業績

3【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

 本項における将来に関する事項は、別段の記載がない限り、有価証券報告書提出日現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1)重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

 当社の連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められた企業会計の基準に基づき作成されております。また、当社は、連結財務諸表を作成するにあたり、会計方針に基づいていくつかの重要な見積りを行っており、これらの見積りは一定の条件や仮定を前提としております。そのため、条件や仮定が変化した場合には、実際の結果が見積りと異なることがあり、結果として連結財務諸表に重要な影響を与える場合があります。重要な会計方針のうち、特に重要と考える項目は、次の4項目です。

 

① トレーディング商品の評価

当社グループでは、トレーディング商品に属する有価証券及びデリバティブ取引は、時価をもって連結貸借対照表価額とし、評価損益はトレーディング損益として連結損益計算書に計上しております。また、「時価の算定に関する会計基準」(企業会計基準第30号 2019年7月4日)等を適用しており、トレーディング商品の時価は、時価の算定に用いたインプットの観察可能性及び重要性に応じて、3つのレベルに分類しております。これらの時価は「第5 経理の状況 (金融商品関係) 2. 金融商品の時価等及び時価のレベルごとの内訳等に関する事項」に記載しております。

 

 時価測定に用いた評価技法及びインプットの詳細は以下のとおりであります。これらは、市場参加者が商品を評価するときに考慮するであろう当社グループによる仮定及び見積りを含んでおります。

(ⅰ)商品有価証券等

 主に同一又は類似の商品に関する市場価格を用いております。また、特定の負債性金融商品及び資産担保証券については、デリバティブ取引に準じた評価技法もしくは、ディスカウント・キャッシュ・フロー・モデルにより時価を測定しております。

 

(ⅱ)デリバティブ

 上場デリバティブについては原則として市場価格を、店頭デリバティブについては、評価技法により理論価格を算定しております。

 デリバティブ取引の理論価格には、信用リスク及び流動性リスクを考慮した調整が含まれており、時価測定においては、市場で一般に用いられるリスク中立測度の仮定のもとでの期待キャッシュ・フローの現在価値を、主に数値積分法、有限差分法及びモンテカルロ法による価格算定モデルにより算定しております。

 価格算定モデルには、金利、為替レート、株価、ボラティリティ、相関係数などの様々なインプットがあります。また、市場で観察可能でないインプットとしては、相関係数、長期のボラティリティ、長期のクレジット・スプレッドなどがあります。

 価格算定モデルの選択及びその価格算定モデルに投入するインプットの決定、信用リスク及び流動性リスクにかかる評価調整には見積り及び前提を含んでおり、特に、市場で観察可能でないインプットを使用する場合には、その見積り及び前提は、トレーディング商品の評価額に重要な影響を及ぼす可能性があります。

 算定に用いたインプットを含め、価格算定モデルは社内における指針に基づいて承認され、価格算定モデルの開発部署から独立した部署が、モデル内の仮定及び技法、算定に用いたインプットについて検証を行っております。また、価格算定モデルを観察可能な市場情報や代替可能なモデルとの比較分析等により、市場動向に合わせて調整する体制を構築しております。

 

 経営者は、時価測定に用いられた前提は合理的であると考えております。しかしながら、これらの見積りには不確実性が含まれているため、将来キャッシュ・フローや時価の下落を引き起こすような見積りの変化が、評価金額に不利に影響し、結果として、連結財務諸表に重要な影響を与える可能性があります。

 

② 有価証券の評価

 当社グループでは、投資有価証券、営業投資有価証券等のトレーディング商品に属さない有価証券を保有しております。

(ⅰ)投資有価証券

 市場価格のあるものについては、市場価格が著しく下落したときは、回復する見込みがあると認められる場合を除き、減損処理を行っております。具体的には、当連結会計年度末における市場価格の下落率が取得原価の50%以上の場合は、著しい下落かつ回復する見込みがないものと判断して、減損処理を行っております。市場価格の下落率が取得原価の30%以上50%未満の場合は、市場価格の推移及び発行会社の財政状態等を総合的に勘案して回復する見込みを検討し、回復する見込みがあると認められる場合を除き、減損処理を行っております。市場価格のないものについては、実質価額が著しく低下し、かつ、回復可能性が十分な証拠によって裏付けられない場合には、減損処理を行っております。

 

(ⅱ)営業投資有価証券

 営業投資有価証券は、投資部門における非上場株式、国内外の再生可能エネルギー、インフラストラクチャーへの投資等により構成されております。

 営業投資有価証券の評価については、その評価額に基づき実質価額を見積り、その実質価額が帳簿価額を下回り、損失発生の可能性が高い場合には投資損失引当金を計上しております。さらに、実質価額が帳簿価額に比して50%以上下落し、回復可能性が十分な証拠によって裏付けられない場合には、減損処理を行っております。実質価額の算定の前提となる当社の財政状態又は経営成績に対して重大な影響を与え得る会計上の見積り及び判断が必要となる項目は以下のとおりです。

 

1) 非上場株式

 株式の評価額は、投資先の事業計画等をもとにした将来キャッシュ・フロー、類似取引事例との比較などにより算定しております。

 

2) 国内外の再生可能エネルギー、インフラストラクチャーへの投資等

 評価額は、投資先の事業計画等をもとにした将来キャッシュ・フロー、財政状態などにより算定しております。

 

 これらの評価額の測定には経営者が妥当と判断する見積り及び仮定を使用しており、これらの見積り及び仮定は、減損損失又は投資損失引当金の計上の要否の判断及び認識される損失金額に重要な影響を及ぼす可能性があります。

 経営者は、実質価額の見積りに用いられた仮定は合理的であると判断しております。ただし、これらの見積りには不確実性が含まれているため、将来の予測不能な前提条件の変化などにより、これらの評価に関する見積りが変化した場合には、結果として将来において当社及び連結子会社が減損処理又は投資損失引当金の計上を行う可能性があります。

 

③ 固定資産の減損

 当社グループでは、各資産グループにおいて、収益性が著しく低下した資産については、当該資産の帳簿価額を回収可能価額まで減額し、当該減少額を減損損失として計上しております。なお、資産のグルーピングは、継続使用資産のうち、証券店舗等の個別性の強い資産については個別物件単位で行い、その他の事業用資産については管理会計上の区分に従って行っております。

