研究開発活動

 

5 【研究開発活動】

当社グループは、電力システム改革の進展や環境配慮への要請の高まり、持続可能な社会に向けた動きに対応すべく、研究開発に取り組んでおります。

電力・環境システム事業では、コンパクト化及び環境負荷の低減を狙いとした製品開発と共に、太陽光発電をはじめ、多様な分散型電源が導入拡大される社会を支えるための技術研究や製品開発、並びに、工場・水処理設備の進化に資する監視制御システム、EMS(エネルギー管理システム)関連やIoT(Internet of Things:モノのインターネット)関連の技術研究や製品開発、並びにソリューション開発を進めております。

ビーム・プラズマ事業では、ファインコーティング装置やその用途拡大に向けた研究開発、半導体製造用イオン注入装置や電子線照射装置など、社会を支える材料・部品・デバイスの進化に資するべく、技術研究や製品開発を進めております。

基礎的な研究開発としては、各分野の先の展開を見据え、電力品質の維持・向上や電力設備の保全高度化に寄与する技術、パワーエレクトロニクスを応用した直流給配電システムや定置用蓄電池システムに関わる研究開発、FPD(フラットパネルディスプレイ)に関わる半導体薄膜の製造技術、並びに各分野に関わる材料の評価技術の研究開発等を進めております。

当連結会計年度の研究開発費は売上高の5.2%にあたる6,806百万円で、そのセグメントごとの金額は、電力・環境システム事業1,245百万円、ビーム・プラズマ事業2,570百万円、全社2,990百万円です。

 

主な成果は次のとおりです。

(1) 電力・環境システム事業

①地域マイクログリッドシステムの納入

沖縄電力株式会社へ宮古島市来間島における地域マイクログリッドシステムの納入を2022年1月に完了しました。配電線(系統線)を利用した地域マイクログリッドシステムの納入は当社として初めての実績になります。

地域マイクログリッドは、平常時は一定規模の対象エリアに分散設置された太陽光発電と蓄電池を活用して効率的に電力を供給し、災害などによる大規模停電の非常時には電力系統から切り離して、蓄電池を主電源として自立的に対象エリア内の電力供給を可能とする新たなエネルギーシステムです。再生可能エネルギーの地産地消、エネルギーコスト低減、非常時の電力供給維持の観点から注目されています。

当社納入設備は、受変電設備、エネルギー管理システム、蓄電池システム、補充電用ディーゼル発電機を組み合わせたシステム一式で、マイクログリッド用に開発したエネルギー管理システムが対象エリア内の電力需給バランスを統括制御することで、再生可能エネルギーの地産地消や台風などによる大規模停電発生時における早期の電力復旧が可能となります。

今後も地域マイクログリッドシステムをはじめ、脱炭素化や電力レジリエンス強化に貢献するエネルギーソリューションに取り組んでまいります。

 

②地域マイクログリッド用エネルギーマネジメントシステム(MG-EMS)の開発

多様な分散型エネルギーを活用し、電力の安定供給に寄与する、地域マイクログリッド(MG)のマネジメントを行うシステムMG-EMSを開発しました。平常時は地域内に分散設置された太陽光発電など再生エネルギーの発電状況と電力消費状況に応じ、蓄電池の充放電や電力潮流等を効率的に制御する一方、災害などによる大規模停電の非常時は電力系統から切り離してマイクログリッドを形成し、主として蓄電池からの電力供給で当該エリア内の電力需給を復旧・自立させます。

当社が開発したMG-EMSは平常時/非常時のそれぞれの運用状況に合わせて、蓄電池と補充電用ディーゼル発電機を制御します。蓄電池の残量を監視し、残量0または満充電になりそうなときは残量の減少/増加を抑える方向で蓄電池充放電量を自動的に調整し、安定的な電力供給を継続させます。電力潮流運用状況、蓄電池やディーゼル発電機の運転状況、残量の変化等はグラフ表示による見える化の他、履歴データの保存、取り出し機能も有しており、電力運用データ解析にご活用いただけます。

今後も分散型エネルギーを活用して、より効率かつ安定的な電力運用が行える機能拡張、システム開発を進めてまいります。

 

 

③エリアアグリゲーションシステムの開発、サービス開始

再生可能エネルギーの拡大で大きく変化するエネルギー事業環境へ対応するために、蓄電池、エコ給湯機、EV充電器など複数のエネルギーリソースを有効活用し余剰電力を効率制御する電力需給制御システム「エリアアグリゲーション※1システム」サービスを2021年9月に開始しました。

