業績

3【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1) 経営成績等の状況の概要

  当連結会計年度における当グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャ

   ッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。

 

①財政状態及び経営成績の状況

 

(経営を取り巻く経済環境)

 当連結会計年度の世界経済は、各国でワクチン接種が進み、行動制限が徐々に緩和されると、経済活動が再開され景気の回復が続きました。一方で、新型コロナウイルス感染再拡大による生産活動の停滞が起き、また期後半には世界的な半導体部品の不足や物流の需給逼迫が深刻化しました。米国では、経済対策による個人消費の増加や設備投資の拡大により、景気の回復が進みました。欧州では、各国で経済活動の制限が緩和され、個人消費は回復基調を維持し、また設備投資も拡大したことで景気は順調に回復に向かいました。中国では、インフラ投資は伸び悩みましたが、個人消費や輸出は堅調に推移しました。また、その他の新興国については、インドや東南アジアを中心に感染が拡大し、経済活動は停滞したことで景気の回復は緩やかなものとなりました。わが国では、緊急事態宣言が長期化したことにより景気の回復は総じて弱いものにとどまりました。

 このような状況の中、当社関連市場においては、下期に半導体部品の不足の影響を受けましたが、製品の需要は総じて堅調に推移しました。オフィス向け複合機の需要は回復を続け、レーザープリンターの需要は前年並みとなり、インクジェットプリンターは好調な在宅需要が続きました。カメラ市場は、ミラーレスカメラを中心に堅調に推移しました。医療機器は、新型コロナウイルス感染再拡大により一部の地域で据付の遅延が残るものの、新型コロナウイルス検査が優先された前年に比べ医療現場における通常の診察や検診が再開し、回復基調が継続しました。露光装置は、半導体露光装置は旺盛な需要が継続し、FPD露光装置も堅調に推移しました。

 平均為替レートにつきましては、米ドルが前期比で約3円円安の109.93円、ユーロが前期比で約8円円安の129.94円となりました。

 

(当連結会計年度の経営成績)

 

経営指標

 

 

 

 

第120期

(億円)

第121期

(億円)

増減率

(%)

売上高

31,602

35,134

11.2%

売上総利益

13,759

16,278

18.3%

営業費用

12,653

13,459

6.4%

営業利益

1,105

2,819

155.0%

営業外収益及び費用

197

208

5.3%

税引前当期純利益

1,303

3,027

132.4%

当社株主に帰属する当期純利益

833

2,147

157.7%

 

 

 

 

1株当たり当社株主に帰属する当期純利益

 

 

基本的

79.37

205.35

158.7%

希薄化後

79.35

205.29

158.7%

 

 当連結会計年度は、オフィス向け複合機の販売台数が、期後半に半導体部品の不足の影響を受けましたが、前期を上回りました。また、オフィスへの出勤者が徐々に増加するのに伴い、サービスと消耗品の売上も緩やかに回復しました。レーザープリンターとインクジェットプリンターにより構成されるプロシューマーについては、東南アジアにおける新型コロナウイルス感染再拡大により生産活動が停滞した影響を受け、販売台数は前期を下回りました。一方で、レーザープリンターの消耗品は、需要が減退した前期を大きく上回りました。レンズ交換式デジタルカメラは、フルサイズミラーレスカメラが引き続き好調に推移しましたが、半導体部品の不足の影響を受け、前年並みの販売台数となりました。また、多様な用途への展開が進むネットワークカメラは販売活動を強化し、増収となりました。医療機器は、政府による医療機関支援や主要な地域において需要が回復したことで、CT装置や超音波診断装置などが売上を牽引し、国内と北米を中心に増収となりました。半導体露光装置は堅調に推移し、FPD露光装置は新型コロナウイルスにより設置が停滞していた前期を大きく上回りました。これらの結果、当期の売上高は、前期比11.2%増の3兆5,134億円となりました。

 売上総利益率は、半導体部品や樹脂材などの値上がりによるコストアップ影響はありましたが、サービスや消耗品の回復、価格の引上げや収益性の高い製品の伸長、また為替の影響により、前期を2.8ポイント上回る46.3%となり、売上総利益は前期比18.3%増の1兆6,278億円となりました。

 営業費用は、新型コロナウイルス感染拡大により営業活動が厳しく制限されていた前期の反動で、人件費、広告宣伝費、発送費、研究開発費などが増加したほか、為替の影響により前期比6.4%増の1兆3,459億円となりましたが、これまでの構造改革の成果が表れたことに加え、グループを挙げて生産性向上に取り組んだ結果、経費率は40.0%から38.3%と大きく改善しました。その結果、営業利益は前期比155.0%増の2,819億円となりました。

 営業外収益及び費用は有価証券評価益などにより、前期比で11億円好転し、208億円の収益となりました。その結果、税引前当期純利益は前期比132.4%増の3,027億円、当社株主に帰属する当期純利益は前期比157.7%増の2,147億円となりました。

 基本的1株当たり当社株主に帰属する当期純利益は、前期に比べ、125円98銭増の205円35銭となりました。

 

(セグメント別の経営成績)

 以下の情報はセグメント情報に基づきます。セグメント情報に関する詳細は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表 注記事項 注23 セグメント情報」を参照ください。

 

プリンティングビジネスユニット

経営指標

 

 

 

 

第120期

(億円)

第121期

(億円)

増減率

(%)

 オフィス

7,225

7,564

4.7%

 プロシューマ

8,282

8,891

7.4%

 プロダクション

2,502

2,886

15.3%

外部顧客向け売上高合計

18,009

19,340

7.4%

セグメント間取引

35

48

37.0%

売上高合計

18,044

19,388

7.4%

売上原価及び営業費用

16,573

17,131

3.4%

営業利益

1,471

2,257

53.4%

税引前当期純利益

1,522

2,330

53.1%

 

 プリンティングビジネスユニットでは、オフィス向け複合機は半導体部品の不足の影響を受けたものの需要は回復を続け、imageRUNNER ADVANCE DXシリーズが好調に推移し、販売台数は前期を上回りました。また、サービスと消耗品も、オフィスの稼働率が回復に向かい増収となりました。プロダクション市場向け機器は、高速カットシートインクジェットプリンターのvarioPRINT iXシリーズが好評を博しました。また、サービスと消耗品も回復に向かい増収となりました。レーザープリンターは、東南アジアにおける新型コロナウイルス感染再拡大により生産活動停滞の影響を受け、販売台数は前期を下回りましたが、消耗品は需要が減退した前期を大きく上回り増収となりました。インクジェットプリンターも、東南アジアにおける生産活動停滞の影響を受け、前期の販売台数を下回りました。しかしながら、大容量インクタンクモデルの販売台数は、世界的に堅調な需要を背景に前期を上回り、全体的に高価格モデルに注力したことにより増収となりました。また、新型コロナウイルス感染拡大により営業活動が厳しく制限されていた前期の反動で営業費用は増加したものの、共通プラットフォーム化によるコストダウンやオフィス稼働率回復にともなうサービス収益の増加によるプロダクトミックスの改善などにより収益性が改善いたしました。

 これらの結果、当ビジネスユニットの売上高は、前期比7.4%増の1兆9,388億円、税引前当期純利益は、前期比53.1%増の2,330億円となりました。

 

イメージングビジネスユニット

 経営指標

 

第120期

(億円)

第121期

(億円)

増減率

(%)

 カメラ

3,472

4,329

24.7%

 ネットワークカメラ他

1,924

2,186

13.7%

外部顧客向け売上高合計

5,396

6,515

20.7%

セグメント間取引

17

20

16.2%

売上高合計

5,413

6,535

20.7%

売上原価及び営業費用

5,356

5,748

7.3%

営業利益

57

787

1273.8%

税引前当期純利益

50

785

1484.5%

 

 イメージングビジネスユニットでは、レンズ交換式デジタルカメラは、半導体部品の不足の影響を受けたもののフルサイズミラーレスカメラのEOS R5とEOS R6が発売から1年以上経過した現在でも、価格水準を保ちながら販売台数を維持し、RFレンズも本体との相乗効果で販売を大幅に増やしています。ネットワークカメラは、新型コロナウイルスの影響を受けたものの、防犯や災害監視など従来のニーズに加え、人の密集度合いの把握など、用途の多様化を背景に販売活動を強化し、増収となりました。また、新型コロナウイルス感染拡大により営業活動が厳しく制限されていた前期の反動で営業費用は増加したものの、EOS Rシステムのカメラ本体及びRFレンズなど収益性の高い製品へのシフトが進み、収益性が改善しました。

 これらの結果、当ビジネスユニットの売上高は、前期比20.7%増の6,535億円、税引前当期純利益は、前期比1484.5%増の785億円となりました。

 

