人工ダイヤモンドは宝石や研磨剤として広く使われています。1955年に超高圧合成法(注1)による人工合成技術が開発され、1981年には気相合成技術が開発され、各種の応用に人工ダイヤモンドが使用されています。宝石については、天然ダイヤモンドが使用されてきましたが、10年ほど前から人工ダイヤモンドが出始め、今では相当量の人工宝石が宝石店やネットで販売されております。このような人工宝石を、LGD(Laboratory Grown Diamond) と呼ばれ、既に欧米のみならず中国やインドでも、市場における認知が進んでおります。
当社はこの人工宝石を製造する手法の一つである気相合成法において、宝石を成長させるための元となる「種結晶」を主要製品として、販売しております。この種結晶を成長させて原石を作り、これをカットと研磨を行い、宝石を作ります。最終的には宝飾品に加工して、消費者に届きます。従って、当社は、LGD市場のサプライチェーンにおいて、最上流のポジションに位置しております。当社は産総研の開発した大型ダイヤモンド結晶製造技術を移転し、それによって種結晶を製造し、人工宝石を製造する企業へ販売を行っております。
当社の販売しております種結晶は、5x5mm~11x11mmの正方形で、厚さが0.2mmや0.3mmの薄い板であります。人工宝石製造会社は、これを気相合成法によって、3~8mmの厚さまで成長させます。成長しますと形状としては粒状の宝石の原料となる結晶(原石)が出来あがります。このような結晶を、カットし研磨しますと、ルース(裸石)になり、これを宝飾品に取り付けます。当社のユーザーは原石を作っている企業でありますが、多くの場合、原石を製作する企業は、ルースまで製作し、宝飾業者や宝石店に販売しております。
当社は種結晶は直接もしくは商社を通じて人工宝石製造会社等に供給し、そこでできた宝石は、直接もしくは宝石販売会社等を通じて消費者に販売されております。一方、当社の生産技術は、産総研が開発した手法を元にしており、この技術の知的財産権は産総研が有し、当社は特許等実施許諾契約(契約期限2023年10月31日)を締結しており、当該契約に基づき、他の製品を含み、販売した製品金額から算出した実施料を、産総研に納入しております。
当社のこのような事業は、グローバルに展開していますが、その事業系統図を以下に示します。
当社種結晶の事業系統図
宝石や研磨剤は、粒状のダイヤモンドを利用していますが、電子部品や光学部品等として利用する場合は、通常は板状の材料を使用しております。当社は、ダイヤモンドの単結晶を、ガスから成長させる人工的な手法で製作し、これを電子材料の分野などへ工業材料として販売しております。板状の単結晶ダイヤモンドを製造できることが大きな特徴です。これによって、砥粒分野以外の応用分野にとっては適用しやすいとともに、当社が採用する気相合成法以外の他の製造手法や競合他社に比べ大型の単結晶が製造できるという、優位性を持っております。
現在では、当社の製品は、次第に一般的になってきている人工宝石生産に用いる元となる結晶(以下、「種結晶」という。)、ダイヤモンドを半導体材料として様々なデバイス(注2)へ使うための基板、高発熱のデバイスを冷やすための材料(ヒートシンク)、原子レベルまでの精度が要求される精密加工切削工具等の分野において利用されております。当社はこれ等の分野へ製品を開発し、出荷しております。人工宝石を製造するための種結晶が、主要な製品となっており、2022年3月期売上高の93.0%を占めております。
ダイヤモンドは硬度が最も高いことから、従来から、石材などの硬質材料を切断、研磨する砥石として広く使われており、このための微小(0.3mm以下のもの)なダイヤモンド砥粒(注3)も、従来から一般的に人工合成技術によって作られておりました。一方で、ある程度のサイズを持ったダイヤモンド単結晶は、宝石としては多くの人の目に入るものですが、切削工具や光学部品として、工業用にはごく少量しか使われておりませんでした。最近になって、人工合成手法によって、ダイヤモンド宝石材料を製造する技術が完成し、大量の生産が行われるようになりました。当社のダイヤモンド単結晶は、この製造において重要な役割を果たす種結晶として使用されております。