 

④ 繰延税金資産の状況

(ⅰ)繰延税金資産の算入根拠

 当社グループでは、会計基準に従い、税務上の繰越欠損金や企業会計上の資産・負債と税務上の資産・負債との差額である一時差異について税効果会計を適用し、繰延税金資産及び繰延税金負債を計上しております。繰延税金資産の回収可能性については、将来の合理的な見積可能期間における課税所得の見積額を限度として、当該期間における一時差異等のスケジューリングの結果に基づき判断しております。

 

(ⅱ)過去5年間の課税所得(繰越欠損金使用前の各年度の実績値)

 

 

 

(単位:百万円)

回次

第80期

第81期

第82期

第83期

第84期

決算年月

2017年3月

2018年3月

2019年3月

2020年3月

2021年3月

連結納税グループの課税所得

31,973

97,467

74,613

60,907

92,842

注) 提出会社を連結納税親会社とする連結納税グループの所得を記載しております。また、記載した課税所得は法人税確定申告書上の繰越欠損金控除前の数値であり、その後の変動は反映されておりません。

 

 なお、当連結会計年度末に係る連結貸借対照表上の繰延税金資産119億円のうち、提出会社を親会社とする連結納税会社の計上額合計は102億円であります。

 

(ⅲ)見積りの前提とした税引前当期純利益の見込額

 提出会社を連結納税親会社とする連結納税グループの課税所得見積期間を3年とし、同期間の税引前当期純利益を2,699億円と見積もっております。

 

(ⅳ)繰延税金資産・負債の主な発生原因

 「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 税効果会計関係 1」に記載のとおりであります。

 

 なお、新型コロナウイルス感染症の影響による経済活動の制限と緩和が繰り返される中での経済、企業活動の停滞・悪化や、ロシア・ウクライナ情勢に起因した資源価格の高騰、米国長期金利の上昇に伴う経済情勢や相場環境の悪化は、現時点においてはこれらの見積りに重大な影響を及ぼしておりませんが、今後、入手可能となる情報等によりこれらの市場、経済または地政学リスクが顕在化した場合には、会計上の見積りに用いられた前提条件に悪影響を及ぼす可能性があります。

 当社グループにおきましては、投資事業における保有資産の評価に関する見積りの変化による減損又は評価損の計上、不動産アセットマネジメント事業における資産の稼働率低下による財務内容悪化懸念などの可能性があります。

 

(2)当連結会計年度の財政状態の分析

<資産の部>

 当連結会計年度末の総資産は前年度末比1兆4,317億円(5.5%)増加の27兆5,310億円となりました。内訳は流動資産が同1兆3,633億円(5.5%)増加の26兆96億円であり、このうち現金・預金が同1,708億円(3.6%)減少の4兆5,923億円、有価証券が同1,812億円(18.2%)増加の1兆1,778億円、トレーディング商品が同1,708億円(2.2%)増加の8兆49億円、有価証券担保貸付金が同9,459億円(12.7%)増加の8兆3,942億円となっております。固定資産は同684億円(4.7%)増加の1兆5,214億円となっております。

 

<負債の部・純資産の部>

 負債合計は前年度末比1兆3,837億円(5.6%)増加の25兆8,912億円となりました。内訳は流動負債が同1兆7,259億円(8.1%)増加の22兆9,452億円であり、このうちトレーディング商品が同5,780億円(13.2%)増加の4兆9,459億円、約定見返勘定が同7,718億円(58.5%)減少の5,484億円、有価証券担保借入金が同1兆2,876億円(15.7%)増加の9兆4,636億円、銀行業における預金が同2,269億円(5.1%)減少の4兆1,891億円、短期借入金が同7,474億円(53.1%)増加の2兆1,557億円、1年内償還予定の社債が同2,429億円(119.2%)増加の4,467億円となっております。固定負債は同3,422億円(10.4%)減少の2兆9,422億円であり、このうち長期借入金が同3,498億円(22.0%)減少の1兆2,370億円となっております。

 

 純資産合計は同480億円(3.0%)増加の1兆6,398億円となりました。資本金及び資本剰余金の合計は4,778億円となりました。利益剰余金は親会社株主に帰属する当期純利益を948億円計上したほか、配当金637億円の支払いを行ったこと等により、同310億円(3.4%)増加の9,427億円となっております。自己株式の控除額は同265億円(24.7%)増加の1,342億円、その他有価証券評価差額金は同120億円(28.9%)減少の295億円、為替換算調整勘定は同344億円(267.0%)増加の472億円、非支配株主持分は同83億円(3.4%)増加の2,574億円となっております。

 

(3)当連結会計年度の経営成績の分析

① 事業全体の状況

 当連結会計年度の営業収益は前年度比7.5%増の6,194億円、純営業収益は同7.6%増の5,020億円となりました。

 受入手数料は3,140億円と、同9.5%の増収となりました。委託手数料は、株式取引が減少したことにより、同2.7%減の759億円となりました。引受け・売出し・特定投資家向け売付け勧誘等の手数料は、複数の債券引受案件等が貢献し増収となり、同2.9%増の392億円となりました。

 トレーディング損益は、債券収益が減少したこと等により、同14.6%減の1,015億円となりました。

 販売費・一般管理費は同3.4%増の3,865億円となりました。取引関係費は投信販売会社への支払手数料等の増加により同8.6%増の625億円、人件費は賞与等が増加したことにより同3.0%増の1,987億円、減価償却費はシステム関連費用等の増加により同2.6%増の348億円となっております。

 以上より、経常利益は同17.9%増の1,358億円となりました。

 また、投資有価証券売却益や関係会社株式売却益等により特別利益が90億円(前年度516億円)、事業再編等関連費用の計上等により特別損失が31億円(前年度222億円)となり、法人税等及び非支配株主に帰属する当期純利益を差し引いた結果、親会社株主に帰属する当期純利益は前年度比12.5%減の948億円となりました。

