課題

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものです。

 

(1)会社の経営の基本方針

当社グループは、企業理念において「出会いからイノベーションを生み出す」というミッションの下、「ビジネスインフラになる」というビジョンを掲げています。このミッション、ビジョンの実現に向けて、さまざまなビジネス課題を抱える企業やビジネスパーソンの働き方を変え、DXを促進するサービスを展開しており、これらの事業活動の推進が社会課題の解決に寄与し、ひいては当社グループの株主価値及び企業価値の最大化につながるものと考えています。

 

(2)重視する経営指標と中期目標

2023年5月期から2025年5月期にかけての中期的な目標として、売上高成長と利益成長の両立を目指します。まず、最も重要な経営指標である連結売上高については、20%台以上の堅調な成長の継続を目指します。次に、重視する利益指標として、株式報酬関連費用や企業結合に伴い発生する費用を控除した調整後営業利益(注1)を採用し、各事業の売上高成長に向けた必要な投資を行いながらも、毎連結会計年度における調整後営業利益率の向上を目指します。利益率の向上を実現するに当たっては、2025年5月期における「Sansan」「Bill One」サービス合計(注2)の調整後営業利益100億円以上の計上と、Eight事業における通期での安定的な調整後営業利益の計上を目指します。

 

(注)1. 調整後営業利益:営業利益+株式報酬関連費用+企業結合に伴い生じた費用(のれん償却額及び無形資産の償却費)

2. Sansan/Bill One事業における「Sansan」「Bill One」の合計値であり、「その他」は除く

 

(3)中長期的な会社の経営戦略

当社グループの事業や事業領域には次のような特徴があり、これらに基づいて中長期的な経営戦略を立案しています。

 

①広大な市場機会

新型コロナウイルス感染症による働き方の変化やDXへの意識改革、SaaSビジネスへの関心の高まり等によって、当社サービスに関連する市場は拡大が続いています。DX市場は2030年において5兆1,957億円(2020年比3兆8,136億円増)(注3)、国内SaaS市場は2024年には1兆1,178億円(2019年比5,162億円増)(注4)の規模に達すると予想されています。

また、名刺や請求書、契約書といった書類は、現在でも紙のままで日常的に利用されていてデジタル化が進んでおらず、業務効率化や有効活用の余地が大きく残されていると考えています。各サービスの潜在市場について、まず「Sansan」は、法人向けクラウド名刺管理サービス市場で83.1%(注5)のシェアを有していますが、日本国内の総労働人口を対象として捉えた場合、「Sansan」利用者数の割合は約3%(注6)に留まっており、潤沢な開拓余地が残されていると考えています。次に「Bill One」では、無料利用を含めた契約企業と、各契約企業に対して請求書を送付する企業で構成されるインボイスネットワークを構築していますが、2022年5月末時点におけるネットワーク参加企業数は、日本国内の企業の約2%(注6)に当たる4.1万社に過ぎないため、広大な開拓余地が存在していると考えています。

 

(注)3.「2022 デジタルトランスフォーメーション市場の将来展望 市場編、ベンター戦略編」富士キメラ総研

4.「ソフトウェアビジネス新市場 2020年版」富士キメラ総研

5.営業支援DXにおける名刺管理サービスの最新動向2022(2021年12月 シード・プランニング調査)

6.分母となる国内の総企業数及び従業者数は、総務省統計「2016年経済センサス活動調査」を基に算出

 

②アナログ情報のデータ化精度99.9%を実現する仕組みとテクノロジー

当社グループが提供する各サービスにおけるアナログ情報のデータ化精度は、サービスの本質的な品質・競争力に資するものであり、当社グループでは99.9%の精度を実現する仕組みとテクノロジーを有していることから、事業共通の強みとなっています。当社グループのサービスでは、機械学習等によって日々進化するテクノロジーと、人力の組み合わせによってアナログ情報のデータ化を行っており、創業以来、人力によるデータ入力を中心に、膨大な名刺をはじめとするアナログ情報をデータ化してきたことで、現在では、大量のアナログ情報を正確かつ効率的にデータ化する独自システムの開発・運営が可能となりました。この技術力と独自の仕組みが競争力の源泉であり、継続的なサービス品質・競争力の向上に向けて、新技術の開発やオペレーションの改善を追求しています。また、これらの仕組みやテクノロジーは、さまざまなビジネス分野で活用が可能であるという特徴を有しています。

 

③高い安定性を誇る財務・収益モデル

「Sansan」「Bill One」の課金モデルは、継続収入が見込めるサブスクリプション(月額課金)が中心となっており、安定的かつ継続的な事業成長が見込めるモデルです。また、サービスの月次解約率は直近12か月平均で1.0%以下に留まっており、契約当たり売上高の拡大に努めることで、顧客LTV(ライフタイムバリュー)の最大化を推進しやすいことから、魅力的なモデルであると捉えています。

 