当社のダイヤモンド単結晶製造技術は、産総研によって基本技術が生み出され、当社がこれを実用化するために、数々の開発を進めてきました。産総研はこの技術について基本的な知的財産権を持っており、当社は「産総研発ベンチャー」としてこれらの知的財産権の独占的実施権を有しています。
なお、当社はダイヤモンド単結晶の製造、販売、開発事業の単一セグメントであるため、セグメントごとの記載はしておりません。
(1) 当社の製造技術
①ダイヤモンドの人工合成技術
ダイヤモンドは一般には天然に産するものと考えられていますが、現在使用されている工業用ダイヤモンドのほとんどは人工合成で製作されています。ダイヤモンドの人工合成法は1955年に超高圧合成法が確立し、その後当社が採用する気相合成法を含む他の2種法が登場しました。
この中で気相合成法は、メタンなどの炭素を含んだガスを、何等かの手段で活性化し、1,000℃程度の温度でダイヤモンドを生成する方法であります。1981年に、日本の無機材質研究所(現在の研究開発法人物質材料研究機構)が発表して、その後多くの研究者が取り組んだ手法です。気相合成法とは物質形成手法の一つで、基本的には気相(ガス)から物質が生じる現象を利用します。気相へ元素を取り出す方法が2種類あり、物理的な手法(Physical Vapor Deposition ; PVD)と、化学的な手法(Chemical Vapor Deposition ; CVD)の2つに分類されます。この内、CVD法のみでダイヤモンドを生成することができます。
CVD法では、ガスを原料として使用し、温度を上げる方法やその他の手段により、目的の物質を作り出すための反応を促進します。ガスの活性化の手段の一つが放電現象によって発生するプラズマ(注4)であり、プラズマを利用することで、目的の物質を作り出すことが可能であります。当社は、ダイヤモンドを成長させる手段として、プラズマを利用する「プラズマCVD法」を使用しております。
プラズマCVD法以外のいずれの手法でも、金属やセラミックス上にダイヤモンドを形成できますが、その場合は多結晶(非常に小さい単結晶粒子が固まったもの)のダイヤモンドとなります。単結晶のダイヤモンドを生成させるには、ダイヤモンド単結晶の上に成長させることが必要です。CVD法の中には、成長したダイヤモンドに、金属などの不純物が結果的に混入してしまう手法があります。当社のような単結晶を利用する製品用途では、純粋なダイヤモンドを成長させることが必要で、そのために成長させるための手法は限定されます。また、厚さ方向への成長速度が速すぎると、結晶が乱れることがあり、成長速度を制御できることも重要な要素です。
不純物の混入がほとんどなく、成長速度を制御できる方法は、プラズマCVD法です。この方法は、反応ガスを放電などで生成するプラズマによって分解するもので、プラズマ生成手段は色々ありますが、当社は、代表的には2.45GHzの電波であるマイクロ波(注5)を採用しております。
各プラズマ発生源(装置)がダイヤモンド成長にとって有効であることは確かめられていますが、安定性と不純物制御の観点から、当社はマイクロ波を選択しています。使用できるマイクロ波の周波数は電波法などで管理されており、2.45GHzもしくは915MHzを使うことができます。当社は現在、2.45GHzのマイクロ波を使った装置で、ダイヤモンドを成長させています。この装置では、概ね直径5cmの領域に、ダイヤモンドを形成できることが知られています。この装置の大きな特徴は、長時間の運転を安定して行うことができることや、数mmといった厚いダイヤモンドを製造することができることであります。
②ダイヤモンド単結晶を成長させる技術
単結晶とは、一つの結晶(構成する分子が規則正しく並んでいる状態)でできているもので、天然に産するダイヤモンドはほとんどが単結晶です。多結晶は、微小な単結晶が集まったもので、結晶と結晶の隣り合う部分は結晶粒界と呼ばれています。
ダイヤモンド単結晶を、CVD法のダイヤモンドが成長できる条件下に置くと、その上を覆うように単結晶が積み上がってきます。成長させるための結晶を「親結晶」と言い、成長した結晶を「子結晶」と称します。成長した子結晶は、成長させた親結晶と同じ原子配列となるので、成長後には一体の単結晶となります。成長装置としての限界はありますが、数mmといった厚さまでの成長は、各種の成長装置で実現しています。
