業績

3【経営者による財政状態,経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)経営成績等の状況の概要

①財政状態及び経営成績の状況

a.経営成績の状況

当連結会計年度におけるわが国経済は,新型コロナウイルスの感染拡大に伴う活動制限が緩和され,生産活動,消費活動とも持ち直しの動きがみられた一方,半導体の供給不足による影響の長期化や原材料価格の高騰が回復の足かせになりました。さらに,足許での急速な円安の進展や資源・エネルギー価格の高騰による悪影響も懸念されます。世界経済についてはワクチンの普及や経済政策により欧米を中心に持ち直しの動きがみられました。しかし,ロシア連邦によるウクライナ侵攻やそれに対する各国の経済制裁の拡大,新型コロナウイルス変異株の感染拡大に対する中国の一部地域での経済活動の制限など,先行きの不透明さが増しています。

 

当社グループの主力事業である民間向け航空エンジンは,新型コロナウイルス感染症の影響を受けており,長距離国際線では,一部地域において入国制限の緩和が進むものの,旅客需要の回復は遅れています。一方,国内線及び短距離国際線の旅客需要は回復に向かっており,これに伴ってスペアパーツ販売の増加傾向が続いています。

車両過給機においては,自動車産業における生産調整が長引いており,販売台数が伸び悩んでいます。販売台数が回復に向かっている地域はあるものの,自動車会社の生産が正常化するのは2022年度後半以降になると見込まれます。

 

当社グループは,2020年度から実行している中期経営計画「プロジェクトChange」の下,コスト構造の強化や事業構造の改革による収益基盤の強化とライフサイクルビジネスの拡大に努めてまいりました。また,成長事業創出の投資原資確保のため,前連結会計年度に引き続き当連結会計年度でも,投資不動産等の売却を実行しました。

さらに,当社グループは,2021年11月に「IHIグループのESG経営」を公表し,ESGを経営の中心に据えることを改めて表明しました。人権を尊重し,多様な人材が活躍する企業風土を原動力として,事業活動を通じて気候変動問題を解決し,自然と技術が調和するサステナブルな社会の実現に取り組んでいます。

 

このような取り組みにより,当社グループの当連結会計年度の受注高は前年度比15.0%増の1兆2,612億円となり,売上収益についても,5.4%増の1兆1,729億円となりました。

損益面では,営業利益は,非流動資産の減損損失を計上したものの,民間向け航空エンジンにおけるスペアパーツの販売増加や原子力,熱・表面処理の増収に加え,有形固定資産等の売却などにより,535億円増益の814億円となりました。税引前利益は,為替差益の増加や持分法による投資損益が利益に転じたことなどにより増益幅が拡大し,600億円増益の876億円,親会社の所有者に帰属する当期利益は,529億円増益の660億円です。

 

当連結会計年度の報告セグメント別の業績は以下のとおりとなりました。

(単位:億円)

報告セグメント

受注高

前連結会計年度

当連結会計年度

前期比

前連結

会計年度

当連結

会計年度

前期比

増減率

(%)

(2020.4~2021.3)

(2021.4~2022.3)

増減率(%)

売上収益

営業

損益

売上収益

営業

損益

売上収益

営業

損益

資源・

エネルギー・

環境

2,747

3,738

36.1

3,176

191

3,444

229

8.4

19.9

社会基盤・海洋

1,661

1,810

9.0

1,579

171

1,673

153

5.9

△10.3

産業システム・

汎用機械

3,652

3,845

5.3

3,742

114

3,769

128

0.7

12.3

航空・宇宙・防衛

2,689

3,047

13.3

2,515

△401

2,652

△93

5.5

報告セグメント 計

10,750

12,441

15.7

11,014

75

11,540

418

4.8

452.0

その他

707

547

△22.6

605

23

627

△10

3.6

調整額

△487

△376

△490

180

△439

406

合計

10,970

12,612

15.0

11,129

279

11,729

814

5.4

191.5

 

