(1)中期経営計画の見直し(2020~2022年度)
当社は、2019年11月に中期経営計画を発表しましたが、新型コロナウイルスの感染拡大によって経営環境は大きく変化しました。加えて日本政府の2050年カーボンニュートラル宣言により脱炭素化の動きが加速しています。中長期戦略の再構築と打ち手のスピードアップを図るため、2019年11月に公表した中期経営計画の見直しを実施しました。概要は以下のとおりです。
長期事業環境想定 |
不確実な変数が多く、事業環境は極めて不透明 |
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脱炭素化・高齢化は確実に進展 |
2019年公表の中期経営計画ではシナリオ3『虹』を前提
↓
中期経営計画の見直しでは、よりアジア太平洋地域の石油需要が早期にピークアウトを迎えかつ減少していく、シナリオ4『碧天』の可能性が高まったと認識
企業のレジリエンスを高め、将来の社会課題に着実に取り組むことが必要
当社のパーパス再確認と2030年ビジョン |
当社の歩みを振り返ると、終始一貫「仕事を通じて人が育ち、無限の可能性を示して社会に貢献する」という価値観を大切にしてまいりました。これを「真に働く」という企業理念として成文化し、従業員一人ひとりの拠り所として、将来の変革に挑戦してまいります。
当社の歩みと大切な価値観
企業理念
2030年ビジョン
エネルギーの安定供給と共に社会課題の解決に貢献することが当社の責務と認識。
私たちは、
責任ある変革者
を2030年ビジョンとして掲げ、
■地球と暮らしを守る責任:カーボンニュートラル・循環型社会へのエネルギー・マテリアルトランジション
■地域のつながりを支える責任:高齢化社会を見据えた次世代モビリティ&コミュニティ
■技術の力で社会実装する責任:これらの課題解決を可能にする先進マテリアル
3つの責任を事業活動を通じて果たしてまいります。
2030年に向けた基本方針と経営目標 |
中長期的な経営環境が極めて不透明な中で、いかなる環境変化にも柔軟に対応できるレジリエントな企業を目指すため、「ROIC経営の実践」「ビジネスプラットフォームの進化」「Open・Flat・Agileな企業風土醸成」の3つの方針を掲げます。
基本方針1 |
ROIC経営の実践 |
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■資本効率性を高め、筋肉質な企業体質を実現することで、リスク許容度を向上
■ポートフォリオマネジメントに加え、成果を的確に測定するパフォーマンスマネジメントの手段としても活用
■投資判断においては、ICP(インターナルカーボンプライシング)を活用
基本方針2 |
ビジネスプラットフォームの進化 |
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DXの加速 |
■Digital for Idemitsu(業務改革)から for Customer・for Ecosystem(顧客・ネットワーク価値提供)へ ※2021/4/1 DX認定取得(DX-Ready) |
ガバナンスの 高度化 |
■少数且つ経営課題に即した取締役会メンバー構成、討議中心の運営 ■社外役員が主導する公正透明な指名報酬検討プロセスの更なる充実 ■海外現法含むグループ内部統制成熟度の向上 |
基本方針3 |
Open・Flat・Agileな企業風土醸成 |
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理念・ビジョン の浸透 |
■インナーブランディング展開、社会課題解決挑戦に対する共感の醸成 ■環境変化に迅速かつ柔軟に対応するための基軸の確立 |
組織改革 |
■階層簡素化による意思決定の迅速化、間接部門スリム化による生産性向上 ■積極的な権限移譲による成長機会の充実 ■スパンオブコントロールの最適化によるマネジメントの質向上 |
働き方改革 |
■多様な価値観・ライフスタイルに応じた就労環境の整備、機会均等の実現 ■既存業務改革による知の探索の促進、高付加価値業務へのシフト ■脱100点主義による業務のスピード・質向上、共創促進 |
以上の基本方針を踏まえた事業戦略は次のとおりになります。
燃料油 基礎化学品 |
■apollostationの「スマートよろずや」化 ■製油所・事業所体制の見直し、コンビナート全体での「CNX※センター」化 ■需要減に先んじた固定費圧縮 ※CNX:Carbon Neutral Transformation ■精製/化学のインテグレーション深化 ■ニソン製油所の収益貢献化 |
高機能材 |
■リチウム固体電解質の事業化 ■電子材料・機能化学品・潤滑油・グリース・機能舗装材・アグリバイオ等 先進マテリアルの開発加速 |
電力・再エネ |
