三菱商事は、2022年5月に、2022年度から始まる3ヵ年の新しい経営の指針として、「中期経営戦略2024 MC Shared Value(共創価値)の創出」を策定・公表しました。
当社を取り巻く経営環境は、地政学リスクの高まりにより不確実性が高まっています。また、グローバルサプライチェーンの再構築、デジタル化、脱炭素という多様化・複雑化する社会・産業のニーズに対し、先見性をもった対応が求められています。
このような経営環境において、あらゆる産業知見とグローバルネットワークを駆使したインテリジェンスを有機的に「つなげ」・「つながる」ことで、当社ならではの総合力を強化していく経営方針を、今回の「中期経営戦略2024」として纏めました。
(1)中期経営戦略2024で目指すこと
三菱商事グループの総合力強化による社会課題の解決を通じて、スケールのあるMC Shared Value(共創価値)を継続的に創出することを目指します。
(2)定量目標と株主還元
■定量目標
収益基盤の維持・拡大とともに、Energy Transformation(EX)関連やDigital Transformation(DX)関連・成長分野への投資などを通じて、価格要因を除いた利益の着実な成長とROE二桁水準の維持・向上を目指します。
■株主還元
持続的な利益成長に応じて増配を行う累進配当を基本方針とします。
財務健全性、配当の安定成長、株主還元に対する市場期待の3つのバランスがとれた還元政策を実施します。
■キャッシュフロー・資本配分
企業価値向上に向けて、財務規律を維持しつつ、キャッシュフローを投資と株主還元に適切に配分します。
併せて、開示の拡充や対話を通じて、ステークホルダーからの当社事業に対する信頼性を一層高めることで、資本コストの低減を図ります。
■投資計画・事業ポートフォリオ
「中期経営戦略2024」期間で、3兆円規模の投資を計画し、EX関連分野への投資を加速します。
同時に、収益基盤の維持・拡大とDX・成長分野への投資も着実に促進します。
(3)「つなげ」・「つながる」ことによる三菱商事グループの総合力を最大化
■成長戦略 [トランスフォーメーションを主導し、成長につなげる]
・EX戦略:EXバリューチェーン全体を俯瞰し、パートナーと共に、カーボンニュートラル社会への移行・産業競争力向上に貢献していきます。
・DX戦略:DX機能を全社横断的に展開し、産業・企業・コミュニティをつなぐことで、社会全体の生産性向上と持続可能な価値創造に貢献していきます。これを推進するために、今回、新たにDX戦略推進組織として「産業DX部門」を新設します。
・未来創造:再エネなどの地域エネルギー資源の積極的な開発を通じて自給率を少しでも高めていくとともに、カーボンニュートラル新産業の創出、地域課題の解決を通じた魅力ある街づくりをテーマとして、パートナーや自治体の皆様と共に、未来創造の実現に貢献していきます。
■経営管理 [規律ある成長で未来へつなぐ]
自律的なグループ経営の強化を促す経営管理メカニズムを構築し、事業環境の変化に対応した循環型成長モデルへの取組みを加速することで、資本効率の維持・向上を図り、財務健全性を維持します。
■推進メカニズム [多様なインテリジェンスをつなぐ]
「産業DX部門」の新設に加え、外部環境への対応力を更に強化すべく「グローバルインテリジェンス委員会(GI委員会)」を新設します。産業横断的な全社戦略を討議・立案するMC Shared Value会議(MCSV会議)に、GI委員会の分析を反映することで、営業グループの推進力と業界を超えた連携を強化していきます。
■人事施策 [多彩・多才なヒトをつなぎ、活気に満ちた組織へ]
多様性を活かす企業風土づくりやダイナミックな人材シフト・登用などを通じて、「イキイキ・ワクワク、活気あふれる人材と組織」を実現し、人的資本の価値最大化を目指します。
■サステナビリティ施策 [多様なステークホルダーとつながり、社会から信頼され続ける存在へ]
当社が事業活動を通じて取り組む重要な社会課題を「マテリアリティ」として再定義し、取組みの指針とします。温室効果ガス(GHG)削減目標の達成に向け、各事業を気候変動の移行リスク・機会に応じて分類の上モニタリングするなど、様々な施策を通じて事業の低・脱炭素化を推進します。
当社は2021年10月に温室効果ガス(GHG)排出量の新たな削減目標と、EX関連投資に関する指針を策定しました。
