文中の将来に関する事項は、当事業年度末現在において当社が判断したものであります。
(1)経営方針
当社は、「“はたらく”にテクノロジーを実装し、個の力から社会の仕様を変える」というパーパスのもと、テクノロジーによって一人ひとりの個性や才能を理解することで、個人のキャリア形成や働き方が多様化される社会の実現を目指しています。また、「人材情報を一元化したデータプラットフォームを築く」というビジョンに基づき、人材データベースを軸とした「人材データプラットフォーム構想」を掲げております。
人事・人材関連サービスの領域には、「人材紹介・人材派遣」「求人マッチング」「採用管理」「人材教育」など、いくつかの分野が存在しており、それぞれに特化したサービスが数多くありますが、業務の効率化や生産性向上に対して一定の効果は見られるものの、分野ごとの課題を解決するサービスに留まっております。一方、人材データプラットフォームを築くことで、人材データベースを軸に多数のサービスが連携して運用され、これまで以上に効率化が進み、生産性が高まり、人材データが有効活用されると考えております。さらに、人材データプラットフォームの構築に向けて、タレントマネジメントの機能をより進化させることにより、ひとの可能性を正しく理解できる世界をつくり、個人のエンパワーメントを通じて、個人のキャリアや働き方の多様化を支援してまいりたいと考えております。
(2)経営戦略等
当社は、短期的な利益追求ではなく、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を目指しております。タレントマネジメントシステム事業の中期成長に向けた戦略として、利用企業数の拡大とARPU(注1)の拡大に注力してまいります。利用企業数の拡大に向けては、組織体制の強化、認知度の向上、パートナーの活用、解約の抑制を図り、ARPUの拡大に向けては、アップセルの推進、新機能の開発、エンタープライズ顧客の増加を図ってまいります。
また、中長期的な人材データプラットフォーム構想の実現に向けて、他社サービスとの連携を深化させるとともに、新たな事業領域の創出に向けた研究開発やM&A案件の可能性も模索してまいります。
(3)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社は、主な経営指標として売上高、売上総利益率を特に重視しております。また、サブスクリプション型のビジネスモデルであるため、KPI(Key Performance Indicators)として、ARR(注2)及びその内訳である利用企業数とARPU、解約率及びLTV/CAC(注3)を重視するとともに、適正な人員規模・人材配置による事業運営に努めてまいります。
2022年3月期においては、主な経営指標である売上高と売上総利益率について、売上高が前事業年度比32.2%増の4,496,344千円、売上総利益率が同0.9ポイント増の73.3%と順調に成長しております。また、重視するKPIについては、ARRが前事業年度末比36.0%増の4,912百万円と高い伸びを示し、利用企業数が2,497社(同21.2%増)、ARPUが164千円(同12.2%増)となりました。また、解約率の直近12ヶ月平均は同0.16ポイント減の0.56%と低い水準を維持し、LTV/CACの直近12ヶ月平均は8.6倍(前事業年度末は5.7倍)と健全な水準にあります。
なお、中期成長のグランドデザインとして、2020年3月期から5年程度の時間軸において、売上高100億円、売上総利益率80%、営業利益率30%に到達することを描いております。
(4)経営環境
公益財団法人日本生産性本部が2021年12月に発表した調査によると、我が国の就業者1人あたりの労働生産性は、OECD加盟諸国の中で28位と上位諸国とはかけ離れた実態が明らかになっております。また、就業者1人あたりの労働生産性が低い中、内閣府が公表した令和3年版高齢社会白書によると、2030年までに生産年齢人口は7,000万人を割り込み、その先の2060年までに5,000万人を下回ると推計されております。このような状況を踏まえ、今後の日本社会では、労働人口は減少するという前提のもとで如何に労働生産性を高めていくかが重要な命題になると考えております。
近年の技術進歩により、従来の業務をテクノロジーで補完することで労働生産性の向上に繋がると期待されております。さらに、これまで企業の中でも裏方的な存在であった人事・総務といった“人材に関わる業務”は、直接的に企業の売上や利益に直結する業務ではないこともあり、テクノロジーの導入や効率化が遅れている分野でもありましたが、HRテクノロジーの普及に伴い、この分野にITを積極的に導入する企業が増えております。一方で、タレントマネジメントシステムは新しい分野であるため導入率は12.6%(注4)と、勤怠管理や給与計算等の他のシステムと比較すると低い水準に留まっています。
生産年齢人口の減少を背景に、生産性の向上、多様な働き方への対応、人材の定着や離職防止、採用の強化など、企業はさまざまな人事課題を抱えていますが、その解決に向けて、従業員が持つスキルや才能などの情報を、採用や配置、育成等に活用することで、従業員と組織のパフォーマンスの最大化を目指すタレントマネジメントへの注目が高まっております。また、当社がターゲットとする従業員100人以上の企業は日本に約63,000社(注5)存在しており、当社の利用企業数を鑑みれば市場の開拓余地は広大です。