メディカルビジネスユニット

 経営指標

 

第120期

(億円)

第121期

(億円)

増減率

(%)

外部顧客向け売上高合計

4,354

4,800

10.3%

セグメント間取引

7

4

△52.8%

売上高合計

4,361

4,804

10.2%

売上原価及び営業費用

4,109

4,510

9.8%

営業利益

252

294

16.5%

税引前当期純利益

255

343

34.3%

 

 メディカルビジネスユニットでは、新型コロナウイルスの感染再拡大や半導体などの部品不足、コンテナ不足により生産や据付への影響がありましたが、医療現場における診察や検診が通常の状態に徐々に戻り、販売は好調に推移しました。政府による医療機関支援の機会を捉えた国内や需要の回復が進んでいる北米を中心に、CT装置や超音波診断装置の売上が伸長しました。また、事業規模拡大を背景としたボリュームディスカウントによるコストダウンも収益性の改善に寄与しました。

 これらの結果、当ビジネスユニットの売上高は前期比10.2%増の4,804億円、税引前当期純利益は前期比34.3%増の343億円となり、売上高、税引前当期純利益ともに過去最高となりました。

 

インダストリアルその他ビジネスユニット

 経営指標

 

第120期

(億円)

第121期

(億円)

増減率

(%)

 露光装置

1,425

2,137

49.9%

 産業機器

1,268

1,123

△11.4%

 その他

1,159

1,239

6.9%

外部顧客向け売上高合計

3,852

4,499

16.8%

セグメント間取引

763

958

25.5%

売上高合計

4,615

5,457

18.2%

売上原価及び営業費用

4,410

5,014

13.7%

営業利益

205

443

116.0%

税引前当期純利益

217

447

105.9%

 

 インダストリアルその他ビジネスユニットでは、半導体露光装置は、センサーやメモリー向け等の幅広い分野における旺盛な需要を捉え、前期を上回る販売台数となりました。FPD露光装置については、ノートパソコンやタブレット等のパネルの需要が引き続き強く、また高精細パネル向け投資の需要も捉え、販売台数は新型コロナウイルスにより設置が停滞していた前期を大きく上回りました。また、国内生産が中心である当ビジネスユニットの製品は、新型コロナウイルス感染拡大での減産等の影響を受けづらく、生産活動への影響が比較的軽微であったことも寄与し、コストダウンが進みました。

 これらの結果、当ビジネスユニットの売上高は、前期比18.2%増の5,457億円、税引前当期純利益は前期比105.9%増の447億円となりました。

 

(当連結会計年度の財政状態)

 

 

 

第120期

(2020年12月31日)

第121期

(2021年12月31日)

増減

資産合計

(億円)

46,256

47,509

1,253

 負債合計

(億円)

18,416

16,525

△ 1,891

  株主資本合計

(億円)

25,750

28,738

2,988

  非支配持分

(億円)

2,090

2,247

157

 純資産合計

(億円)

27,840

30,984

3,144

負債及び純資産合計

(億円)

46,256

47,509

1,253

株主資本比率

(%)

55.7%

60.5%

4.8%

 

 当連結会計年度末における総資産は、部品調達難や生産拠点の稼働率低下に伴う製品供給不足の挽回生産のためにたな卸資産が増加したことやPCCT開発に重要な役割を果たすレドレン社買収によるのれんの増加などにより、前連結会計年度末から1,253億円増加して4兆7,509億円となりました。また、フェーズⅥではキャッシュ・フロー経営の徹底を重点項目の一つとしており、財務基盤の再強化を進めています。この方針のもと、当連結会計年度で東芝メディカルシステムズ(株)(現キヤノンメディカルシステムズ(株))を買収した際の買収資金について返済と借換を行い、1,700億円圧縮を行っています。その結果、短期借入金及び1年以内に返済する長期債務の減少などにより、負債は前連結会計年度末から1,891億円減少して1兆6,525億円となりました。純資産は増益によるその他の利益剰余金の増加、および、円安によるその他の包括利益累計額の増加などにより、前連結会計年度末から3,144億円増加して3兆984億円となりました。

これらの結果、当連結会計年度末の株主資本比率は前連結会計年度末より4.8ポイント上昇して60.5%となりました。

 

②キャッシュ・フローの状況

 当連結会計年度末の現金及び現金同等物は、為替変動の影響分を合わせて、前連結会計年度末から63億円減少し、4,014億円となりました。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

 コロナ禍からの業績改善に伴い、前連結会計年度より大幅な増益となったため、前連結会計年度末から1,172億円増加して、4,510億円の収入となりました。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

 事業取得額の増加などにより、前連結会計年度末から518億円増加し、2,073億円の支出となりました。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

 長期債務の返済、借換や配当金の支払いなどの支出があった結果、2,674億円の支出となりました。

 

 また、営業活動によるキャッシュ・フローから投資活動によるキャッシュ・フローを控除した、いわゆるフリーキャッシュ・フローは、前連結会計年度から654億円増加し、2,438億円の収入となりました。

詳細については、「(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容 ⑤流動性と資金源泉 b.現金及び現金同等物」に記載のとおりであります。

 

③生産、受注及び販売の実績

a. 生産実績

当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

金額(百万円)

前連結会計年度比(%)

プリンティング

1,698,484

119.3

イメージング

651,198

136.1

メディカル

510,220

114.7

インダストリアルその他

307,425

102.3

合計

3,167,327

119.6

  (注)1.  金額は、販売価格によって算定しております。

        2.  上記の金額には、消費税等は含まれておりません。

 

b. 受注実績

当グループの生産は、当社と販売各社との間で行う需要予測を考慮した見込み生産を主体としておりますので、販売高のうち受注生産高が占める割合は僅少であります。従って受注実績の記載は行っておりません。

 

c. 販売実績

当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

金額(百万円)

前連結会計年度比(%)

プリンティング

1,938,847

107.4

イメージング

653,532

120.7

メディカル

480,362

110.2

インダストリアルその他

545,742

118.2

消去

△105,126

合計

3,513,357

111.2

  (注)1.  上記の金額には、消費税等は含まれておりません。

2.  最近2連結会計年度の主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は、次のとお

      りであります。

 

相手先

第120期

(2020年1月1日から

2020年12月31日まで)

第121期

(2021年1月1日から

2021年12月31日まで)

販売高

(百万円)

割合(%)

販売高

(百万円)

割合(%)

HP Inc.

358,784

11.4

405,971

11.6

 

(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

  経営者の視点による当グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日(2022年3月30日)現在において判断しております。

 

はじめに

  当社は、プリンティング、イメージング、メディカル、インダストリアルその他の製品を世界的に事業展開する企業グループであります。また、企業の成長と発展を果たすことにより、世界の繁栄と人類の幸福に貢献することを、経営指針としております。

①主要業績評価指標

  当社の事業経営に用いられる主要業績評価指標(Key Performance Indicators。以下「KPI」という。)は以下のとおりであります。

(収益及び利益率)

  当社は、真のグローバル・エクセレント・カンパニーを目指し邁進しておりますが、経営において重点を置いている指標の1つに収益が挙げられます。以下は経営者が重要だと捉えている収益に関連したKPIであります。

  売上高はKPIの1つと考えております。当社は主に製品、またそれに関連したサービスから売上を計上しています。売上高は、当社製品への需要、会計期間内における取引の数量や規模、新製品の評判、また販売価格の変動といった要因によって変化し、その他にも市場でのシェア、市場環境等も売上高を変化させる要因です。さらに製品別の売上高は売上の中でも重要な指標の1つであり、市場のトレンドに当社の経営が対応しているかというような内容を測定するための目安となります。

  売上総利益率は収益性を測るもう1つのKPIと考えております。当社はフェーズⅥの基本方針のもと、事業競争力を徹底的に強化し、価格競争力を持つ収益性の高い商品の提供を図っています。さらに、内製化や、設計・生産技術・製造現場が三位一体となった組み立ての自動化等のグループ一丸となった原価低減活動を推進しています。当社では、売上総利益率の向上にむけて、引き続きこれらの施策を推進してまいります。

  営業利益率、税引前当期純利益率及び売上高研究開発費比率も当社のKPIとして考えており、これらについて当社は2つの面からの方策をとっております。1つは、販売費及び一般管理費そのものを統制し低減に努めていること、もう1つは将来の利益を生み出す技術に対する研究開発費を一定の水準に維持していくことです。現在の市場における優位性を保持しつつ、他市場における可能性も開拓していくために必要なことであり、そうした投資が将来の事業の成功の基盤となります。

(キャッシュ・フロー経営)

