課題

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項については、当連結会計年度末現在における予想や一定の前提に基づくものであり、これらの記載は実際の結果と異なる可能性があるとともに、その達成を保証するものではありません。

 

(1)経営の基本方針

エプソンは、創業当時からの独自の強みである「省・小・精の技術」を基盤として、自らの常識やビジョンを超えて果敢に挑戦しイノベーションを生むことにより、画期的なお客様価値を継続的に創造し、より良い社会の実現に「なくてはならない会社」として中心的な役割を果たすことを目指しています。

そして、以下の経営理念およびグローバルタグラインのもと、お客様の期待を超える価値の創出に向けて、全社員が価値観を共有のうえ総合力を発揮し自律的に行動することにより、目指す姿の実現に努めてまいります。

 

経営理念

お客様を大切に、地球を友に、
個性を尊重し、総合力を発揮して
世界の人々に信頼され、社会とともに発展する
開かれた、なくてはならない会社でありたい。
そして社員が自信を持ち、
常に創造し挑戦していることを誇りとしたい。

 

EXCEED YOUR VISION

私たちエプソン社員は、
常に自らの常識やビジョンを超えて挑戦し、
お客様に驚きや感動をもたらす
成果を生み出します。

 

(2)「ありたい姿」と長期ビジョン「Epson 25 Renewed」の考え方

エプソンは、将来にわたって追求する「ありたい姿」として設定した「持続可能でこころ豊かな社会の実現」に向け、2021年3月に長期ビジョンを見直し、「Epson 25 Renewed」を策定しました。

 

①エプソンが将来にわたって追求する「ありたい姿」

現在、気候変動や新型コロナウイルスをはじめ、人類はさまざまな社会課題に直面しています。また、物質的、経済的な豊かさだけでなく、もっと精神的な豊かさ、文化的な豊かさ、そういったさまざまな豊かさを含めた「こころの豊かさ」こそが望まれる時代となったと考えています。そのためには、持続可能な社会であることが大前提になります。このような背景のもと、エプソンは、常に社会課題を起点として、その解決に向けて私たちに何ができるか、私たちの技術を使ってどう課題解決し、社会に貢献できるか、という発想でビジネスを展開していきます。これにより、今後、上述のエプソンが将来にわたって追求する「ありたい姿」の実現に取り組んでまいります。

 

②「Epson 25 Renewed」ビジョンステートメント

「Epson 25 Renewed」のビジョンステートメントとして、『「省・小・精の技術」とデジタル技術で人・モノ・情報がつながる、持続可能でこころ豊かな社会を共創する』と定めています。

人・モノ・情報をスマートにつなげるソリューションを、個人の生活や、産業や製造の現場にまで広く社会へ提供し、ありたい姿の実現のために取り組みます。そこで重要となるのは、「環境」「DX」「共創」の3つの取り組みです。

 

(環境への取り組み)

●「脱炭素」と「資源循環」に取り組むとともに、環境負荷低減を実現する商品・サービスの提供、環境技術の開発を推進する

(DXへの取り組み)

●強固なデジタルプラットフォームを構築し、人・モノ・情報をつなげ、お客様のニーズに寄り添い続けるソリューションを共創し、カスタマーサクセスに貢献する

(共創への取り組み)

●技術、製品群をベースとし、共創の場・人材交流、コアデバイスの提供、協業・出資を通して、さまざまなパートナーと社会課題の解決につなげる

 

③「Epson 25 Renewed」方針

不透明な社会環境の継続が予想されるなか、取り組みにメリハリをつけることにより、収益性を確保しながら将来成長を目指します。そして、すべての領域に必要な環境、DX、共創への取り組みも継続的に強化していきます。

領域区分

対象事業

方針

成長領域

オフィスプリンティング、商業・産業プリンティング、プリントヘッド外販、生産システム

環境変化を機会と捉えて経営資源投下

成熟領域

ホームプリンティング、プロジェクション、ウオッチ、マイクロデバイス

構造改革や効率化などにより、収益性重視

新領域

センシング、環境ビジネス

新たな技術・ビジネス開発に取り組む

 