単結晶の成長速度は1時間当たり1µm~20µmとされています。つまり、1mm程度の厚さを作るのに、50時間(20µm/時間)~1,000時間(1µm/時間)が必要な成長速度です。成長速度によってでき上がった結晶の特性は変化し、遅い成長速度である程、高品質の結晶が得られます。成長速度が遅ければ、成長に要する製造コストは高くなります。従って、求められる結晶品質によって、成長の条件を選択することが重要です。
気相成長した結晶の品質は、成長速度だけで決まるのではなく、混入する不純物や子結晶を成長させる親結晶の品質によっても左右されます。不純物としては窒素(N)が代表的な元素ですが、成長中の反応ガスに含まれる窒素濃度が変化すれば、広い範囲の結晶品質の変化が見られます。高窒素濃度の成長では、見た目にも黒くなり、結晶品質が悪くなります。また、親結晶に結晶欠陥が多数あると、成長した結晶にこの欠陥が引き継がれます。引き継がれる程度は、成長条件によってある程度制御は可能ですが、よりよい親結晶を使うことは、よりよい子結晶を成長させることになります。また、同じ成長条件で同じ親結晶を使っても、成長前の親結晶の表面が汚れていれば、それが子結晶の品質悪化の原因ともなります。
多くの半導体材料(シリコン、ガリウムひ素、炭化ケイ素等)は、小さな種結晶を成長させて大きくしており、シリコンの場合では30cm(12インチ)の直径を持つ単結晶ウエハも製作できます。ダイヤモンドの気相からの成長では、この様に結晶の面積を拡大する方法は見つかっていません。すなわち、あるサイズの親結晶から成長させても、親結晶のサイズより大きくはならず、ただ単に厚さが増すだけです。従って、ダイヤモンド単結晶の成長では、必ず最終的に必要なサイズの親結晶を使う必要があります。
単結晶を大型化するには、結晶の成長方向を変えて、繰り返し成長することが唯一の方法です。当社でも4x4mm程度の小さな元結晶から、成長させる方向を6回ほど変更することで、12x12mm以上の面積を持つ大型単結晶を作製しています。しかし、この手法を使っても、装置内でダイヤモンドが成長できる大きさには限界があり、作製できる形状も限られます。また、複数回の成長を繰り返すため、大型結晶にするには非常に長時間の成長を安定的に行うことが必要です。
このようにして成長したダイヤモンドは、原子の配列が完全なダイヤモンド単結晶であり、不純物を少なく制御できれば、純粋なダイヤモンドとなります。宝石として使用されている天然ダイヤモンドのほとんどは、0.2%程度窒素を含有していますが、上記のように製作したダイヤモンドは、窒素量を0.0001%以下(1ppm)まで制御することが可能です。純粋で欠陥の少ないダイヤモンドほど、宝石としての価値も高くなりますが、高品質が必要となる半導体材料や光学材料としても適した性質を実現しています。
③当社の大型単結晶製造技術
当社は産総研の技術を基にして、量産技術を確立してきました。産総研の開発した大型単結晶の製造技術は、以下の2つの特徴ある技術によって構成されており、その特許を産総研が保有しています。
a.イオン注入法(注6)を用いた、成長した単結晶の親結晶からの分離技術
b.モザイク結晶の製造法(複数の単結晶を接続し、大面積の疑似単結晶を製作する技術)
以下、これらの技術について概要を説明します。
a.イオン注入法を用いた、成長した単結晶の親結晶からの分離技術
上記のように、ダイヤモンド単結晶上にダイヤモンド単結晶を成長させると、一体になった単結晶ができます。親結晶と子結晶は、同じ結晶であるので境界は存在しません。子結晶を親結晶から剥がさなければ、親結晶をもう一度使うことができません。ダイヤモンドの切断は、レーザーによって行うことができるため、成長したダイヤモンドをレーザーによって切り離すことが考えられます。
数mm程度の小型のダイヤモンドをレーザー切断するのは短時間で可能で、大出力のレーザーも必要ありません。切断部分が10x10mmといった大きさになると、レーザーがダイヤモンドに入り込む深さが限定されますので、切断に非常に長時間を要します。このことによって、切断コストが高くなるだけではなく、工業的に切断できる大きさに限界があります。ダイヤモンドデバイス生産で要求されているのが2インチ(5cm)ウエハと呼ばれる円盤状のダイヤモンド単結晶で、この場合は直径5cmを横に切る必要があり、実現はかなり難しいと考えられています。そこでレーザー切断以外の方法で、以下の図に示す成長した結晶を切り離す技術を開発しました。