■太陽光・風力・バイオマスの再エネ電源開発拡大 ■再エネを核とした分散型エネルギー事業の展開 ■ソーラーフロンティアのシステムインテグレーターへの業態転換 |
資源 |
■石油開発:東南アジアガス開発へのシフト、開発技術を活用したCCS※への取り組み ※CCS:Carbon dioxide Capture and Storage ■石炭:鉱山生産規模縮小、低炭素ソリューション事業へのシフト(ブラックペレット・アンモニア) ■国内外での地熱事業拡大 |
将来に向けたポートフォリオ転換
基本方針に掲げた3つの方針に取り組むことで、2030年ビジョンを実現し、将来に向けたポートフォリオの転換を目指します。
2050年カーボンニュートラルへの挑戦
当社は、Scope1+2のCO2を可能な限り削減し、ネガティブエミッションの取り組みを進めながら、2050年のカーボンニュートラルの達成を目指します。これを成長機会と捉え、脱炭素化に資する事業を拡大するとともに、お客様のニーズを的確に把握しながらバリューチェーン全体でのCO2排出量削減にも取り組み、SDGsNo.7「エネルギーをみんなに、クリーンに」という課題へ正面から挑戦してまいります。
■カーボンニュートラルへの挑戦 |
■バリューチェーン全体でのCO2排出量削減 |
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2030年度経営目標
在庫影響を除いた営業+持分利益は2,500億円とし、ポートフォリオマネジメントとパフォーマンスマネジメントを通じてROICを7%に引き上げることで、企業価値の向上を目指します。
また2050年カーボンニュートラルの中間目標として、2017年対比でCO2の400万tの削減を目指してまいります。
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2020年度実績 |
2030年度 |
2020年度比 |
営業利益+持分 |
928億円※① |
2,500億円 |
+1,572億円 |
ROIC |
3% |
7% |
+4% |
GHG削減目標※②③ (Scope1+2) |
▲136万t |
▲400万t |
▲264万t |
※①:在庫影響除き
※②:2017年度対比 ※③:グループ製油所を含む
中期経営計画(2020~2022年度)の概要 |
経営目標
2020~2022年度の3か年累計(ROEは2022年度)目標は以下の通りです。
当期利益 (在庫影響除き) |
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営業+持分利益 (在庫影響除き) |
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ROE |
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FCF |
(3か年累計) 2,200 億円 |
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(3か年累計) 4,100 億円 |
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(2022年度末) 8 % |
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(3か年累計) 2,300 億円 |
※2022年度の主要前提:原油60$/BBL、ナフサ560$/t、石炭75$/t、為替105円/$
セグメント別営業利益+持分利益(在庫評価影響除き)
燃料油セグメントにおける統合シナジーの拡大、ニソン製油所の収益改善に加えて、資源価格や基礎化学品市況の改善等を織込み、2022年度には1,750億円の営業利益(持分利益含む)を目指します。
キャッシュバランス
固定費削減や、投資案件の厳選、積極的な資産売却によって、フリーキャッシュフローを2,300億円確保します。フリーキャッシュフローは、株主還元、戦略投資、財務体質強化に配分します。
投資計画
投資計画は3年間累計で5,700億円を見込み、戦略及びM&A財源については、ポートフォリオ転換に向けた投資に配分してまいります。
株主還元
当社は株主還元を重要な経営課題の一つと認識し、株主還元方針を以下の通りとします。
(1)2020~2022年度3か年累計の在庫影響除き当期純利益に対し、総還元性向50%以上の株主還元を実施します。
(2)1株当たり120円の安定配当とします。
(2)事業上及び財務上の対処すべき課題
① セグメント毎の課題
当社のセグメント毎の具体的な課題は以下のとおりです。
ア. 燃料油セグメント
(ア)石油精製の最適化
