文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものであります。
(1) 経営方針
当社は、優れた特性を持つダイヤモンドの広い応用によって、様々な分野でのイノベーションの創出を進め、地球規模での地球環境維持や社会問題の解決を通じ、世界への貢献を目指しています。
当社で活動する従業員が、健康で充実した日々を送れるよう、様々な施策を講じています。また、株主や顧客、取引先などのあらゆるステークホルダーへの責任を果たすことを、経営方針としています。
(2) 経営環境等
当社の事業は、基本的には人工合成のダイヤモンドを販売する材料ビジネスですが、ほとんどがダイヤモンドの新しい応用を目指す分野に向けられています。天然のダイヤモンドは形状や組成が広い応用に適さないことから、人工合成のダイヤモンドを使った開発が進められています。また、伝統的な分野である宝石についても、人工合成への転換が進んできており、これに伴って多数の企業が設立され、活発な市場環境となっています。
工具用素材としての利用は、既存市場と言えますが、その市場規模は安定的であります。しかしこの市場は種結晶や基板及びウエハの市場と比較して低い価格水準であり、当社が幅広く参入する環境ではありません。宝石及び工具用素材以外の応用については、未だ創成期にあるため市場規模が小さく、個々の案件ごとの対応になっております。2インチウエハなどのインパクトのある製品が実用化できれば、大きな展開が可能となると考え、開発に注力しております。
現在製品を供給している分野について、市場環境を以下に示します。
①人工ダイヤモンド宝石製造用の種結晶市場
a.人工宝石の製造と市場
人工ダイヤモンド宝石は超高圧合成法と気相合成法によって製作されるダイヤモンド宝石です。ダイヤモンドとしては、天然に比べ不純物が少なく純粋で、無色だけでなくピンク、ブルー、イエロー等の色がついたものも発売されています。Bain and Companyの「The Global Diamond Industry 2020-2021」によれば、人工宝石は600~700万カラット(2020年)生産されており、その内の300~400万カラット以上(2020年)が気相合成法により製造されていると報告されております。また、全ダイヤモンド生産が1.1億カラット(2020年)とされていますので、既に5.5~6.4%が人工合成になっていると推定でき、人工ダイヤモンド宝石市場は今後、毎年15%~20%の成長率があると見込まれます。
気相合成法で作る人工ダイヤモンド宝石は、種結晶を用いて製造されており、人工宝石製造会社等や宝石販売会社等を通じて一般消費者の手に渡っています。
b.必要とされる種結晶の製造
この気相合成法で製作している宝石は、製作するに際して種結晶が必要とされます。通常は0.2mmないし0.3mm厚の薄い単結晶を種結晶として使用します。
気相合成法では、結晶の成長は厚さ方向のみ成長するため、面積方向の成長がほとんどありません。このため、成長によって種結晶の形状からの拡大が無く、最も一般的なブリリアンカットの宝石では、厚さと形状の関係が一定であるため、種結晶形状が宝石の大きさ(カラット数)を決定します。
このように、種結晶のサイズが、最終的に宝石となるダイヤモンドの大きさを決めるため、大きな宝石の製造を目指すには、大きな種結晶が必要となります。
人工宝石市場では、大型宝石の出荷が活発となっています。天然ではほとんど市場に出ていない5カラット以上の宝石を目指す動きもあって、当社は大型種結晶のニーズがあると見込んでおります。当社は5x5mm~10x10mmの広い範囲の形状を持つ種結晶を製作できます。現在では成長装置を数100台も保有する人工宝石製造会社が複数あり、これらの会社が必要とする月当たりの種結晶は1,000個を超える場合もあります。このような大量の種結晶を、品質の揃ったものとするためには、生産技術の安定が必要です。
c.種結晶ビジネスの競合
当社は種結晶を独自技術により製造し人工宝石製造会社等に販売しておりますが、当社の販売先である人工宝石製造会社の一部が、成長した結晶を薄く切断して、その表面を研磨することで、種結晶を製作しています。その場合には、当社と競合することになります。このやり方の製造コストは、現時点では当社より高いと判断しております。
②基板及びウエハ
