文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末において当社グループが判断したものであります。
当社は、2021年3月期を、将来の企業価値向上に向けた事業改革の年と位置付け、事業ポートフォリオ改革、収益面の課題がある事業への具体的対策、事業部門別ROIC管理や製品群別・機種別の収益管理による財務規律の徹底を力強く推進し、抜本的な事業改革を実行しました。また、併せて当社グループ独自の強みである「混合分散(まぜる)」「精密塗布(ぬる)」「高精度成形(かためる)」を柱とする「アナログコア技術」に立脚した事業を成長の主軸と位置付け、継続的な事業ポートフォリオ改革による事業の新陳代謝を進めるとともに、すべてのステークホルダーに最高の価値を提供する「価値創出企業」となることをめざし、2020年7月30日に開催の取締役会において、以下のとおり当社グループの経営の基本方針の見直しを行いました。
a.経営理念
当社グループは、その創業の精神である"和協一致"、"仕事に魂を打ち込み"、"社会に奉仕したい"を継承しつつ、「和協一致 仕事に魂を打ち込み 社会に貢献する」を社是とし、今後もマクセル人としての誇りを堅持し、優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献することを基本理念とします。
あわせて、企業が社会の一員であることを深く認識し、公正かつ透明な企業行動に徹するとともに、環境との調和、積極的な社会貢献活動を通じ、良識ある市民として真に豊かな社会の実現に尽力します。
b.ミッション
当社グループは、優れた技術や製品の開発を通じて持続可能な社会に貢献することをめざし、「独創技術のイノベーション追求を通じて持続可能な社会に貢献する」をミッションとします。
c.ビジョン
当社グループは、すべてのステークホルダーにとってのMaximum Excellence(最高の価値)を創造する「価値創出企業」となることをめざし、「独自のアナログコア技術で、社員・顧客・社会にとってのMaximum Excellenceを創造する」をビジョンとします。
d.バリュー
当社グループがステークホルダーに対して提供し続けるべき価値や強みを、Technological Value(技術価値)、Customer Value(顧客価値)、Social Value(社会価値)の3点とします。ミッションとビジョンの実現に向け、これらの価値を大切にしていきます。
e.スローガン
当社グループ共通のブランドスローガン(合言葉)を「Within, the Future」-未来のなかに、いつもいる-、とします。
f.マクセルグループ行動規範
当社グループの事業活動における共通の規範であるマクセルグループ行動規範を、今後も当社グループの経営に当たって遵守していきます。
g.コーポレートガバナンス・ガイドライン
当社グループの内部統制システムを構築するための基本方針であるコーポレートガバナンス・ガイドラインに従い、今後もコーポレートガバナンス体制の強化を図り、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上をめざします。
上記の経営の基本方針に関わるキーワードとした、ミッション、ビジョン、バリュー、スピリット、スローガン(MVVSS)の5項目は以下のとおりです。
なお、本経営の基本方針については、2021年3月期中に経営トップによるタウンホールミーティングを主要拠点において順次開催し、従業員に直接説明を行ったほか、当連結会計年度においては社内報や社内ホームページも活用し、当社グループ全体への浸透を図っています。
グローバルの経済環境は、2023年3月期においても新型コロナウイルス感染症の影響が完全に払拭されるには至らぬものの、経済・社会活動に対する制限は徐々に緩和されることが期待されます。一方で、当連結会計年度第4四半期において新たな地政学的リスクとしてロシア-ウクライナ情勢が急変したことによる不確実性が高まっており、当該地政学的リスクの発生以前に既に顕在化していた半導体の供給不足や原材料費の高騰、物流面の停滞といった問題がさらに長期化し、当社グループの事業への影響が大きい自動車などの生産への影響やエネルギー価格の高騰などが懸念される状況となっています。
当社グループは、2023年3月期も財務規律の徹底による収益管理と事業ポートフォリオ改革による事業の新陳代謝を継続し、徹底した原価低減策を推進するとともに足元のコスト上昇の販売価格への反映を着実に進めることとしています。こうした諸施策により、当社グループの中期経営計画MEX23の2024年3月期目標である、営業利益率10%、ROIC7%超の実現をめざしていきます。