  当社はキャッシュ・フロー経営にも重点を置いております。以下の指標は、経営者が重要だと捉えているキャッシュ・フロー経営に関連したKPIです。

  在庫回転日数はKPIの1つであり、サプライチェーン・マネジメントの成果を測る目安となります。たな卸資産は陳腐化及び劣化する等のリスクを内在しており、その資産価値が著しく下がることで、当社の業績に悪影響を及ぼすこともありえます。こうしたリスクを軽減するためには、サプライチェーン・マネジメントの強化により、たな卸資産の圧縮及び製品コスト等の回収を早期化させるために生産リードタイムを短縮させ、一方で販売の機会損失を防ぐため適正水準の製品在庫を保持していく活動の継続が重要であると考えられます。

  また有利子負債依存度も当社のKPIの1つであります。当社のような製造業では、開発、生産、販売等のプロセスを経て、事業が実を結ぶまでには、一般に長い期間を要するため、堅固な財務体質を構築することは重要なことであると考えます。今後も当社は主に通常の営業活動からのキャッシュ・フローで、流動性や設備投資に対応してまいります。

 総資産に占める株主資本の割合を示す株主資本比率も、当社におけるKPIの1つとしております。株主資本を潤沢に持つことは、長期的な視点に立って高水準の投資を継続することにつながり、短期的な業績悪化にも揺るがない事業運営を可能にします。特に、研究開発に重点を置く当社にとっては、財務の安全性を確保することは、非常に重要なことであると考えられます。

 

②重要な会計方針及び見積り

  当社の連結財務諸表は、米国会計基準に基づいて作成されております。また当社は、連結財務諸表を作成するために、種々の見積りと仮定を行っております。これらの見積り及び仮定は将来の市場状況、売上増加率、利益率、割引率等の見積り及び仮定を含んでおります。当社は、これらの見積り及び仮定は合理的であると考えておりますが、実際の業績は異なる可能性があります。また、新型コロナウイルス感染再拡大がみられている地域もあり、依然として収束の時期は見通せない状況ですが、各国・地域は引き続き感染対策と経済活動の両立を目指しております。新型コロナウイルスの影響を含め、現在の経済環境に係るリスクと不確実性により、当社の業績が経営者の仮定及び見積りとは異なる可能性があります。当社は、現在当社の財政状態及び経営成績に影響を与えている会計方針を適用するにあたり、以下の事項がより重要な判断事項であると考えています。

a.長期性資産の減損

  基準書360「有形固定資産」に準拠し、有形固定資産や償却対象の無形固定資産などの長期性資産は、帳簿価額が回収できないという事象や状況の変化が生じた場合に、減損に関する検討を実施しております。帳簿価額が割引前将来見積キャッシュ・フローの総額を上回っていた場合には、帳簿価額が公正価値を超過する金額について減損を認識しております。公正価値の決定は、見積り及び仮定に基づいて行っております。

b.有形固定資産

  有形固定資産は取得原価により計上しております。減価償却方法は、定額法で償却している一部の資産を除き、定率法を適用しております。

c.たな卸資産

  たな卸資産は、低価法により評価しております。原価は、国内では平均法、海外では主として先入先出法により算出しております。

d.リース

  当社は、貸手のリースでは主にオフィス製品の販売においてリース取引を提供しております。販売型リースでの機器の販売による収益は、リース開始時に認識しております。販売型リース及び直接金融リースによる利息収益は、それぞれのリース期間にわたり利息法で認識しております。これら以外のリース取引はオペレーティングリースとして会計処理し、収益はリース期間にわたり均等に認識しております。機器のリースとメンテナンス契約が一体となっている場合は、リース要素と非リース要素の独立販売価格の比率に基づいて収益を按分しております。通常、リース要素は、機器及びファイナンス費用を含んでおり、非リース要素はメンテナンス契約及び消耗品を含んでおります。一部の契約ではリースの延長又は解約オプションが含まれております。当社は、これらのオプション行使が合理的に確実である場合、オプションの対象期間を考慮し、リース期間を決定しております。当社のリース契約の大部分は、顧客の割安購入選択権を含んでおりません。

 借手のリースでは建物、倉庫、従業員社宅、及び車輛等に係るオペレーティングリース及びファイナンスリースを有しております。当社は、契約開始時に契約にリースが含まれるか決定しております。一部のリース契約では、リース期間の延長又は解約オプションが含まれております。当社は、これらのオプション行使が合理的に確実である場合、オプションの対象期間を考慮し、リース期間を決定しております。当社のリース契約には、重要な残価保証または重要な財務制限条項はありません。当社のリースの大部分はリースの計算利子率が明示されておらず、当社はリース料総額の現在価値を算定する際、リース開始時に入手可能な情報を基にした追加借入利子率を使用しております。当社のリース契約の一部には、リース要素及び非リース要素を含むものがあり、それぞれを区分して会計処理しております。当社はリース要素と非リース要素の見積独立価格の比率に基づいて、契約の対価を按分しております。オペレーティングリースに係る費用は、そのリース期間にわたり定額法で計上されております。

 

e.企業結合

  企業買収は取得法で処理しております。取得法では、取得した全ての有形及び無形資産並びに引き継いだ全ての負債を、支配獲得日における公正価値に基づき認識及び測定します。公正価値の決定には、将来キャッシュ・フローの予測、割引率、資本収益率、及びその他の利用可能な市場データに基づく見積りなどの、重要な判断や見積りを伴います。また、将来キャッシュ・フローの予測は、被買収会社の実績や、過去及び将来に想定される趨勢、市場や経済状況などの多くの要素に基づいております。

f.のれん及びその他の無形固定資産

  のれん及び耐用年数が確定できないその他の無形固定資産は償却を行わず、代わりに毎年第4四半期に、または潜在的な減損の兆候があればより頻繁に減損テストを行っております。全てののれんは、企業結合のシナジー効果から便益を享受する報告単位に配分されます。報告単位の公正価値が、当該報告単位に割り当てられた帳簿価額を下回る場合には、当該差額をその報告単位に配分されたのれんの帳簿価額を限度とし、のれんの減損損失として認識しております。報告単位の公正価値は、主として割引キャッシュ・フロー分析に基づいて決定されており、将来キャッシュ・フロー及び割引率等の見積りを伴います。将来キャッシュ・フローの見積りは、主として将来の成長率に関する当社の予測に基づいております。割引率の見積りは、主として関連する市場及び産業データ並びに特定のリスク要因を考慮した、加重平均資本コストに基づいて決定しております。2020年第4四半期及び2021年第4四半期に行った減損テストの結果、個々の報告単位の公正価値は帳簿価額を十分に超過しており、減損が見込まれる報告単位はありません。しかし、メディカル報告単位に帰属するのれんについては、公正価値が帳簿価額を超過する割合が他の報告単位と比べて低くなっており、将来キャッシュ・フローが想定よりも減少した場合、減損損失を認識する可能性があります。なお、当該報告単位に帰属するのれんの帳簿価額は537,183百万円となっております。当該報告単位の将来キャッシュ・フローの見積りは、今後の医療機器市場の成長や事業活動地域の成長を考慮した上で立案された中期経営計画に基づいております。

 耐用年数の見積りが可能な無形固定資産は、主としてソフトウェア、商標、特許権及び技術資産、ライセンス料、顧客関係であります。なお、ソフトウェアは主として3年から8年で、商標は15年で、特許権及び技術資産は5年から21年で、ライセンス料は8年で、顧客関係は7年から15年で定額償却しております。

 

g.法人税等の不確実性

  当社は、法人税等の不確実性の評価及び見積りにおいて多くの要素を考慮しており、それらの要素には、税務当局との解決の金額及び可能性、並びに税法上の技術的な解釈を含んでおります。不確実性に関する実際の解決が見積りと異なるのは不可避的であり、そのような差異が連結財務諸表に重要な影響を与える可能性があります。

h.繰延税金資産の評価

  当社は、繰延税金資産に対して定期的に実現可能性の評価を行っております。繰延税金資産の実現は、主に将来の課税所得の予測によるところが大きく、課税所得の予測は将来の市場動向や当社の事業活動が順調に継続すること、その他の要因により変化します。課税所得の予測に影響を与える要因が変化した場合には評価性引当金の設定が必要な場合があり、当社では繰延税金資産の実現可能性がないと判断した際には、繰延税金資産を修正し、損益計算書上の法人税等に繰り入れ、当期純利益が減少いたします。

i.未払退職及び年金費用

  未払退職及び年金費用は数理計算によって認識しており、その計算には前提条件として基礎率を用いています。割引率、期待運用収益率といった基礎率については、市場金利などの実際の経済状況を踏まえて設定しております。その他の基礎率としては、昇給率、死亡率などがあります。これらの基礎率の変更により、将来の退職及び年金費用が影響を受ける可能性があります。