本サービスは、エネルギー事業者向けに、需給一体型制御による自家消費率の向上、再生可能エネルギーの拡大で課題となるエネルギー安定供給を実現するための新たな仕組み「容量市場」への参入をサポートします。

宮古島市島嶼型(とうしょがた)スマートコミュニティ実証事業において、株式会社ネクステムズと2016年より電力需給制御に必要なクラウドシステムおよび屋外で使用できるゲートウェイの技術開発を行ってきました。複数の需要家が保有するエネルギーリソースを束ね一括した管理・最適制御を行うためには、複雑に影響しあう気象条件やエネルギーの使用状況などに応じた運用ナレッジが必要となりますが、本サービスを導入することで太陽光発電の予測データを活用した最適制御を行い太陽光発電の自家消費率を向上させます。さらに電力会社等の簡易指令システムに接続することでいち早く容量市場や需給調整市場への参入を実現します。

またエネルギー事業者が発電設備導入サービスビジネスを開始する前の課題となるエネルギーリソース機器の選定やシステム構成、設置工法、ビジネス化に向けた相談などへの幅広いソリューションを提供し、宮古島以外に、石垣島、久米島でも事業展開を推進するとともに、2021年度の来間島でのマイクログリッド実証成果を基に、電力需給制御システムと離島・地域グリッドのエネルギーソリューションSPSS-Iとの融合を進め、国内外でのマイクログリッド市場への参入および海外展開を目指します。

※1 「エリアアグリゲーション」は株式会社ネクステムズの商標です。地域ごとに需要家の需要量を制御して電力の需要と供給のバランスを保つために、電力会社と需要家の間に立ってバランスをコントロールすることです。

 

④上下水道施設向け監視制御システム(AQUAMATE-8000シリーズ)の開発、販売

多様化する上下水道施設運営に柔軟に対応する監視制御システムAQUAMATE-8000シリーズを開発し、販売開始しました。2021年3月に初号機を納入し、その後も多くの上下水道施設へ納入し、2022年4月現在12セットを上下水道施設で運用いただいております。

今回開発したAQUAMATE-8000シリーズは、上下水道施設の更新需要に対応するため、従来のAQUAMATEシリーズの監視制御機能を拡充するとともに、エネルギー管理システムや設備管理台帳システムと連係することで設備状況を見える化し、更新計画検討に役立つ情報を提供する、維持管理支援機能を充実させたものになります。このほか、リモート監視画面表示、メール通報機能などの遠隔監視機能を充実することで維持管理者の作業負担を軽減するとともに、既設システムの部分更新対応、蓄積したデータ継続性の確保などシームレスな更新を実現します。

今後も設備更新予算の増加や高齢化に伴う技術者不足など、上下水道施設維持管理の課題解決への支援を行う機能を充実させ、社会の要請に応える製品開発を進めていきます。

 

⑤熊本県球磨村 被災者の見守りと心のケアを目指しICT機器による地域の見守りサービスを開始

熊本県球磨村では、2020年に発生した記録的な豪雨災害をうけ、「災害に強く、豊かな地域資源を後世に継承し、住民が安全に安心して住み続けられる山里『球磨村』の復興」をスローガンに掲げ地域の復興を進めています。その中で、2021年7月より、社会福祉法人球磨村社会福祉協議会および球磨村役場と簡単な操作で被災者と新たなつながりを創出するICT機器「L1m-net(エルワン ネット)※1」を導入し、地域の見守りサービス※2を開始しました。現在も多くの人が仮設住宅等で生活されているなかで、球磨村復興計画の重点施策に掲げられた「被災者の見守りや生活相談による心身のケア」の実現に向け「L1m-net」の導入に至りました。

今後、球磨村では、利用者の都合に合わせた相談や日常の健康の見守り活動の充実に向け、地域支え合いセンターや地域包括支援センター等による訪問に加え、ICT機器を導入し、支援を必要とする方の声が届きやすい環境づくりに取り組んでいきます。

 

また、本村の地理的状況や社会的資源が限られる中、ICT機器を行政と地域、住民同士などの「新たなつなぎ役」として活用し、地域コミュニティの充実に取り組んでいき、“ICT機器をもっと身近に”をテーマに、少子高齢化の進行や一人暮らし高齢者の増加など、あらゆる分野で直面する社会課題を解決するために、本システムを基盤とし“地域とつながるしくみ”を展開、またサービス内容を拡充し、人にやさしい街づくりを推進していきます。