資源・エネルギーを始めとする様々な事業に携わってきた当事者として、天然ガスなどのエネルギーの安定供給責任を果たしつつ、地球規模の共通課題であるカーボンニュートラル社会実現との両立に取り組んでまいります。
(カーボンニュートラル社会へのロードマップ)
・GHG排出量の削減目標:2030年度半減(2020年度比)/2050年ネットゼロ
・EX関連投資:2030年度までに2兆円規模
・EX・DX一体推進による「新たな未来創造」
これらは、「中期経営戦略2024」においても、全社共通の事業推進テーマとなっています。
当連結会計年度は、LNG関連事業における受取配当金及び持分利益の増加、北米シェールガス事業の持分利益増加などにより、前連結会計年度と比較して増益となりました。
2021年の世界のLNG需要は主に中国・韓国において増加し、前年比1千万トン増の約3.8億トンとなりました。アジアのスポット価格は、欧州における風力・原子力発電量の低下やロシアからのパイプラインガス供給停滞・途絶懸念などにより、当連結会計年度末時点では百万Btu(英国熱量単位)当たり30米ドル台で推移しています。
原油価格(Dubai)は世界経済の新型コロナウイルス禍からの回復、及びロシア・ウクライナ情勢によるロシア原油輸出量減少・途絶の懸念などにより、当連結会計年度末時点では100米ドル/バレル台にて推移しています。
LNGは、世界のエネルギー需要増や他の化石燃料と比較して相対的に環境負荷が低い点などを背景に中長期的にも需要増が見込まれており、成長が見込まれる事業領域と考えています。なお、当グループの業績には原油価格が少なからぬ影響を与えますが、原油価格の変動が当グループの業績に影響を及ぼすまでにはタイムラグがあるため、価格変動が直ちに業績に反映されるとは限りません。
当連結会計年度は、海外事業投資先に関する投資の減損などに伴う一過性損失を計上したものの、主に鉄鋼製品事業、北米樹脂建材事業における持分利益の増加により、前連結会計年度と比較して増益となりました。当グループの主要対面業界である自動車・モビリティ、建設・インフラ分野において、新型コロナウイルス感染拡大の影響を強く受けた前連結会計年度からの素材需要の反動、及び需給タイト化に伴う素材市況の上昇などによるものです。
当グループを取り巻く事業環境に関し、米国における金利上昇が世界経済に与える影響などが想定されるものの、対面産業における素材需要・市況は底堅く推移していく見通しです。また、素材産業においては、カーボンニュートラル、ニーズの多様化、原料の安定調達などへの対応が喫緊の課題となっています。デジタル活用によるサプライチェーンの効率化・強靭化、脱炭素に向けた機能素材の取組み、素材再循環への対応などを促進し、対面産業の課題解決に貢献していきます。
当連結会計年度は、石油化学事業における取引利益の増加やLPG事業における持分利益の増加などにより、前連結会計年度と比較して増益となりました。
原油価格(Dubai)は新型コロナウイルス禍からの世界経済の回復により需要が増加した一方、OPECプラスが協調減産の枠組みを維持したことにより、当連結会計年度前半は緩やかに上昇しました。後半はOPECプラスの増産見送りや、中国・欧州などにおける石炭・天然ガス不足、ロシア・ウクライナ情勢の影響などにより7年ぶりの高値水準となりました。化学品市況は米国や中国などにおけるプラント新増設がありましたが、新型コロナウイルス禍からの需要回復、原油・天然ガス・石炭価格の上昇や、米国寒波、中国の環境規制、ロシア・ウクライナ情勢の影響などを受け上昇しました。
今後もロシア・ウクライナ情勢の長期化懸念や産油国を取り巻く環境変化など不確実性の高い状況が当面続くものと予想されますが、事業環境の変化を見極めながら、中核事業の強化に取り組んでまいります。また、低・脱炭素社会への移行が急速に進み、循環型社会の実現がますます重要となる中、業界の課題解決に資する石油・化学の総合力を活かしたバイオ・カーボンリサイクルなどの新規事業の創出にも取り組んでまいります。
当連結会計年度は、豪州原料炭事業における市況上昇による影響や銅事業における受取配当金の増加、及び鉄鉱石事業における持分利益の増加により、前連結会計年度と比較して増益となりました。
