文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。
(1) 会社の経営の基本方針
当社は、テクノロジーの可能性を追求し、顧客に新たな価値を認めていただける製品を他社に先駆けて創造、提案し、顧客の満足を得ることを経営の基本方針としております。このため、当社は映像技術を核とした市場や顧客のニーズに応じた最適な映像環境ソリューションを提案する「Visual Technology Company」として、世界トップレベルの高品質かつ信頼性の高い映像製品の提供、システムソリューションの提案を行っております。
(2) 経営戦略
当社は、2021年度を初年度とする第7次中期経営計画において「Amplify Imaging Value ~映像をもっと便利に、価値あるものに~」を掲げ、Products & Systemsで「映像」の価値を高め事業領域を拡大することを計画しております。製品の更なる進化を推し進め、独自アルゴリズムやAI等を要素に、モニター、カメラ、ネットワークエンコーダ等の各種製品を強化してまいります。加えて、これら製品群で構成する「撮影、記録、配信、表示」のImaging Chainをシステム事業として展開し、DXの加速により更に情報量が増大する「映像」の利便性を向上させ、その価値を高めてまいります。このシステム事業「EIZO Visual Systems」(EVS)により、システム事業で製品をより強く、そして強い製品でシステム事業もより強くすることで、ビジネスモデルをNEXTステージに進化させます。
(3) 経営環境
当社の属する電子機器業界は、絶え間ない技術の進化、液晶パネルに代表される電子デバイス業界の変容等、激しく変化しております。その環境下で、ソリューションビジネスが拡大するとともに、新たな価値創造に向けた取組みが進展しております。
そうした中、当社はB&P(Business & Plus)で培った要素技術・品質・ノウハウを核に、ヘルスケア等の特定市場に深く根差した製品を開発し、相互にシナジーを生む事業を展開し、強いビジネスモデルを構築してきました。さらにグループ会社のカリーナシステム㈱とともに、Imaging Chainを一貫したシステムとして顧客に提供できる体制を整備しております。
当社が認識する各市場の経営環境は次のとおりです。
B&P(Business & Plus)
ビジネス用途では作業効率の向上を図るための表示画面の大型化及び高解像度化が進んでおります。また、サステナビリティへの意識の高まりにより、環境に配慮した製品への需要が高まると見込んでおります。なお、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を契機に人々の生活様式や働き方の多様化が進み、ノートPCとの親和性等、機能の高度化に対するニーズが高まっております。
ヘルスケア
診断用途については、欧州・米国・日本といった先進国では読影環境の改善を目的とした高解像度モニターの需要が高まることに加え、中国や新興国においても医療の先進化により需要が高まる見込みです。また、欧米において導入が進んでいる遠隔診断は、その他地域にも拡がることが見込まれます。内視鏡及び手術室用途については、低侵襲手術などの先端医療への需要が高まっており、高解像度手術用モニターや術野カメラ、映像記録・配信システムなどの映像関連機器の需要が高まる見込みです。
クリエイティブワーク
静止画分野については、色の再現性が重要な写真や印刷用途での底堅い需要が存在します。映像制作向けについては、4K・HDR制作環境が浸透しており、特に映画制作や動画ストリーミング配信サービス分野における需要が高まる見込みです。またゲーム制作向けの需要についても高まることが見込まれます。
V&S(Vertical & Specific)
多種多様な業種・分野を対象としており、幅広く需要を見込みます。ATC向けについては、全世界における市場シェアNo.1のポジションを維持しております。米国を始めとした全世界の更新需要に加え、空港新設による需要や付加価値の高い高解像度モニターの需要についても高まることが見込まれます。
監視向けについても、全世界でセキュリティ意識の高まりを背景に、市場が拡大することが見込まれます。船舶向けについては、操舵室の電子化・システム化に伴い船級規格を備えたモニターの堅調な需要が見込まれる他、船内監視ニーズ、自動航行システム実現に向けた研究活動等、市場は多様化の動きを見せております。
