという人間の脳を模した学習システム等の汎用性の高い技術になります。したがって、将棋等のAI開発で蓄積したAI関連の技術を活用することにより、インプットとなるデータを変えることで頭脳ゲーム以外の問題を解決することが可能となっております。このAI(BtoB)サービスにおいては、様々な領域の事業会社に対してAIを提供しており、当社のAIが高い付加価値を創出できることが実証されております。
当社は、金融、建設、エンターテインメント等の各業界に当社のAI技術を活用してBtoB向けAIを提供しておりますが、精度の高いAIサービスを提供するためには、各業界に蓄積されたデータを継続的に機械学習する必要があります。そのため、当社では積極的にパートナーシップ戦略を実行しております。すなわち、各産業を代表する事業会社と資本を含む提携を実施することで、長期的な視点に立ち、継続的にデータを活用した学習を行うことが可能となっております。
当社では、下記表に掲げた「金融」「建設」「エンターテインメント」を重点領域として設定し、AIシステムの初期設定構築から運用・継続フェーズにおいてAIサービスを提供しております。
領域 |
提供しているAIの内容 |
適用しているエンジン例 |
金融 |
株価等の市場予測を行うAIや、ユーザーの投資行動を分析し投資パフォーマンス向上に資するフィードバックを行うAI等 |
予測エンジン 分類エンジン |
建設 |
物件の構造や類似物件の設計情報等を活用して最適な構造設計を行うAI等 |
分類エンジン |
エンターテインメント |
機械学習により頭脳ゲームにおいてユーザーの対戦相手となるAI、ユーザーの行動分析を行いその精度やユーザーの継続率を向上させるAI等 |
頭脳ゲームエンジン |
その他 |
後述の機能別エンジンを組み合わせたAI |
予測エンジン 配置最適化エンジン等 |
収益構造については、AIシステムの構築時に、顧客から初期設定フィーを受領し、その後、AIシステムを運用して継続利用する顧客から月次で継続フィーを受領する収益構造を基本としております。すなわち、当社のビジネスモデルはフロー収入となる初期設定フィーに加えて継続フィーを受領しているストック型ビジネスとなります。また、AIの性質上、機械学習を継続するほどその精度が向上することから、顧客にとっては当社のAIサービスを継続使用するインセンティブが働くため、当社は安定した収益基盤を確保することが可能となります。
また、各産業におけるAI構築ノウハウを蓄積するとともに、「HEROZ Kishin」と呼ばれるAI SaaS(注5)を構築してAI技術の標準化を進め、インプットしたデータを変えるだけで幅広い産業で様々な課題に対して効率的にAIサービスを提供できる体制を構築しております。そして、AIサービスの提供に際しては、大規模サーバ構築を含む包括的なAIサービスの提供体制を構築することにより、安定した収益を獲得するように努めております。
図:AI SaaS「HEROZ Kishin」の仕組み
なお、当社では、下記表に掲げた機能別エンジンを活用しており、それぞれのエンジンをカスタマイズしたり組み合わせたりすることで、前述の領域において、顧客ニーズに合わせたAIサービスを提供することが可能となっております。
頭脳ゲームエンジン |
将棋・囲碁・麻雀・チェス・バックギャモン等の頭脳ゲームをはじめ、その他ゲームにも適応できるエンジンです。 |
予測エンジン |
過去の蓄積データをもとに未来を予測し、与信判断や株価予測・ユーザー購買予測を行うエンジンです。 |
分類エンジン |
様々なデータの特徴を理解し、適切なカテゴリに分類するエンジンです。 |
異常検知エンジン |
センサーや数値の時系列データを解析し、通常状態では見られない、異常状態を特定し、アラートをかけるエンジンです。 |
経路最適化エンジン |
複数の制約条件のもとで目標までの最適な経路を探索し、状況に適した最適な経路を発見するエンジンです。 |
配置最適化エンジン |
複数の制約条件のもとで、定められた評価軸に対して最適な結果を得るための配置を決定するエンジンです。 |
文章処理エンジン |
自然言語を理解し、カスタマーサポートなどにおける個別対応に適したエンジンです。 |
最適解探索エンジン |
過去のユーザー行動をもとに趣味・嗜好を判別し、最適なコンテンツ予測や最適ユーザーを探索するエンジンです。 |
ゲーム開発エンジン |
ゲームルール生成、コンピュータープレイヤーの創出、自動テストに対応できるゲーム用のエンジンです。 |
画像認識エンジン |
画像のピクセルデータから、顔や物体の特徴、年齢などの複雑な要素を認識するエンジンです。 |
(注)1.機械学習とは、人間が有する学習能力に類似した機能をAIに持たせることにより、AIが自動的に学習し進化するための手法を指します。具体的には、教師データ(学習の元になるデータ)に基づいて機械学習することで、未知の状況においても、学習により構築したパターンに基づいて、AIが精度の高い判断を行うことが可能になります。
(注)2.深層学習(ディープラーニング)とは、入力に対して出力を決める処理の層を深く(ディープに)したニューラルネットワーク(人間の脳機能を模すことで効率の良い学習を施すことができる数学モデル)を用いることで、教師データが持つ特徴を手作業ではなくコンピュータープログラムが抽出し、精度向上を目指す機械学習の一手法のことを指します。
(注)3.強化学習とは、明確な教師データが与えられない環境において、コンピュータープログラムが試行錯誤によってその価値を最大化するように振る舞う、機械学習の一手法を指します。
(注)4.プラットフォームとは、ソフトウエアやハードウエアを動作させるために必要な、基盤となるハードウエアやOS、ミドルウエア等のことをいいます。また、それらの組み合わせや設定、環境のことで、Google Inc.が運営するGoogle Play及びApple Inc.が提供するApp Store等が含まれます。
(注)5.AI SaaSとは、機械学習/ディープラーニングにより構築されたモデルをサービスとして提供するビジネスモデルを指します。
[事業系統図]
当社の事業系統図は以下のとおりであります。
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