(3)優先的に対処すべき事業上および財務上の課題

①イノベーション戦略の方針と進捗、今後の取り組み

目指す姿の実現に向けた戦略を実行するために、お客様価値や社会課題の軸でイノベーション領域を設定しています。以下の5つのイノベーションを支えるマイクロデバイス事業においては、「省・小・精の技術」を極めた水晶・半導体ソリューションにより、スマート化する社会の実現に貢献していきます。そして、持続可能な社会実現に向けて、環境への貢献を重要課題に据え、材料技術の融合により、環境ソリューションビジネスを創出し、脱炭素と資源循環に貢献します。

 

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<オフィス・ホームプリンティングイノベーション>

当領域では、インクジェット技術・紙再生技術とオープンなソリューションにより、環境負荷低減・生産性向上を実現し、分散化に対応した印刷の進化を主導することを目指しています。オフィスプリンティングにおいては、認証、課金システムなどのソリューション連携により、獲得案件が継続的に増加しました。今後、需要の多い中速帯の製品を投入すると同時に、各地域での販売網強化・価値訴求活動の強化に取り組み、成長を加速させていきます。ホームプリンティングにおいては、北米に加え、欧州、中国、豪州でブランドアンバサダーなどを起用した大容量インクタンクモデルの認知度向上活動が効果を上げています。今後は、サブスクリプションサービスを拡大するとともに、製品の長期使用を可能にするビジネスモデルを創出し、環境負荷低減にも貢献していきます。

 

<商業・産業プリンティングイノベーション>

当領域では、インクジェット技術と多様なソリューションにより、印刷のデジタル化を主導し、環境負荷低減・生産性向上の実現を目指しています。完成品ビジネスは、2021年度はプラットフォーム設計による効率的な製品開発やラインアップ拡充に取り組みました。今後もこの取り組みを継続するとともに、お客様とエプソンをつなぎ、印刷の現場をトータルでサポートする「Epson Cloud Solution PORT」の契約数拡大も進め、将来的な収益の複層化を目指します。プリントヘッド外販ビジネスは、主要市場である中国での販売が順調に拡大しています。今後は、欧州に設立した拠点なども活用し、さらに販売を拡大すると同時に、オープンイノベーションにより新たな用途を開拓していきます。

 

<マニュファクチャリングイノベーション>

当領域では、環境負荷に配慮した「生産性・柔軟性が高い生産システム」を共創し、ものづくりを革新することを目指しています。2021年度は、スカラロボットを中心とした拡販により売上伸長が継続しました。今後は新製品を拡充するとともに、世界各地での販売体制強化と拡販に取り組んでいきます。また、ロボット単体に加え、3Dプリンターや小型射出成形機なども組み合わせ、新しい生産システムを提案していきます。

 

<ビジュアルイノベーション>

当領域では、感動の映像体験と快適なビジュアルコミュニケーションで人・モノ・情報・サービスをつなぎ、「学び・働き・暮らし」を支援することを目指しています。2020年度から進めている事業構造改革により、収益構造は大きく改善しています。今後は、スタンダードモデルなどの既存市場では効率的な事業運営を続けると同時に、大画面の特長を最大限に生かせる高光束プロジェクターと、市場が拡大しているスマートプロジェクターのビジネスを強化していきます。

 

<ライフスタイルイノベーション>

当領域は、匠の技能、センシング技術を活用したソリューションを共創し、お客様の多様なライフスタイルを彩ることを目指しています。ウオッチ事業では、事業構造改革に取り組んだことに加え、需要回復と高価格品比率を向上させたこともあり、収益性が改善しています。今後もこの改革を継続していきます。また、センシング事業では、中長期を見据え、共創による新規ビジネスの育成に取り組んでいきます。

 

②経営基盤強化の取り組み

上述の各イノベーションの実現に向けて、以下のとおり経営基盤強化に取り組んでいます。

 

<営業戦略>

●デジタルを活用した顧客支援型営業

成長領域への取り組みを加速するため、CRM(顧客関係管理)を強化しています。製品本体の販売最大化を前提とした活動から、顧客価値提供(コンサルティング・付加価値ソリューションや保守サービスなど)やサブスクリプション化を強く意識した活動へと転換していきます。