ダイヤモンドの優れた半導体特性を生かすデバイス開発に必要な、基板やウエハを供給しています。ウエハについては、未だ市場ができていないものの、ウエハの研究開発用に各国の研究機関や企業に販売しています。最終的には、2インチ以上の口径を持つウエハが必要ですが、現時点では基礎研究段階であり、10x10mmを最大とする単結晶基板もしくは、25x25mmまでのモザイク結晶基板を販売しています。当社は、単純な基板だけでなく、結晶方位、基板上に半導体層を形成したエピ基板、結晶品質を制御した基板等の多様な要求に対応できる製品群があります。当社はモザイク結晶で大型化の先頭に立っており、ウエハ市場の創成をけん引して参ります。
③光学部品及びヒートシンク
ダイヤモンドの持っている高熱伝導率や、光やX線を透過する特性を利用し、デバイスの除熱や、各種測定器などに利用されています。
5Gシステムに代表される先端通信分野では、高発熱デバイスの使用が必要で、熱を除去して安定的なデバイスの動作をするため、ダイヤモンドの利用が進んでいます。また、検査機器で使用するX線発生装置の小型化に伴い、X線を透過する窓としての利用が開始されており、当社製品が使用されています。これまでの市場は、散発的に開発される部品の供給にとどまっていましたが、X線用窓が量産に移行した等の新しい動きがあります。当社が狙って開発している光学部品には、一定の市場が見通せるものもあります。
④工具素材
ダイヤモンド単結晶を利用する切削、耐摩耗工具は、相手材料が限定され、特殊な加工に限られています。また、工具素材の全市場では、ほとんどが超高圧合成単結晶を使用しています。超高圧合成単結晶のサイズが限定されていることから、当社の大型結晶への要求があります。なお、工具素材については、積極的に販売拡大を行わない方針であります。
(3)目標とする経営指標
当社は先端技術を使っている製造業であり、製造設備への投資を継続的に行っていく必要があります。このために、高い利益率を維持し、確固たる資金調達手段を保持することが重要と考えられます。このような観点から、主な経営指標として、以下の経営指標を重視しております。
①売上高成長率
②経常利益率
③ROE
④自己資本比率
(4) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当社は、優れた物性を兼ね備えるダイヤモンドを広く利用できるように、その特性が発揮できるダイヤモンド単結晶を供給しておりますが、将来の半導体応用を大きな目標としており、当該目標を達成するために、以下の事項を課題として認識しております。
①市場開拓・市場規模
当社が対象とする市場は、新しいか、もしくは市場の形成過程にあります。従って、市場情報が不足しており、市場の立ち上がりやその後の市場規模等に関する情報をどのように入手、推定し、経営判断に活かしていくかが課題と認識しております。
②技術開発
技術的なアドバンテージが今後の事業展開で大きな役割を果たしますので、技術開発力を増進するための、研究開発テーマの選別や研究開発計画の実行・管理等に対する経営的な判断を誤らないようにすることが課題と認識しております。
③人材強化
組織を上場会社として必要な体制とするため、リーダー層の充実と、それぞれの部署のスキルを持った人材が必要であります。人材の獲得と教育の両者をバランスよく進めるための施策を講じることが課題と認識しております。
④生産体制の強化
当社の最大の規模である種結晶ビジネスは、非常に速い変化が見られ、ユーザーからは増産の要求が来ています。設備投資が遅れて、生産能力の拡大が間に合わない事態にならないよう、タイムリーな設備投資計画の実行に必要な経営資源の確保に努めることが課題と認識しております。
⑤資金調達
事業規模が次第に大きくなってきており、必要な設備投資額は以前に比べると拡大してきております。タイムリーな設備投資計画の実行に必要な資金調達を実行することが課題と認識しております。
⑥他社との提携等
当社の経営資源には限りがあることから、事業進捗のスピードアップを目的として、部分的に他社との提携等に取り組んでおりますが、効果的・効率的な他社との提携等を企画、交渉、運営する人材や組織の整備が課題と認識しております。
⑦経営陣の高齢化と後継者の育成
当社の経営陣の高齢化が進んでおり、経営陣の後継者の育成が課題と認識しております。
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