石油精製については、長期的なコスト競争力向上と設備信頼性向上のために、継続的且つ効率的に投資を行っていくことにより、将来に向けた最適な製油所体制を目指します。また、カーボンニュートラルの実現に向けて、製油所・事業所機能を転換していくCNXセンター化を進めています。コンビナートの広大な敷地や大型船が入れる桟橋、タンク群などの既存設備は、バイオマス燃料をはじめ、水素・アンモニアや合成燃料などの製造や貯蔵、廃プラスチックのリサイクルなどに活用できるポテンシャルを有しており、各製油所・事業所の特性に合わせた取り組みを検討しています。
(イ)燃料油事業の海外展開
アジア・太平洋地域におけるトレーディング事業、ベトナムにおけるニソン製油所の操業とSSの展開、北米における卸事業、豪州における卸小売事業の展開を通じて、海外での燃料油事業を推進していきます。ニソン製油所については、当年度は新型コロナウイルス感染拡大の影響はあるものの原油高による在庫影響などにより収支は改善し、2022年度以降も安定操業の継続、コスト適正化、マージン回復等により引き続き収益改善に取り組みます。
(ウ)特約販売店ネットワークの基盤強化
特約販売店のネットワークは、燃料油、ガス等の、地域で必要となるエネルギー供給の担い手です。特約販売店の収益力強化のため、また、地域の抱える課題の解決に貢献するために、今まで培ってきたリテール施策を通じて、コンサルティング、情報処理、商品・サービスの開発・投入を行い、より一層強固な関係を構築していきます。2021年4月より展開を開始したSS新ブランドapollostationをはじめ、6,200店の両ブランドSSネットワークを最大限活用していただけるよう、価値提供を行います。具体的には、地域住民の生活を豊かにする新しい時代のよろずやとして、スマートよろずやを構想し、高齢化社会における重要な課題である「健康」に対し、SSを拠点とした予防医療の普及を図る事業の創出に向け、車両を用いた脳ドックサービスの提供を開始しました。地域における移動式健診サービスのニーズやSSのシナジーを更に発展させていきます。
また、デジタル技術(ICT)を活用した出荷予測、SS在庫情報、船舶、ローリー運行状況等の情報をリアルタイム且つ双方向に高度に連携することで、物流システムの最適化、サービスの向上を実現しつつ、物流の需要密度低下と現場人材不足に対応していきます。
イ. 基礎化学品セグメント
国内事業の収益基盤の安定・拡大を促進するため、徹底した効率化によるコスト低減を図るとともに、千葉、徳山のコンビナート顧客と連携し、事業環境に応じた安定生産と最適化、原料多様化による競争力強化を図ります。
また燃料油事業と一体となった「Fuel to Chemical」を推進し、燃料油・化学の装置稼働を最適化し、物流提携による収益力向上を目指します。その一環として、ENEOS(株)の知多製造所におけるパラキシレン生産設備の譲受を決定しました。本件はパラキシレンの事業拡大に資するとともに、ガソリン基材(石油製品)からパラキシレン(化学製品)を製造する“ケミカルシフト”の具体策となります。
更にオレフィンとアロマの事業基盤を確保しながら、資源循環やカーボンニュートラルをはじめとした環境に関する社会要請に対しても、当社単独だけでなく、コンビナートや地域、他社との提携も模索しながら、ソリューション実現に向け取り組みます。
ウ. 高機能材セグメント
(ア)潤滑油事業
自動車用潤滑油の分野では高度なトライボロジー(潤滑工学)を駆使して、お客様のニーズに適ったOEM製品を提供することで、お客様の事業展開をサポートしていきます。世界的な潮流となっている脱炭素社会の実現に向け、EV市場をターゲットに、EVの電動ユニットに適合する潤滑油、モーター駆動に伴う高耐熱性化・低騒音化のニーズに対応するグリースの開発に取り組みます。また、産業機械向けの油圧作動油やギヤ油などの工業用潤滑油についても、環境問題への関心の高まりに伴う省エネ、省資源のニーズに合致した、環境対応型高機能商品の開発を行います。更に海外における出光ブランド製品の拡大・強化に向けた取り組みも進めていきます。
(イ)機能化学品事業
エンジニアリングプラスチック、粘接着基材などの独自技術をベースに、主にアジアを中心に成長市場や需要拡大が見込まれる用途での販売拡大を進めます。具体的には技術革新が速い自動車・電装部品や情報通信機器、アジアを中心として需要が拡大している生活消費財などが主なターゲットとなります。市場のニーズに応えながら安定生産と事業規模拡大を進めており、シンジオタクチックポリスチレン樹脂など、生産設備拡充を推進しています。
(ウ)電子材料事業
有機ELテレビ出荷増等の影響により、有機EL材料市場は拡大しています。更なる拡大が見込まれる有機EL材料需要に対応するため、日本・韓国・中国の三つの製造拠点による材料の安定製造・供給体制を維持しつつ、事業競争力強化に向けた体制最適化に取り組みます。また、「電子デバイスの省電力化・長寿命化に貢献する高性能次世代材料の研究開発の加速」、「最先端技術ニーズの把握のためのディスプレイメーカーや開発パートナーとの関係強化」を推進します。
