業績

3【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

 当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要、及び経営者の視点による当社の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものであります。

(1)経営成績等の状況の概要

① 財政状態及び経営成績の状況

 当事業年度における世界経済は、引き続き新型コロナウイルス感染症の感染拡大による影響を受けました。一部先進国では経済の持ち直しの動きも見られたものの、変異株による感染の再拡大も依然として懸念されております。国内ではワクチン接種が進み、経済には徐々に持ち直しの動きが見られましたが、依然として先行き不透明な状況が続きました。

 当社が属する医薬品業界におきましては、こうした新たな感染症への対策とともに、がんや認知症等、世界的に患者数が増えている疾患の治療法の確立が、継続的な重要課題になっております。当社におきましては、創薬領域を中心に、積極的な事業展開を図りました。

 各領域における当事業年度の成果は次のとおりです。

a.創薬

 当社の効率的な抗体取得プラットフォームを活用し、アンメット・メディカル・ニーズを満たすべく、主にがん領域で抗体開発を進めております。シーズ探索で得られた候補抗体のうち、多面的な検討から先ず選別されたGPC3, CDH3, トランスフェリン受容体という3つの抗体の開発を進めているほか、これに続く多くの候補抗体が研究開発段階にあります。当社のパイプラインの開発状況は次のとおりです。

(a)PPMX-T002

 PPMX-T002は、細胞間接着因子と考えられているCDH3を標的とする抗体に、イットリウム90(90Y)という放射性同位元素(RI)を標識した抗がん剤候補です。導出先である富士フイルム株式会社(以下富士フイルム社)が米国で拡大第I相試験を、日本で第I相試験をそれぞれ進めていますが、同社の子会社の放射性医薬品事業の他社への譲渡に伴い、2022年3月に実施権が返還されました。富士フイルム社は現在進行しているこれらの治験の終了後、開発を中止します。
 当社は今後、本事業の承継先であるPDRファーマ株式会社(以下PDRファーマ社)と協議の上、当社単独で、あるいは当社とPDRファーマ社とで、本抗体の開発を新しい形で進めてまいります。

 富士フイルム社による米国での第Ⅰ相試験では、本抗体のヒトでの安全性及びヒトのがん組織への集積性が確認されたほか、一部の患者さんでは腫瘍が縮小する等、有効性が確認されています。当社は今後、これらの臨床試験データを含むすべての成果物を譲り受け、標識するRIをルテチウム(177Lu)やアクチニウム(255Ac)といった、高い有効性が示唆されるRIに変更することも視野に、優れた医薬品候補の開発に向けてRI医薬品開発会社とのコラボレーションを推進してまいります。

 

(b)PPMX-T003

 PPMX-T003は、当社独自のスクリーニング技術であるICOS法により取得したユニークな完全ヒト抗体であり、トランスフェリン受容体(TfR)を標的とします。TfRは細胞内への鉄の取り込みに関与しており、増殖が盛んながん細胞に多く発現しています。本抗体がTfRに結合すると、がん細胞内への鉄の取り込みを阻害し、それによってがん細胞の増殖を抑制する抗腫瘍効果が得られます。

 TfRは、がん細胞の他に、赤血球の元である赤芽球細胞にも極めて多く発現しています。このため、赤血球が異常に増える疾患である真性多血症(PV)に対して、赤血球数を正常化する効果が期待されることから、まずはPVの治療薬を目指して、2019年11月から国内で第I相試験を開始しました。2021年3月に健常人での安全性及び薬理作用を確認後、現在はPV患者さんへの投与に向けてリクルートを進めております。リクルートにおいては、対象となる患者さんの条件の見直しを行い、治験計画書(プロトコル)を変更して対象範囲を拡大しております。投与開始に時間を要しておりますが、PV患者さんでの第I相試験の完了時期につきましては、当初計画に変更はありません。

 また、東海大学との共同研究によって、本抗体の鉄の取り込みを阻害する機能をアグレッシブNK細胞白血病(ANKL)という超希少疾患の治療薬に活用できる可能性が見出されました。これにより、2022年3月には国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の「創薬支援推進事業・希少疾病用医薬品指定前実用化支援事業」に採択されております。当社は今後、東海大学の研究グループとともに医師主導治験の実施及び実用化に向けて、さらに研究開発を進めてまいります。

