課題

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

  文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。

 

(1) 会社の経営の基本方針

  当社は、社是「科学技術で社会に貢献する」、経営理念「『人と地球の健康』への願いを実現する」のもと、永年の事業で培った技術、ノウハウを活かし、複雑化・多様化する社会の課題や要請に応える製品・サービスの提供、それを基にした社会課題解決の仕組み作りを行い、ステークホルダーからの信頼の獲得と、企業価値の向上に努めています。

  また、社是・経営理念に基づく事業活動を通してサステナブルな社会を実現するために、2021年新たに「島津グループサステナビリティ憲章」を制定しました。グループ全体で「人と地球の健康」への貢献、産業と社会への貢献、企業統治、の3つのテーマに取り組みます。

  これからも、世界中のパートナーの方々と力を合わせ「事業を通じた社会課題の解決」と「社会の一員としての責任ある活動」の両輪で、グローバルでの社会課題解決に挑戦し続けることで、「サステナブルな社会の実現(明るい未来の創造)」と「企業価値の創出」を目指しています。

 

(2) 中長期的な会社の経営戦略と優先的に対処すべき課題

1) 経営環境および中期的な成長戦略

  新型コロナウイルス感染症の影響が続く中で、ウィズコロナの新常態が世界各国で浸透し社会経済活動の再開が進んでいるものの、半導体をはじめとしたサプライチェーンの混乱、ロシアによるウクライナ侵攻の勃発など、事業環境は先行きが見通しにくい状況にあります。

  当社においては、ヘルスケア分野の需要拡大の取り込みを継続しつつ、カーボンニュートラル需要の獲得など中長期的な取り組みを進めながら事業成長を図ります。また、引き続き管理可能経費の適正化、DX推進による生産性と収益性の更なる向上を図り、変化の激しい時代に柔軟に対応する能力を高めます。

  2022年度は中期経営計画の最終年度であり、目標の達成に努めるとともに、新たな成長に向けた次期中期経営計画の策定を進めます。

 

2) 感染症対策プロジェクトの取り組み

  新型コロナウイルス検出試薬キット、クリニック向け全自動PCR検査装置の販売とともに、大学でのPCR検査センターの設立支援、クラスター発生防止のための下水中ウイルス検査サービスなどを進めます。また、国内では1,300台以上納入した全自動PCR検査装置に、新型コロナウイルス以外の検査キットを供給し装置の有効活用を図ります。検査結果や検査履歴を管理するネットワークシステムを開発し、政府や自治体との連携も進め、感染症対策の仕組み作りをさらに推進します。塩野義製薬株式会社と設立した株式会社AdvanSentinelでは、感染症対策として下水モニタリングの新たな取り組みを開始します。

 

3) 4つの成長戦略と成長基盤の強化

① 重点事業の強化

  計測機器事業の液体クロマトグラフと質量分析システムを中心に、AI・IoT・ロボットなどを用いた全自動前処理システム、小型装置など特長ある製品ラインナップを拡充し、特に欧米での製薬市場や臨床市場でのシェア向上を目指します。世界各地で研究パートナーとの共同開発を促進し、社会実装を戦略的に行う戦略・事業パートナーとの関係構築を進めます。

 

② 海外事業の強化

  海外での事業成長を推進するために、北米や欧州でイノベーションセンターやアプリケーションラボの機能を拡大強化し、各地域の有力パートナーと共同してその地域の強い産業に向けたソリューションを開発します。開発したソリューションをグローバルに展開することで、成長の好循環サイクルを実現します。

 

③ リカーリング事業の拡大とDXの取り組み

  新型コロナウイルス感染症対策の中で成長した試薬事業を強化し、また消耗品商材の拡充に向けて投資することによりアフターマーケット事業の着実な成長に取り組みます。サブスクリプションや従量課金制を活用した新たな製品・サービスのラインナップを拡張し、新たな事業の創出への取り組みを継続します。また、データを活用する観点で、世界でお客様が使用されている装置の稼働状況を可視化し、製品の品質向上に繋げることを目指します。

