当社は愛媛大学発の医工連携ベンチャーとして、「熱」により腫瘍を治療する医療機器の研究開発を目的として、平成15年に設立されました。
これまで当社は、約60℃付近の領域の「熱」が難治性腫瘍の治療に有効であることを明らかにし、その治療原理を応用した医療機器を研究開発及び製造販売する事業を展開しております。
事業の系統図は以下のとおりであります。
(1)熱によるがん治療の歴史
古来より、マラリアなどで高熱を発したがん患者が、自らの高熱によりがんが縮小したとする伝承はありましたが、近代的なハイパーサーミア(温熱療法)の概念の最初は1866年ドイツの医師W.ブッシュによる「高熱による腫瘍消失」の報告にあると考えられます。
その後、1900年頃にアメリカの医師W.B.コリーが細菌毒素による局部加温を試み、1960年代後半から欧米にて実験的研究が相次いで開始・発表され、癌に対する「熱」の効果や、有効な加温方法などが明らかにされてきました。
(2) 熱による治療の位置づけ
現在では、3大治療法(外科的切除、放射線、抗がん剤)では十分な治療効果が得られない場合の新たな治療法の選択肢として「熱」や「免疫」などが有力視されている一方で、特に「熱」については、未だ十分に研究されているとは言い難い状況です。
そこで当社は、新たな治療選択肢として「熱」の応用を研究し、それを実現する医療機器の研究開発を行なって参りました。
(3) 当社が提案・提供する「低温焼灼治療」について
腫瘍組織が健常組織に比べ「熱」に弱いことを利用するのがいわゆる「温熱療法」と呼ばれる治療法です。長い歴史があり、古来はたいへん原始的な方法でしたが、近年は癌細胞が死に始めるとされる43℃を狙った治療(ハイパーサーミア治療)や、逆に100℃を超えるような高温で一気に焼灼するアブレーション治療(マイクロ波治療やラジオ波治療など)が臨床応用され、普及して来ました。
いずれの方法も一長一短があり、また人体に高周波や電流を通電する点は共通ですが、当社の方法はそれらとは一線を画し、人体には一切通電せず安全性と汎用性を確保し、さらに細胞の不可逆的な熱変性、入熱後の組織の自己再生、免疫の賦活、低侵襲性、他の療法との併用性などの課題を多くの動物実験等で検証した結果、約60℃付近の熱をゆっくりと患部に作用させる方法が最も適しているという結論に達しました。
そこで当社は、従来ほとんど臨床応用されてこなかったこの温度領域の治療(当社では「低温焼灼」と呼んでいます)を安全に実現するための治療機器を研究開発し、提供しております。
後述しますが、伴侶動物の治療分野では既に多くの症例に実用され、またヒトでの臨床試験や臨床研究も行っており、論文や学会発表等も多く行っております。
(4)当社の「低温焼灼」治療技術について
当社の低温焼灼治療に用いる技術は、特許化した技術を含めて発熱技術、温度制御技術、デバイス技術などですが、大きく分けて以下の2通りがあります。
①交流磁場誘導発熱技術
②微細電気抵抗発熱技術
上記いずれの技術も以下の重要な特徴を有しております。
Ⅰ体内に一切通電せず本質的に安全であること
Ⅱ焼灼温度のコントロールが可能であること
Ⅲ複数針の同時使用が任意で、焼灼範囲のコントロールが可能であること
これらの特徴は、他の機器との比較優位性を有しております。
まず①の技術を使った例として、愛媛大学医学部で探索的治験を終えたヒト子宮頚部高度異形成を対象とした機器があります。これは磁性金属をインプラント型にして患部に穿刺し、外部アプリケータからの交流磁場により誘導加熱(IH)の原理で遠隔発熱させ、患部を一定時間(10分間)約60℃に保持して治療するものです。
また、②の技術を使った技術として、対象の腫瘤を目視または画像描出し、温度制御機能が付いた微細径の自己発熱針を穿刺し、患部を一定時間約50℃~99℃に保持して治療するものです。具体例として既に農林水産省から受理され製造販売中の動物用焼灼治療機器(AMTC200)があります。外科的切除術が適応にならない場合を中心に、全国の約150施設の動物病院で実用されており、症例数は延べ2,000例ほどになっております。
さらに自己発熱針を超微細化し、かつ免疫剤などの薬剤を同時に注入できる機能を備えたヒト用デバイスも開発しており、再発進行癌を対象とした医師主導臨床研究では優れた局所制御率を示しております。
(5)具体的な治療について
① ヒト子宮頸部高度異形成を対象とした臨床試験(治験)
外科的切除以外に有効な医薬品がなく、放射線も適用されないヒト子宮頸部高度異形成(前がん病変)は、従来の外科的切除術では子宮頸部の機能を損傷し妊娠出産や周産期に悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。そこで子宮頸管を短縮せず、かつ病変を消失させる治療法として、当社の装置による医療機器探索的治験が愛媛大学附属病院産婦人科にて終了しました。
その結果、全症例とも高度異形成が消失し、かつ明らかな有害事象も認めないとの結果を得ました。
② 伴侶動物(獣医療分野)への展開(上市済み)