●地域別、領域別の重点的な組織強化

営業推進とサービスサポートの連携強化に向けた組織再編を推進していきます。

 

<生産戦略>

●COVID-19拡大を契機に従来戦略を加速

部材調達については、電子部品などの調達難が続くなか、部品の先行確保や商品設計変更、複数拠点での生産による対応を継続します。物流確保については、船会社との積載量契約による関係強化や、代替輸送ルートの探索を進めます。生産の自動化では、生産拠点における人材の補強・育成に課題があるものの、ハードウェアとデータ活用技術の開発により生産装置のデジタル化、自動化ラインの立ち上げを進めていきます。

 

<技術開発戦略>

●イノベーションを支える技術の進化

特に材料・AI・デジタル技術を強化します。AI・デジタル技術では、全社のソフトウェアプラットフォーム化に向けたアルゴリズム開発を加速・強化し、データ活用ビジネスを創出していきます。材料技術では、ドライファイバーテクノロジー(※1)、金属リサイクル、CO2分離・吸収の技術開発等を進めるほか、共創パートナーとともに環境ビジネスを具体化していきます。

※1 水を使わず(適度な湿度は必要)衝撃力で繊維化するエプソンの技術

 

<人材戦略>

●強化領域への人材重点配置

成長領域を牽引する人材等確保のため、中途採用を強化します。

●人材育成強化

既存の教育研修体系を再整理し、機能軸・事業軸に加え、役割や職務の変化に対する育成体系を構築します。

●組織活性化

女性向け研修の運用、男性育休の促進のほか、働く場所の選択肢拡充など多様な働き方を実現する環境を整備していくことで、ダイバーシティを推進していきます。

 

③財務目標

「Epson 25 Renewed」の実現に向けて、収益性重視の経営へとシフトし、過度な売上成長を追わず、取り組みにメリハリをつけ、収益性の確保と将来成長を目指します。この方針に則り、ROIC、ROEおよびROSを財務目標として設定しています。

全社業績目標

2020年度(実績)

2021年度(実績)

2023年度(目標)

2025年度(目標)

ROIC(※2)

5.6%

7.3%

8%以上

11%以上

ROE

5.9%

15.2%

10%以上

13%以上

ROS

6.2%

7.9%

8%以上

10%以上

※2 ROIC=税引後事業利益/(親会社の所有者に帰属する持分+有利子負債)

 

ROICを財務目標のひとつとして設定したことで、より資本効率の高い経営が求められます。そのためエプソンは収益性と自社成長性の位置づけを明確にした事業ポートフォリオ管理を導入し、効率的な資本循環を実現し、経営効率性を上げていきます。エプソンのビジネス領域を上述のとおり「成長領域」「成熟領域」「新領域」に大別し、位置づけに合わせた資本配分および目標設定を行い、それらを定期的に見直すというサイクルを回すなかで、事業の方向性も判断していきます。

 

④キャッシュ・アロケーション

創出したキャッシュは、成長・新領域や環境関連を中心とした投資へ重点配分しつつ、継続的・安定的に株主還元を実施し、資金需要などを総合的に勘案しながら有利子負債の返済などの財務体質強化を実現します。

 

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(4)サステナビリティ課題への取り組み

ESG投資の拡大や各国・地域のサステナビリティ関連政策の策定など、世界中でサステナビリティをめぐる動きが一気に加速しています。このようななか、企業はサステナビリティ活動を踏まえた持続・成長戦略を通じて、社会が抱える課題にどう対応していくかという姿勢をますます問われるようになっています。エプソンは、商品・サービスの提供を通じ、さまざまな社会課題の解決に貢献してきました。今後も、経営理念に基づき長期的な視点からお客様やパートナーの皆様と「持続可能でこころ豊かな社会」を実現するため、社会的責任の遂行と社会共通価値の創出に取り組みます。

 