 

④ 成長分野での事業拡大

  4成長分野のうち、ヘルスケア分野では、感染症、認知症、がん領域のほか、再生医療など細胞事業にも注力して事業拡大に取り組みます。環境・エネルギー分野およびマテリアル分野では、カーボンニュートラルに力を入れて、電動モビリティ、電池、水素およびアンモニアなどを活用した新エネルギー、再生可能エネルギー向けの事業を加速します。また、新材料の開発に向けて、材料計測と成分分析の複合データを用いたマテリアルインフォマティクスを中心に社外パートナーとの連携により事業化を進めます。さらに、各分野における新たな規制に対応し、国際標準となる分析方法など、新市場開拓を進めます。

 

4) リスクへの対処

  当社では各リスク所管部署や各種委員会において専門的なリスクマネジメント推進活動を行っています。業法違反リスク、自然災害リスク、地政学リスク等に対応しています。最近の国際情勢等の変化に対しては、情勢をモニタリングし、当社グループで情報を共有・周知して、変化に対応していきます。

 

5) サステナビリティの取り組み

  当社グループでは「島津グループサステナビリティ憲章」を定め、人と地球の健康への貢献、産業と社会への貢献、企業統治の側面から取り組む課題・テーマを定めています。

  特に気候変動問題は世界共通の重要課題と捉え、当社は2022年に「2050年に事業活動から排出するCO2排出量を実質ゼロ」とする新たな目標を定めました。再生可能エネルギーの導入拡大などを通じて目標達成に取り組んでまいります。なお、気候変動に関するリスクや機会・対応策などについては、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言に賛同した情報開示を行います。

  また、多様な知識や価値観がイノベーションの源泉となり、様々な人財が活躍できる職場を作ることが企業価値の向上に繋がると考え、ダイバーシティ&インクルージョンを推進します。次の目標を掲げ、女性活躍推進や、グローバル人財活躍推進等の活動を通じて、新たな科学技術の創造と社会課題の解決に取り組みます。

・管理職に占める女性労働者比率を6%(または60人)以上にする。

・正社員採用に占める女性比率を毎年30%以上に維持する。

・男性の育児休職取得比率を30%以上にする。

(上記目標の計画期間:2021年4月1日~2026年3月31日)

 

<TCFD提言に基づく開示>

  当社グループは、環境問題を最重要経営課題の一つとして位置付けています。中でも、気候変動問題に対して、バリューチェーンを含めた事業活動におけるCO2排出量の抑制や、環境/エネルギー分野におけるイノベーション創出に貢献する製品およびソリューションの提供に取り組んでいます。また、2019年5月には「TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)」による提言に賛同し、関連情報の開示に努めています。

 

① ガバナンス

  環境問題に関わる最高審議機関として代表取締役社長を議長とし、経営層をメンバーとする「環境会議」を年2回開催し、社会の動向や当社の現状を認識するとともに、課題解決に向けた施策を議論しています。

  中長期のCO2排出量削減目標やRE100への加盟など、当社グループの環境経営に関わる重要な事項については、執行役員会や取締役会で決定しています。

 

② 気候変動対応への戦略

  2021年3月に、2050年までに使用電力を100%再生可能エネルギーとするRE100を宣言し、国内の主要拠点における使用電力を再生可能エネルギーに切り換えました。これにより当社グループにおける再生可能エネルギー由来の電力使用率は85%に達しています。当社グループは事業活動における中長期のCO2排出量削減目標として、2050年に実質ゼロとすることを定めており、国際的な環境団体SBTイニシアティブによる「SBT(Science Based Targets)認定」の取得申請を行っています。

 