親結晶からの分離技術
その方法は、イオン注入を用いて、切り離す方法です。イオン注入は、非常に高いエネルギーに加速したイオンを、物質表面にぶつける手法で、半導体デバイスの製造などで使用されています。この方法で注入したイオンは、表面から侵入して、イオンが止まった部分で結晶を崩し、欠陥が多い領域を作ります。しかし、最表面はイオンが通過することができるので、結晶は崩れておらず元の整列した状態を維持できます。どのような深さまで侵入するかは、イオンの種類、イオンのエネルギー、注入する相手物質の結晶構造によって異なります。
ダイヤモンドの場合は、C+(炭素原子の電子が一つ少ないイオン)を使ってイオン注入することで、不純物の心配がなく処理が可能です。1MeV(メガエレクトロンボルト;1,000,000Vの電圧で加速した状態)のC+イオンは約1.2µmの深さに侵入し、その周辺の結晶を崩します。上記のように、これでも最表面は結晶が元のきちんとした整列状態を維持しています。
マイクロ波プラズマCVD法で、このイオン注入した結晶の表面にダイヤモンドを成長させると、最表面の結晶が崩れていませんので、ダイヤモンド単結晶が成長できます。所定の厚さまで成長させた後でも、この親結晶と成長した結晶は、離れていません。これを、電気化学的な手法を用いて、結晶が崩れた薄い部分を除去します。そうすると、先に成長したダイヤモンドが親結晶から分離して、板として取り出すことができます。
イオン注入によって結晶が崩れる部分は、わずか1µm程度の薄い層ですので、エッチングによって喪失する部分はごくわずかです。従って、親結晶はこの分離作業が完了した時、イオン注入前の形状と同じ状態となります。その表面に再度イオン注入を行って、同じような手順で新たな子結晶を作製することも可能です。分離した子結晶は、基本的には親の結晶と同じ形状ですので、板状です。厚さは成長時間で制御できますので、必要な厚さまで成長を行えばいいということです。
この手法は、面積が大きな親結晶を使っても、同じように実現することができます。すなわち、大型の親結晶が製作できれば、その後は、そのサイズを次々に製作できます。デバイスの製作を目指すなら、2インチ(直径5cm)の親結晶を開発できれば、2インチの薄い板が製作できます。
b.モザイク結晶の製造法(複数の単結晶を接続し、大面積の疑似単結晶を製作する技術)
2インチのウエハを作るために、2インチの単結晶を作る必要がありますが、これはまだ実現していません。現実的には、10x10mmの単結晶が最大級の形状であり、2インチにするためにはこれを接続して、2インチの大きさにすることが考えられます。そこで、横方向の接続方法が開発されました。
上記の分離技術を使い、同じ親結晶から複数枚の子結晶を作製します。この子結晶を横に並べ、その上にさらにダイヤモンドを成長させると、複数の子結晶は新たに成長した部分でつながります。このようにして、1個の結晶ではなく、複数個の連結した結晶を得ることが可能です。当社ではこのような連結した結晶のことを「モザイク結晶」と呼んでいます。
モザイク結晶を作る際の問題はモザイク結晶の連結部分の結晶の品質にありました。連結部分はいわゆる結晶粒界になるのですが、この状態が悪くなると、その部分に多結晶ができ、見た目にも黒い線ができます。隣り合わせる結晶は、表面の結晶方位(注7)を合わせなくては、きれいに接続できませんが、それでも微妙な結晶方向の違いが発生するために、境界をきれいにすることは難しいことが知られています。
産総研の開発した技術は、以下の図に示すように、複数個の結晶を同じ親結晶から、上記の技術を使って分離します。
モザイク結晶の製作技術
同じ親結晶から複数個の結晶を作ることで、結晶面の揃った複数個の結晶を得ることができます。これを横に並べ、その上に成長させることによって連結し、境界がきれいなモザイク結晶を得ることができます。以下の図(30x30mmのモザイク結晶の写真)はこのような当社のモザイク結晶の例であります。9個の約10x10mm単結晶が接合され、30x30mmの大きな一つの結晶として扱うことが可能であります。