アミューズメント
新規則機への入替需要の反動減により、翌2022年度の販売は減少する見通しです。当市場は引き続き遊技人口の減少により厳しい環境となりますが、魅力ある商品の提供及び製品の安定供給に努め、市場でのトップメーカーの地位を維持してまいります。
(4) 優先的に対処すべき事業上の課題
① ビジネスモデルの進化と新たな価値の創造
第7次中期経営計画では、ProductsとSystemsの両面から「映像」の価値を高め、事業領域を拡大します。当社製品の更なる進化と拡がりを目指し、独自アルゴリズムやAI等を要素に、モニター、カメラ、ネットワークエンコーダ等の各種製品を強化し、圧倒的な差別化を図ります。加えて、これらの製品群で構成する「撮影、記録、配信、表示」のImaging Chainを「EIZO Visual Systems」(EVS)として展開し、DXの加速により情報量が増大する「映像」の利便性を向上させ、その価値を高めてまいります。
システム事業の展開と当社の強みをより一層活かした製品づくりにより、当社独自のビジネスモデルをNEXTステージに進化させ、新たな価値の創造に努めてまいります。
② 安定した資材調達と製品供給への取組み
当社は、取引先との間で相互繁栄を基本とした信頼関係を構築し、互いが長期に発展できるパートナーシップを築くことを方針としております。各取引先とは、当社の資材調達方針に加え、当社のサステナビリティに関する取組みを共有し、パートナーシップを強化しております。また、自然災害の発生、感染症の流行、国際紛争や市場の変化により資材調達が困難な時においても顧客への安定的な製品供給を実現するため、資材調達におけるBCPを強化するとともに十分な材料在庫の保有を戦略的に行っております。これらの取組みにより、安定供給を継続、維持してまいります。
③ 事業成長のための生産性向上と競争力強化
Products & Systemsによる事業成長のため、事業基盤を支えるITインフラの刷新を行うなど業務効率化と生産性向上を進めてまいります。また、当社独自のビジネスモデルを進化させ、当社固有の技術と強いシナジーを発揮するノウハウ、技術等を取得するため、今後も必要に応じ機動的なM&Aを実施いたします。
④ 持続可能な社会の実現に向けた価値創造の推進
当社は、「映像を通じて豊かな未来社会を実現する」という企業理念のもと、エルゴノミクスや環境に配慮した高品質な製品づくりや、誰もが生き生きと活躍できる職場環境の構築支援など、製品づくりと事業活動を通じて社会課題の解決に取組んでおります。2022年3月には社会課題と当社経営戦略の観点から重要性の高い事項をマテリアリティ(重要課題)として特定しました。それらを全社目標マネジメントシステムとリンクさせることで持続可能な社会の実現に向けた取組みを一層強化し、中長期的な企業価値の向上に努めております。
2020年からはグローバルサプライチェーンにおけるCSRの推進に取組む企業連合「RBA(Responsible Business Alliance)」に加盟しており、人権と多様性の尊重の取組みをさらに強化・徹底していくため、2022年4月に「EIZOグループ人権方針」を新たに制定しました。引き続き、サプライチェーンを含めたサステナビリティに関する取組みを推進してまいります。
⑤ 気候変動対策への取組み
気候変動対策への取組みとして、2021年5月にTCFD(※1)に賛同表明し、世界的な気候変動による当社事業への影響を分析し、関連情報の開示と必要な対策を着実に進めております。また、パリ協定(※2)が定める気候変動に関する目標に科学的に整合する温室効果ガスの排出削減目標「Science Based Targets(以下「SBT」という。)」に対しても、当社の温室効果ガス排出削減目標を設定し、認定を受ける予定です。
(※1) TCFD:気候関連財務情報開示タスクフォース(the Task Force on Climate-related Financial Disclosures)
(※2) パリ協定:2015年にフランス・パリにおいて開催された国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で採択された、2020年以降の気候変動問題に関する包括的な国際協定