③ 気候関連シナリオに基づくリスクと機会

  社会が今世紀末までの気温上昇を1.5℃以内に抑えて脱炭素社会へ移行するシナリオ、および気温上昇が4℃に達するシナリオの2つを想定し、各分野における将来予測と当社の対応について検討し、詳細を統合報告書およびWEBサイトで開示しています。

 

④ 指標と目標

  気候変動への対応について、以下の目標を定めて取り組んでいます。

・2050年に当社グループの事業活動におけるCO2排出量を実質ゼロとします。

・当社グループが販売した製品の使用時におけるCO2排出量を2030年度に2020年度比で30%以上削減します。

・使用する電力を2050年までに100%再生可能エネルギーとすることを目指します。

・2030年度までに製品売上高に対する環境配慮認定製品エコプロダクツPlusの比率を30%にすることを目指します。

 

  事業別の対処すべき課題として、中長期で目指すことおよび中期経営計画の中で実施する主な取り組みテーマは、以下のとおりです。

 

・計測機器事業

  液体クロマトグラフと質量分析システムを当社グループの重点事業と位置づけ、核酸医薬分野に向けた液体クロマトグラフや、高性能と小型化を実現した質量分析計など特長ある新製品の投入や、前処理装置とソフトウェアの開発による顧客プロセスの自動化に取り組み、さらなる成長を目指します。各地の市場特性に応じて地域ごとの戦略を推進するため、業界市場別のマーケティング機能、アプリケーション開発機能を強化し、お客様に求められる情報を迅速にお届けするWEB等のDXを活用し、業績拡大に取り組みます。また、試薬・消耗品ラインナップの拡充、AIやIoTを活用した顧客課題解決型サービスなど、新しい価値の提供に取り組みます。

 

・医用機器事業

  注力するX線TVシステムの米国他での販売強化、中国での現地生産機種のラインナップ拡大等によりグローバルな事業拡大に取り組みます。4月に発売した新しい血管撮影システムでは、AIを用いた画像処理などにより、患者への負担を軽減し、使用しやすさ等、付加価値の向上を実現しました。またサービス事業の拡大と診断支援アプリケーションソフトウェアなどの開発販売も積極的に進め、収益性の向上を目指します。

 

・産業機器事業

  需要増が見込まれる半導体の製造に不可欠なターボ分子ポンプを柱とした事業成長を継続しつつ、工業炉等の既存製品の改良による付加価値向上、食品分野等への応用による事業拡大に取り組みます。同時に、海外サービス拠点の新規開設やIoTの実装による提案型ビジネスの展開などでサービス事業の比率を高め、収益性の更なる向上を図ります。油圧機器では、日本と中国の2拠点での開発・生産体制を強化し、生産効率の向上を図り欧米での販売活動を強化し、事業規模の拡大を目指します。

 

・航空機器事業

  コロナ禍により航空機は減産され、当社の民間航空機事業は影響を受けました。今後も厳しい事業環境が続くと予想されます。航空機器事業の収益確保を図るために、防衛・民間航空機用部品の区別なく選択と集中を進めるとともに、航空機器で培った技術を他の分野に活用し、新事業展開を進めます。

 

(3) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

  当社グループは、2020年5月に2020-2022中期経営計画を策定・公開しましたが、コロナ禍の影響で事業環境が大きく変化し、持続的な成長のためには新たな対策が必要となりました。この観点で、2021年5月に中期経営計画の内容を見直し、目標数値を上方修正しました。このたび、2021年度(中期経営計画2年目)の業績の上振れに伴い、2022年度(最終年度)の業績目標数値を改めて上方修正することにしました。

  3ヵ年の中期経営計画において、連結売上高4,550億円以上(4,300億円以上)、営業利益680億円以上(570億円以上)、営業利益率14.9%以上(13.3%以上)、株主利益重視の観点から自己資本利益率10.0%以上(10.0%以上)を、最終年度である2023年3月期の目標数値としています。

 (注) ( )内は2021年5月に公開した修正目標数値です。

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