  基礎率と実際の結果が異なる場合は、その差異が累積され将来期間にわたって償却されます。これにより実際の結果は、通常、将来の年金費用に影響を与えます。当社はこれらの基礎率が適切であると考えておりますが、実際の結果との差異は将来の年金費用に影響を及ぼす可能性があります。

  当連結会計年度の連結財務諸表の作成においては、給付債務の計算に使用する割引率には国内制度、海外制度ではそれぞれ加重平均後で0.5%、1.5%を、長期期待収益率には国内制度、海外制度ではそれぞれ加重平均後で3.0%、4.4%を使用しております。割引率を設定するにあたっては、現在利用可能で、かつ、年金受給が満期となる間に利用可能と予想される高格付けで確定利付の公社債の収益率に関し利用可能な情報を参考に決定しております。また長期期待収益率の設定にあたっては、年金資産が構成される資産カテゴリー別の過去の実績及び将来の期待に基づいて収益率を決定しております。

  割引率の低下(上昇)は、勤務費用及び数理計算上の差異の償却額を増加(減少)させるとともに、利息費用を減少(増加)させます。割引率が0.5%低下した場合、予測給付債務は約960億円増加します。

  長期期待収益率の低下(上昇)は、期待運用収益を減少(増加)させ、かつ数理計算上の差異の償却額を増加(減少)させるため、期間純年金費用を増加(減少)させます。長期期待収益率が0.5%低下した場合、期間純年金費用は約58億円増加します。

  これにより年金制度の積立状況(すなわち、年金資産の公正価値と退職給付債務の差額)を連結貸借対照表で認識しており、対応する調整を税効果調整後で、その他の包括利益(損失)累計額に計上しております。

 

j.収益認識

 当社は、主にプリンティング、イメージング、メディカル、インダストリアルその他の各ビジネスユニットの製品、消耗品並びに関連サービス等の売上を収益源としており、それらを顧客との個別契約に基づき提供しております。当社は、約束した財またはサービスの支配が顧客に移転した時点、もしくは移転するにつれて、移転により獲得が見込まれる対価を反映した金額により、収益を認識しております。

 プリンティングビジネスユニットの製品(オフィス向け複合機、レーザープリンター、インクジェットプリンター等)及びイメージングビジネスユニットの製品(デジタルカメラ等)の販売による収益は、製品の支配を顧客がいつ獲得するかにより、主に出荷または引渡時点で認識しております。

  また、メディカルビジネスユニットの製品(CT装置やMRI装置等)及びインダストリアルその他ビジネスユニットの製品(半導体露光装置やFPD露光装置等)の販売にあたり、機器の性能に関して顧客検収を要する場合は、機器が顧客の場所に据え付けられ、合意された仕様が客観的な基準により達成されたことを確認した時点で、収益を認識しております。

  当社のサービス売上の大部分は、プリンティングの製品及びメディカルの製品のメンテナンスサービスに関連するものであり、一定期間にわたり認識しております。プリンティングの製品のサービス契約は、通常、顧客は、機器の使用量に応じた従量料金、固定料金、または、基本料金に加えて使用量に応じた従量料金を支払う契約であり、通常、修理作業及び消耗品の提供を含んでおります。プリンティングの製品のサービス契約による収益の大部分は、顧客への請求金額が、履行義務の充足に伴い顧客に移転した価値と直接対応していることから、顧客への請求金額により収益を計上しております。メディカルの製品のサービス契約は、通常、顧客は、当社が提供する待機サービスの対価として、固定料金を支払っており、当社は契約期間にわたり均等に収益を認識しております。

  プリンティングの製品に関するサービス契約の多くは、関連する製品販売契約と一体で実行されます。製品及びサービスの取引価格は、独立販売価格の比率に基づいて各履行義務に配分される必要があり、その配分には判断が伴います。独立販売価格は、市場の状況及びその他観察可能なインプットを含む合理的に入手可能なすべての情報に基づき、配分の目的に合致するように設定された価格のレンジを用いて見積もられています。製品またはメンテナンスサービスの取引価格が設定されたレンジを外れる場合は、見積独立販売価格に基づき取引価格は配分されることになります。契約獲得の追加コストは、関連するプリンティングの製品が販売された時に、費用として認識しております。

 転用可能性がなく、かつ完了した成果に対して顧客から支払いを受ける強制力のある権利を有している一部の産業機器の販売契約(以下「長期契約」)に関する収益は一定期間にわたり認識しており、コストを基礎とする進捗度に基づき、完成時の見積り利益の当期進捗分を含む収益が当期に認識されます。未完成の長期契約に関する損失は、損失が発生することが明らかになった期に認識されます。長期契約に関する作業実績や作業状況、想定される収益性の変化や最終的な契約条項がコストや収益の見積りに与える影響は、それらが合理的に見積り可能になった期に認識されます。将来コストや完成時の利益に影響を与える要素は生産効率、労働力や資材の利用可能性とコストを含み、これらの要素は将来の収益と売上原価に重要な影響を与えることがあります。

  財またはサービスの移転と交換に当社が受け取る取引価格は、値引き、顧客特典、売上に応じた割戻し等の変動対価を含んでおります。変動対価は、主として、販売代理店や小売店が主要顧客であるイメージングの製品の販売に関連しております。当社は、変動対価に関する不確実性が解消された時点で収益認識累計額の重要な戻し入れが生じない可能性が高い範囲で、変動対価を取引価格に含めております。変動対価は、過去の傾向や売上時点におけるその他の既知の要素に基づいて見積もっており、直近の情報に基づき定期的に見直しております。また、当社は、販売後の短期間、顧客に製品の返品権を付与することがあり、当該返品権により予想される返品を考慮し決定された取引価格に基づき収益認識をしております。

  当社は、連結損益計算書の収益について、顧客から徴収し政府機関へ納付される税金を除いて表示しております。

 

k.信用損失引当金

  信用損失引当金は、滞留状況の分析、マクロ経済状況及び過去の経験などの種々の要素を考慮し、基準書326(「金融商品-信用損失」)に基づいて、全ての債権計上先を対象として計上しております。また当社は、破産申請など顧客の債務返済能力がなくなったと認識した時点において、顧客ごとに信用損失引当金を積み増しております。債権計上先をとりまく状況に変化が生じた場合は、債権の回収可能性に関する評価はさらに調整されます。法的な償還請求を含め、全ての債権回収のための権利を行使してもなお回収不能な場合に、債権の全部または一部を回収不能とみなし、信用損失引当金を取り崩しております。

 

l.環境負債

 環境浄化及びその他の環境関連費用に係る負債は、環境アセスメントあるいは浄化努力が要求される可能性が高く、その費用を合理的に見積ることができる場合に認識しており、連結貸借対照表のその他の固定負債に含めております。環境負債は、事態の詳細が明らかになる過程で、あるいは状況の変化の結果によりその計上額を調整しております。その将来義務に係る費用は現在価値に割引いておりません。

 

m.新会計基準

  「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表 注記事項 注1 (24)新会計基準」に記載のとおりであります。

③当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

a.売上高

  当連結会計年度は、世界経済は総じて景気回復が続きました。こうした中、新型コロナウイルスの再拡大や半導体部品不足による生産活動の停滞影響を受けたものの、各セグメントにおける需要の回復により、売上高は前連結会計年度比11.2%増の3兆5,134億円となりました。製品売上高及びサービス売上高は前連結会計年度比でそれぞれ、12.6%増の2兆8,047億円、5.7%増の7,087億円となりました。

  当連結会計年度の海外での売上高は、連結売上高の76.4%を占めます。海外での売上高の計算は、円と外貨の為替レートの変動に影響されます。製品の現地生産及び海外からの部品や材料調達等によりその影響を抑えておりますが、為替レートの変動は当社の経営成績に大きな影響を与える可能性があります。