② セグメント情報に記載された区分ごとの状況

 純営業収益及び経常利益をセグメント別に分析した状況は次のとおりであります。

 

 

 

 

 

 

 

 

(単位:百万円)

 

 

純営業収益

経常利益又は経常損失(△)

 

 

2021年

3月期

2022年

3月期

対前年同期

増減率

構成比率

2021年

3月期

2022年

3月期

対前年同期

増減率

構成比率

リテール部門

169,505

188,879

11.4%

37.6%

20,070

41,807

108.3%

28.8%

ホールセール部門

215,860

195,863

△9.3%

39.0%

74,737

50,951

△31.8%

35.1%

 

グローバル・マーケッツ

161,730

134,353

△16.9%

26.8%

62,777

38,301

△39.0%

26.4%

グローバル・インベストメント・バンキング

54,129

61,510

13.6%

12.3%

11,021

10,693

△3.0%

7.4%

アセット・マネジメント部門

51,145

71,052

38.9%

14.2%

32,775

45,253

38.1%

31.1%

 

証券アセット・マネジメント

39,373

45,351

15.2%

9.0%

16,013

21,995

37.4%

15.1%

 

不動産アセット・マネジメント

11,772

25,701

118.3%

5.1%

16,761

23,258

38.8%

16.0%

投資部門

4,602

11,055

140.2%

2.2%

1,123

7,192

540.0%

5.0%

その他・調整等

25,546

35,242

7.0%

△13,532

△9,382

連結 計

466,660

502,093

7.6%

100.0%

115,175

135,821

17.9%

100.0%

(注)経常利益又は経常損失(△)の構成比率は、当連結会計年度において経常利益であったセグメントの経常利益合計に占める、各セグメントの経常利益の割合としております。

 

[リテール部門]

 リテール部門の主な収益源は、国内の個人投資家及び未上場会社のお客様の資産管理・運用に関する商品・サービスの手数料であり、経営成績に重要な影響を与える要因には、お客様動向を左右する国内外の金融市場及び経済環境の状況に加え、お客様のニーズに合った商品の開発状況や引受け状況及び販売戦略が挙げられます。

 当連結会計年度においては、以下の事業計画に沿って活動を行いました。

1.資産管理型ビジネスモデルの実現

2.お客様ニーズを捉えた商品・サービスの提供、総資産アプローチによるソリューションビジネスの拡大

3.デジタルとリアルの融合による顧客接点の拡大とコスト最適化

4.外部チャネルを活用したニュービジネス展開と収益化

 各項目の実績は以下のとおりです。

1.ゴールベース・アプローチツールの高度化や、残高ベース商品の開発など、資産管理型ビジネスモデルの実現に向けた取り組みを進めました。ファンドラップや投信フレックスプランなどのストック関連資産残高拡大による残高ベース収益の拡大に取り組みました。

2.お客様の声を起点とする商品・サービスの向上を目的に、「お客様満足度協議会」を半期毎に開催し、外国株式の取扱銘柄の拡充、相続手続きの迅速化によるお客様負担の軽減などに取り組みました。また、資産承継サポートと資産保全をコンセプトとしたラップ口座サービス「安心つながるラップ」や、当社グループで組成する不動産信託受益権小口化商品の取扱いを開始するなど、お客様のあらゆるニーズに応える商品・サービスの提供に努めました。

3.営業所の出店等によるお客様接点の拡大、大型店舗の統合・効率化やデジタル化の推進による業務効率化を進めました。

4.お客様基盤の拡大や資産形成分野における商品・サービス提供を目的として、四国銀行との包括的業務提携契約の締結など、外部提携先との協業について推進・検討しました。

 当連結会計年度においては、資産管理型ビジネスモデルへの移行とコスト構造改革などに取り組みました。2020年10月より取扱いを開始した投信フレックスプランの販売額が増加したことが寄与し、株式投信の募集・販売額が増加しました。また、ラップ口座サービスの契約額・純増額がともに増加したことにより契約資産残高は過去最高の2兆9,573億円となり、ラップ関連収益である投資顧問・取引等管理料も増加しました。

 当連結会計年度のリテール部門における純営業収益は前年度比11.4%増の1,888億円、経常利益は同108.3%増の418億円となりました。リテール部門の当連結会計年度の純営業収益及び経常利益のグループ全体の連結純営業収益及び連結経常利益に占める割合は、それぞれ37.6%及び28.8%でした。

 

[ホールセール部門]

 ホールセール部門は、機関投資家等を対象に有価証券のセールス及びトレーディングを行うグローバル・マーケッツと、事業法人、金融法人等が発行する有価証券の引受けやM&Aのアドバイザリー業務を行うグローバル・インベストメント・バンキングによって構成されます。グローバル・マーケッツの主な収益源は、機関投資家に対する有価証券の売買に伴って得る顧客フロー収益及びトレーディング収益です。グローバル・インベストメント・バンキングの主な収益源は、引受業務やM&Aアドバイザリー業務によって得る引受け・売出し手数料とM&A手数料です。グローバル・マーケッツにおいては、地政学リスクや国際的な経済状況等で変化する市場の動向や、それに伴う顧客フローの変化が、経営成績に重要な影響を与える要因となります。グローバル・インベストメント・バンキングにおいては、顧客企業の資金調達手段の決定やM&Aの需要を左右する国内外の経済環境等に加え、当社が企業の需要を捉え、案件を獲得できるかどうかが経営成績に重要な影響を与える要因となります。

 ホールセール部門として以下の事業計画を実行しました。

1.お客様ニーズを捉えた多様なプロダクト・高度なソリューションの提供

2.アジアのリージョナル・ブローカーとしての汎アジアビジネス基盤拡大

3.SDGs関連ファイナンスの促進による企業のサステナビリティ支援

4.デジタルを活用した機動性・サービスクオリティの向上

 各項目の実績は、以下のとおりです。

1~2.M&Aビジネスへの取組みとしてミッドキャップの海外クロスボーダー案件獲得に努めました。IPOビジネスへの取組みとしてはDaiwa Innovation Networkを開催するなどスタートアップ企業の発掘・育成を推進しました。その他、大型ファイナンス案件獲得に取り組みました。

