課題

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

当社グループにおける経営方針、経営環境及び優先的に対処すべき課題等は次のとおりであります。

なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループ(当社及び連結会社)が判断したものであります。

 

(1) 第一三共の価値創造プロセスとESG経営

 当社グループでは、ESG経営を「ESGの要素を経営戦略に反映させることで、財務的価値と非財務的価値の双方を高める、長期目線に立った経営」と定義し、実践しております。

 社会からの多様な要請に応えるため、社内外の様々な経営資源を価値創造プロセスに投入し、サイエンス&テクノロジーを競争優位の最大の源泉として、各ステークホルダーや社会への価値を提供しております。この価値創造プロセスを循環させることで、企業と社会の持続的成長を両立させることができると考えております。

 中長期的な企業価値へ影響を及ぼす重要度と、様々なステークホルダーを含む社会からの期待の両面から、8つの重要課題をマテリアリティとして特定し、事業に関わるマテリアリティと事業基盤に関わるマテリアリティに整理しております。

 

0102010_001.jpg

 

(2) 2030年ビジョン

 ESG経営のもと、新たに「サステナブルな社会の発展に貢献する先進的グローバルヘルスケアカンパニー」となることを2030年ビジョンとして掲げました。

 パーパス(存在意義)である「世界中の人々の健康で豊かな生活に貢献する」の実現に向けて、当社グループに期待される社会課題の解決(革新的医薬品の創出、SDGsへの取り組みなど)を目指し、われわれの強みであるサイエンス&テクノロジーに基づき、イノベーティブなソリューション提供に挑戦し続けます。

 

(3) 第5期中期経営計画(2021年度-2025年度)

 ESG経営を実践しつつ、2025年度目標「がんに強みを持つ先進的グローバル創薬企業」を達成し、2030年ビジョン実現に向けた成長ステージに移行することを目指した計画として、第5期中期経営計画を策定し、4つの戦略の柱を設定いたしました。

 

0102010_002.jpg

 

① 4つの戦略の柱

(ⅰ) 3ADC最大化の実現

 第5期中期経営計画においては、エンハーツ、Dato-DXd、HER3-DXdの3ADC(注1)の最大化の実現が最重要課題となります。

 エンハーツについては、アストラゼネカとの戦略的提携を通じた市場浸透と新適応の取得を加速して参ります。また、HER2を標的とする競合品に対する優位性を確立するとともに、乳がん治療におけるHER2低発現コンセプトの定着を目指しております。

 Dato-DXdについては、アストラゼネカとの戦略的提携を通じて、より早いタイミングでの承認取得とその後の適応追加を目指しております。また、効果的な上市計画を策定・実行するとともに、TROP2を標的とする競合品に対する優位性を確立して参ります。

 HER3-DXdについては、自社開発による最速での上市を目指しております。また、効果的な上市計画を策定・実行した上で、がん治療ターゲットとしてのHER3を確立して参ります。

 以上の取り組みに加え、間質性肺疾患(ILD)のモニタリングとリスク分析を通じた適正使用を促進するとともに、製品ポテンシャルに合わせて効率的かつ段階的に要員と供給キャパシティを拡大して参ります。

 当連結会計年度におきましては、エンハーツでは、日米欧における対象市場での新規患者シェアが拡大し、製品売上が着実に伸長いたしました。また、HER2陽性乳がん患者を対象とした2次治療の適応取得に向けたDESTINY-Breast03試験において、無増悪生存期間の前例のない改善を示すデータを獲得し、日米欧及び中国で承認申請するとともに、化学療法既治療のHER2低発現乳がん患者を対象としたDESTINY-Breast04試験においても主要評価項目を達成する等、製品価値最大化に向けた取り組みが大きく進展いたしました。Dato-DXd及びHER3-DXdでは、早期の市場参入が重要と考えており、開発を加速いたしました。今後も、3ADCへの効果的な開発投資により、第5期中期経営計画後半における飛躍的成長に繋げるよう、3ADCの最大化の実現に向けた取り組みを着実に進めて参ります。