  当連結会計年度の米ドル及びユーロの平均為替レートはそれぞれ109.93円及び129.94円と、前連結会計年度に比べて米ドルは約3円円安、ユーロは約8円円安で推移しました。米ドルとの為替レートの変動により約386億円の売上高増加、ユーロとの変動で約480億円の売上高増加、その他の通貨との変動で約242億円の売上高増加影響がありました。その結果、当連結会計年度の為替による売上高の増加影響は約1,108億円となりました。

b.売上原価

  売上原価は、主として原材料費、購入部品費、工場の人件費から構成されます。原材料費のうち海外調達される原材料については、海外の市場価格や為替レートの変動による影響を受け、当社の売上原価に影響を与えます。売上原価にはこれらの他に有形固定資産の減価償却費、修繕費、光熱費、賃借料などが含まれております。当連結会計年度は半導体部品や樹脂材を中心に部品、材料の価格上昇および、国際的な物流の逼迫による輸送費用の上昇による影響を受けましたが、オフィス向け複合機の共通プラットフォーム化等、コストダウン活動をすすめました。その結果、売上高に対する売上原価の比率は、当連結会計年度は53.7%となり、前連結会計年度56.5%より2.8ポイント低減しました。

c.売上総利益

  当連結会計年度の売上総利益は、前連結会計年度と比べ18.3%増加の1兆6,278億円となりました。また売上総利益率は、前連結会計年度より2.8ポイント好転し46.3%となりました。売上総利益及び売上総利益率の増加は、前述のコストダウン活動のほか、オフィスの稼働率回復に伴うサービスおよび消耗品の増加、フルサイズミラーレスカメラのEOS R5とEOS R6の価格水準と販売台数の維持、またフルサイズミラーレス用の専用レンズであるRFレンズで当連結会計年度に8本の新製品を導入し、合計26本までラインアップを拡充したことによる売上の増加及びドル、ユーロの円安影響などによるものです。

d.営業費用

  営業費用は、主に人件費、研究開発費、広告宣伝費であります。営業費用は、新型コロナウイルス感染拡大により営業活動が厳しく制限されていた前連結会計年度の反動と為替などの影響により、前連結会計年度比6.4%増加し1兆3,459億円となりました。一方、当連結会計年度売上高に対する経費率は前連結会計年度より1.7ポイント改善し、38.3%となりました。販売組織の構造改革を進めたことや、ビデオ会議システムの活用による出張の抑制など、売上高の伸びに対して経費を適切にコントロールし、その伸長を抑制しております。

e.営業利益

  当連結会計年度の営業利益は、前連結会計年度比155.0%増加の2,819億円でありました。営業利益率は4.5ポイント好転して8.0%となりました。

f.営業外収益及び費用

  当連結会計年度の営業外収益及び費用は、有価証券評価益などにより、前連結会計年度から11億円好転し、208億円の収益となりました。

 

g.税引前当期純利益

  当連結会計年度の税引前当期純利益は3,027億円で、前連結会計年度比132.4%の増益となりました。また、売上高に対する比率は8.6%でした。

h.法人税等

  当連結会計年度の法人税等は375億円増加し、実効税率は23.7%でした。実効税率が日本の法定実効税率を下回っているのは、主に試験研究費の税額控除や海外子会社で適用される税率が日本の法定実効税率より低いこと、また海外子会社の収益性改善により評価性引当金を取り崩したためです。

i.当社株主に帰属する当期純利益

  当連結会計年度の当社株主に帰属する当期純利益は前連結会計年度比157.7%の増益である2,147億円となりました。また、売上高当期純利益率は6.1%となりました。当社でこれまでに進めてきた構造改革、収益性向上の施策の成果により、新型コロナウイルス流行前の第119期と比較しても、売上高当期純利益率は2.6ポイント改善し、大幅な増益となりました。

④海外事業と外国通貨による取引

  当社の販売活動は様々な地域で現地通貨により行っている一方、売上原価は円の占める割合が比較的高くなっております。当社の現在の事業構造を鑑みると、円高影響は売上高や売上総利益率に対してマイナス要因となりま

す。こうした為替相場の変動による財務リスクを軽減することを目的に、当社は為替先物契約を主とした金融派生商品を利用した取引を実施しております。

  海外における売上高利益率は、主に販売活動を中心としているため、国内の売上高利益率と比較すると低くなっております。一般的に販売活動は、当社が行っている生産活動ほど収益性は高くありません。地域別セグメント情報に関する詳細は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表 注記事項 注23 セグメント情報」を参照ください。

 

 

⑤流動性と資金源泉

a.キャッシュ・フロー経営の基本原則

  当社は財務戦略の基本方針に「キャッシュ・フロー経営の徹底による健全な財務体質の維持」を掲げ、以下の2点をキャッシュ・フロー経営の基本原則としております。

 

1.現行事業の収益性をさらに改善し新規事業の成長スピードを高めることにより、高収益体質の向上に努め

ます。

 

2.事業の中期的な拡大・成長に必要な設備投資は減価償却費の範囲内に収め、財務健全性の維持に努めま

す。ただし、成長戦略の為の大規模なM&A等は積極的に行う予定であり、必要に応じて外部からの資金調達も実施します。

 

資金の調達(Cash-In)

事業活動からの利益をベースとする営業活動によるキャッシュ・フローを原資とします。資金調達を行う際は、金融市場の状況を鑑みて、期間・通貨・手法を検討し、多様な選択肢から最適な手段を選定します。

 

資金の使途(Cash-Out)

資金の主な使途は以下の優先順位に則り決定しております。

 

1.成長投資:設備投資・研究開発やM&Aなど

M&Aは新規事業の早期育成・拡大の選択肢として重視しております。投資対象先の選定にあたり、市場の成長性・規模、自社の事業領域・技術との親和性の高い市場であることを基準としております。

 

2.株主還元

中長期的な業績の見通しに加え、将来の投資計画やキャッシュ・フローなどを総合的に勘案して、配当を中心に、安定的かつ積極的な利益還元を実施します。

 

3.借入金返済

成長投資と株主還元の次に、この数年借入金の返済を行ってきました。特に当連結会計年度はコロナ禍から大幅に改善した業績を背景に積み増した営業活動によるキャッシュ・フローをもとに、借入金の返済を着実に進めました。

 

b.現金及び現金同等物

キャッシュ・フローの推移(億円)

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  当連結会計年度における現金及び現金同等物は、前連結会計年度から63億円減少して、4,014億円となりました。当社の現金及び現金同等物は主に円と米ドルを中心としておりますが、その他の外貨でも保有しております。

 

営業活動によるキャッシュ・フロー

  当連結会計年度の営業活動によるキャッシュ・フローは、コロナ禍からの業績改善に伴い、前連結会計年度より大幅な増益となったことにより、前連結会計年度に比べて1,172億円増加して、4,510億円の収入となりました。営業活動によるキャッシュ・フローは、主に顧客からの現金受取によるキャッシュ・イン・フローと、部品や材料、販売費及び一般管理費、研究開発費、法人税の支払いによるキャッシュ・アウト・フローとなっております。当連結会計年度におけるキャッシュ・イン・フローの増加は、主に売上高の増加に伴い、顧客からの現金回収が増加したことによるものです。当社の回収率に重要な変化はありません。また部品や材料の支払いといったキャッシュ・アウト・フローの増加は、部品や物流逼迫により在庫水準が高まったことなどによるものです。法人税の支払いによるキャッシュ・アウト・フローの増加は、課税所得の増加によるものです。

 

投資活動によるキャッシュ・フロー

  当連結会計年度の投資活動によるキャッシュ・フローは、事業取得額や固定資産購入額が増加したこと等により、前連結会計年度より518億円増加し2,073億円の支出となりました。事業取得額は前連結会計年度より316億円増加して、当連結会計年度は318億円の支出となりました。その主要因はPCCT開発に重要な役割を果たすレドレン社買収による支出です。固定資産購入額は前連結会計年度より126億円増加して、当連結会計年度は1,774億円となりました。その主要因は生産能力、効率性の強化を目的とした設備投資です。当連結会計年度の主な固定資産購入には、キヤノンモールド株式会社の工場の集約、刷新を目的とした工場棟新設やCMOSセンサーの生産能力増強を目的とした当社平塚事業所の設備投資等があげられます。

 

フリーキャッシュ・フロー

  当社は、営業活動によるキャッシュ・フローから投資活動によるキャッシュ・フローを控除した純額をフリーキャッシュ・フローと定義しており、当連結会計年度のフリーキャッシュ・フローは、前連結会計年度の1,784億円から、654億円増加し、2,438億円の収入となりました。

  当社は、キャッシュ・フロー経営に重点を置き、フリーキャッシュ・フローを常時モニタリングしております。フリーキャッシュ・フローは当社の現在の流動性や財務活動の使途を理解する上で重要であり、また投資家にも有用であると考えております。当社は資金の調達源泉を明らかにするために、米国会計基準による連結キャッシュ・フロー計算書や連結貸借対照表と併せて、米国会計基準以外の財務指標(Non-GAAP財務指標)である、フリーキャッシュ・フローを分析しております。なお、最も直接的に比較可能な米国会計基準に基づき作成された指標とフリーキャッシュ・フローの照合調整表は以下のとおりです。

 

 

 

 

(億円)

 

第120期

第121期

増減

営業活動によるキャッシュ・フロー

3,338

4,510

+1,172

投資活動によるキャッシュ・フロー

△1,554

△2,073

△518

フリーキャッシュ・フロー

1,784

2,438

+654

財務活動によるキャッシュ・フロー

△1,834

△2,674

△839

為替変動の現金及び現金同等物への影響額

△0

173

+174

現金及び現金同等物の増減

△51

△63

△12

現金及び現金同等物の期首残高

4,128

4,077

△51

現金及び現金同等物の期末残高

4,077

4,014

△63

 