<資源・エネルギー・環境>

COP26においてパリ協定のルールブックが完成し,世界各国で温室効果ガス排出量と吸収量のバランスについて長期目標が掲げられており,日本でも「2050年カーボンニュートラル化」の実現に向けた取り組みが加速しています。これに伴い,世界各国・地域・お客さまは,環境負荷低減に係る多様な課題に直面しています。

このような事業環境のもと,受注高は,カーボンソリューションや原子力,原動機で増加しました。

売上収益は,原子力などで増収となりました。

営業利益は,カーボンソリューションや原動機での採算改善に加え,原子力の増収により増益となりました。

 

<社会基盤・海洋>

鋼材価格や輸送費の高騰,物流混乱,ウクライナやミャンマーにおける地政学リスクの顕在化などにより,国内外で事業環境は不透明さを増しています。このような状況の下,国内においては,インフラ老朽化並びに災害の激甚化への対策として,「防災・減災,国土強靱化のための5か年加速化対策」に基づく維持・修繕・補修などの保全工事が増加傾向にあります。また,担い手不足への対応として省人化・DXの進展,カーボンニュートラルへの取り組みとして新素材の開発など社会課題への対応が,官民をあげて進められています。

このような事業環境のもと,受注高は,橋梁・水門で増加しました。

売上収益は,都市開発で不動産販売が減少したものの,橋梁・水門やシールドシステムで増収となりました。

営業利益は,増収による増益はあったものの,不動産販売減少,橋梁・水門での鋼材価格や海上輸送費の高騰の影響により減益となりました。

 

<産業システム・汎用機械>

自動車産業においては,半導体不足の長期化や中国での新型コロナウイルス感染拡大の影響などにより生産が低迷しており,その回復は2022年度後半以降と想定しています。他の産業についても,業況に濃淡はあるものの,総じて先行きが不透明な状況となっており,原材料・部品の不足・高騰,物流費用の高騰,経済安全保障問題など,様々なリスクに留意する必要があります。

一方で,環境負荷低減ニーズの高まり,生産人口の減少,消費者ニーズの多様化,デジタル化の進展といった社会変化はメガトレンドとなっており,お客さまにおける省エネ・自動化・省人化等のニーズは今後ますます高まっていくと予想されます。従ってライフサイクルでお客さまに寄り添い,迅速かつ適切に社会とお客さまの幅広い課題に対応していくことが重要と考えています。

このような事業環境のもと,受注高は,熱・表面処理や回転機械で増加しました。

売上収益は,運搬機械で減収となったものの,熱・表面処理や回転機械で増収となりました。

営業利益は,車両過給機において構造改革費用を計上したものの,上記の増収及び採算改善に加え,前年度に農機事業で構造改革費用を計上した影響により増益となりました。

 

<航空・宇宙・防衛>

欧米を中心とした旅客需要はゆるやかな回復基調にあり,比較的新しいタイプの航空機に搭載されている当社のエンジンは,燃費をはじめ運用コストにおける優位性から優先的に運用が再開され,アフターマーケットでの収益は回復しつつあります。しかし,新型コロナウイルスの感染状況やウクライナ情勢等,将来の事業環境は依然として不透明なところもあるため,環境変化に打ち勝つ事業体質の構築に向け,DXの高度化による生産性の向上等,コスト構造強化をさらに推進し,成長へとつなげていきます。

このような事業環境のもと,受注高は,民間向け航空エンジンで増加しました。

売上収益は,民間向け航空エンジンで,本体・スペアパーツの販売が増加したことにより 増収となりました。

営業利益は,民間向け航空エンジンでの,スペアパーツの販売増加や 総費用削減などの コスト構造強化に加え,為替が円安に推移したことにより,赤字幅が縮小しました。

 

なお,文中の将来に関する事項は,当連結会計年度末現在において判断したものです。

 

b.資産及び負債,資本の状況

当連結会計年度末における総資産は1兆8,796億円となり,前連結会計年度末と比較して467億円増加しました。主な増加項目は,現金及び現金同等物で247億円,契約資産で147億円,主な減少項目は,有形固定資産で222億円です。