具体的な当社グループの経営戦略は、以下の通りです。

 

(ⅰ)Sansan/Bill One事業のさらなる成長

「Sansan」は、コロナ禍において一定のマイナス影響を受けたものの、マーケティング活動から新規受注までの一連の業務プロセスが確立しており、堅調な成長が続いています。「Sansan」は国内の全企業を対象とするサービスであり、国内には大きな開拓余地が存在しています。今後のさらなる成長に向けては、営業やマーケティング活動におけるビジネス課題の解決に寄与する機能の普及・拡大を図ることで、「Sansan」のビジネスデータベースとしての価値向上を推進します。加えて、営業体制の強化による契約件数の拡大や、ユーザー企業の全社員によるサービス利用(全社利用)を前提とした新規顧客獲得や既存顧客の利用拡大の促進等についても継続的に取り組むことで、契約当たり月次ストック売上高のさらなる拡大を図ります。

また、「Bill One」についても、業種や規模を問わず、国内の全企業を対象とするサービスであるため、大きな開拓余地が存在しており、さらなる普及拡大に向けてさまざまな施策を積極的に実施していきます。具体的には、売上高の最大化に向け、営業活動やテレビCMを中心とした広告宣伝活動・マーケティング活動等の強化や、インボイス制度導入を見据えた請求書発行機能等の拡充に取り組みます。

 

(ⅱ)Eight事業の収益化

Eight事業では、300万人以上のユーザーネットワークを活用し、各種BtoBサービスのマネタイズを強化することで、事業成長に取り組みます。主には、採用関連サービスであるプロフェッショナルリクルーティング「Eight Career Design」を強化することで、事業全体で通期での調整後営業利益の黒字化を目指します。

 

(ⅲ)新たなサービスの創出と成長強化

企業の各種業務フローにおいては、効率性に関するさまざまな課題が山積しており、当社グループは、これまでの既存サービスで培った強みや知見を活かして、企業のDXを促進する新規サービスの創出に注力しています。具体的には、契約書や名刺作成等のビジネス分野でサービス提供を開始しており、これらの業務プロセスの確立や安定的な提供を図っていくほか、新たなサービスの創出に向けた取り組みを推進していきます。

 

(4)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

当社グループの対処すべき主な課題は以下の通りです。

 

①セキュリティリスクに対する管理体制の継続的な強化

当社グループは個人情報等の重要な情報資産を多く扱っており、情報管理体制を継続的に強化していくことが重要であると考えています。現在においても個人情報保護方針及び情報セキュリティ方針を策定した上で、情報資産を厳重に管理する等、個人情報保護に係る施策には万全の注意を払っていますが、今後も社内体制や管理方法の強化・整備を行っていきます。

 

②優秀な人材の採用・育成と多様性の確保

当社グループの持続的な成長のためには、多岐にわたる経歴を持つ優秀な人材を多数採用し、営業体制や開発体制、管理体制等を整備していくことが重要であると捉えています。当社グループの企業理念や事業内容に共感した優秀な人材が、高い意欲を持って働ける環境や仕組みの構築を進めるとともに、人材の多様性確保にも取り組みます。

 

③技術力の強化

アナログ情報を正確にデジタル化する技術は、当社グループの競争力の源泉であり、当社グループが手掛けるさまざまなサービスの成長を支える共通基盤でもあることから、継続的な改善、強化が重要であると考えています。優秀な技術者の採用や先端技術への投資・モニタリング等を通じて、国内を代表する技術者集団になるべく、技術力の向上に取り組みます。

 

また、当社グループでは、気候変動問題に関して、適切な体制の下で事業上のリスクや機会を把握・監督し、課題への対応力を高めていくことは、安定的な経済発展や生活の基盤確保等を目指して、低炭素経済、ひいては脱炭素社会への移行を進める上で極めて重要な取り組みであると捉えています。

 

このような考え方の下、当社は気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)が公表する提言に賛同を表明しており、当該枠組みに基づく開示を以下の通り行っています。

 

(ⅰ)ガバナンス

当社グループでは、気候変動問題への対応を含めた、サステナビリティの実現に資する各種方針や重要事項等については、取締役会で審議し、決定しています。気候変動に関する課題への対応は、代表取締役の監督の下、IR室やオフィス戦略部、財務経理部等のコーポレート部門で構成される気候変動対応プロジェクトを設置し、検討しています。当該プロジェクトにおいて、検討、集計及び特定等がなされた気候変動に係る各種指標や事業上のリスク、機会といった事項は、取締役会が毎年報告を受け、監督しており、事業戦略や計画は、当該重要事項を考慮した上で決定しています。

 