財務活動によるキャッシュ・フロー

  当連結会計年度の財務活動によるキャッシュ・フローは、東芝メディカルシステムズ(株)(現キヤノンメディカルシステムズ(株))を買収した際の買収資金について返済と借換を行い長期債務1,700億円を圧縮したことに加え、889億円の配当金支払いなどを行った結果、2,674億円の支出となりました。なお、当連結会計年度の支払いにあたる1株当たりの配当は、85.00円の配当を実施しました。東芝メディカルシステムズ(株)(現キヤノンメディカルシステムズ(株))を買収した際の借入金の残高推移は以下のとおりであります。

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  当社は、流動性や必要資本を満たすため、増資、社債発行、借入といった外部からの様々な資金調達方法をとることが可能です。当社は、これまでどおりの資金調達や資本市場からの資金調達が可能であり、また将来においても可能であり続けると認識しておりますが、経済情勢の急激な悪化やその他状況によっては、当社の流動性や将来における長期の資金調達に影響を与える可能性があります。

  当社は、2021年12月を返済期日とする長期債務3,440億円を返済して、長期債務1,740億円の借換を実施しました。その影響から、短期借入金(1年以内に返済する長期債務を含む)は前連結会計年度末3,922億円から3,473億円減少し、当連結会計年度末には449億円となりました。長期債務(1年以内に返済する長期債務は除く)は前連結会計年度末の48億円から1,749億円増加し、当連結会計年度末には1,798億円となりました。

  当社の長期債務は、主に銀行借入とリース債務によって構成されています。

 

格付け

  当社は、グローバルな資本市場から資金調達をするために、格付機関であるS&Pグローバル・レーティングから信用格付を得ております。それに加えて、当社は日本の資本市場からも資金調達するために、日本の格付会社である格付投資情報センターからも信用格付を得ております。2022年2月28日現在、当社の負債格付は、S&Pグローバル・レーティング:A(長期)、A-1(短期);格付投資情報センター:AA(長期)であります。当社では、現時点で負債の返済を早めるような格付低下の要因は発生しておりません。当社の信用格付が下がる場合は、借入れコストの増加につながります。

 

c.在庫の適正化

  当社の最新の在庫水準の最適化の方針は、運転資金を最小化し、在庫の陳腐化のリスクを避け、一方で予期せぬ天災発生時でも販売活動を継続できるようにするため、適切なバランスを維持していくことであります。当社の在庫回転日数は、当連結会計年度、前連結会計年度末時点でそれぞれ、66日、60日となりました。在庫回転日数増加の主な要因は、新型コロナウイルス感染再拡大による生産活動の停滞や、世界的な半導体部品の不足などによる製品の供給不足に対する挽回生産に注力した結果として、工場の仕掛品や販売会社へ輸送中の製品在庫が増加したことによるものであります。

 

d.設備投資

  当社は積極的な業績拡大に資する投資を行う一方、総額は減価償却費の範囲内に収めることでフリーキャッシュ・フローを安定的に創出するなど、財務基盤を強固にするキャッシュ・フロー経営を徹底しています。当連結会計年度における設備投資は、前連結会計年度の1,323億円から196億円増加し、1,519億円になりました。翌連結会計年度につきましては、引き続き成長のための設備投資を行うことにより、当社の設備投資は1,800億円の見込みであります。

 

e.退職給付債務への事業主拠出

  当社の確定給付型年金への拠出額は、当連結会計年度438億円、前連結会計年度270億円であり、確定拠出型年金への拠出額は、当連結会計年度227億円、前連結会計年度163億円であります。また、一部の子会社が加入している複数事業主制度への拠出額は、当連結会計年度48億円、前連結会計年度42億円であります。

 

f.運転資本

  当連結会計年度における運転資本(流動資産から流動負債を控除した額)は、前連結会計年度の4,630億円から3,546億円増加し、8,175億円になりました。増加の主な要因は、流動負債である短期借入金(1年以内に返済する長期債務を含む)の減少や、流動資産であるたな卸資産の増加によるものです。当社の運転資本は、予測できる将来需要に対して十分であると認識しております。当社の必要資本は、設備投資に関わる支出の水準及び時期といった全社的な事業計画に基づいております。流動比率(流動負債に対する流動資産の割合)は、当連結会計年度は1.77、前連結会計年度は1.35であります。

 

g.総資本当社株主に帰属する当期純利益率

  総資本利益率(当社株主に帰属する当期純利益を前年度末及び当年度末の総資産平均で除した割合)は、当連結会計年度では4.6%です。コロナ禍からの業績改善に伴う当期純利益の増加により、前連結会計年度の1.8%から改善しました。

 

h.株主資本当社株主に帰属する当期純利益率

  株主資本利益率(当社株主に帰属する当期純利益を前年度末及び当年度末の株主資本平均で除した割合)は、当連結会計年度では7.9%です。増益による利益剰余金の増加や円安による為替換算調整額の増加に伴い株主資本は増加しましたが、コロナ禍からの業績改善に伴う当期純利益の増加が大きく、前連結会計年度の3.2%から改善しました。

 

i.有利子負債依存度

  当社はフェーズⅥにてキャッシュ・フロー経営の徹底を重点項目の一つとしており、財務基盤の再強化を進めています。当連結会計年度では東芝メディカルシステムズ(株)(現キヤノンメディカルシステムズ(株))を買収した際の買収資金について、返済と借換を行って1,700億円の圧縮を行っています。その結果、当連結会計年度における短期借入金、短期オペレーティングリース負債、長期借入金、及び長期オペレーティングリース負債は、前連結会計年度末の5,062億円より1,852億円減少し3,210億円となり、有利子負債依存度(総資産に対する有利子負債の割合)で表すと6.8%になります。前連結会計年度の10.9%からは減少となり、財務基盤を強化しました。

 

j.株主資本比率

  株主資本比率(株主資本を総資産で除した割合)は、当連結会計年度は60.5%となり、前連結会計年度の55.7%から増加いたしました。増益によるその他の利益剰余金の増加や、キャッシュ・フロー経営の徹底による、長期債務の減少などにより負債を削減し、財務基盤を強化しました。

 

⑥研究開発及び特許

 当社は創業当時より、業界をリードするコア製品を生み出す「コアコンピタンス技術(以下、コア技術)」と、技術蓄積のベースとなる「基盤要素技術」、さらには成長の中で蓄えられてきたキヤノンブランドを支える技術・ノウハウであり、商品化技術のベースとなる「価値創造基盤技術」を多様に組み合わせた「コアコンピタンスマネジメント」を展開して事業の多角化を行うと共に、事業の競争力を高めてきました。

 研究開発における主要戦略としては、1.「基盤要素技術と価値創造基盤技術のさらなる強化」、2.「強いコア技術と基盤要素技術に基づく次なる事業の芽の創出」、及び3.「時代の要請に応じたイノベーション型の技術開発の強化」を掲げ、その取り組みを進めています。

 研究開発活動の詳細は、第2 事業の状況 5「研究開発活動」に記載しております。

  また、当社は、強い特許ポートフォリオに守られた製品は他社の追随を容易に許さず、市場や業界における標準化活動などでも中心的な役割を果たせるとの認識をもっております。IFI CLAIMS® Patent Servicesが発表した2021年の米国特許取得件数ランキングにおいて、当社は第3位となりました。

 

 

⑦トレンド情報

  当社は、プリンティング、イメージング、メディカル、インダストリアルその他の分野において、開発、生産から販売、サービスにわたる事業活動を営んでおります。

 

プリンティングビジネスユニット

 当社は、家庭向け、オフィス向け、さらにプロダクションプリント向けのインクジェットプリンター、レーザープリンター、複合機の開発・製造・販売及びメンテナンス、アフターサービスを行っております。また、ソフトウェア及びサービス、ソリューションビジネスを通して顧客に付加価値を提供しております。

 2020年に当社は、オフィス向け複合機「imageRUNNER ADVANCE DXシリーズ」を発売いたしました。2021年には3シリーズ9モデルの新製品を発売し、「imageRUNNER ADVANCE DXシリーズ」のラインアップを拡充いたしました。

 また、クラウドにつながることで複合機の機能を拡張するサービスとして、「uniFLOW Online」を提供しております。クラウドサービス連携とセキュリティの強化に加え、紙文書を効率的に電子化するアドバンスドスキャンを実現するために、スキャン機能を向上させ、主力製品を一新しました。市場動向に沿って、今後も更なる競争力の維持及び向上に向けて、ますます高度化する顧客の需要に応えるべく、製品群の更なる充実とソリューション対応力の強化を図るとともに、販売力の強化に努めてまいります。