負債は1兆4,726億円となり,前連結会計年度末と比較して325億円減少しました。主な増加項目は,契約負債で489億円,主な減少項目は,社債及び借入金(流動)で631億円,社債及び借入金(非流動)で277億円です。また,有利子負債残高はリース負債を含めて5,055億円となり,前連結会計年度末と比較して1,003億円減少しました。

資本は4,070億円となり,前連結会計年度末と比較して793億円増加しました。これには,親会社の所有者に帰属する当期利益660億円が含まれています。

以上の結果,親会社所有者帰属持分比率は,前連結会計年度末の16.4%から20.3%となりました。

 

②キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度末における現金及び現金同等物(以下,「資金」という)の残高は,前連結会計年度末と比較して247億円増加し,1,454億円となりました。

当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は以下のとおりです。

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業活動によるキャッシュ・フローは1,141億円の収入超過(前連結会計年度は363億円の収入超過)となりました。これは,減価償却費,償却費及び減損損失など資金流出を伴わない費用の影響を除いた利益の獲得,契約負債の増加などによって,資金が増加したものです。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動によるキャッシュ・フローは279億円の収入超過(前連結会計年度は404億円の支出超過)となりました。これは,有形固定資産の取得による支出があった一方で,主に豊洲地区の土地の持分や旧愛知事業所跡地などの売却による収入があったものです。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動によるキャッシュ・フローは1,214億円の支出超過(前連結会計年度は237億円の支出超過)となりました。これは,借入金の返済による支出があったものです。

 

(注)この項に記載の金額は単位未満を切捨て表示し,比率は四捨五入表示しています。

 

③生産,受注及び販売の状況

a.生産実績

 当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと,次のとおりです。

セグメントの名称

金額(百万円)

前期比(%)

資源・エネルギー・環境

351,358

12.7

社会基盤・海洋

169,764

2.6

産業システム・汎用機械

384,720

5.0

航空・宇宙・防衛

279,013

2.4

報告セグメント 計

1,184,855

6.2

その他

30,168

△15.6

合計

1,215,023

5.5

(注)1. 金額は販売価格によっており,セグメント間の取引を相殺消去しています。

2. 上記の金額には,消費税等は含まれていません。

3. 金額及び比率は単位未満を四捨五入表示しています。

 

b.受注状況

当連結会計年度における受注状況をセグメントごとに示すと,次のとおりです。

セグメントの名称

受注高

(百万円)

前期比(%)

期末受注残高

(百万円)

前期末比(%)

資源・エネルギー・環境

373,805

36.1

527,519

9.4

社会基盤・海洋

181,056

9.0

250,075

10.4

産業システム・汎用機械

384,522

5.3

180,760

3.1

航空・宇宙・防衛

304,766

13.3

283,805

14.2

報告セグメント 計

1,244,149

15.7

1,242,159

9.7

その他

54,774

△22.6

22,877

△29.4

調整額

△37,671

合計

1,261,252

15.0

1,265,036

8.6

(注)1. 各セグメントの受注高は,セグメント間の取引を含んでおり,調整額でセグメント間取引の合計額を消去しています。

2. 各セグメントの受注残高は,セグメント間の取引を相殺消去しています。

3. 上記の金額には,消費税等は含まれていません。

4. 金額及び比率は単位未満を四捨五入表示しています。

 

c.販売実績

当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと,次のとおりです。

セグメントの名称

金額(百万円)

前期比(%)

資源・エネルギー・環境

344,449

8.4

社会基盤・海洋

167,350

5.9

産業システム・汎用機械

376,989

0.7

航空・宇宙・防衛

265,289

5.5

報告セグメント 計

1,154,077

4.8

その他

62,763

3.6

調整額

△43,936

合計

1,172,904

5.4

(注)1. 販売実績は売上収益をもって示します。

2. 金額はセグメント間の取引を含んでおり,調整額でセグメント間取引の合計額を消去しています。

3. 主な相手先別の販売実績及び総販売実績に対する割合は次のとおりです。

相手先

前連結会計年度

当連結会計年度

金額(百万円)