3.SDGs-IPO(注)1の引受をはじめとしたSDGs関連ファイナンスへの取組み強化に努めました。

4.不動産受益権を対象とした、資産裏付型セキュリティトークン(注)2の当社グループでの発行1号案件を実現するなど、先端技術を活用したサービス提供に努めました。

グローバル・マーケッツでは、お客様の多様なニーズを踏まえたタイムリーな商品提供に加え、市場環境の変化に応じた株式トレーディングが、収益に貢献しました。一方で、フィクスト・インカム収益は主に米州における金利・ボラティリティの低下により収益機会が減少しました。その結果、当連結会計年度の純営業収益は前年度比16.9%減の1,343億円、経常利益は同39.0%減の383億円となりました。

グローバル・インベストメント・バンキングでは、日本郵政株式会社の株式売出しやルネサスエレクトロニクス株式会社の株式公募売出しにおいてグローバル・コーディネーター(注)3を務めたほか、テスホールディングス株式会社によるSDGs-IPO、ソフトバンクグループ株式会社及びENEOSホールディングス株式会社による劣後債の発行など、多くの案件で主幹事証券会社を務めました。当連結会計年度の引受け・売出し手数料は、前年度比2.9%増の392億円となりました。M&Aアドバイザリー業務では多数の案件を国内外で遂行したことにより増収となり、M&A関連手数料は前年度比32.2%増の352億円となりました。これらの結果、グローバル・インベストメント・バンキングの当連結会計年度の純営業収益は前年度比13.6%増の615億円となりました。経常利益は同3.0%減の106億円となりました。

 当連結会計年度のホールセール部門における純営業収益は前年度比9.3%減の1,958億円、経常利益は同31.8%減の509億円となりました。ホールセール部門の当連結会計年度の純営業収益及び経常利益のグループ全体の連結純営業収益及び連結経常利益に占める割合は、それぞれ39.0%及び35.1%でした。

 

(注)1 SDGs-IPO(Initial Public Offering):新規株式公開時の株式公募において、その資金使途及び発行体について、SDGsへの貢献、ソーシャルボンド原則への準拠性についての評価を第三者評価機関から取得したもの。

(注)2 資産裏付型セキュリティトークン:不動産、再生エネルギー等の資産を裏付けとした、有価証券の性質を有するトークンであり、ブロックチェーン等の先端技術を活用して発行・管理される金融商品。

(注)3 グローバル・コーディネーター:株式の公募・売出しを国内外に対して実施するときに、全体の業務を統括する主幹事証券会社。

 

[アセット・マネジメント部門]

 アセット・マネジメント部門の収益は、主に当社連結子会社の大和アセットマネジメントにおける投資信託の組成と運用に関する報酬と、連結子会社の大和リアル・エステート・アセット・マネジメント、大和証券オフィス投資法人及びサムティ・レジデンシャル投資法人の不動産運用収益によって構成されます。なお、前連結会計年度末における大和証券オフィス投資法人の連結子会社化に伴い、当連結会計期間の期首より同社の利益の100%を経常利益へ取り込んでいます。また、当社持分法適用関連会社である三井住友DSアセットマネジメントの投資信託の組成と運用及び投資顧問業務に関する報酬からの利益、及び同じく持分法適用関連会社である大和証券リビング投資法人の不動産運用収益からの利益は、それぞれ当社の持分割合に従って経常利益に計上されます。経営成績に重要な影響を与える要因としては、マーケット環境によって変動するお客様の投資信託及び投資顧問サービスへの需要と、マーケット環境に対するファンドの運用パフォーマンスや、お客様の関心を捉えたテーマ性のある商品開発等による商品自体の訴求性が挙げられます。大和リアル・エステート・アセット・マネジメント、大和証券オフィス投資法人、サムティ・レジデンシャル投資法人及び大和証券リビング投資法人の経営成績は、国内の不動産市場・オフィス需要の動向の影響を受けます。

 当連結会計年度において、アセット・マネジメント部門は以下の事業計画を実行しました。

1.運用力・発掘力・商品アレンジ力強化による既存事業の拡大・高度化

2.新ビジネスの研究開発・事業化。ESGに立脚した会社運営への移行

3.不動産アセット・マネジメント事業における資産運用力強化及び事業基盤の確立

4.グループ内連携による新たな不動産投資商品の検討など不動産ビジネスの推進

 各項目の実績は以下のとおりです。

1.大和アセットマネジメントではお客様ニーズを的確にとらえた商品開発及び投資家利益を重視したファンド運営に加え、継続的なパフォーマンス向上により運用資産残高が拡大しました。

2.リテール部門のお客様への提供に向け、ベンチャー企業への投資をはじめとしたオルタナティブファンドの組成に取り組みました。

3.大和リアル・エステート・アセット・マネジメントでは大和証券オフィス投資法人、大和証券リビング投資法人及び大和証券ロジスティクス・プライベート投資法人の運用残高拡大によって運用資産残高が増加しました。大和リアル・エステート・アセット・マネジメント及びサムティ・レジデンシャル投資法人の2社を合わせた運用資産残高は前年度末比661億円増の1兆2,790億円となりました。

4.2021年4月に設立された大和証券リアルティでは、信託受益権スキームを活用した不動産小口化商品を開発し、新たな不動産投資商品の提供を開始しました。

 大和アセットマネジメントにおける公募株式投信及び公募公社債投信の運用資産残高は、資金純増の確保により、前年度末比0.7兆円増の21.6兆円となりました。大和アセットマネジメントの営業収益は前年度比13.7%増の749億円、経常利益は同30.6%増の190億円となりました。

 不動産アセット・マネジメントでは、新規物件の取得や資産の入替を行い、大和リアル・エステート・アセット・マネジメント及びサムティ・レジデンシャル投資法人の2社を合わせた運用資産残高は1兆2,790億円となり、収益も増加しました。

 その結果、当連結会計年度のアセット・マネジメント部門の純営業収益は前年度比38.9%増の710億円、経常利益は同38.1%増の452億円となりました。アセット・マネジメント部門の当連結会計年度の純営業収益及び経常利益のグループ全体の連結純営業収益及び連結経常利益に占める割合は、それぞれ14.2%及び31.2%でした。