当社グループは、当連結会計年度より、「ヘルスケア」「5G/IoT」「モビリティ」を注力3分野とするとともに、事業責任と成長戦略の明確化を図ることを目的として、事業セグメントを、エネルギー、機能性部材料、光学・システム及びライフソリューションの4セグメントに変更しており、各事業セグメントにおいて注力3分野を中心に、「アナログコア技術」に立脚した特徴のある製品・サービスを強化し、競争力の源泉としていくことを基本戦略とします。
a. 中期経営計画「MEX23」
当社グループは、2021年3月期を事業改革の年と位置付け、財務規律の徹底による事業ポートフォリオ改革を推進し、一部事業の他社への譲渡を行うなど、課題事業への対策と事業の新陳代謝を進めました。また、併せて経営基盤の強化を図るため、早期退職支援制度を実施するとともに、徹底した原価低減を行いました。
これを受け、中期経営計画の策定にあたっては、まず10年後、すなわち2030年に向けた世界経済や社会におけるメガトレンドを想定し、そのなかで当社グループとして特に注力すべき分野(注力3分野)を選定しました。その上で、2030年に当社グループとして実現したいありたき姿を定め、ここからさかのぼる形で、当連結会計年度から2024年3月期までの3年間の中期経営計画「MEX23」(Maximum Excellence 2023)を策定し、2021年6月に公表しました。
MEX23の基本方針及び経営目標は以下のとおりです。
MEX23基本方針:「価値にこだわる」~企業価値・利益成長を重視した経営の実践~
2024年3月期経営目標:
連結売上高 125,000百万円
連結営業利益率 10%
ROIC 7%超
配当性向 30~40%
上記のMEX23の経営目標の達成に向け、まず初年度である当連結会計年度においては「価値にこだわる」というMEX23の基本方針に沿って利益面での「成長路線への回帰」をめざしました。当連結会計年度の営業利益は、事業改革、不採算事業の縮小及び原価低減策などの効果により2014年3月の再上場以降最高益となり、2021年3月期との比較で、営業利益率は2.7%から6.8%に、ROICは1.9%から5.5%に向上するなど、収益力の強化を図りました。2023年3月期も引き続き収益力の強化に注力し、MEX23の2024年3月期経営目標を確実に達成し、その上で、2025年3月期以降の次期中期経営計画期間における新事業創生、そして2030年にありたき姿(Excellent Company)の実現へとつなげていきます。
2030年に向けた社会や市場のメガトレンドを想定する上で、特に「人」「環境」「産業」「消費」に関連した課題や潜在需要を見極めることが当社グループとして重要であると考えています。「人」については、少子高齢化や医療費の増大、労働力不足、新型コロナウイルスなど新たな感染症への対応のため、健康維持や予防医療の進化、労働・住宅環境の向上などに関連した需要が増大すると考えられます。「環境」については、異常気象や自然災害、天然資源の枯渇懸念への対応のため、インフラ監視や災害対策、環境保全や省資源化に関連した需要が増大すると考えられます。「産業」については、人工知能や再生可能エネルギーの利用拡大、社会インフラの整備・拡充に向けて、自動運転など移動手段の進化、インターネットへの常時接続(コネクテッド)の普及に関連した需要が拡大すると考えられます。また「消費」については、働き方改革の進展に伴うライフスタイルの変化やニーズ・価値観の多様化、所有から利用へ、といった変化が想定され、e-commerceなど高速ネットワーク環境を前提とした購買の拡大や環境配慮製品への需要の高まりが考えられます。
当社グループにおいては、こうしたメガトレンドを見据え、競争力の源泉である「アナログコア技術」と高い親和性がある「ヘルスケア」「5G/IoT」「モビリティ」を注力3分野と位置付けて経営資源を重点配分し、売上高・利益の拡大を図り、当社グループのビジョン「独自のアナログコア技術で、社員・顧客・社会にとってのMaximum Excellenceを創造する」の実現をめざしていきます。
中期経営計画MEX23の策定にあたり想定した注力3分野に関わる市場環境は以下のとおりです。
(ヘルスケア)
ヘルスケア分野では、健康・衛生や美容への意識の高まりを背景として、関連製品の需要が中長期的に増加していくと考えています。