(ⅱ)戦略

当社グループでは、気候変動による気温上昇を2℃未満に抑えた事業環境への対応力や適応力を強化するべく、主には、IPCCの共有社会経済経路・代表的濃度経路といったシナリオ(SSP1-2.6)を利用し、分析した上で、気候変動によってもたらされる事業上のリスクや機会を特定し、対応戦略の策定を行っています。各国で法規制が強化され、炭素税が導入されるといった移行リスクや機会に対しては、中長期的な視点をもって、GHG排出量の削減や再生可能エネルギーの利用方針を整備し、各種取り組みを推進することで対応します。また、当社サービスに係る移行リスクや物理的リスク、機会に対する対応策の多くは、既に成長戦略の一環として対応を進めている事項になりますが、今後は、電力をはじめとした各種利用サービスの多様化・適正化等によるコスト削減の取り組みについても検討を進めていきます。

 

(ⅲ)リスク管理

当社グループでは、各領域の管掌取締役と気候変動対応プロジェクトとの協議の下でシナリオ分析を行い、気候変動に関する事業上のリスクと機会を特定し、重要性の評価や財務影響の算出、対応策の検討を行っています。当該事項は年次で取締役会に報告され、取締役会は、これらリスクや対応策といった重要事項を考慮した上で、事業戦略や計画を決定しています。また、気候変動に関する重要なリスクは、内部監査等で実施する全社的なリスク分析の結果と統合し、管理しています。

 

(ⅳ)指標と目標

当社グループでは、気候変動に関する評価指標としてGHG排出量を選定しています。

 

直近2か年におけるGHG排出量の実績(注7)は下表の通りです。なお、スコープ3におけるGHG排出量実績の算出は現在検討を進めています。

項目

単位

前連結会計年度

当連結会計年度

スコープ1(注8)

t-CO2

154

187

スコープ2(注9)(マーケット基準)

t-CO2

371

480

スコープ2(ロケーション基準)

t-CO2

324

452

スコープ1+2(マーケット基準)

t-CO2

525

667

スコープ1+2 GHG排出量原単位

(売上高当たり)

t-CO2/億円

3

3

 

(注)7. Sansan株式会社単体の実績を集計しています。

8. 各オフィスにおけるガス消費量に係るGHG排出量を集計し算出しています。なお、ガス消費量は、消費量の把握が可能な一部オフィスにおける実績を用いてオフィス面積当たり消費量を算出した上で、当該数値にガス利用が可能な全オフィスの総面積を乗じて算出しています。

9. 各オフィスにおける電気消費量に係るGHG排出量を集計し算出しています。

 

各指標における目標設定については、将来的な開示の充実に向け、世界の動向や日本国内における法規制の状況といった外部要因に加え、当社の各事業における戦略や施策の進捗状況、リスクや機会といった内部要因を踏まえて、現在、総合的な検討を進めています。

 

 

なお、シナリオ分析の下に特定した具体的なリスクや機会の内容、財務影響、対応策等は下表の通りです。分析の対象期間として、現在から2030年までを中期、2050年までを長期として設定し、当社グループの全事業を対象範囲としています。

 

a.リスクの特定

シナリオ分析結果

リスクの

内容

リスクの種類

発現時期

財務影響

(年間)

対応策

各国で規制が強化され、炭素税が導入される

炭素税による税負担額の増加

移行リスク

(法規制)

中・長期

炭素税負担額

約1~3億円

中長期的な視点でのGHG排出量の削減

再生可能エネルギーの利用拡大

クリーンエネルギーへの需要増加等により、各種エネルギー価格が高騰する

営業費用(原価・販管費)の増加

移行リスク

(市場)

中・長期

費用増加額

約3~11億円

電力や原材料調達先の多様化・適正化によるコスト削減

環境意識の高まりから、紙媒体の利用が減少(デジタル化が加速)する

当社サービスの一部機能の重要性低下

移行リスク

(市場)

短・中期

対応済みであり、大きな財務影響は発生しない想定

デジタル利用を主軸とした機能や利便性のさらなる向上

気候変動による集中豪雨や洪水が一定の頻度で発生する

拠点の浸水や利用システムのダウンによるサービスの一部運営停止

拠点の浸水による保管書類の汚損等

物理的

リスク

(急性)

中・長期

利益影響額

約2~16億円

利用システム(サーバ)の冗長化

サービス拠点の分散

洪水対応等のマニュアル整備

 

b. 機会の特定

シナリオ分析結果

機会の内容

機会の種類

発現時期

財務影響

(年間)

対応策

環境意識の高まりにより、アナログ媒体からデジタル媒体への転換(DX)が加速する

気温上昇に伴う感染症リスクの高まりにより、非対面での事業活動が増加する

当社サービスの需要拡大

製品/サービス

中・長期

利益増加額

約4~27億円

デジタル利用を主軸とした機能や利便性のさらなる向上

営業体制・マーケティング施策の強化

各国で規制が強化され、炭素税が導入される

GHG排出量ゼロの達成による炭素税の非課税

強靭性

(レジリエンス)

中・長期

炭素税負担額

0円

中長期的な視点でのGHG排出量の削減

再生可能エネルギーの利用拡大

 

 

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