①マテリアリティとサステナビリティ重要テーマ、KPI

エプソンは、国際的な社会規範などで定められた社会課題やメガトレンドを参考として、自社視点・社会視点による評価を行い、社会課題解決に向けエプソンが取り組むべき重要度の高い課題である4つのマテリアリティ(「循環型経済の牽引」「産業構造の革新」「生活の質向上」「社会的責任の遂行」)を特定しています。また、マテリアリティへの取り組みを実効性のあるものにするため、12のサステナビリティ重要テーマを設定し、取り組み目標(KPI)を定め、中期活動計画に反映し着実に推進しています。なお、サステナビリティ課題への取り組みにおいては、すべてのマテリアリティに対してKPI検討を行ってまいりましたが、まずは企業の持続性に重点を置き、ESGに関連する2つのマテリアリティ(「循環型経済の牽引」「社会的責任の遂行」)のKPI開示を先行しました。「産業構造の革新」「生活の質向上」におけるKPIについては、2023年度以降に開示を行う予定です。

 

■ESGに関連するサステナビリティ重要テーマ目標と実績

ESG

マテリアリティ

サステナビリティ

重要テーマ

取り組みテーマ

目標指標

(KPI)

2021年度

実績

環境(E)

 

循環型経済の

牽引

脱炭素の取り組み

2050年「カーボンマイナス」に向けた、設備の省エネ、温室効果ガス除去、サプライヤーエンゲージメント、脱炭素ロジスティクス

・Scope1,2 GHG排出量(総量)削減率

・Scope3 GHG排出量(事業利益原単位)削減率

・2017年度比41%削減

・2017年度比38%削減

RE100達成に向けた再生可能エネルギーの活用

・再生可能エネルギー導入率

・国内100%達成(2021年11月から)

資源循環の取り組み

2050年「地下資源(※3)消費ゼロ」に向けた

・小型軽量化/再生材活用などの資源の有効活用

・生産ロスを極小化する循環型生産システムの構築

・循環資源利用率

・(※5)

・エコタンク搭載モデルでリサイクル素材(再生プラ)使用開始

・最終埋立率

(※4)

・(※5)

・グループ内での金属リサイクル拡大

お客様のもとでの環境負荷低減

環境負荷低減に資する商品・サービスによる削減貢献量の最大化(※6)

・商品・サービスによる削減貢献量

・(※5)

環境技術開発

ドライファイバーテクノロジーを応用した再生材/天然素材による脱プラスチック・資源循環の実現

・梱包材(従来材の置き換え)

・外装材(従来材の置き換え)

・開発プロセスの進捗状況

・素材候補を選定し試作

スクラップ金属の高付加価値リサイクル技術確立

・開発プロセスの進捗状況

・廃ウェハー再利用の開始

社会(S)・ガバナンス(G)

社会的責任の

遂行

ステークホルダーエンゲージメントの向上

ステークホルダーとの対話強化よるニーズ・社会要請への対応

 

・社会支援活動 支援金額

・2022-2025年度目標値の決定(売上収益の0.1%以上)

・株主・投資家との対話回数ならびに経営への意見反映

・239回

・外部評価機関の評価指数

・高評価(※7)を獲得

責任あるサプライチェーンの実現

サプライチェーンBCM強化

・サプライチェーン途絶・停滞によるお客様への影響(2024年度販売影響なし)

・COVID-19影響による部品調達難・物流機能停滞により販売影響が発生

責任あるサプライチェーンの実現

・サプライヤーにおけるCSRリスクレベル

・主要サプライヤー(直接材)のCSRリスクランク:ハイリスク0%

責任ある鉱物調達の実現

・製品のコンフリクトフリー(CF)率

・調査回答率

(※8)

・3TG(※9)調査回答回収率99%

 

 

ESG

マテリアリティ

サステナビリティ

重要テーマ

取り組みテーマ

目標指標

(KPI)

2021年度

実績

社会(S)・ガバナンス(G)

社会的責任の

遂行

人権の尊重とダイバーシティの推進

自由闊達で風通しのよい組織風土づくり

・組織風土アセスメント「チームで働く力」スコア

・3.68

・こころの健康診断「総合健康リスク」ハイリスク職場数

・全職場数の2.7%

・ハラスメント防止施策の実施(教育・研修、事案共有、任用プロセス等)、事案の本社報告の徹底

・教育・研修、事案共有、任用プロセスにおけるチェックを計画通り実施

・重要事案の本社報告漏れ0件

新「人権方針」のグループ内浸透による人権の尊重

・人権尊重のコミットメント、人権デューデリジェンス(DD)、救済メカニズムの定着・改善

・2022年4月1日付で人権方針の改定完了

ダイバーシティを尊重した人材の活用

・女性管理職比率(当社)