当グループの中核事業の1つである原料炭については、需要が堅調な一方、供給側は中国国内で続発した炭鉱事故による一時操業停止、豪州・北米における天候に起因した供給障害や生産不調などによる需給の逼迫に加え、ロシア・ウクライナ情勢による供給不安の高まりにより、前連結会計年度に比べ市況は大幅に上昇しました。また、もう1つの主力事業である銅は、脱炭素に寄与する電化の流れから需要増への期待が醸成される中、各国における新型コロナウイルス禍からの経済回復や金融緩和政策により供給された資金が市場流動性の高い銅先物市場に流入したことなどにより、総じて価格は前連結会計年度に比べ高水準で推移しました。
翌連結会計年度以降は、原料炭においては、生産国の供給回復により需給の逼迫は緩和していくことが見込まれる一方、ロシア・ウクライナ情勢に起因する各国経済制裁によるエネルギー・鋼材価格の高騰、欧州や日本などにおけるロシア産石炭の輸入制限・禁止などにより、海上貿易市場は先行きが不透明な状況です。銅市況は投機的な資金の流入により過熱感が生じていることから下落余地があるものの、ロシア・ウクライナ情勢や中国の新型コロナウイルス感染症政策や経済動向、及び金融引締めなどにより当面振れ幅が大きく推移する見込みです。
中長期的には、新興国を中心とする世界経済の成長や、脱炭素・電化を背景とした再エネ・EVの進展により、金属資源・非鉄製品の需要は底堅く推移する見通しです。
当連結会計年度は、千代田化工建設株式会社の顧客との係争に伴う一過性損失や同社宛て投資に関する無形資産の減損などにより、前連結会計年度と比較して減益となりました。
一方、船舶事業では市況好調に伴う売船益の計上や前連結会計年度の一過性損失の反動、産業機械事業では新型コロナウイルス禍からの回復に伴う製造業の設備投資全需並びに投資意欲の回復などにより増益となりました。
翌連結会計年度以降は、プラントエンジニアリング事業では脱炭素社会への移行に伴う新たな産業インフラ分野での需要増加が期待され、産業機械事業における建機レンタル、工作機械、エレベーター、国内農機など各事業分野では引き続き底堅い需要が見込めます。船舶事業においては、一般商船分野では引き続き傭船市況に左右され難い保有船隊ポートフォリオの構築を進め、ガス船分野ではLNG船需要は一定程度底堅い見通しであることに加えて、脱炭素社会への移行に伴う新たなエネルギー輸送需要の増加が見込まれます。各事業分野においてデジタル技術の活用が加速しており、既存事業の強化とともに、ソリューション提供型新規事業の展開を進めます。
当連結会計年度は、三菱自動車工業株式会社の前連結会計年度で計上した固定資産減損や構造改革費用などの反動に加えて、当社取扱いの主力であるタイ・インドネシアをはじめとした各市場における持分利益の増加を受け、前連結会計年度と比較して増益となりました。
自動車市場は、新型コロナウイルス禍が続く中で半導体をはじめとする部品供給問題も発生し、厳しい事業環境にありましたが、当社は強固な顧客基盤を持つアセアン地域を中心に、近年強化しているデジタルマーケティングなどのオンライン施策を、従来のオフライン販売施策と上手く組み合わせることで販売台数やシェアの確保に努めました。
翌連結会計年度も新型コロナウイルス感染症や半導体をはじめとする部品供給不足問題に加え、地政学リスクの影響も懸念され、自動車市場は引き続き不透明ではありますが、既存のタイ・インドネシア事業を含むアセアン・新興市場を軸に自動車バリューチェーン事業の更なる機能強化と拡張を目指します。また、業界構造が大きく変化する中、長年培ってきた当社の強固なビジネス・顧客基盤や地域密着型の強みを活かしてモビリティサービス事業を推進します。
当連結会計年度は、新型コロナウイルスの感染拡大対策による移動制限などが緩和され、抑制傾向にあった食に関連する消費行動も、新型コロナウイルス禍前の水準に向けて回復基調にありました。前連結会計年度に欧米を中心とした外食需要の蒸発の影響から苦戦したCermaq社は、人流の回復に伴う消費行動の活性化に加え、従前より取り組んできた生産効率改善など自助努力も奏功し、増益となりました。グループ各社も生産効率化や収益力向上などを推進し、穀物飼料事業や食品化学事業などを中心に好調な結果となりました。