特に新型コロナウイルスの感染拡大は、社会の健康や衛生に対する意識をさらに向上させました。このため2021年3月期においてオゾン除菌消臭器の売上が急拡大し、利益面でも大きく貢献しましたが、当連結会計年度ではその反動により売上・利益ともに対前年で減少しました。
当社グループでは、オゾン除菌消臭器やEMS運動器、低周波治療器などの健康機器、シェーバーやヘアドライヤーなどの理美容機器など、多様な顧客ニーズやライフスタイルの変化に応え、マクセル独自の価値(Maxell Unique Value、MUV)を提供するオンリー・ワン製品の開発を中心に成長をめざすとともに、マクセル (maxell)及びマクセルイズミ (IZUMI)ブランドの製品を自社ルートで販売するほか、顧客のブランドに対応したOEM事業の拡大を図っていきます。
また、医療関連では、補聴器や血糖値計など小型医療機器の需要が増加するとともに、利便性や機能の向上が求められており、特に、こうした要求に対応した電源ソリューションが必要になると考えています。当社グループでは、小型、高容量、長寿命に加えて安全な電池を提供することにより市場の要求に応えていきます。
(5G/IoT)
5G/IoT分野では、住環境のスマート化やIoT化に伴い、センシングや安全・安心、快適をキーワードとして、高速ネットワーク環境の整備を前提とした次世代に向けた新たな機器や社会インフラ構築に伴う需要が中長期的に増加していくと考えています。
当社グループにおいては、半導体や情報通信機器、民生用電子機器、住宅などに関連した需要動向が影響します。特に、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う在宅勤務やリモート授業などの推進はパソコンなどの情報通信機器の需要を増加させ、加えて情報通信インフラとしてのデータセンターの増強が図られたことにより、基幹部品である半導体の需要が増加しました。これに伴い、当連結会計年度における当社グループの半導体関連製品の売上が増加しました。
当社グループでは、スマートメーター向け電源用電池、半導体関連組込みシステム、半導体製造工程用テープ、電鋳、電設工具など、社会課題の解決に不可欠なキーデバイスの提供による成長をめざしています。
(モビリティ)
モビリティ分野では、自動車市場におけるADAS (Advanced Driver Assistance System)、CASE (Connected、Autonomous、Shared、Electric)、MaaS(Mobility as a Service)など、安全運転支援機能の拡充、自動運転化や電動化、移動手段の革新などが予想され、関連した部品・材料などの需要が中長期的に増加していくと考えています。
当社グループにとって自動車市場が安定して成長することは極めて重要ですが、世界の自動車生産台数は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け2020年は約76百万台となり、2019年の年間約92百万台と比較して大きく減少しました。しかしながら、2021年は中国や東南アジア・インドなどを中心に拡大基調に転じ約84百万台、2022年は約86百万台と徐々に回復しました。なお、半導体の供給不足などにより足元の自動車生産は不透明な状況となっていますが、MEX23の最終年度である2024年には、約96百万台となると考えています。
当社グループでは、車載カメラ用レンズユニットやLEDヘッドランプレンズ、ヘッドアップディスプレイ、タイヤ空気圧監視システム用耐熱コイン形リチウム電池、車載用リチウムイオン電池材料など、光学、映像、電池技術を主軸とした製品の確固たるポジションの確保をめざすとともに、車載用や交通関連のミリ波レーダーに対応した電磁波吸収部材など、新たな製品の事業化に取り組んでいきます。
なお、上記の注力3分野における新型コロナウイルスの影響については、オゾン除菌消臭器や半導体関連製品のようなプラス影響が生じたものがある一方で、消費マインドの低迷やインフラ投資の縮小、感染拡大抑制措置としてロックダウンが行われることによる部品・原材料等のサプライチェーンへの影響などによる一時的なマイナス影響が生じる可能性も想定されます。当社グループでは、製品や事業別に需要動向を見極めながら事業戦略を推進していきます。
事業セグメント別の、ビジョン、中期経営計画MEX23における成長事業とその注力分野、基本戦略及び強み、主に次期中期経営計画以降に業績貢献を計画する新規事業とその注力分野、ターゲット用途・特長及び強みは以下のとおりです。
(エネルギー)