・女性執行役員数2025年度までに1名以上(国内)

・管理職女性比率4.1%(2022年4月1日時点)

・ダイバーシティマネジメント研修を必須化、選抜研修女性受講促進

ガバナンスの強化

コンプライアンス経営の基盤強化

・重大なコンプライアンス違反事案(※10)の発生件数

・重大なコンプライアンス事案の発生なし

グループコンプライアンスレベルの引き上げ

・グループ社員全員(※11)へのコンプライアンス教育(e-ラーニング)実施率

・グループ全社での実施率100%

透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を実現するガバナンス体制の維持・強化

・取締役会の社外取締役比率

・選考/報酬審議会の社外取締役比率

•取締役会の社外取締役比率50%

•選考/報酬審議会の社外取締役比率83%

情報セキュリティーの強化

・重大な情報セキュリティーインシデント発生件数

・0件

※3 原油、金属などの枯渇性資源

※4 資源投入量に対する生産系埋立量の比率

※5 2021年度実績数値は集計がまとまり次第当社ウェブサイトで開示予定

※6 商品・サービスが社会のGHG排出量の削減に資する量を定量化したもの

※7 Sustainalytics:Low、FTSE:4点以上、東洋経済新報社「CSR企業ランキング」トップ50以上

※8 調査の網羅率を示す

※9 スズ(Tin)、タンタル(Tantalum)、タングステン(Tungsten)、金(Gold)の頭文字をとった紛争鉱物の略称

※10 重大なコンプライアンス違反事案:適時開示事由に該当するような違反事案

※11 対象:当社および国内・海外子会社

 

②「環境ビジョン2050」

エプソンは、以下のとおり持続可能な社会の前提である環境への取り組みに関するビジョン「環境ビジョン2050」を改定し、2050年に達成する目標と、その実現に向けた取り組みを定めています。

 

項目

内容

ビジョン

ステートメント

2050年に「カーボンマイナス」と「地下資源消費ゼロ」を達成し、持続可能でこころ豊かな社会を実現する

達成目標

2030年:1.5℃シナリオ(※12)に沿った総排出量削減

2050年:「カーボンマイナス」、「地下資源消費ゼロ」

アクション

●商品・サービスやサプライチェーンにおける環境負荷の低減

●オープンで独創的なイノベーションによる循環型経済の牽引と産業構造の革新

●国際的な環境保全活動への貢献

※12 SBTイニシアチブ(Science Based Targets initiative)のクライテリアに基づく科学的な知見と整合した温室

   効果ガスの削減目標

 

③気候変動への取り組みとTCFD

気候変動が社会に与える影響は大きく、エプソンとしても取り組むべき重要な社会課題だと捉えています。パリ協定の目指す脱炭素社会(世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする)の実現に向け、エプソンは2030年に「1.5℃シナリオに沿った総排出量削減」の目標達成を目指しています。また、「Epson 25 Renewed」の公表に合わせ「環境ビジョン2050」を改定し、その目標として掲げる2050年の「カーボンマイナス」「地下資源(※13)消費ゼロ」に向け、脱炭素と資源循環に取り組むとともに、環境負荷低減を実現する商品・サービスの提供、環境技術の開発を推進しています。

エプソンは2019年10月に「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」提言への賛同を表明して以降、株主・投資家をはじめとする幅広いステークホルダーとの良好なコミュニケーションがとれるように、TCFDのフレームワークに基づき、情報開示(ガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標)を進めています。2021年には財務影響度をエプソンとして初めて定量的に開示することにしました。さらに、2022年はTCFD提言の改訂を受けて、GHG排出量の削減を目的とした具体的な取り組み実績などの開示を強化しました。

※13 原油、金属などの枯渇性資源

 