30x30mmのモザイク結晶の写真
④生産プロセスへの適用
当社の生産プロセスの全容は、以下の図のとおりであります。
当社の生産プロセス概略図
当社の生産技術で重要なことは、作製したモザイク結晶を使って、親結晶からの分離技術を使い、同じサイズのモザイク結晶を作ることであります。いわばモザイク結晶の複製を続けることで、多くの同じサイズのモザイク結晶を製作しております。結晶粒界の内側は、単結晶であり、その部分を切り取れば、単結晶の製品とすることができます。
モザイク結晶を親結晶として、親結晶からの分離技術によって、比較的薄い板を製作します。製品ごとにダイヤモンドの厚さへの要求は異なりますが、厚い場合はこれを積み増して、所定の厚さとします。
所定の形状への切断は、レーザーで行っています。丸や四角形等の形状を、数10µmの長さ精度で切り出すことができます。製品によっては表面の研磨が必要で、当社はスカイフ(注8)と呼ばれる手法で、10µm程の粒径を持った砥粒を研磨剤として使った手法を取っております。
イオン注入を用いて成長した結晶を分離する手法は、個々の単結晶を使っていると、煩雑となるため、当社は複数個の単結晶を接合したモザイク結晶を使用しています。すなわち、上図の親結晶は、10x10mmの単結晶が2~9つ接合したモザイク結晶となります。完成する薄板も、同じように2~9個の単結晶が接合したモザイク結晶を得ることができます。
親結晶は、複数回使用することが可能ですが、表面状態が悪くなれば、再研磨を行ってきれいな表面に仕上げます。何度かこれを繰り返すことができ、一つの親結晶から20個以上の子結晶を得ることも可能であります。しかし、永久に親結晶を使えると言う訳ではなく、ある程度使用しますと割れたり、大きな欠陥が入ったりしますので、そのような状態になれば、親結晶としての使用を止めます。
親結晶は常にイオン注入する面の状態を、良い状態にすることが必要であります。イオン注入を経て、分離が終わると、新しい子結晶の特性は、親結晶の表面状態の影響を強く受けます。親結晶の管理は、当社製品の特性を良好に保つために、重要な管理項目であります。当社は単結晶製品を大量に製造していますので、このモザイク親結晶を多数保有し、これらを次々に生産プロセスに投入し、分離したモザイク子結晶材を使って製品を製作しております。
成長はマイクロ波プラズマCVD法と呼ばれる手法で、安定的に良質の単結晶を成長させることができます。成長を薄い状態で止めれば、薄い素材ができます。また、一旦分離した素材をさらに積み増して、厚い素材を作ることもできます。現在のところ、製作できる結晶の厚さや大きさは、以下のような範囲です。
a.大きさ:1x1mm~30x30mm(モザイク結晶を含む)
b.厚さ:0.03mm~3mm
モザイク結晶を構成する基本的な単結晶は、ほぼ10x10mmですので、単結晶で製作できる最大の大きさを10x10mmとしています。それ以上の大きさの場合は、複数個の単結晶を組み合わせたモザイク結晶です。
(2) 当社製品の特長
当社の単結晶は、上述の生産工程に関連して、以下に示すような特長を持っています。
①大型の単結晶
当社は、大型の単結晶を、大量に製造することができます。10x10mmの四角形の単結晶、30x30mmのモザイク結晶を製作できます。
②板状の形態
ダイヤモンド単結晶は、通常は粒子状です。用途の多くは板状で使用するため、粒子から板を切断によって製作することが求められます。これに対し、当社の単結晶は、元々板状で製作しますので、このような工程が必要ありません。このために、板状の製品を製作するコストが安くなります。
③広い厚さ範囲
当社の生産プロセスにおいて、成長させる結晶が薄いうちに(短時間で)成長を止めれば、薄板を製作できます。一方、ある程度の厚さの板を作った後で、追加の成長を行えば厚板ができます。当社の生産手法は、板厚に対する制限がほとんどないところが特徴で、板厚0.03~3mmまでの2桁の範囲の製品を生産することが可能です。
④様々な仕様の基板