翌連結会計年度は、ロシア・ウクライナ情勢に起因する世界的な食糧価格や包装資材などの原材料費及び燃料費の高騰、そして急激な円安進行によるコスト上昇が、国内の食品加工・製造事業の収益を圧迫する見通しです。厳しい状況が続く中、グループ全体の生産性向上や収益力向上に継続して取り組むとともに、DX(デジタル・トランスフォーメーション)の積極的活用によるサプライチェーン全体の効率化や高度化を加速させます。
当連結会計年度は、国内で新型コロナウイルス感染症の流行が継続し、緊急事態宣言・まん延防止等重点措置が各地域で断続的に発令されましたが、徐々に人流が回復し、コンビニエンスストア事業などで業績が改善しました。海外でも、北米・東南アジアにおける需要回復の影響を受け、タイヤ事業、アパレル事業などで業績が伸長しました。当グループの当期純利益は、持分利益の増加及び前連結会計年度に計上した一過性損失の反動などにより、前連結会計年度と比較して増益となりました。
人口減少に伴う市場飽和や、人手不足に起因する人件費・物流費の上昇など、国内の事業環境は厳しさが増す状況下、当社子会社の三菱食品株式会社と共同で、DXによる流通効率化を目指し、AI活用によりサプライチェーンの無駄を削減する取組みを開始しました。一方、海外消費市場の成長取込みに向けて、株式会社ローソンは中国で出店を加速しており、2021年9月には現地店舗数が4千店を突破しました。また、当連結会計年度に新規進出した深圳・成都地区を含め、更なる店舗拡大を進めてまいります。
当連結会計年度は、新型コロナウイルス感染症の国内外での流行が継続しましたが、発電・送電の上流事業は長期契約に基づく安定収益モデルのため影響は軽微となりました。ガス・電力価格は継続的に上昇、特に当連結会計年度末にかけてロシア・ウクライナ情勢に伴う地政学リスクの顕在化により市況は更に高騰し、欧州や国内の電力小売事業などにおいては同高騰の影響がありましたが、発電資産などの売却益の増加により、前連結会計年度と比較して増益となりました。
脱炭素社会への移行が急速に進む市場環境下、再生可能エネルギーの事業機会は拡大方向にあります。洋上風力の成長が見込まれる日本や、N.V. Enecoをプラットフォームに持つ欧州を中心に、米州などでも再生可能エネルギー事業の更なる拡大を図ります。 川上(供給側)から川下(需要側)までの再生可能エネルギーを起点とした電力バリューチェーンを構築し、多様化するユーティリティニーズに応えるべく、様々な取組みを推進していきます。
当連結会計年度は、航空機リース事業会社売却に伴う減損など一過性の損失を計上した一方、好調な北米不動産市場での物件売却益増加、グローバルな経済活動の回復を背景にした企業投資分野での投資先ファンドの評価益増加などにより、前連結会計年度と比較して増益となりました。
不動産関連では、先進国中心に事業環境は回復基調にあり、とりわけ米国については、当連結会計年度第4四半期には新型コロナウイルス禍前の取引量を超える水準となるなど堅調に推移しました。
企業投資関連では、好調な資本市場・株式市場の影響も相まって、北米のデジタル関連企業投資を中心に好調に推移しました。
空港運営関連では、新型コロナウイルス禍による厳しい事業環境が続き、航空系収入・非航空系収入ともに大きな影響を受けましたが、国内線を中心に旅客数は着実に回復に向かっています。
翌連結会計年度以降も、新型コロナウイルス感染症や金融引締めによる影響などを注視する必要はあるものの、電子商取引の拡大やクラウドの普及を背景とした物流施設やデータセンターなど当グループ事業に対する需要は増加しており、持続的な市場拡大が見込まれています。当グループでは、今後も既存の都市開発、インフラ、アセットファイナンスなどの事業を強化・拡張していくとともに、都市化や低環境負荷といった社会・環境ニーズに応え、グループ内の事業を複合的に組み合わせた付加価値が高く、規模感のある事業を推進していきます。
当連結会計年度における重要な個別案件については、「2. 事業等のリスク ⑤事業投資リスク」内の(重要な投資案件)「a. 豪州原料炭及びその他の金属資源権益への投資」、「b. チリ銅資産権益への投資」 、「c. ペルー銅資産権益への投資」、「d. モントニー・シェールガス開発プロジェクト/LNGカナダプロジェクト」、「e. ローソンへの出資」及び「f. Enecoへの投資」をご参照ください。
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