 プロダクションプリントについては、短納期、オンデマンド印刷、バリアブルデータ印刷への需要がますます強まっております。

 プロダクションプリンター「imagePRESS(イメージプレス)シリーズ」の旗艦モデル「imagePRESS C10010VP/C9010VP」の新ユニットとして、検品工程を自動化する「インスペクションユニット・A1」および画像調整を自動化する「センシングユニット・A1」を提供し、印刷画像の目視確認や出力欠陥のあるページの再印刷など、検査作業と回復作業に多くの人手と時間がかかっていた作業の大幅な省力化や安定した印刷品質の実現に貢献しています。

 大判インクジェットプリンターについて当社は、アート系プロフェッショナルの高い画質要求に応えるべく、新開発した12色の「LUCIA PROインク」により色の再現性や暗部領域での表現力を大幅に向上させた「imagePROGRAF PROシリーズ」を提供しています。また、設計事務所などでの図面大量出力から、企業・店舗でのCAD・ポスターなどの大判サイズ出力ニーズに向けて、多様な印刷用途や用紙の適性に応じた高画質プリントを可能にする全5色顔料インク「LUCIA TD」を搭載した「imagePROGRAF TZ/TX/TM/TAシリーズ」を提供しています。さらに業界初となる蛍光インクを搭載し、より明るくやわらかな色再現が可能な「imagePROGRAF GPシリーズ」を提供しています。

 ハイエンドのプロダクションインクジェット市場に向けて、当社は業界をリードする連帳プリンターを提供しており、効率的かつ高品質のフルカラー印刷の実現に貢献しています。「ColorStreamシリーズ」は、磁気インクやインビジブルインクなどのセキュリティインクを含む、カラーおよびモノクロのトランザクション、トランスプロモ、ダイレクトメール、書籍、およびマニュアルなどの印刷物に対応し、生産性と柔軟性に優れた、モジュール式でカスタマイズ可能な製品です。「ProStreamシリーズ」は、オフセット印刷に劣らぬ色再現性と生産性を実現しつつ、デジタル印刷の可変データの多用途性を兼ね備えた、高速で生産性の高い連帳プリンターです。当社が提供するカットシート方式のインクジェットプリンター 「varioPRINT iX シリーズ」は、これまでの商業印刷のビジネスを大きく変えました。優れた画質と幅広いメディア範囲に、インクジェットの高い生産性と魅力的なコスト効率を兼ね備えています。「varioPRINT iXシリーズ」は、連続稼働時間、信頼性、生産性が高く、より多くの生産を短時間で行うことができます。最小限の調整とセットアップで、計画的な高速印刷が可能です。したがって、印刷業者は、お客様と合意された納期と価格条件に基づいて様々な種類の成果物を生産し、より多くの利益を上げることができます。

 大判グラフィック市場では、ColoradoとArizonaのブランドの下で独自のUV LEDソリューションを提供しており、クラス最高の生産性と最小のコストを目指しております。このソリューションにより、プロの印刷業者は豊富なグラフィックスと産業用アプリケーションを顧客に提供することが可能となります。

 インクジェットプリンターについては、家庭用からビジネス用途まで高画質と高速印刷を同時に実現できる高密度プリントヘッド技術「FINE」(Full-photolithography Inkjet Nozzle Engineering)をコア技術に、お客様からのあらゆるニーズにお応えするべく幅広いラインアップを揃えております。

 特に新型コロナウイルスの感染拡大以降、働き方や学習方法が多様化し家庭用インクジェットプリンターの利用が急速に増加しています。当社は、仕事や学習でよく利用する機能を選択できるユーザーインターフェースなど、直感的な操作で手軽に使える機能を搭載するとともに、さまざまなインテリアになじむ高級感と親しみやすさを備えたデザインを採用して、お客様のニーズにお応えしています。

 また、内蔵インクタンクにより高生産性と低ランニングコストを実現した大容量インクタンクモデルは、在宅業務・学習からビジネスユースまで様々な場面をプリント面から力強くサポートします。

 レーザープリンターについては、スマートフォン、クラウド環境の普及等でユーザーのプリントスタイルが変化する中、プリント需要の減少による市場全体の成長鈍化が懸念されています。より付加価値の高い中高速機、特に複合機の拡販に注力しています。そのような環境下において、当社は各種の技術的イノベーションにより、顧客との一定期間にわたる契約型ビジネスを推進するなどの競争力強化をはかり、数量・シェア拡大を図っていきます。2020年より、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、市場においてはオフィスの稼働率低下の影響を受けましたが、在宅ニーズが高まる中、低中速機は一定の需要があります。生産面では弊社が生産拠点を有する東南アジア諸国のロックダウンにより、操業度が低下したことや、部品逼迫の影響を受け、プリンタ本体供給が一時的に不足する問題も起きています。部品原材料の安定供給や並行生産などを推進することにより製品の安定供給に努めていきます。

 

イメージングビジネスユニット

 当社は、デジタルカメラと同様に、レンズや様々な関連アクセサリーを製造、販売しております。レンズ交換式デジタルカメラでは、第4四半期にプロやハイアマチュアユーザーから求められる高い性能と信頼性を兼ね備えたフルサイズミラーレスカメラ「EOS R3」を投入しました。高品質な映像表現への強いニーズや個人消費の強さに加え、2020年に投入した我々の強力な製品「EOS R5」「EOS R6」も市場全体を後押しする形となり、市場は引き続き堅調に推移しています。レンズ交換式デジタルカメラ全体でも、米国、欧州、中国、日本といった主要地域において引き続き1位を獲得しております。

 レンズ交換式デジタルカメラにおいては、撮影領域のより一層の拡大を目指し、更なる高画質化、小型・軽量化、動画機能/ネットワーク機能の充実など、最先端の技術をベースとした新しい製品を提供することにより、今後も成長を目指してまいります。

 レンズ交換式デジタルカメラ用交換レンズでは、フルサイズミラーレス用の専用レンズであるRFレンズを8機種投入し、ラインアップを拡充いたしました。EOSRシリーズカメラ本体との相乗効果もあり、RFレンズの販売が伸長しました。また、第4四半期には、VR(Virtual Reality:仮想現実)映像撮影システム「EOS VR SYSTEM」を新たに立ち上げており、それに対応する「RF5.2mm F2.8 L DUAL FISHEYE」を投入することで、映像クリエイターや制作プロダクション、新たにVR映像撮影を始めたいと考えるユーザーまで幅広いニーズに応えてまいります。

 コンパクトデジタルカメラ市場は全体としては縮小傾向にあるものの、引き続きプレミアムラインを強化し、収益性の向上に努めてまいります。加えて、手軽さや特定シーンでの撮影を求める新たなニーズを掘り起こして撮影領域を拡大していくために、「PowerShot ZOOM」や、「PowerShot PICK」といった新ジャンルのカメラの展開を進めております。

 コンパクトフォトプリンターでは、コロナ禍という厳しい環境においても「イエナカ」需要を取り込むなど、販売促進に努めてまいりました。「SELPHY」は、簡単な操作性・優れた携帯性・高画質プリント・高耐久性という強みを持ち合わせ、各地域で高いプレゼンスを維持しております。今後更に新規需要を開拓し、市場を牽引してまいります。

 ネットワークカメラと映像解析ソフトウェアを組み合わせたソリューションは、社会インフラとしてセキュリティ用途以外にも広がり、その市場はクラウドビジネスの成長と共に拡大基調にあります。その中でネットワークカメラは、新型コロナウイルス感染拡大の影響を最小限にとどめ、堅調に売上げを伸ばしています。また、コロナ禍において、感染拡大防止の観点から混雑状況把握に対する社会的ニーズがより顕在化する中、遠隔から状況をリアルタイムで把握できる、人数カウント、通過検知などの映像解析ソフトウェアとネットワークカメラを組み合わせたソリューションは、各地域の医療機関、教育機関、リゾート地域、大型イベント等へ安心・安全の確保を目的に導入されました。

 港湾監視などの高度監視市場へは、2020年末および2021年に高度監視カメラのラインアップを強化し「ML-105 EF」と「ML-100 M58」を国内外に市場投入しました。MLシリーズは、小型でありながら肉眼では認識が困難な暗闇でもカラー動画の撮影ができる超高感度性能を活かし、暗所でのセキュリティ用途や研究活動にも貢献しています。

 当社は2015年にネットワークカメラ業界最大手のアクシス社をグループに迎えました。更なる成長とその地位の強化のため、毎年ラインアップを拡充し続けていますが、2021年には独自設計の新世代SoC(System on Chip)であるARTPEC-8を開発し、カメラ単体でのディープラーニングを用いた映像解析にも対応しています。