 この他、PV、急性骨髄性白血病、悪性リンパ腫等の血液がん及び固形がんに対する治療薬としての作用機序を明確化するため、名古屋大学、藤田医科大学、群馬大学と共同で臨床効果に関する創薬研究を推進しております。

 

(c)PPMX-T004

 PPMX-T004は、薬剤を標識した抗体薬物複合体(ADC)です。2015年に富士フイルム社に導出しましたが、同社の子会社の放射性医薬品事業の他社への譲渡に伴い、PPMX-T002と同じCDH3を標的とする本抗体の実施権も2022年3月に返還されております。ADCは、抗体に標識した薬物を細胞内に取り込ませることで、対象とした細胞を特異的に殺傷することができるため、患者さん自身の免疫機能の状態に関わらず高い臨床効果が期待できます。また、RIを用いていないため、使用する施設の制約も受けません。

 当社は今後、標識する薬剤を、さらに有効性の高い薬剤に変更し、新たに開発を進めてまいります。

 

(d)PPMX-T001

 PPMX-T001は、肝臓がんで高い発現率が見られるGPC3を標的としています。2006年に特許を受ける権利等を譲渡した中外製薬株式会社によって、肝臓がん等の治療薬として「GC33」及び「ERY974」という2種類の異なった形態での薬剤開発が進められていますが、2022年6月21日をもって同社との契約の対象特許が期間満了となるため、同社との契約も同日に満了する予定です。PPMX-T001が今後の当社の収益に与える影響はなく、当社計画にも見込んでおりません。

 

b.抗体研究支援

 当事業年度においては、大学に対する抗体研究支援が増加したことにより、売上高は前事業年度より増加しました。

 

c.抗体・試薬販売

 当事業年度においては、新型コロナウイルス感染症の影響は限定的となり、研究用抗体・試薬の販売は回復基調に転じました。また、新型コロナウイルス感染症による肺炎等、血管炎症を伴う各種疾患の重症化を予測するためのPTX3迅速計測キットの開発に向けて、湧永製薬株式会社と共同研究契約を締結し、現在開発を進めております。

 

 以上の結果、当事業年度の売上高は、71,932千円(前事業年度比5.9%増)となりました。当事業年度における創薬の売上はありませんでしたが、抗体・試薬販売及び抗体研究支援はいずれも売上高が前事業年度から増加し、計画を達成しました。

 損益につきましては、営業損失472,195千円(前事業年度は営業損失411,749千円)、経常損失481,681千円(前事業年度は経常損失410,107千円)となり、当期純損失は599,023千円(前事業年度は当期純損失413,216千円)となり、ほぼ計画どおりに進捗しました。PPMX-T003の第I相試験のリクルート遅延により、研究開発費が想定よりも減少した一方、公募増資による事業税(外形標準課税)の増加や、特許費用等の増加により、販売費及び一般管理費は539,943千円となり、ほぼ計画どおりとなりました。なお、「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号2020年3月31日)等を当事業年度の期首から適用しておりますが、この適用による経営成績への影響はありません。

 また、当社は医薬品事業のみの単一セグメントであるため、セグメント別の記載を省略しております。

 

財政状態については、次のとおりであります。

(資産)

 当事業年度末の総資産は、前事業年度末に比べ2,181,904千円増加し、3,300,530千円となりました。

 主な要因は、当社株式の東京証券取引所マザーズ市場への株式上場に伴う公募増資等により調達した現金及び預金2,641,320千円によるものであります。

 

(負債)

 当事業年度末の負債は、前事業年度末に比べ113,462千円増加し、148,375千円となりました。

 主な要因は、実験設備関連等の未払金92,662千円の増加と公募増資等による資本金増加に伴う事業税(外形標準課税)についての未払法人税等16,897千円の増加であります。

 

(純資産)

 当事業年度末の純資産は、前事業年度末に比べ2,068,441千円増加し、3,152,154千円となりました。

 主な要因は、当社株式の東京証券取引所マザーズ市場への株式上場に伴う公募増資等により、資本金及び資本準備金がそれぞれ1,335,252千円増加し、一方、当期純損失599,023千円の計上により利益剰余金が減少したことによるものであります。