割合(%)

金額(百万円)

割合(%)

一般財団法人

日本航空機エンジン協会

73,315

6.6

88,214

7.5

4. 金額及び比率は単位未満を四捨五入表示しています。

 

(2)経営者による財政状態,経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析

①重要な会計方針及び見積り

当社グループの連結財務諸表は,IFRSに準拠して作成されています。連結財務諸表の作成に当たり,見積りが必要となる事項については,合理的な基準に基づき,会計上の見積りを行なっています。

詳細については,第5「経理の状況」1連結財務諸表等(1)連結財務諸表注記「3.重要な会計方針」,及び注記「4.重要な会計上の見積り及び見積りを伴う判断」に記載しています。

 

②経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

当社グループ及びセグメントごとの経営成績の状況は(1)経営成績等の状況の概要の①財政状態及び経営成績の状況に記載のとおりです。

 

主に新型コロナウイルス感染拡大による事業への影響を踏まえて,2021年度(2022年3月期)の業績目標(2021年5月公表の業績予想)を設定し,施策を実行してまいりました。

2021年度においては,「プロジェクトChange」に掲げた各種施策を着実に実行し,成果を刈り取ることで,これまで公表していた営業利益の水準を達成することができました。車両過給機においては,自動車の生産調整からの回復が思うように進まず,足元では中国でのロックダウンの影響も受けているものの,全体として,資源・エネルギー・環境,社会基盤・海洋,産業システム・汎用機械の3セグメントは堅調に利益を上げることができました。また,民間向け航空エンジンは,航空需要の回復基調に変化はなく,スペアパーツの販売もおおむね想定どおり推移しました。

この結果,2021年度の営業利益率,ROICは業績目標を上回りました。一方,CCCは112日と業績目標を下回り,キャッシュ創出力の強化が課題となっています。引き続き,キャッシュ創出に徹底的にこだわった事業運営への転換を推進していきます。

なお,「プロジェクトChange」で掲げた最終年度である2022年度の業績目標(2022年5月公表の業績予想)は下表のとおりであり,ウクライナ問題など想定外の事象によって,経営目標については未達となる見込みです。新型コロナウイルス感染拡大の収束による航空需要の回復を前提に,業績回復ドライバーの強力な推進,つまりコスト構造の強化や事業構造の改革による収益基盤の強化とライフサイクルビジネスの拡大をさらに加速することで,成長軌道への回帰を進め,できるかぎり経営目標に近づけるべく,努めてまいります。

 

 

2021年度

(2022年3月期)

業績目標

2021年度

(2022年3月期)

実績

2022年度

(2023年3月期)

業績目標

 「プロジェクト

 Change」

2022年度

経営目標

ROIC

5.5%

6.4%

6.0%

10%以上

営業利益率

5.9%

6.9%

5.8%

8%以上

CCC

110日

112日

99日

80日

(注)各指標の算出方法は次のとおりです。

 ・ROIC  :(1-法定実効税率)×(営業利益+受取利息+受取配当金)

   ÷(親会社の所有者に帰属する持分+有利子負債の金額)

 ・CCC   :運転資本÷売上収益×365日

 ・運転資本:営業債権+契約資産+棚卸資産+前払金-契約負債-営業債務-返金負債

 

 

なお,セグメントごとの業績目標(営業利益,営業利益率)の達成状況と今後の課題については以下のとおりです。

 

報告セグメント

2021年度(2022年3月期)

業績目標

実績

営業利益

(億円)

営業利益率

(%)

営業利益

(億円)

営業利益率

(%)

資源・エネルギー・環境

230

6.8

229

6.7

社会基盤・海洋

170

9.4

153

9.2

産業システム・汎用機械

290

7.3

128

3.4

航空・宇宙・防衛

△270

△10.4

△93

△3.5

 