このように、タレントマネジメントに対するニーズの高まりと市場の開拓余地を踏まえると、さらなる市場成長が見込めると考えております。
(5)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
上記の経営戦略等を推進する上で、当社として捉えている対処すべき主要な課題は以下のとおりです。
① サービスの普及拡大
生産年齢人口の減少を背景に、生産性の向上、多様な働き方への対応、人材の定着や離職防止、採用の強化など、企業はさまざまな人事課題を抱えています。その解決に向けて、タレントマネジメントシステムの導入ニーズは高まっており、その市場は今後さらなる拡大が見込まれております。
一方、先述のとおり、タレントマネジメントに関するITシステムの導入率は12.6%に留まっており、国内における普及度合いは十分とは言えません。
当社は、今後も新規顧客の獲得に向けて、費用対効果を検討した上での積極的な広告宣伝などを通じたサービスの認知度向上を図るとともに、営業リソースの拡充や顧客獲得プロセスの継続的な改善、紹介パートナー及びセールスパートナーの拡大など営業機能の強化に努めてまいります。
② 顧客エンゲージメントの強化
当社のサービスを普及させていくには、既存顧客との関係性を強化し、継続的に『カオナビ』を利用していただくことも重要な課題であると認識しております。当社は、これまでも『カオナビ』の導入や定着の支援、セミナーやコミュニティなど顧客エンゲージメント強化のための取り組みに注力してまいりました。
さらに、2022年1月には、導入顧客のタレントマネジメントの成功確率をより高めるため、学習プログラムや顧客同士で活きた事例を学び合うコミュニティなどを体系的に提供する「カオナビキャンパス」を開始いたしました。
今後、これらの活動をより一層強化・推進して、顧客に『カオナビ』の導入効果を最大限享受していただくことに努めてまいります。
③ サービスの改善と機能拡充
インターネット業界においては常に技術革新が起こっており、競争優位性を維持していくことは容易ではありません。
当社は、新規顧客の獲得及び既存顧客の継続的なサービス利用のため、このような技術トレンドを捉えた製品開発を継続してまいります。細やかな改善を積み重ねることでユーザビリティを徹底的に追求するとともに、多様化する顧客ニーズや潜在的な要望を的確に捉えた機能開発を行い、顧客体験価値の向上を目指した継続的なサービスの改善、機能の拡充に努めてまいります。
④ 情報管理体制の継続的な強化
当社は、顧客の従業員に関する個人情報を預かっており、その情報管理を強化していくことが重要な課題であると認識しております。当社はプライバシーマークを取得し、個人情報保護方針及び社内規程に基づき管理を徹底しておりますが、今後も継続して社内教育・研修の実施やシステムの整備などを行ってまいります。
⑤ セキュリティの継続的な向上
当社サービスの継続利用の前提として、セキュリティの確保は必要不可欠であると考えております。当社では、ISO27001(ISMS認証)、ISO27017(ISMSクラウドセキュリティ認証)を取得して継続的なセキュリティマネジメント体制を構築し、2021年12月には「政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(ISMAP)」のクラウドサービスリストに登録されています。また、外部業者による脆弱性診断を継続的に実施し必要な対策を取るとともに、全社員に対しても年次のセキュリティ研修や標的型攻撃メール訓練を実施することで、セキュリティの向上に努めております。当該対策には終わりはないと認識しており、今後も継続してセキュリティ向上に向けた対策を行ってまいります。
⑥ 組織体制の強化
当社の持続的な事業成長には、多岐にわたる経歴を持つ優秀な人材を採用・育成し、組織体制を整備していくことが重要であると考えております。当社のパーパスに共感し、高い意欲を持った優秀な人材を採用していくために、積極的な採用活動を行っていくとともに、従業員が働きやすい環境の整備や人事制度の構築、教育・研修体制の充実化に努めてまいります。
(注)1.ARPU
Average Revenue Per Userの略語で、利用企業1社あたりの月額利用料金の平均値を示しています。四半期末のMRRを利用企業数で除して計算しています。
2.ARR
Annual Recurring Revenueの略で、四半期末のMRR(Monthly Recurring Revenueの略で月額利用料の合計)を12倍して算出しています。なお、MRRは管理会計上の数値です。
3.LTV/CAC
LTV(Lifetime Valueの略語で、顧客生涯価値をいいます)とCAC(Customer Acquisition Costの略語で、顧客獲得単価をいいます)の比率で、マーケティング活動の投資効率性を表しています。
4.タレントマネジメントシステムの導入率は、IDC Japanが公表している「国内企業の人材戦略と人事給与ソフトウェア市場動向調査」(2017年7月)に基づいております。
5.日本の従業員100人以上の企業数は、総務省・経済産業省が公表している「平成28年経済センサス-活動調査」に基づき当社が算出しております。
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