当社はEIZOブランドの立上げ以来一貫して最先端の環境対応に取組んでおり、製品の省エネ性能を追求するとともに、事業活動全体における温室効果ガス排出削減目標を策定するなど、気候変動対策に取組んでいます。
また、株主・投資家をはじめとする幅広いステークホルダーとの良好なコミュニケーションが図れるよう、TCFDのフレームワークに基づき、情報開示(ガバナンス・リスク管理・戦略・目標と指標)を進めています。
<ガバナンス>
気候変動関連に関する課題についてはサステナビリティ委員会を設置し取組んでいます。また、気候変動関連に関するリスクと機会の評価と対応については、下部組織に気候変動対策分科会を設置し、専門的観点から検討しています。サステナビリティを巡る課題への対応は、サステナビリティ委員会の委員長である代表取締役社長がその責任を負っています。
当社取締役会は、気候変動関連事項に対処するためのゴールとターゲットに関して、サステナビリティ委員会による温室効果ガス排出削減やシナリオ分析に基づく機会実現のための戦略の策定、および年4回の業務執行状況の報告により、その進捗状況をモニタリングし、監督しています。
◆サステナビリティ・マネジメント体制
<リスク管理>
当社は、当社グループをとりまくリスクを適切に管理することが経営目標の達成や事業戦略の実行のために不可欠であると捉え、統合的・一元的にリスクを管理する全社的リスクマネジメント体制を構築・運用しています。
気候変動に関連するリスクと機会は、全社的リスクマネジメントと連携し、TCFDが示す長期的かつ専門的なリスクと機会への対応を包含するために、サステナビリティ委員会・気候変動対策分科会にて分析・評価し、対策を検討しています。
<戦略>
当社は、脱炭素社会への移行に伴い不確実性の高い将来を見据えて、どのようなビジネス上の課題が顕在しうるか、IPCC(※3)第6次評価報告書において示された2℃シナリオ(SSP1-2.6)と4℃シナリオ(SSP5-8.5)のそれぞれにおいて、TCFDが提言するシナリオ分析を行いました。
また、サステナビリティ委員会において、EIZOグループにとっての重要課題である「マテリアリティ」を特定しました。その中で気候変動問題が重要な課題であるという認識にいたっており、長期的な視点での気候変動関連のリスクと機会について、「サステナビリティマネジメント基本規程」に従って、次ページ「◆2℃/4℃シナリオに基づく気候関連リスク・機会」のように特定しました。
なお、リスクの重要度評価の基準としては、売上及び利益・損失に対する一定規模以上の影響と発生可能性を考慮して決定しています。
(※3) IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change、気候変動に関する政府間パネル)
◆2℃/4℃シナリオに基づく気候関連リスク・機会
リスク / 機会 |
区分 |
気候変動関連項目 |
期間 |
対応策 |
影響度 |
該当シナリオ |
移 行 リ ス ク |
政 策 と 法 規 制 |
温室効果ガス排出価格上昇(炭素税導入)による税負担(公租公課)の増加 |
中期 長期 |
・SBT水準における長期的なCO₂削減目標の設定と、削減活動の実行 |
小 |
2℃/4℃ |
調達コストの高騰による製造原価の増加 |
短期 中期 |
・仕入先とのパートナーシップの強化 ・製品における原材料構成の見直し (再生プラスチックの利用率向上、脱プラ等梱包材見直し、バイオプラスチックの利用検討等) |
大 |
2℃/4℃ |
||
再エネ導入費、省エネ対応設備投資費の増加 |
短期 中期 |
- |
小 |
2℃ |
||
温室効果ガス排出抑制のためのモーダルシフトによる輸送コスト上昇(モーダルシフトに限らず、現状の輸送手段における低炭素化に伴うコスト増) |
中期 長期 |
- |
小 |
2℃/4℃ |
||
災害対策に関する規制が強化され、従業員の安全や、事業継続に関する対策が義務化される可能性がある |
中期 長期 |
・労働安全衛生マネジメントシステムにおける運用 ・労働安全衛生目標の設定とモニタリング |
中 |
2℃ |
||
技 術 |
製品の省エネ、低炭素化における目標達成の未達 |
中期 長期 |
・製品の省エネ、低炭素化目標達成に向けたKPIの設定とモニタリング |
大 |
2℃ |
|