 産業向けには、DX推進のために新しい3つの映像ソリューションを提供しています。1.カメラを用いて周囲環境の3次元情報と位置姿勢を同時に推定する「Visual SLAM技術」を含む映像解析ソフトウエア「Vision-based Navigation Software」のAGV(Automated Guided Vehicle)メーカーへの提供を開始しています。物流分野のみならず今後応用範囲拡大を目指します。2.様々な現場作業の自動化を支援するために、ネットワークカメラと画像処理ソフトウェア「Vision Editionシリーズ」を組み合わせたソリューションを提供しています。3.画像を用いた橋梁やトンネルの点検においては、画像品質を確認するツールを開発するとともに、AI技術でひび割れ等を検知するサービスを提供しています。

 映画やドラマ等の映像制作市場では、OTT※1各社が参入し、大量の、質の高いコンテンツが必要とされているため、撮影の効率化、省人化が求められてきています。また、ニュース・報道現場では撮影した映像を高速かつ効率的に配信出来るシステムが要求されています。さらに、YouTuberなどの新しいプロクリエータの台頭により、高い映像品質に加えて、多岐に渡る撮影環境に対応するために「取り回し易さ」への要求が強まるなど、映像制作市場のトレンドは大きな変化を迎えています。その中で当社は、映画撮影にも使われる映像品質を維持しながらも小型・軽量にダウンサイジングしたデジタルシネマカメラ「EOS C70」や3ラインアップ化によって幅広い焦点距離に対応した「CINE-SERVOレンズシリーズ」、ライブ配信への対応や報道での即時性を高めた業務用デジタルビデオカメラ「XF605」、また、ワンマンでも複数のカメラを使った撮影を可能とした映像制作用のリモートカメラシステム「CR-N500」、「CR-N300」、「RC-IP100」を市場導入してきました。

 一方、スポーツや音楽などの大型イベント向けの放送ライブ市場では、東京2020オリンピック・パラリンピックをはじめとするコロナ禍で延期されていた各種イベントが2021年中頃より再開し、欧米を中心にこの動きは2022年も続く見込みです。放送機材への投資も回復基調にある中、当社は高倍率ズーム「UJ122×」を始めとする4K放送用大型レンズシリーズを市場導入してきました。

 更に映像ソリューションにおいては、スポーツ中継、エンターテインメント、CMなどでの新しい映像表現、メタバースへのデータ活用、標準化の推進など、市場拡大が見込まれる「ボリュメトリックビデオ」での事業創出にも取り組んでまいります。

 今後も、市況の変化を捉えた商品・ソリューションを投入することで、映像制作現場におけるプロの幅広いニーズに応え、映像文化の発展に貢献していきます。

 

※1 オーバーザトップの略。これまで地上波放送、衛星、ケーブルテレビ等で提供されていた映像コンテンツを、インターネットを介して視聴者に直接提供するメディアサービス。

 

メディカルビジネスユニット

 当社は、疾病の早期発見、早期診断のためCT、MRI、超音波診断装置、X線診断装置などの画像診断装置や検査機器、ヘルスケアITソリューションを開発、製造し、世界150以上の国や地域に提供しております。患者さんに優しく確信度の高い医療の提供に貢献するとともに、医療の効率化、コスト削減を実現する医療システム・サービスをお届けします。

 当社は、新型コロナウイルス診断に必要なトータルなソリューションを提供することで、新型コロナウイルスの感染拡大防止に取り組まれているすべての医療従事者、関係の皆さまの支援をしております。例えば、水泳飛込ワールドカップの新型コロナウイルスオンサイト検査支援やクルーズ船の船内検査室に新型コロナウイルスRNA検出システムを設置し乗船直前検査や船内検査を支援しています。

 当ビジネスユニットは、主力のCTはわが国でトップシェアを堅持しています。ディープラーニングを応用した超解像画像再構成を実現した新世代320列エリアディテクターCTの販売を国内で開始しました。レドレン社を連結子会社化し、次世代の画像診断機器として期待されているPhoton Counting CT(以下、PCCT)の開発を加速させ、CTをはじめとするシステム事業の強化を目指します。当社は国立研究開発法人国立がん研究センター(以下、国立がん研究センター)と、2020年7月に締結した包括協定および同年11月に締結した共同研究基本契約に基づき、国立がん研究センター先端医療開発センターおよび同センター東病院と、PCCTの日本で初めての実用化に向けた共同研究を開始しております。

 ディープラーニング技術を用いて設計された画像再構成技術「Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)」についてはCT、MRI、PET-CT装置に搭載しました。さらに2021年度はプレミアムクラスの超音波診断装置へも効率的な検査をサポートするディープラーニングを活用した技術を搭載しました。

 眼科診断機器においては、今後も成長が見込まれる光干渉断層計(OCT)の分野で、造影剤を使用しない検査で網膜血管描出を実現するOCTアンギオグラフィーで業界最大(2021年12月現在)の広角撮影を実現し、激化する市場競争に対応しております。今後も、精密加工技術、生産技術、センサー技術や画像処理技術など様々なグループ総合力を医療機器の製品開発や製造・サービスに活用することで新たな付加価値を産み出し、更なる医療貢献を果たしてまいります。

 コンポーネント事業においては、新型コロナウイルス感染症に対するワクチン接種の普及などから、2021年は経済活動の再開に向けた動きが各国で見られ、半導体部品等を含む製品の需要増加に伴い、半導体部品等の供給が世界的に逼迫しました。当事業にも大きく影響を及ぼす中で、同感染症対応に高い需要が継続したX線回診車用のデジタルラジオグラフィ(DR)製品の生産を維持し供給することで医療現場に大きく貢献しました。

 

インダストリアルその他ビジネスユニット

 半導体露光装置市場では、新型コロナウイルスの影響による長期的な景気回復時期の不透明感に加え、貿易摩擦激化による投資への影響等が懸念されてきましたが、その影響は軽微に留まり、メモリーやロジック向けを中心に露光装置の設備投資は全分野で堅調に推移しました。後工程露光装置の市場では、半導体チップの高集積化・薄型化への要求の高まりを受け、TSV(Through-Silicon Via)技術等によるメモリーの大容量化やウェハレベルパッケージング化などへの設備投資が伸長しました。

 当社では、多様化する半導体アプリケーションに柔軟に対応するため、顧客要望を製品開発の初期段階から反映させる「デザインイン」型のビジネススタイルが定着しております。高付加価値製品の開発も順調に進んでおり、急速に普及が進むIoTや車載向けなど幅広い分野に向けた製品を展開しております。メモリー向けでは、業界最高水準の生産性と重ね合わせ精度を実現したKrFスキャナー「FPA-6300ES6a」、ならびにi線ステッパー「FPA-5550iZ2」の継続的なアップグレードで、更なる市場シェアの拡大を目指してまいります。i線においては、化合物半導体などのデバイス製造に対応し、半導体製造に必要な総コストの指標であるCoO(Cost of Ownership)を低減した「FPA-3030i5a」をラインアップに加え、多様な半導体デバイスに対応してまいります。後工程露光装置では、大型四角基盤への対応と高い解像力を両立した「FPA-8000iW」により、データセンター向けCPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)などの低消費電力化を実現する有機基盤を使用したPLP(Panel Level Packaging)において、高い生産性を求めるユーザーのニーズに応えてまいります。また、ナノインプリント半導体製造装置は、量産展開に向け準備を進めております。

 FPD露光装置市場は、2020年の新型コロナウイルス影響により2021年へ先送りとなっていた設置の進展に加え、巣ごもり需要等の市場ニーズへの対応もあり、引き続き活況となりました。

 PCやタブレット等のITパネル/TVパネルの逼迫や、フォルダブルディスプレイなどアプリケーションの拡大に向けた動きの加速を受け、各メーカーの設備投資は堅調に推移しております。

 薄型の普及が進むTVパネル市場は今後、大型化、4K/8Kの高精細化に加え、有機ELに代表される高品位なディスプレイに移行していくと予想されています。当社は第8世代ガラス基板で、高品位な65型パネルを一括露光することにより高い生産性を実現したFPD露光装置「MPAsp-H1003T」で市場のニーズに応えてまいります。また、次世代ディスプレイ製造に不可欠な更なる高精細化のニーズに応えるべく、中小型向け露光装置「MPAsp-E903T」により多種多様なパネル生産に貢献し、更なるシェア拡大を目指してまいります。

 有機ELパネル製造装置市場においては、当社が圧倒的シェアを持つ中小型パネル向け有機EL蒸着装置の競争力を堅持するとともに、大型パネル向け装置の開発を進めてまいります。

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