※1 L1m-netについて

端末は世代を問わず抵抗の少ない“カード”と“ボタン”を採用することで簡単操作を実現しています。固定電話ほどの大きさで、光る大きなボタン、スピーカー、音量調整ダイヤルおよび非接触カードリーダーで構成されます。携帯電話の通信網を利用するため、利用者はインターネット契約をする必要がなく、端末を電源につなぐだけですぐに利用でき初期設定も不要です。IT機器に不慣れな人でも直感的に使うことができ、ゴミ出しの案内や日々の催し物などの地域情報、日常の注意喚起、災害の危険が迫っていることを光と音声で伝える機能も備えています。

※2 地域の見守りサービスについて

本サービスは、利用者が支援者に体調や困りごとを知らせる参加型の新たな見守りサービスです。生活に寄り添った支援を行うことで利用者に安心感を与えることができ、孤独感を軽減する効果も期待できます。

 

⑥生分解性絶縁油適用スーパーユニバールの開発、販売

生態系への影響が小さい生分解性絶縁油を、2020年度にコンデンサへ適用して販売開始したのに続いて直列リアクトルへ適用拡大を進めることにより、ユニット型コンデンサ設備(スーパーユニバール:コンデンサ、直列リアクトル等で構成)として生分解性絶縁油の適用検討を進めており、2022年度に発売を予定しています。

 

(2)  ビーム・プラズマ事業

①超高ドーズ注入用イオン注入装置の開発

2021年7月に、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「省エネエレクトロニクスの製造基盤強化に向けた技術開発事業」に係る公募において、日新イオン機器株式会社は「半導体装置の高度化に向けた開発:EUVプロセスで必要とされる半導体製造装置の革新的技術を開発する」に採択され、2021年度から2023年度の委託開発を受託しました。

この募集事業においては、半導体素子の微細化、高集積化が進むにつれて最先端半導体プロセスにおいて発生する様々な課題を解決するために、材料の表面のみにイオンを打ち込んで材料改質することでエッチング等の処理速度を制御し、プロセス裕度向上可能な表面改質装置を開発・製作することを目指しています。

今回の事業採択を受け、イオン注入装置の競争力をより強固なものとし、先端半導体製造技術の開発を通じて、半導体業界のさらなる発展に貢献していきます。

 

②ファインコーティング装置 MF720の開発、販売

アーク放電を用いた新型のDLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜コーティング装置MF720を開発し、2021年6月より装置の販売、及び受託加工サービスを開始しました。

DLC膜は摩擦抵抗が少なく、機械部品、自動車部品の分野で広く使われており、アーク放電を用いて成膜した場合、膜の硬度や耐久性を低下させる水素含有を無くせます。しかし一方で、膜が粗く、接触する他の部品を摩耗させたり、成膜後に仕上げ研磨をする手間などがありました。

本装置は、膜成分のイオン化プロセスで発生し、膜の表面粗さや欠陥の原因となるドロップレット(微細粒)を磁気フィルターで分離、低減するフィルタードアーク方式を採用したもので、平滑で欠陥の少ない緻密な皮膜を基材に成膜することができます。

従来のフィルタードアーク方式は、フィルターの部分が大きく、複数のユニットを取り付けて量産性を高めるには不向きであり、またメンテナンスも大変手間のかかるものでした。本装置用に開発した磁気フィルターは、コンパクトですがドロップレットの捕獲効率が高く、表面平均粗さを従来比の1/6(膜厚1μmに対し0.02μm)に改善しました。

基材搬出入用扉にも取り付け可能で、内部清掃も容易な構造にしました。

また、基材との密着性をより高めるのに密着層の成膜プロセスも開発、適用し、膜硬度調整も15~75GPaと広い範囲で可能で、切削工具、機械部品、自動車部品等、様々な用途に適用できます。

本装置の有効成膜エリアは直径720mm×高さ750mmと大きく量産にも使用できるサイズになっています。今後は少量生産品に適した小型サイズのラインナップも充実させる予定です。

tremolo data Excel アドインサービス Excel から直接リアルタイムに企業の決算情報データを取得

お知らせ

tremolo data Excel アドインサービス Excel から直接リアルタイムに企業の決算情報データを取得