 

② キャッシュ・フローの状況

 当事業年度末における現金及び現金同等物は、前事業年度末に比べ2,145,552千円増加し、3,214,852千円となりました。

 

当事業年度における各キャッシュ・フローの状況と要因は次のとおりであります。

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

 営業活動によるキャッシュ・フローは、476,842千円の支出(前事業年度は422,836千円)となりました。

 主な要因は、税引前当期純損失597,096千円の計上等による減少があった一方、非資金項目である減損損失117,813千円等があったことによるものであります。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

 投資活動によるキャッシュ・フローは、33,868千円の支出(前事業年度は2,824千円)となりました。

 これは研究開発用の有形固定資産の取得による支出33,868千円によるものであります。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

 財務活動によるキャッシュ・フローは、2,647,548千円の収入(前事業年度は1,011,040千円)となりました。

 主な要因は、当社株式の東京証券取引所マザーズ市場への上場に伴う公募増資による収入2,623,975千円と新株予約権の行使に伴う株式の発行による収入28,440千円等によるものであります。

 

③ 生産、受注及び販売の実績

a.生産実績

 当社で行う事業は、提供するサービスの性格上、生産実績の記載になじまないため、当該記載を省略しております。

 

b.受注実績

 当社で行う事業は、提供するサービスの性格上、受注実績の記載になじまないため、当該記載を省略しております。

 

c.販売実績

 当社は医薬品事業の単一セグメントであるため、セグメント別の記載はしておりません。当事業年度における販売実績は次のとおりであります。

セグメントの名称

金額(千円)

前年同期比(%)

医薬品事業

71,932

105.9

合計

71,932

105.9

(注)最近2事業年度の主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。

相手先

前事業年度

(自 2020年4月1日

至 2021年3月31日)

当事業年度

(自 2021年4月1日

至 2022年3月31日)

金額(千円)

割合(%)

金額(千円)

割合(%)

R&D Systems, Inc.

17,242

25.4

20,279

28.2

Pierce

Biotechnology, Inc.

12,057

17.7

16,548

23.0

Abcam plc

12,707

18.7

11,029

15.3

 

 

(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

① 重要な会計方針及び見積り

 当社の財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。この財務諸表の作成にあたっては、当社の財務諸表で採用する重要な会計方針は、「第5 経理の状況 1 財務諸表等 (1)財務諸表 注記事項 重要な会計方針」に記載しております。また、財務諸表の作成にあたっては、経営者による会計方針の選択・適用、資産・負債及び収益・費用の報告金額並びに開示に影響を与える見積りを必要としております。経営者は、これらの見積りを行うにあたり、過去の実績等を勘案し合理的に判断しておりますが、実際の結果は、見積りによる不確実性のため、これらの見積りと異なる結果をもたらす場合があります。

 特に以下の事項は、経営者の会計上の見積りの判断が財政状態及び経営成績に重要な影響を及ぼすと考えております。

(固定資産の減損処理)

 当社は、固定資産のうち営業活動から生ずる損益が継続してマイナスになっている資産について、回収可能価額まで減額し、当該減少額を減損損失として計上しております。

 

(繰延税金資産)

 繰延税金資産の回収可能性の判断については、将来の課税所得を合理的に見積り、将来の税金負担を軽減する効果を有すると考えられる範囲内で繰延税金資産を計上することになります。当社は、税務上の欠損金が継続しており、繰延税金資産の回収可能性を合理的に見積もることは困難と判断し、繰延税金資産を計上していません。

 

② 財政状態の分析

 財政状態の分析については、「(1)経営成績等の状況の概要 ① 財政状態及び経営成績の状況」に記載のとおりです。

 

③ 経営成績の分析

(売上高)

 当事業年度の売上高は、71,932千円(前事業年度67,947千円、前年同期比5.9%増)となりました。当事業年度における創薬の売上はありませんでしたが、抗体・試薬販売及び抗体研究支援はいずれも売上高が前事業年度から増加し、計画を達成しました。