 

[投資部門]

 投資部門は主に、連結子会社である大和企業投資、大和PIパートナーズ及び大和エナジー・インフラで構成されます。投資部門の主な収益源は、投資先の新規上場(IPO)・M&A等による売却益や、投資事業組合への出資を通じたキャピタルゲインのほか、契約に基づきファンドから受領する、管理運営に対する管理報酬や投資成果に応じた成功報酬、株式への配当、売電収入などのインカムゲインです。

 投資部門では以下の事業計画を実行しました。

1.優良な投資機会の発掘、投資先のバリューアップ及びモニタリング体制の強化

2.エネルギー分野でのキャピタル・リサイクリングモデルの推進

3.継続的なVCファンド運用ビジネスの確立

4.SDGsを意識した社会的意義のある投資対象の開拓

 

 各項目の実績は以下のとおりです。

1.大和PIパートナーズでは、大和証券グループとの連携を強化し、機会を逃さず投資案件を取り込みました。

2.大和エナジー・インフラでは、太陽光事業に特化した私募ファンドの設立及び当該ファンドへの運用資産の拠出により、資本を有効活用するキャピタルリサイクリングを推進しました。

3.大和企業投資では、国内外の成長企業へ着実に投資を実行したほか、顧客紹介や経営指導を推進し、投資先の企業価値向上に取り組みました。

4.大和PIパートナーズでは、健康・福祉増進や産業・技術革新の基盤づくりに貢献する企業への投資を実行しました。大和エナジー・インフラでは、国内太陽光発電を中心とした再生可能エネルギー事業やインフラ事業に対する投資を実行しました。

 大和PIパートナーズでは、金銭債権投資による収益を確保したほか、大和エナジー・インフラでエネルギー・インフラ関連投資を拡大し、インカムゲインに加えキャピタルゲインを計上しました。当連結会計年度における投資部門の純営業収益は前年度比2.4倍の110億円、経常利益は同6.4倍の71億円となりました。投資部門の純営業収益及び経常利益のグループ全体の連結純営業収益及び経常利益に占める割合は、それぞれ2.2%及び5.0%でした。

 

[その他]

 その他の事業には、主に大和総研によるリサーチ・コンサルティング業務及びシステム業務のほか、大和ネクスト銀行による銀行業務などが含まれます。

 当連結会計年度において大和総研グループは以下の事業計画を実行しました。

1.ITサービスのプラットフォーム化やAI・データサイエンスによる新たな価値の創出

2.高品質で安定的なサービスを低コストで提供することで、大和証券グループのコストダウンへ貢献

3.システム・リサーチ・コンサルティング連携を通じた新規顧客の獲得、新たな事業の展開による外販収益の拡大

4.情報発信と情報収集・意見交換との好循環を起こしてリサーチクオリティを向上する

 

 各項目の当連結会計年度における実績は以下のとおりです。

1.当社グループを含む金融機関をはじめとするお客様に対してAI・データサイエンスを活用した各種サービスの提供を着実に実行しました。また、複数のクラウドサービスの特徴を活かしたマルチクラウドによるソリューション提供を可能とするインフラの整備、健康保険組合向けBPOサービスの受託拡大に向けた組織体制の整備を行いました。

2.設計開発部門における開発単価・開発工数の低減や、運用保守部門における当社グループ内外のシステム運用・保守業務の統合等により、当社グループのITコスト低減及び生産性向上に貢献しました。

3.お客様ニーズを的確に捉えた提案等を通じた関係性の深化による顧客の獲得や取引の大口化、外部企業との連携強化によるサービス提供領域の拡大に取り組みました。

4.ESG/SDGsをはじめとする経済・社会の時流を踏まえた情報発信を積極的に行うとともに、データサイエンスの経済分析等への活用に取り組みました。

 

 

当連結会計年度において大和ネクスト銀行は以下の事業計画を実行しました。

1.競争力ある金利の提供と魅力ある新商品・新サービスの提供

2.グループ内連携の更なる強化、融資案件をはじめとした新たなビジネスの実行

3.運用の多様化

4.応援定期預金の残高拡大やESG投融資の促進等への取り組み

 

 各項目の当連結会計年度における実績は以下のとおりです。

1.外貨預金において、業界トップ水準の金利を維持するとともに、新たな商品としてバスケット定期預金をリリースしました。

2~3.融資ビジネス部を新設するとともに、ポートフォリオの見直しと投融資残高の拡大に向け取組みました。

4.サステナビリティKPIの一つである応援定期預金の残高拡大に取り組みました。また、マネー・ローンダリング/テロ資金供与対策の強化に向けた態勢整備を継続し、リスク管理のさらなる改善を行いました。

 

 大和ネクスト銀行の当連結会計年度末の預金残高(譲渡性預金含む)は前年度末比5.3%減の4.1兆円、銀行口座数は前年度比4.2%増の156万口座となりました。当連結会計年度の業績は、運用収益が改善した結果、増収増益となりました。

 その結果、その他・調整等に係る純営業収益は352億円(前年度255億円)、経常損失は93億円(前年度経常損失135億円)となりました。

 

③ 目標とする経営指標の達成状況等

 当社グループでは、2021年度から2023年度にかけての中期経営計画“Passion for the Best”2023を公表し、業績KPIとして自己資本利益率(ROE)及び経常利益、財務基盤KPIとして連結総自己資本規制比率を数値目標として掲げました。また、お客様本位のクオリティNo.1を追求する指標として、大和証券預り資産残高とともにリテール部門残高ベース収益比率(注)1、新規ビジネス領域への拡大を進めるハイブリッド戦略進捗の指標として、ハイブリッド関連経常利益・ハイブリッド関連経常利益比率(注)2をKPIとして設定しました。

 中期経営計画初年度となる当連結会計年度においては、業績KPIはROE10%以上目標に対し7.0%、連結経常利益2,000億円以上目標に対し1,358億円となり、順調な滑り出しとなりました。財務基盤KPIの連結総自己資本規制比率は19.59%(注)3と、目標の18%以上を上回って推移しています。クオリティNo.1のKPIである大和証券預り資産は、90兆円以上目標に対して75.1兆円、リテール部門残高ベース収益は50%以上目標に対して46.1%となりました。また、ハイブリッドKPIのハイブリッド関連経常利益は320億円、ハイブリッド経常利益率は23%となりました。