(機能性部材料)
(光学・システム)
(ライフソリューション)
c. 経営体制の強化
当社グループは、2017年10月以降、持株会社体制のもとグループ経営力の強化と事業執行のスピードアップをめざすとともに、事業領域・事業規模の拡大を図ってきましたが、当社グループ内の横断的連携を図ることによるシナジーの実現及び経営効率の改善を図ることによる事業改革のさらなる加速と中長期的な成長を実現するため、2021年10月1日を効力発生日として、持株会社である当社を存続会社、主要事業会社(完全子会社)であったマクセル株式会社を消滅会社とする吸収合併を行うとともに持株会社体制を解消し、当社グループ全体を強力に牽引する新たな経営体制を構築しました。なお、本吸収合併に伴い、当社の商号をマクセルホールディングス株式会社からマクセル株式会社に変更しました。
多様なステークホルダーとのコミュニケーションに対する投資を継続してブランド価値の向上を図ります。特に若年層を中心とした消費者にマクセルブランドを浸透させることが、中長期的な成長に向けた重要なテーマであると考えています。マクセルユニーク追求による脱コモディティへのブランディング、パブリシティ、SNSの活用強化、CSV(Creating Shared Value、共通価値創造)の推進、株主・投資家等との積極的な対話を基本施策として新たなコーポレートブランドの構築に取り組みます。
当社グループは、資本効率性の向上を経営課題に掲げています。株主の皆様からの投資に対するリターンを高めるべく、資本効率性を向上する経営の実践に取り組みます。成長のための投資を十分に確保する一方、投資案件を厳選することによって、投資額に対する収益率を高めていきます。このため、すべての事業部門においてROICを重要経営指標として認識し、その向上に向け運用を強化するとともに、資本効率性を踏まえた株主還元策を実施していきます。
また、中期的な経営戦略の実践のために当社グループが対処すべきその他の課題は次のとおりです。
当社グループは、人財の育成と活用を企業経営における最優先事項のひとつであると認識しています。経営環境の変化を捉えた効率的な人財配置の実践、価値を創出した従業員へ報いるための公正で透明性のある人事評価制度の確立とともに、ダイバーシティをさらに深化させ、元気で活力のある企業をめざしていきます。
CSRを意識して企業価値を向上させることは、企業経営における最重要課題のひとつであると認識しています。当社グループは、2020年8月に、独創技術のイノベーション追求と事業活動を通じて、人と社会が豊かに共生した「100年先の地球」に貢献し、人々の生活や社会の課題を解決する製品・事業をグローバルに展開し、社会、環境、経済価値を創出し続けるとともに、SDGsの達成に取り組むことを宣言した「コーポレートサステナビリティビジョン」を策定し、さらに2021年8月に、当社グループの中長期的な価値創造と持続可能なビジネスモデルを実現するために優先的に取り組むべき7項目の経営の重要課題(マテリアリティ)を特定し、アクションプランを定めました。また、2021年10月に、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言に賛同表明し、TCFDが定めたガイダンスに則ってシナリオ分析を行い、段階的に開示を行うことを決定しました。当連結会計年度においては、まず当社のエナジー事業本部をモデルケースとしてシナリオ分析を行いました。エナジー事業本部のシナリオ分析の結果については、2023年3月期中に統合報告書等において開示していくとともに、他の事業本部への横展開を順次進めていきます。
また、リスク管理体制の強化や内部統制システムの整備によりコンプライアンス経営の徹底を推進します。特に、独占禁止法をはじめとする法令遵守の徹底につきましては、日本だけでなく欧米・アジアにおいても強力に推進していきます。当社グループは、これらの施策を通じて、すべてのステークホルダーから信頼される企業グループをめざしていきます。
コーポレートガバナンスの強化
持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を目的に2015年10月に「コーポレートガバナンス・ガイドライン」を制定しており、適正な情報開示と透明性の確保に努め、取締役会の役割・責務を適切に果たすとともに、株主及び投資家との建設的な対話(エンゲージメント)をさらに活性化させていきます。
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