(注)1.ADC:

Antibody Drug Conjugateの略、抗体薬物複合体。抗体医薬と薬物(低分子医薬)を適切なリンカーを介して結合させた医薬品で、がん細胞に発現している標的因子に結合する抗体医薬を介して薬物をがん細胞へ直接届けることで、薬物の全身曝露を抑えつつ、がん細胞への攻撃力を高めた薬剤。

 

(ⅱ) 既存事業・製品の利益成長

 持続的な成長に向けた投資を継続していくために、がん事業のみならず、既存事業・製品における利益成長も重要な課題であります。

 リクシアナについては、収益性の高い、安定した利益を生み出す製品であることから、当該製品より得た収益を、3ADC及び3ADCに次ぐ成長ドライバーへの投資の源泉とすべく、売上収益の更なる拡大に取り組んで参ります。

 タリージェ、Nilemdo等の新製品については、適応追加等を通じた、早期拡大を目指しております。リクシアナに加え、これら新製品の早期拡大により、がん以外の新薬事業においても持続的な成長を目指しております。

 各地域においては、新薬を軸とした収益構造へのトランスフォーメーションを強化することで、持続的な利益成長を支える事業構造へと転換を図って参ります。

 アメリカン・リージェントについては、インジェクタファー、ジェネリック注射剤を中心とした利益成長を目指しております。第一三共ヘルスケアについては、国内店舗販売や通販事業を中心とした利益成長を目指しております。

 当連結会計年度におきましては、リクシアナ、インジェクタファー、タリージェ、Nilemdo等の売上収益が順調に伸長いたしました。また、事業構造の転換のため、米国における既存品の製造及び商業化の権利並びに、中国におけるクラビット製剤の製造販売権及び第一三共製薬(北京)有限公司の出資持分の全てをグループ外に譲渡する契約を締結いたしました。今後も、収益性の高い製品の売上を拡大することで、持続的な利益成長を支える事業構造へと転換を図って参ります。

 

(ⅲ) 更なる成長の柱の見極めと構築

 持続的成長を図るため、3ADCに次ぐ成長ドライバーを見極めるとともに、マルチモダリティ研究戦略によりポストDXd-ADCモダリティを選定することも重要な課題であります。

 3ADCに次ぐ成長ドライバーについて、DXd-ADCファミリー、第二世代・新コンセプトADC、改変型抗体、ENAファミリー(注2)等の領域から見極めて参ります。

 様々なモダリティ技術の中から、持続的成長のためのポストDXd-ADCモダリティを選定して参ります。LNP-mRNAについては、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)以外でのワクチンにも活用して、ワクチン事業の成長につなげて参ります。

 当連結会計年度におきましては、DS-7300(抗B7-H3 ADC)、DS-6000(抗CDH6 ADC)について、良好なデータが得られたことから「Rising Star」と位置づけ、開発を推進しております。今後も、当社独自のADC技術を用いた更なる成長の柱の見極めと構築を進めて参ります。

(注)2.ENAファミリー:

2'-O,4'-C-Ethylene-bridged Nucleic Acidsの略。第一三共の独自技術を用いた修飾核酸。

 

 

(ⅳ) ステークホルダーとの価値共創

 長期視点でESG経営を進めていく上で、患者さん、株主、社会・環境、従業員といったステークホルダーとの価値共創も重要な課題であります。

 3ADCによる様々ながん種への展開や、希少疾患の比重が高まる中、医薬品開発のみならずバリューチェーン全体で、患者さんを中心としたマインド(Patient Centric Mindset)による取り組みを強化し、患者さんへの貢献を果たして参ります。

 持続的な企業価値の向上を図るため、バランスのとれた成長投資と株主還元を実現して参ります。

 脱炭素社会、サーキュラーエコノミー、自然共生社会といった、社会・環境課題に対し、研究開発から営業に至るバリューチェーン全体で、環境負荷の低減に向けた様々な取り組みにチャレンジし、社会・環境へ貢献して参ります。