 2021年度は、長引くコロナ禍における様々な制約や地政学リスクなど不透明感が増す中においても、中期経営計画の柱となる資産管理型ビジネスモデルへの転換が進捗すると共に、ハイブリッド戦略の推進により、付加価値の高い商品・サービスの創出や収益構造の多様化も進展し、着実に前進した一年でありました。また、中長期的な経営指針となる「2030Vision」の根底に取り入れたSDGsへの取組み推進においても、サステナブルファイナンスへの関心の一層の高まりを受け、当社グループにおいても社内体制の更なる強化を行うと共に、航空業界で世界初となるトランジションボンド発行のアレンジ等、SDGs債の引受け実績を積み上げ、着実な進捗があったと評価しております。

 

(注)1 残高ベース収益:投信代理事務手数料、投資顧問料・取引等管理料、銀行代理店報酬、投信フレックスプラン残高手数料など

(注)2 ハイブリッド関連経常利益:不動産アセットマネジメント、大和エナジー・インフラ、大和ネクスト銀行など、ハイブリッド事業から生じる利益

(注)3 連結総自己資本規制比率は有価証券報告書提出日における速報値を記載しており、確定値は算出完了次第、当社ホームページにて公表する予定です。

 

 

④ 経営成績の前提となる2021年度のマクロ経済環境

<海外の状況>

 2020年前半に新型コロナウイルスの感染拡大によって急激に悪化した世界経済は、2020年後半には持ち直しに転じ、2021年以降も回復基調が続いています。IMF(国際通貨基金)が2022年4月に公表した世界経済見通しによれば、2020年の大幅な落ち込みからの反動もあり、2021年の世界経済成長率は+6.1%と、IMFが成長率を公表する1980年以降で最も高い成長となりました。2020年は世界の大半の国がマイナス成長に陥ることになりましたが、2021年にはその多くの国がプラス成長へと転じています。ただし、世界経済は引き続き新型コロナウイルスの感染状況に大きく左右されていることに加え、世界的なインフレ率の高進や、ロシアのウクライナ侵攻など、新たなリスクに直面しており、先行きの不透明感が強い状況が続いています。

 米国経済は、2020年後半以降、着実な回復傾向が続いています。新型コロナウイルスの感染拡大以降、政府が実行してきた経済対策が下支えとなったことに加えて、新型コロナウイルスワクチンの接種が順調に進む中、政府による行動規制が緩和されたことで、2021年1-3月期の実質GDP成長率は前期比年率+6.3%となりました。4-6月期に入ると、経済再開の動きが一層進展したことに加えて、2021年1月に発足したバイデン政権が3月に成立させた追加経済対策による家計所得の増加が個人消費を後押ししました。個人消費の増加を主因に、4-6月期の実質GDP成長率は前期比年率+6.7%と前期から加速し、実質GDPはコロナ禍前の水準を回復しました。7-9月期には、変異株による新型コロナウイルスの感染再拡大や、自動車産業などでの半導体などの部品不足による供給制約の影響によって、成長率は前期比年率+2.3%と鈍化しましたが、10-12月期には、感染拡大が落ち着く中、雇用環境の回復を背景とした個人消費の増加などにより、実質GDP成長率は前期比年率+6.9%と再加速しました。2022年1-3月期の実質GDP成長率は、前期比年率△1.5%と2020年4-6月期以来のマイナス成長となりました。もっとも、これは上記の供給制約を背景とした輸出の伸び悩み、輸入の増加及び在庫の調整が主因であり、個人消費を中心とした国内最終需要については、前期から伸びが加速し底堅い状況が続いています。

 金融面では、FRB(連邦準備制度理事会)は、コロナ禍以降続けてきた緩和的な金融政策を2021年中は継続しました。しかし、米国経済のコロナ禍による落ち込みからの回復が十分進んだことに加えて、インフレ率が目標である2%を大きく上回っていることを受けて、FRBは、2021年末から金融緩和の縮小、金融引き締めへと姿勢を転換しています。FRBは、2021年11月のFOMC(連邦公開市場委員会)で量的緩和の縮小開始を決定し、コロナ禍以降続いてきた、FRBによるバランスシートの拡大は2022年2月に停止されました。さらに、2022年3月のFOMCでは政策金利が0.25%pt引き上げられ、2020年3月以降続いてきた実質的なゼロ金利政策が終了しました。

 欧州経済(ユーロ圏経済)は、新型コロナウイルスの感染動向に大きく左右されつつも、総じて見れば回復基調が続いています。新型コロナウイルス感染再拡大によって、ドイツ、フランスなど、多くの国で2度目のロックダウンを余儀なくされたことで、2021年1-3月期のユーロ圏の実質GDP成長率は前期比年率△0.5%と2四半期連続のマイナス成長となり、2021年のユーロ圏経済は低調なスタートとなりました。しかし、4-6月期に入ると、新型コロナウイルスワクチンの接種が進展する中、行動制限が緩和されたことで、ユーロ圏経済は持ち直しへと向かいました。4―6月期の実質GDP成長率は、前期比年率+8.9%と3四半期ぶりのプラス成長に転じ、続く7-9月期も前期比年率+9.6%と2四半期連続で潜在成長率を上回る高めの成長となりました。しかし、10-12月期には新規感染者数が再び増加に転じる中、行動規制が強化されたことなどから、実質GDP成長率は前期比年率+1.0%と小幅な増加にとどまりました。また、2022年に入ると、行動制限が緩和され経済の下押し圧力が弱まる一方で、2月下旬に開始したロシアによるウクライナ侵攻を背景としたエネルギー価格の高騰が、個人消費や企業活動を鈍らせる要因となりました。2022年1-3月期の実質GDP成長率は、輸入の減少を主因に前期比年率+2.5%と伸びが加速しましたが、国内需要については前期からさらに伸びが鈍化しました。