<資源・エネルギー・環境>

原動機でライフサイクルビジネスの拡大未達がある一方で,カーボンソリューションの海外工事の為替好転の影響や原子力の工事増などにより,業績目標をほぼ達成しました。

この事業領域を取り巻く事業環境は「(1)経営成績等の状況の概要 ①財政状態及び経営成績の状況」に記載のとおりです。この事業領域では,既存エネルギーインフラの高効率化やアンモニアの活用を推進するとともに,カーボンリサイクルの実用化を加速し,2050年カーボンニュートラルの実現に向けて取り組んでいきます。

「プロジェクトChange」における取り組みとしては,ライフサイクルビジネスをさらに拡大することで,収益基盤の強化を図るとともに,メタネーション等の技術開発,小型モジュール原子炉事業への参画など,環境負荷低減につながる成長事業の創出を進めています。

 

<社会基盤・海洋>

販管費の削減が進んだ一方で,橋梁・水門海外案件の採算悪化(輸送費・鋼材価格の高騰)などにより,業績目標を下回りました。

この事業領域を取り巻く事業環境は「(1)経営成績等の状況の概要 ①財政状態及び経営成績の状況」に記載のとおりです。この事業領域では,インフラ建設のみならず,橋梁・水管理を軸に計画・運営・保守・保全まで含めたライフサイクル型事業を,国内及びグローバルに展開・拡大していくことで,強靭で持続可能な社会インフラシステムの提供に取り組んでいきます。

「プロジェクトChange」における取り組みとしては,橋梁の予防保全の拡大・推進などのライフサイクルビジネスの拡大やDX推進によるリードタイムの短縮を図るとともに,利水・治水管理システムの高度化など,成長事業の創出を進めています。

 

<産業システム・汎用機械>

車両過給機で半導体部品不足の影響などによる販売台数の減少や素材価格高騰により調達費削減目標が未達となったことや物流・産業システムでの受注不振,パーキングなどでのサービス事業拡販の遅れなどにより,業績目標に対し大幅な未達となりました。

この事業領域を取り巻く事業環境は「(1)経営成績等の状況の概要 ①財政状態及び経営成績の状況」に記載のとおりです。この事業領域では,事業環境の変化を捉えた製品開発,ソリューション提案,デジタルを活用したサービスの高度化を通じて,ライフサイクルにわたってお客さまの多様なニーズに対応することによって,産業インフラの発展に貢献していきます。

「プロジェクトChange」における取り組みとしては,複数事業のサービス拠点の統合により,お客さまに対して事業を横断したサービス提案を行なうことでライフサイクルビジネスの拡大を図っています。車両過給機については,既存機種の損益分岐点引き下げなどのコスト構造の強化に加えて,燃料電池車向け電動ターボチャージャーの開発を進めています。

 

<航空・宇宙・防衛>

民間向け航空エンジンで,欧米の国内線需要等の回復を背景としたスペアパーツ販売の増加や初期負担の重い新製エンジンの販売減,為替レートが会社計画よりも円安で推移したことの影響,投資不動産売却などにより,業績目標を大幅に上回りました。

この事業領域を取り巻く事業環境は「(1)経営成績等の状況の概要 ①財政状態及び経営成績の状況」に記載のとおりです。この事業領域では,今後,需要回復が継続していく中で,お客さまの航空機運航再開を万全の態勢で支えるべく,アフターマーケット分野での対応を強化していくとともに,独自技術・ものづくり力の高度化に取り組んでいきます。さらには,その先に予想される電動化や持続可能な航空燃料の導入に対応していきます。

「プロジェクトChange」における取り組みとしては,新製エンジンの生産性向上などのコスト構造の強化を図るとともに,鶴ヶ島工場の稼働を開始するなど,ライフサイクルビジネスの拡大に向けた体制を構築しています。また,航空エンジン用の材料や次世代エンジンの開発を通じて成長事業の創出を進めています。

 

③キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報

a.財務戦略の基本的な考え方

当社グループは,事業基盤の強化やキャッシュ創出力向上の取組みを通じて得られた自己資金を原資として,財務基盤の拡充と株主還元のバランスを取りながら,事業変革のための投資を進めていくことを財務戦略の基本方針としています。