もはや家族の一員となったペットの罹患率は、ペットの寿命が伸びたことなどの理由から増加しており、その治療ニーズは高まっています。そこで当社は、自由診療が前提となっている動物病院の経営に配慮した低コストな動物用治療機器(商品名AMTC200)を農林水産省受理のもと上市済みです。当該機器の奏効率が約7割であるとの学会報告もなされております。多くは、進行症例で用いられますが、患部が退縮することで高いQOLが得られます。
上の症例は犬の下顎に発生した悪性腫瘍です。いちど外科的切除で取り除きましたが再発したため、AMTC200による治療が選択されました。再発であることからステージは進行しており、その後も再発を繰り返しましたが、その都度当社の治療で腫瘍は退縮し、別の原因(心疾患)で死亡するまで高QOLを維持し続けました。外科的切除や放射線、抗がん剤などのいわゆる標準的な3大治療法は、いずれ限界がきてしまい適応から外れてしまうことが多いのですが、この症例のように、再発など進行したステージにおいても繰り返しの治療が可能である点も特長となっております。
③ ヒト再発・進行がんへの展開
ヒト再発進行がんの場合、外科的手術・放射線・抗がん剤のいわゆる3大治療法が適応外になることがあり、その場合「免疫」や「熱」による治療が選択されることがあります。「免疫細胞療法」は、近年急速に進化したiPS細胞療法などの再生医療に分類され非常に期待されていますが、免疫細胞療法単独では、局所の腫瘍を退縮させる効果には限界があるとされています。そこで、当社の「熱」による局所制御と、全身的な療法である「免疫細胞療法」を併用することにより、進行がんの治療効果を高める臨床研究を行いました。
その結果、標準的治療が終了した再発進行がんの局所制御において、有効性・安全性ともに非常に良好な成績を収め、論文にもなりました。
(6)当社の収益モデルについて
① 薬事認可による収益
前述の如く、当社は動物用医療機器を上市済みです。また、第1種動物用医療機器製造販売業の許可のほか、ヒト用医療機器製造業許可、ヒト用の高度管理医療機器販売業・貸与業の許可、並びに動物用高度管理医療機器販売業・貸与業の許可もそれぞれ取得し、ヒト用・動物用ともほぼ全ての品目の販売等が可能になっております。
これらの薬事認可による収益を事業の柱の一つとしています。
② 機器の製造販売等による収益
当社が自己開発もしくは共同開発した医療機器等を製造・販売します。当社の属するいわゆるライフサイエンス分野は医薬品や医療機器をはじめ、健康福祉やサプリメントまで含め市場が非常に大きく、また世界的にも伸び続けています。
そこで当社は、事業のコラボレーションが期待できる企業や大学等と積極的に提携し、共同研究開発や委託製造などを行っております。
なお、当社のヒト用の低温焼灼装置が認可された後は、加熱針が患者ごとの使い捨て(ディスポーザブル)となるため、安定した売上利益が見込めます。
③ 自由診療や有償臨床研究による収益
とくに海外では我が国のような国民健康保険制度がない国がほとんどであり、当該国での認可後は自由診療による収益が可能となります。
また、我が国でも臨床研究等においては機器類の有償提供が認められる場合があり、それらは当社の収益となります。
(用語解説)
用 語 |
意 味 ・ 内 容 |
臨床試験(治験) |
各国の薬事承認の取得を目的として、未承認の医薬品候補や機器をヒトに投与または使用して臨床的データを収集し、安全性や効果(有効性)を検証する試験のことです。 |
アブレーション治療 |
アブレーションとは取り除く、という意味ですが、高周波などの物理的手段により患部を焼き切る(焼灼する)ことを指す場合もあります。 |
不可逆的変性 |
一度変性すると決して元には戻らないことをいいます。 |
免疫賦活 |
免疫を活発にする(活性化する)ことです。 |
低侵襲性 |
身体に及ぼす物理的負担や影響が小さいことです。 |
化学的療法 |
化学物質(抗がん剤等)を用いてがん治療を行なうことです。 |
磁性金属 |
磁性を帯びた金属のことです。 |
インプラント |
例えば人工関節のように、体内に留置される器具のことです。 |
磁場誘導 |
電流を流すとその周りに磁界が発生する現象ですが、逆に磁界をかけると導体に電流が発生し、その電気抵抗で導体が発熱します。 |
免疫細胞療法 |
ヒトや動物が本来持っている免疫細胞の機能を様々な方法で高め、その活性化された免疫細胞にがん細胞を攻撃させる治療法です。 |
異形成(異型細胞) |
がん化した、とまではいえませんが、明らかに正常細胞ではない状態に変化した細胞または組織のことです。 |
罹患率 |
発生率ともいい、一定期間に発生する患者数(罹患者数)が全人口に占める割合のことです。 |
QOL |
QOL(Quality of Life)は、「生活の質」と訳され、人間らしく、満足して生活しているかを評価する概念のことです。 |
iPS細胞療法 |
iPS細胞とは、どんな細胞にでも分化できる「万能細胞」のことで、それを使って行なう再生医療などを総称してiPS細胞療法と呼ばれています。 |
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