 金融面では、ECB(欧州中央銀行)による金融緩和が続いています。ただし、ユーロ圏経済の回復が進んだことを受け、金融緩和は縮小へと向かいつつあります。2021年9月のECB理事会では、コロナ禍で新設されたパンデミック緊急購入プログラムによる資産の買い入れペースを10-12月期以降減速させる方針が示され、同年12月のECB理事会では、2022年3月で同プログラムによる資産の買い取りを終了することが決定されました。また、インフレの加速を受け、2022年3月のECB理事会では、コロナ禍以前から実施されてきた資産買入プログラムに関しても終了を前倒しし、早ければ2022年7-9月期に終了する方針が示されました。

 新興国経済は、先進国と同様に2020年前半に急激に悪化した後、2020年後半以降は持ち直しの動きが続いています。IMFによれば、新興国の実質GDP成長率は、2020年に△2.0%とマイナス成長に陥った後、2021年は+6.8%と高い成長となりました。

 新興国のうち、世界第2位の経済規模を持つ中国では経済の持ち直しが続いています。2021年に入ると、米国の成長加速を主因に輸出の伸びが加速したことに加え、出遅れていた個人消費の回復が進み、1-3月期の実質GDP成長率は前年比+18.3%と、四半期統計が公表される1992年以来、最も高い成長率となりました。もっとも、4-6月期以降、中国の成長ペースは鈍化傾向にあります。4-6月期の実質GDP成長率は、前年からの反動の影響が一巡したこともあり、前年比+7.9%と前期から大きく減速しました。さらに7-9月期以降は、変異株の感染拡大を受けた行動制限や、資源価格の上昇、不動産市場の調整、電力不足の問題などから一層減速感が強まり、7-9月期は前年比+4.9%、10-12月期は前年比+4.0%の成長にとどまりました。その後、個人消費の持ち直しなどから、2022年1-3月期の実質GDP成長率は前年比+4.8%と前期から加速しました。しかし、2022年3月に入って新型コロナウイルスの感染者数が急増し、ゼロコロナ政策の下、上海などの多くの都市でロックダウンが実施されたことから、急速に景気減速懸念が高まりました。

 中国以外の新興国は、総じて見れば持ち直しの動きが続きました。多くの新興国でもワクチンの接種が進展し、行動制限が徐々に緩和されたことに加え、米国や中国を中心とした主要国経済の回復による外需の拡大が新興国経済を下支えしました。一方、資源価格の上昇による高インフレや、米国での金融緩和縮小、金利上昇に伴う資金流出抑制のため、多くの国が利上げを余儀なくされており、景気減速のリスクは高まりつつあります。

 

<日本の状況>

 日本経済は、新型コロナウイルスの感染動向に大きく左右され一進一退の推移が続きました。2021年1月7日に2回目の緊急事態宣言が発出されたことで、2021年1-3月期の実質GDP成長率は、前期比年率△1.6%と3四半期ぶりのマイナス成長に転じました。4-6月期には前期比年率+2.6%とプラスに転じましたが、4月23日に発出された3回目の緊急事態宣言が9月末まで続いたことで、7-9月期は前期比年率△3.2%とマイナス成長となりました。10月以降は経済活動が再開されたことから、10-12月期の実質GDP成長率は前期比年率+4.0%とプラス成長に転じましたが、2022年に入ると感染者数が再び増加し、多くの地域でまん延防止等重点措置が適用されたため、2022年1-3月期の実質GDP成長率は前期比年率△0.5%と再びマイナス成長となりました。

 需要項目ごとに見ると、個人消費は、感染状況とそれに伴う行動規制に大きく左右される形で増加・減少を繰り返しました。2021年1-3月期の個人消費は、緊急事態宣言の影響により、外食や娯楽サービスなどを中心としたサービス消費の減少を主因に3四半期ぶりに減少しました。その後、4-6月期には人出が回復したことで個人消費は持ち直しに転じましたが、7-9月期に入ると新型コロナウイルスの感染が再び拡大し、3回目の緊急事態宣言が発出されたことにより個人消費は減少しました。9月末に緊急事態宣言等が解除された後、10-12月期には、個人消費は一時持ち直しに向かいましたが、2022年に入ると、感染再拡大に伴い多くの地域でまん延防止等重点措置が適用され、2022年1-3月期の個人消費は、サービス消費を中心に再び回復が足踏みすることになりました。住宅投資については、コロナ禍によって大きく落ちこんだ後、2021年前半は持ち直しの動きがみられました。しかし、雇用・所得環境の先行きに対する不透明感や、資材価格上昇を背景とした価格上昇により、2021年後半以降は緩やかに減少しています。

 企業部門の需要である設備投資は、横ばい圏で推移しています。2020年10-12月期から2021年前半にかけて、設備投資は増加傾向にありましたが、緊急事態宣言等の発出や、海外での感染拡大によるサプライチェーンの混乱から供給制約が強まった2021年7-9月期には、設備投資の落ち込みが見られました。その後、欧米や中国など海外経済の回復を背景に輸出の増加基調が続いたことや供給制約の緩和を受け、10-12月期には再び増加に転じましたが、感染再拡大などによる先行き不透明感から、2022年1-3月期に入って回復が足踏みしました。日銀短観(2022年3月調査)によれば、2021年度の設備投資計画(含む土地投資額)は、前年比+4.6%となり、2022年度については前年比+0.8%と小幅ながら増加が続く見通しとなっています。

 金融面では、日本銀行による短期金利に加えて長期金利も操作対象とする金融緩和措置が継続しています。また、新型コロナウイルスの感染拡大による急激な景気の悪化を受けて、2020年4月以降は日本銀行による国債の購入額の上限が撤廃されたほか、社債などの買い入れ枠が拡大されるなど、量的緩和が強化されました。ただし、日本経済が徐々に持ち直す中、日本銀行は2021年12月の政策決定会合で、社債などの買い入れ増額を2022年3月で終了することを決定しました。