 

(売上原価、売上総利益)

 当事業年度の売上原価は、4,184千円(前年同期比8.8%増)となりました。

 この結果、当事業年度の売上総利益は、67,747千円(前年同期比5.6%増)となりました。

 

(販売費及び一般管理費、営業損失)

 当事業年度の販売費及び一般管理費は、539,943千円(前年同期比13.5%増)となりました。

 販売費及び一般管理費の増加の主な要因は、PPMX-T003の第I相試験のリクルート遅延により、研究開発費が想定よりも減少した一方、公募増資による事業税(外形標準課税)の増加や、特許費用等の増加によるものであります。なお、研究開発費は308,424千円(前事業年度313,398千円、前年同期比1.6%減)となりました。

 この結果、営業損失は472,195千円(前事業年度は営業損失411,749千円)となりました。

 

(営業外収益、営業外費用、経常損失)

 当事業年度の営業外収益は、9,393千円(前年同期比28.0%減)となりました。主なものは、為替差益9,085千円であります。

 当事業年度の営業外費用は、18,878千円(前年同期比65.64%増)となりました。主なものは、当社株式の東京証券取引所マザーズ市場への株式上場に伴う関連費用9,531千円及び第三者割当増資による資本金増加に伴う租税公課9,346千円であります。

 この結果、経常損失は、481,681千円(前事業年度は経常損失410,107千円)となりました。

 

(特別利益、特別損失、当期純損失)

 当事業年度の特別利益は、2,398千円(前事業年度は-千円)となりました。これは、第23回、第25回の有償新株予約権無償取得を消却したものであります。

 当事業年度の特別損失は、117,813千円(前年同期比9,967.3%増)となりました。当社の事業の特性上、現段階では、将来の収入の不確実性が高いことから、医薬品事業に係る資産の帳簿価額の回収可能額をゼロとし、帳簿価額と備忘価額との差額117,813千円を減損損失として特別損失に計上しました。

 これらの結果を受け、当事業年度の当期純損失は、599,023千円(前事業年度は当期純損失413,216千円)となりました。

 

(パイプライン)

 パイプラインの状況については、「第1 企業の概況 3 事業の内容 (3)当社の開発品」をご参照ください。

 

④ キャッシュ・フローの分析

 キャッシュ・フローの分析については、「(1)経営成績等の状況の概要 ② キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりです。

 

⑤ 経営成績に重要な影響を与える要因について

 「2 事業等のリスク」に記載したとおり、外部環境、事業内容、組織体制等の様々なリスク要因が経営成績に重要な影響を与える可能性があると認識しております。そのため、当社は常に業界の動向を注視しつつ、優秀な人材の確保と適切な教育を実施するとともに、内部管理体制の強化と整備を進めることで、経営成績に重要な影響を与えるリスク要因に適切な対応を図ってまいります。

 

⑥ 資本の財源及び資金の流動性についての分析

 当社の主な資金需要は、PPMX-T003の開発及び創薬研究に係る研究開発費、並びに事業運営費等であります。これらの費用は、当期は自己資金で賄い、その残金は、すべて銀行預金とし、資金の流動性を確保しております。当事業年度の営業活動によるキャッシュ・フローは、476,842千円の支出、投資活動によるキャッシュ・フローは、33,868千円の支出、財務活動によるキャッシュ・フローは、2,647,548千円の収入となり、現金及び現金同等物の期末残高は、3,214,852千円となりました。

 

⑦ 経営者の問題意識と課題について

 当社は、「最先端の抗体技術で世界の医療に貢献する」ことを企業理念としております。この企業理念実現のために、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (5)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題」に記載の課題に対して取り組んでまいります。

 

⑧ 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

 当社は、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (2)目標とする経営指標」に記載のとおり、ROA(総資産利益率)やROE(自己資本利益率)といった数値的な目標となる経営指標は用いておりませんが、経営指標として、将来の売上に繋がるパイプラインの開発の進捗、パイプラインの拡充及び売上高を重要な目標と考え、事業活動を推進しております。なお、パイプラインの開発の進捗については、「第1 企業の概況 3 事業の内容 (3)当社の開発品」に記載しております。

 

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