ダイヤモンドデバイスの研究開発は、未だ基礎的な研究段階です。このため、研究者ごとに必要な基板が異なりますが、当社はこれに対応できる様々な仕様の基板を製品化しています。高品質の基板、半導体層を基板上に形成したもの、表面の結晶面を特定したもの、等々を生産することができます。
<用語解説>
番号 |
用語 |
意味・内容 |
注1 |
超高圧合成法 |
プレス等の装置を用いて、数万気圧の状態を作る手法をいいます。金型などを用いて、超高圧条件に置きたい物質を閉じ込め、圧力を伝える物質を通して、プレス等の圧力をその物質に伝えます。ダイヤモンドの超高圧合成法は、5万気圧で1,500℃という極限の条件で、金属中に溶けている炭素が、ダイヤモンドに変換されます。 |
注2 |
デバイス |
広義には電子機器や部品を指します。ここでは、主として動作する部品、とりわけ電子や正孔によって動作する半導体素子(論理素子、アンプ、センサー、発光素子等)を表しております。 |
注3 |
砥粒 |
硬いものを削るために、硬質物質を金属やプラスチックで固めた砥石に使用する粒状の硬質物質の総称であります。また、研磨剤として粒子のままで使用することもあります。ダイヤモンドの場合は、代表的には0.005~0.3mmの直径を持つ粒子を使用します。 |
注4 |
プラズマ |
物質の4態の一つで、気体よりもさらに高温の条件で現れます。気体の段階では分子は維持されていますが、プラズマになると、分子から電子が出るなどして、帯電粒子が生成されます。イオンも混在することで、反応が起こりやすくなります。プラズマの中にも段階によって異なる形態があり、当社が使用しているプラズマの状態は、非平衡プラズマと呼ばれております。このプラズマでは、分子と電子やイオンは温度が異なっております。プラズマの生成は、ほとんどの場合何らかの放電現象を用いております。 |
注5 |
マイクロ波 |
波長が1mm~1mを持つ電波の名称であります。周波数では300MHz~300GHzであります。加熱や通信に用いられる電波で、工業的に利用できる帯域が決まっております。広く利用されているのは電子レンジで、2.45GHzの周波数であります。ダイヤモンドを合成するために使う電波としては、この2.45GHzと915MHzの2種類があります。 |
注6 |
イオン注入法 |
イオンとは、通常の状態の原子が、電子を放出するか、余分に電子をもった状態で、+もしくは-の状態になっています。このような状態であれば、+極もしくは-極に引き寄せられます。引き寄せる電圧を高くすると、イオンは高速で移動し、高いエネルギーを持ちます。このような高いエネルギーを持ったイオンを、物質にぶつける手法を、イオン注入法と呼びます。高いエネルギーを持ったイオンは、非衝突物質に打ち込まれ、次第にエネルギーを奪われて停止します。ぶつかった部分は、イオンによって物質の結晶が壊されますが、イオンの量によって結晶の破壊程度は異なります。当社の場合には、炭素イオンを用いて、ダイヤモンドの表面から数µmの範囲にまで侵入し、ごく表面以外はダイヤモンドの結晶を壊し、カーボン状にしてしまいます。 |
注7 |
結晶方位 |
原子が整列した結晶では、並び方によって異なる面ができます。この面の向きを方位といいます。方位が異なっているということは、異なった面が対象となっているか、同じ面でも向いている方向が違っている、ということであります。ダイヤモンドの場合は、(100)面と呼ばれる面で成長し、その側面も(100)面となるようにしています。この側面の向きが異なることで、接続部の品質が低下します。方位を完全に合わせるのは大変難しいのですが、モザイク結晶の作り方はこの問題を簡便に解決できる方法であります。 |
注8 |
スカイフ |
ダイヤモンドの研磨を行う最も一般的な手法であります。鋳鉄(いもの)の円盤の上にダイヤモンドの粉末状研磨剤を油で固定します。この円盤を高速回転(数1,000回転/分)して、その上に削りたいダイヤモンドを押し付けます。ダイヤモンドの表面は、1,500℃以上の高温となりますので、ダイヤモンドの粉末で削る効果と、高温で鉄とダイヤモンドが反応する効果の2つが並行して起こり、ダイヤモンドを研磨します。 |
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