上記の取組みの成果により,2021年度のキャッシュ・フローは,営業活動によるキャッシュ・フローが1,141億円の収入となり,投資活動によるキャッシュ・フローは,成長事業の創出に向けた投資原資の確保を目的とした保有資産の売却を行なったことにより,279億円の収入となりました。合計したフリー・キャッシュ・フローは1,420億円となり,前連結会計年度に対して1,461億円増加しました。

引き続き当社グループは,「プロジェクトChange」で掲げる収益性・キャッシュ創出力を重視した経営施策を着実に実行し,最適な資金配分により持続的な企業価値向上へつなげていきます。

 

b.資金調達の方針

当社グループの運転資金,投資向け資金等の必要資金の財源については,主として営業活動によるキャッシュ・フローで獲得した資金を財源とする事を原則としていますが,必要に応じて,短期的な資金については銀行借入やコマーシャル・ペーパーなど,設備資金・投融資資金等の長期的な資金については,金融市場動向や既存借入金及び既発行債の償還時期等を総合的に勘案し,長期借入金や社債等によって調達しています。

外部からの資本・資金調達については,関連するリスクを適切にコントロールした上で,資本コストを最小化する調達を実現することを資金調達の基本方針としています。

また,当社グループ内部では,グループガバナンスの向上,資金効率の向上及び資本コストの低減を図り,企業価値向上に寄与するため,グループ一体となった資金調達・資金収支管理を実施しており,当社と国内子会社間,また海外の一部地域の関係会社間ではキャッシュ・マネジメント・システムによる資金融通を行ない,グループ内の流動性確保,資金効率向上に努めています。

 

c.資金需要,資金調達及び流動性の分析

当社グループの主な資金需要は,事業活動に必要な運転資金,成長事業創出のための研究開発費及び設備投資等です。

当連結会計年度末の有利子負債残高はリース負債を含めて5,055億円となり,前連結会計年度末に対して1,003億円減少しました。これは主として,営業活動によって得られた資金等を財源として外部借入を返済したことや返済期限を迎えた社債を償還したことによるものです。

当連結会計年度末の現金及び現金同等物は1,454億円であり,前連結会計年度末と比較して247億円増加しています。手元資金の流動性については現金及び現金同等物に加え,主要銀行とのコミットメントライン契約や当座貸越枠,コマーシャル・ペーパーなど多様な調達手段とあわせて,今後も十分な水準を確保していきます。

また,資金調達にあたっては流動性の確保の観点に加え,「脱COの実現」の取り組みの一環として,2022年6月に,機械セクターで初のトランジション・ボンド(以下「本社債」)を発行しました。トランジション・ボンドとは,脱炭素社会への移行(トランジション)に向けて,長期的戦略に則った温室効果ガス削減の取組みを資金使途として発行する社債です。今回の起債に際し,当社では,「トランジション・ボンド・フレームワーク」を策定しました。当社のトランジション戦略は,経済産業省や国土交通省の「分野別ロードマップ」,国際エネルギー機関(IEA)や国際航空輸送協会(IATA)等の国際的なシナリオとも整合しており,株式会社 日本格付研究所(JCR)より,国際資本市場協会(ICMA)の定める「クライメート・トランジション・ファイナンス・ハンドブック(Climate Transition Finance Handbook)2020」等との整合性評価に関するセカンド・パーティー・オピニオンを取得しています。また,本社債は経済産業省の「令和3年度クライメート・トランジション・ファイナンスモデル事業」に係るモデル事例に選定されています。

本社債の発行によって調達した資金は,「ゼロエミッションモビリティへの取組み」「アンモニア専燃に向けた取組み・アンモニアバリューチェーンの構築」「カーボンリサイクルの実現」など新たな成長事業の創出に向けた取組みに充当していきます。

 

(注)この項に記載の金額は単位未満を切捨て表示しています。

 

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