低炭素化の目標達成に向けた研究開発投資の増加 |
中期 長期 |
・低炭素化の目標達成に向けた研究開発投資の継続 |
中 |
2℃/4℃ |
||
市 場 |
再エネ比率の高まり、石油価格高騰によるエネルギーコストの上昇 |
中期 長期 |
・建物及び生産設備のエネルギー効率向上 ・業界No.1を実現する低消費電力製品の開発 ・SBT水準における長期的なCO2削減目標の設定と、削減活動の実行 |
中 |
2℃/4℃ |
|
機 会 |
製 品 と サ | ビ ス |
[B&P、ヘルスケア、クリエイティブワーク、V&S] 環境性能の高い製品ニーズ増加による販売拡大 |
短期 中期 |
・業界No.1の環境性能を実現する製品の開発 |
大 |
2℃/4℃ |
[ヘルスケア] 気候変動に伴う健康リスクの増大により健康と福祉を重視する価値観が醸成され、市場が拡大 |
中期 長期 |
・HC事業の継続強化 ・EVSを中核としたシステム事業の拡大 |
大 |
2℃/4℃ |
||
[V&S] 気候変動による自然災害が激甚化する中でレジリエントな社会ニーズに適応する製品およびシステムニーズの拡大 |
中期 長期 |
・V&S製品のラインナップ拡充 ・EVSを中核としたシステム事業の拡大 |
中 |
2℃/4℃ |
※評価指標 <期間>短期:~3年程度、中期:3~10年程度、長期:10年以上
<影響度>大:損失のリスク及び収益の機会が1,000百万円以上、中:同100百万円以上、小:同100百万円未満
当社では、2℃及び4℃の世界観におけるシナリオ分析によって、2030年時点で具体的にどの程度の財務インパクトが生じるのかを分析しました。
2℃シナリオの場合、カーボンプライシング政策が強化されることによって、事業運営コストの上昇による財務影響が大きいと想定しています。また4℃シナリオの場合は、気候変動による物理的な影響から、バリューチェーンにおける物流の寸断や、調達コストへの影響も連動して負担となることを予測しています。
一方で、脱炭素化に向けて顧客の製品選択基準が変化し、省エネ性能、温室効果ガス低排出製品のニーズがより高まることから、環境性能の高い当社製品は低炭素社会への移行に伴って、ますますビジネス機会を創出する可能性が高まると想定しています。
<指標と目標>
気候変動のリスクと機会を管理する指標として、パリ協定が定める目標に科学的に整合する温室効果ガスの排出削減目標であるSBT基準の1.5℃水準の野心的な目標設定を行いました。
Scope1+2 (※4) |
2030年度までに温室効果ガス排出量を2019年度基準で70%削減 |
Scope3 (※5) |
2030年度までに温室効果ガス排出量を2019年度基準で27.5%削減 |
(※4) Scope1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)
Scope2:他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
(※5) Scope3:Scope1、Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)
(今後の取組み)
当社では、現在SBT基準に準拠した温室効果ガス排出削減目標を設定していますが、今回のシナリオ分析によってその重要性を改めて認識しました。当社では、Scope1、Scope2の排出量において、基準年を2019年度として2030年度までに70%削減、2040年度までに100%削減(実質ゼロ)を目指しています。またScope3排出量においては、2030年度までに温室効果ガス排出量を27.5%削減するという目標を掲げています。
製品のカーボンフットプリント(※6)の低減は市場ニーズとしてますます高まるため、当社の低炭素製品の開発を積極的に推進することで、さらなる販売の拡大につながると考えています。当社は、持続可能な社会の実現に向け、製品をつくる過程・ユーザーが使う過程双方の観点で環境に配慮したサステナブルな製品開発の推進を中期経営計画に掲げています。
(※6) カーボンフットプリント:商品・サービスの原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通して排出された温室効果ガスの量を追跡し、得られた全体量をCO₂に換算して表示すること
お知らせ