■ シナリオ分析の結果

TCFDのフレームワークに基づいて、シナリオ分析を実施し、気候関連リスク・機会がエプソンの戦略に与える財務影響度を定量的に評価しました。その結果、脱炭素社会へ急速に進んだ1.5℃シナリオの場合、市場の変化・政策・法規制による操業コスト増加の移行リスクはあるものの、インクジェット技術・紙再生技術に基づく商品・サービスの強化により財務影響へのインパクトは限定的と予想しています。

エプソンは、2021-30年までの10年間で約1,000億円(2021-25年は約250億円、2026-30年は約750億円)を投入し、脱炭素・資源循環・環境技術開発への取り組みを加速します。また、気候関連リスクへの解決は、私たちが設定したマテリアリティである「循環型経済の牽引」「産業構造の革新」に合致し、エプソンの強みである低環境負荷(消費電力・廃棄物など)の商品・サービスで、事業拡大の機会につながります。この機会の拡大は、お客様のもとでの環境負荷低減や気候変動の抑制に貢献するものです。

こうした評価結果から、エプソンは社会にとっても自社にとっても合理的であるパリ協定の目指す脱炭素社会の実現に向け、認識したリスクに対処しながら、機会を最大化するための取り組みを継続的に進めています。

なお、世界が現状を上回る対策をとらずに温暖化が進んだ4℃シナリオの場合でも、異常気象にともなう災害の激甚化による国内外の拠点に対する物理リスクの影響は、小さいことが確認されています。

 

a.ガバナンス

気候変動に係る重要事項は、社長の諮問機関としてグループ全体のサステナビリティ活動の中長期戦略を策定・実践状況のレビューを行う「サステナビリティ戦略会議」で議論のうえ、定期的に(年に1回以上)取締役会に報告することで、取締役会の監督が適切に図られる体制をとっています。

また、気候関連問題に対する最高責任と権限を有する代表取締役社長は、サステナビリティ推進室長(取締役専務執行役員)を気候関連問題の責任者に任命し、サステナビリティ推進室長は、TCFDを含む気候変動に関する取り組みを管理・推進しています。

 

■ 推進体制

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b.戦略

エプソンは、「循環型経済の牽引」「産業構造の革新」をマテリアリティとして設定しています。これを達成するために、エプソンの技術の源泉である「省・小・精の技術」を基盤に、イノベーションを起こし、さらなる温室効果ガス(GHG)排出量削減に取り組んでいます。さらに、ビジネスモデルの進化や、気候変動に対するレジリエンスの強化を図るため、「環境ビジョン2050」の実現に向け、2021年に環境戦略定例会の新設および下部組織として各分科会を整備し、取り組みを推進しています。

 

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■ 気候関連のリスク・機会に関するシナリオ分析

エプソンは、気候関連のリスク・機会の重要性評価に向け、「移行リスク」「物理リスク」「機会」の区分でシナリオ特定と評価を実施し、7つの評価項目を選定しました。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)と国際エネルギー機関(IEA)が提示する気温上昇1.5℃に相当するシナリオと社内外の情報に基づき、事業インパクトと財務影響度を評価しました。

 

■ 1.5℃シナリオにおける気候関連リスク・機会

シナリオ分析に基づいた気候関連リスク・機会の評価結果は以下のとおりです。
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エプソンは、脱炭素、資源循環、環境技術開発、お客様のもとでの環境負荷低減に向けた取り組みを進めています。2021年度の取り組み実績は以下のとおりです。

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c.リスク管理

企業を取り巻く環境が複雑かつ不確実性を増すなか、企業活動に重大な影響を及ぼすリスクに的確に対処することが、経営戦略や事業目的を遂行していくうえでは不可欠です。

エプソンは、気候関連問題を経営上の重大な影響を及ぼすリスクとして位置付け、適切に管理しています。

 

■ 気候関連リスクの識別・評価・管理プロセス

1 調査

2 識別・評価

3 管理

・IPCC第6次評価報告書の変化点を加味して、国内外の主要拠点を対象に、気候変動に起因した自然災害リスクに関する調査を実施

・社会動向を調査

・「Epson 25 Renewed」「環境ビジョン2050」の方針や施策からリスク・機会を洗い出し

・サステナビリティ戦略会議と取締役会を通じて、シナリオ分析を評価

・サステナビリティ戦略会議と取締役会を通じて、適切に管理

 

d.指標と目標

エプソンは、「環境ビジョン2050」の実現に向け、中長期的な温室効果ガス(GHG)の排出削減目標の達成を目指します。そのため、エプソンの技術の源泉である「省・小・精の技術」を基盤に、商品の環境性能向上や再生可能エネルギーの活用、事業活動などバリューチェーンを通じた環境負荷低減に積極的に取り組んでいます。