 平時における自社生産拠点からの季節性インフルエンザワクチン等の安定供給に加え、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)及び将来の新興・再興感染症ワクチンにも応用可能な技術の確立、将来のパンデミック時のワクチン供給体制の整備を通じて、社会へ貢献して参ります。

 グループ共通の核となる行動様式(Core Behavior)を定め、グループ全体で実践していくことで、独自の企業文化「One DS Culture」の醸成を図り、グローバル組織と人材における強みを更に強化して参ります。

 当社グループでは、従来からCOMPASS活動(注3)を推進しておりますが、当連結会計年度におきましては、国内の全社員がその活動情報を共有することで、日々の仕事の中で患者さんを意識し、患者さんの気持ちに寄り添う「Patient Centric Mindset」を一層強化いたしました。また、社会の一員として環境課題に対する取り組みを進める中で、事業活動で消費する電力を100%再生可能エネルギーにすることを目指す国際的イニシアチブである「RE100(注4)」に加盟いたしました。引き続き、「Patient Centric Mindset」及び「One DS Culture」の浸透をはじめ、ステークホルダーとの価値創造プロセスの強化に向けた諸施策を実践して参ります。

(注)3.COMPASS活動:

“Compassion for Patients”Strategy活動。当社スローガン“Compassion for Patients(ひとに思いやりを)”に基づき、世界中の人々の『笑顔のある生活』の実現に貢献することを目指し、患者さんや医療従事者と当社従業員が直接交流する機会を企画・提供する社内外活動。

4.RE100:

国際環境NGOであるThe Climate Groupと企業に気候変動対策に関して情報開示を促しているCDPによって運営される、企業の再生可能エネルギー100%を推進する国際的イニシアチブ。

 

② 戦略の実行を支える基盤

 4つの戦略の柱の実行を支える基盤を強化するため、DX推進によるデータ駆動型経営を実現するとともに、先進デジタル技術による変革を進めて参ります。加えて、新たなグローバルマネジメント体制により迅速な意思決定を実現して参ります。

 当連結会計年度におきましては、社内外のエンハーツの統合データ分析が可能な分析基盤をグローバルで運用開始いたしました。また、オンコロジービジネスユニットを新設し、がん領域における治療体系や市場環境の急速な変化に対し、ビジネスとサイエンスの両面から迅速に対応しております。今後も、業容の変化と拡大にあわせてデータ駆動型経営を加速するとともに、グローバル体制を強化して参ります。

 

 

③ 株主還元方針

 普通配当1株当たり27円の維持に加え、利益成長に応じて増配、あるいは機動的に自己株式取得を実施することで、株主還元のさらなる充実を図って参ります。

 KPIとして、株主資本を基準とする株主資本配当率(DOE)を採用し、安定的な株主還元を行う方針とし、2025年度のDOEは株主資本コストを上回る8%以上を目標に掲げ、株主価値の最大化を目指しております。

 当連結会計年度におきましては、1株当たり13円50銭の中間配当を実施いたしました。期末配当13円50銭と合計で1株当たり年間27円の配当を実施いたします。また、2021年4月には、1億8千万株の自己株式を消却いたしました。当連結会計年度のDOEは3.9%となり、引き続き2025年度のDOE8%以上を目指して参ります。

 

0102010_003.jpg

 

④ 計数目標

 2025年度の計数目標として、売上収益1兆6,000億円(うち、がん領域において6,000億円以上)、研究開発費控除前コア営業利益(注5)率40%以上、ROE16%以上、DOE8%以上を目指しております(注6)。

(注)5.コア営業利益:経常的な収益性を示す指標として営業利益から一過性の損益を除外。

6.2025年度為替レートの前提:1USD=105円、1EUR=120円

 

 

tremolo data Excel アドインサービス Excel から直接リアルタイムに企業の決算情報データを取得

お知らせ

tremolo data Excel アドインサービス Excel から直接リアルタイムに企業の決算情報データを取得