(エ)機能舗装材事業(高機能アスファルト事業)
2022年度は、国土交通省が打ち出した「防災・減災、国土強靭化のための5か年加速化対策」の2年目であり、継続して国内の舗装需要は堅調に推移するものと予測されます。顧客、社会のニーズに基づき道路舗装の安心安全とカーボンニュートラルの実現に向けた製品・技術開発を推進していきます。また海外事業においては、ASEAN諸国等の新興国では高速道路建設の延長計画等インフラ整備は依然旺盛であり需要は今後拡大することが予測されます。国内で培った高機能アスファルトの普及を通じ各国のインフラ構築に貢献していきます。
(オ)アグリバイオ事業
出光興産アグリバイオ事業部の(株)エス・ディー・エス バイオテックへの吸収分割を完了させ、出光グループのユニークな新企業体として、これまで以上のシナジーの発揮を実現していきます。
エ. 電力・再生可能エネルギーセグメント
国内においては、競争力ある自社電源を基盤としつつ外部調達を最適化することで、お客様に電力を供給します。また、当社は、風力、太陽光、バイオマスといった多様な再生可能エネルギー電源を有しており、今後もそのノウハウを活かして地域の特性に応じた電源開発を推進します。海外においては、北米におけるガス火力発電事業の推進、また北米や東南アジアにおける再生可能エネルギー事業に積極的に取り組みます。太陽電池事業においては、従来のパネル販売から次世代型システムインテグレーターへと業態転換を図ることでカーボンニュートラルの実現に貢献していきます。
オ. 資源セグメント
新型コロナウイルスの感染拡大により、エネルギー需要は世界的に大きく低迷しましたが、引き続き安定供給の観点から、既存の石油、石炭の資源資産価値の維持・向上とアジア圏でのガス田開発に取り組みます。石炭については、環境負荷低減を図るため、高効率燃焼技術の提案や石炭への混焼比率を高めることができるバイオマス燃料の製造を開始するとともに、オーストラリアでの現地事業基盤を活用した新規事業の検討に取り組みます。また、地熱開発については、大分県での地熱事業の維持・継続とともに、新規事業の調査・実証を進めます。
カ. 研究開発及び新ビジネス開発
(ア)研究開発及び新ビジネス開発
当社は有機化学、無機化学、環境負荷物質の低減における知見、技術的強みを有しており、これらを高めることで新たな素材やプロセスの開発につなげていきます。社会的課題の解決に向け、コーポレート研究や各事業に属する製品研究で培ってきた技術をクロスファンクショナルにテーマ化し、国内外の大学、研究機関と連携するオープンイノベーションを推進します。同時に、内外にインキュベーション機能を持ち、ベンチャー企業との提携、資本参加の積極的推進により、研究開発を加速するとともに、新たなビジネスを創生していきます。更にデジタルトランスフォーメーションを推進し、次世代(Society5.0)のエネルギーインフラ構築や超小型EVをはじめとする新たなモビリティを活用したビジネスモデル型事業の開発に取り組みます。
また、2021年7月に技術・CNX戦略部を創設し、カーボンニュートラル・循環型社会へのエネルギー・マテリアル・トランジションに向けて、再生可能エネルギー・バイオマス燃料・合成燃料・水素・アンモニア・バイオケミカルなど地球環境に優しい新エネルギー、新素材への転換を推進しています。
(イ)全固体リチウムイオン電池向け固体電解質
全固体リチウムイオン電池は、EV普及の鍵(航続距離の拡大、充電時間の短縮、安全性向上等)を握る次世代電池であり、そのキーマテリアルである固体電解質の事業化に向けた研究・開発を加速し、2020年代後半の上市を目指します。
② サステナビリティへの取り組み
当社は2030年ビジョンとして掲げた「責任ある変革者」として、昨年策定した「サステナビリティ方針」に基づき、「地球と暮らしを守る」「地域のつながりを支える」「技術の力で社会実装する」という3つの責任を、事業活動を通じて果たし、持続可能な地球環境と社会を実現しつつ、企業としての持続的な成長を目指しています。
以下に記載の領域を重点分野として、取組を進めています。
・エネルギーと素材の安定供給を継続しつつ、カーボンニュートラル社会の実現に貢献
・革新的技術開発と事業活動による環境リスクの予防・低減による、自然環境の保全と循環型社会の実現
・人権尊重最優先の考え方の下、事業活動における人権への負の影響の防止と軽減
・ダイバーシティ&インクルージョン施策の推進による、企業としての成長と包摂的な社会の実現
・パートナーとの協働による、サプライチェーン全体で持続可能な社会の実現
・地域社会に寄り添ったソリューションの共創
③ 財務上の課題
2030年の基本方針の実現に向け中期的に事業構造の改革を着実に推進するため、キャッシュ・フローの配分を適切に実施するとともに財務基盤の維持・改善に努めます。
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