 

■ GHG削減目標(「1.5℃シナリオ」に沿った野心的な排出総量削減目標の目安)

スコープ1、2、3(※16)

2030年度までに2017年度比でGHG排出量を55%削減

※16 スコープ1:燃料などの使用による直接排出

   スコープ2:購入電力などのエネルギー起源の間接排出

   スコープ3:自社バリューチェーン全体からの間接的な排出

 

④人材に関する取り組み

エプソンが持続可能でこころ豊かな社会を実現するには、世界各地でさまざまな役割を担う社員が世界中のパートナーと力を合わせ、社会課題の解決に取り組むことが必要です。エプソンは、共通の価値観を持って現場で的確・迅速な意思決定ができるグローバル人材、リーダー人材を育成するとともに、多様な人材が活躍できる、働きやすい環境を整備し、そこで働く人々がチーム力を最大限発揮することができるよう、自由闊達で風通しの良い組織風土づくりを進めています。

人材育成においては、社員一人ひとりがエプソンというチームの一員として自分の役割や期待を理解して課題に挑戦し、仕事を通じて成長し、期待される役割を果たせるように、チーム内コミュニケーションの質向上、および問題解決・課題達成のための思考力向上につながるさまざまな教育を実施しています。また、事業戦略・環境変化に適応した最適フォーメーションを構築するとともに、スペシャリストの獲得や成長領域への重点配置、国内外の各組織においてビジネスを牽引しうるリーダーの育成をグローバル視点で進めています。年1回、事業別・機能別・会社別に、重要ポストや組織の各職務において求められる役割や要件を評価・見直し、その役割を果たすことのできる人材のレビューを行い、後継計画を策定するとともに、将来の経営層・管理職層、グローバル人材の候補者をリストアップし、育成・養成のための研修・教育や知識・経験の幅を広げるローテーションを実施しています。

ダイバーシティ推進においては、性別などの属性によらず、社員一人ひとりが能力を最大限に発揮できる会社を目指しています。エプソンは、なかでも女性活躍推進を最大の課題と認識し、ジェンダー・ギャップの解消に取り組んでいます。ジェンダー平等を実現し、管理職層や経営層といった各階層に、自然に、満遍なく女性がいて、管理職の女性比率が全社員の女性比率と同率という状態にできるだけ早くしていきたいと考えています。その実現のために、女性採用を増やし、係長級やリーダーを担える女性を増やし、女性管理職を増やすというように段階的に改善するとともに、女性の働きやすい職場づくりにも取り組んでいます。また、取締役会および経営会議体において推進計画や実施状況、関連指標の確認を行うとともに、方向性の議論を行っています。

健康経営の推進においては、会社は社員の健康が最重要と考え、経営理念とエプソングループ労働安全衛生基本方針に基づき、社員の健康状態が向上するとともに、社員が仕事にやりがいを感じ、活き活きと働いている状態の実現を目指しています。その結果、業績向上や企業価値向上にもつながります。活動推進にあたり、健康経営の責任者である社長のもと、推進主体として「健康経営推進室」を設置しました。その室長は、執行役員として経営会議に参画するとともに、人事本部長・健康保険組合の理事長・統括安全衛生管理者を兼任し、健康経営を総合的にマネジメントします。会社と健康保険組合で共同運営をしている「健康経営推進会議」は、健康経営に関する情報分析や施策の立案・評価・改善を担い、各事業所の「健康づくり推進委員会」活動と連携して取り組んでいます。「健康づくり推進委員会」の委員長は各事業所の総務部長が、副委員長は労組役員が務め、産業保健の立場から産業医・保健師がアドバイザリーを担っています。これらの活動が評価され、2022年3月に「健康経営銘柄2022」に初選定されました。

 

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