 日本銀行による緩和的な金融政策が続く中、日本の10年国債利回りは0%近傍での推移が続いています。もっとも、2021年に入ってからは、特に米国長期金利の変動に影響される形で、日本の長期金利も小幅ながら上昇と下落を繰り返しました。2021年初めには米国での景気過熱や財政悪化への懸念から米国の長期金利が上昇したことに伴い日本の長期金利も小幅ながら上昇し、2月末には一時、2018年10月以来初めて0.15%を上回りました。3月以降、米国の長期金利が低下したことを受けて日本の長期金利もしばらくは低下傾向となりましたが、FRBの量的緩和縮小や利上げ開始前倒し観測が強まった7月頃からは、米国長期金利が上昇を続け、日本の長期金利も上昇傾向へと転じました。とりわけ、2021年末頃からは高インフレを背景とした米国での利上げペース加速への見方が強まり、米国長期金利の上昇ペースが加速したため、日本の長期金利も上昇基調が強まり、2022年3月末には一時0.25%を上回りました。

 為替市場をみると、2021年以降、総じて円安傾向で推移しました。米国での長期金利の大幅な上昇を受けて日米金利差が拡大したことで、2021年1-3月期は速いペースで円安が続き、年初時点で102円台だった対ドルレートは3月末には110円台となりました。その後、米国金利の上昇が収まったことで4月から9月頃にかけては概ね横ばい圏で推移しました。しかし、米国で金利が再び上昇基調を強める中、9月末以降はドル高・円安傾向となり、2022年3月には2015年8月以来となる124円台まで円安が進みました。対ユーロについては、欧州では日本に比べて早くワクチンの接種が進んだことによる欧州経済の回復期待から、2021年年初から6月初頭まではユーロ高・円安傾向となりました。6月中旬以降は欧州経済の回復ペースが緩やかとなる中、ECBによる金融緩和が長期化するとの見方が広がったことにより、概ね横ばい圏で推移しました。一方、2022年2月にロシアによるウクライナ侵攻が始まると、一時的にユーロ安・円高となりましたが、エネルギー価格上昇によるインフレ高進を背景としたECBによる金融引き締め観測が強まり、年度末にかけて急速にユーロ高・円安が進みました。

 株式市場では、2021年2月に日経平均株価が一時1990年8月以来となる30,000円台まで上昇したものの、2021年度に入ると、緊急事態宣言が繰り返し発出されたことなどが重荷となり、株価は緩やかな下落傾向となりました。9月には新政権への期待感から株価は大幅に上昇し、日経平均株価は再び一時30,000円を上回る局面もありました。しかし、感染の再拡大や金利上昇などが重荷となり、2021年末にかけては一進一退で推移し、米国での金融引き締め加速観測が強まった2022年以降は、再び日経平均も下落基調となりました。

 2022年3月末の日経平均株価は27,821円43銭(前年3月末比1,357円37銭安)、10年国債利回りは0.218%(同0.114%ptの上昇)、為替は1ドル121円64銭(同10円90銭の円安)となりました。

 

(4)当連結会計年度のキャッシュ・フローの状況の分析

① 営業活動、投資活動及び財務活動によるキャッシュ・フロー並びに現金及び現金同等物

 当連結会計年度におけるキャッシュ・フローの状況は次のとおりであります。

 

 

(単位:百万円)

 

2021年3月期

2022年3月期

営業活動によるキャッシュ・フロー

390,979

△353,467

投資活動によるキャッシュ・フロー

△91,641

△218,534

財務活動によるキャッシュ・フロー

438,067

377,090

現金及び現金同等物に係る換算差額

6,796

25,760

現金及び現金同等物の増減額(△は減少)

744,201

△169,150

現金及び現金同等物の期首残高

3,933,149

4,723,526

現金及び現金同等物の期末残高

4,723,526

4,554,375

 

 当連結会計年度において、営業活動によるキャッシュ・フローは、トレーディング商品の増減、有価証券担保貸付金及び有価証券担保借入金の増減、銀行業における預金の増減、短期差入保証金の増減などにより、△3,534億円(前年度は3,909億円)となりました。投資活動によるキャッシュ・フローは、有価証券の取得による支出、投資有価証券の取得による支出などにより、△2,185億円(同△916億円)となりました。財務活動によるキャッシュ・フローは、短期借入金の純増減などにより、3,770億円(同4,380億円)となりました。これらに為替変動の影響等を加えた結果、当連結会計年度末の現金及び現金同等物の残高は、前年度末比1,691億円減少の4兆5,543億円となりました。

 

② 資本の財源及び流動性に係る情報

(ⅰ)流動性の管理

<財務の効率性と安定性の両立>

 当社グループは、多くの資産及び負債を用いる有価証券関連業務や、投融資業務を行っており、これらのビジネスを継続する上で十分な流動性を効率的かつ安定的に確保することを資金調達の基本方針としております。

 当社グループの資金調達手段には、社債、ミディアム・ターム・ノート、金融機関借入、コマーシャル・ペーパー、コールマネー、預金受入等の無担保調達、現先取引、レポ取引等の有担保調達があり、これらの多様な調達手段を適切に組み合わせることにより、効率的かつ安定的な資金調達の実現を図っております。

 財務の安定性という観点では、環境が大きく変動した場合においても、業務の継続に支障をきたすことのないよう、平時から安定的に資金を確保するよう努めると同時に、危機発生等により、新規の資金調達及び既存資金の再調達が困難となる場合も想定し、調達資金の償還期限及び調達先の分散を図っております。

 当社は、「金融商品取引法第五十七条の十七第一項の規定に基づき、最終指定親会社が当該最終指定親会社及びその子法人等の経営の健全性を判断するための基準として定める最終指定親会社及びその子法人等の経営の健全性のうち流動性に係る健全性の状況を表示する基準」(平成26年金融庁告示第61号)により連結流動性カバレッジ比率(以下、「LCR」という。)及び連結安定調達比率(以下、「NSFR」という。)を所定の比率(それぞれ100%)以上に維持することが求められており、当第4四半期日次平均のLCRは149.0%です。また、同第4四半期末のNSFRは有価証券報告書提出日における速報値で148.0%となっており、確定値は算出完了次第、当社ホームページにて公表する予定です。また、当社は、上記金融庁告示による規制上のLCR及びNSFRのほかに、独自の流動性管理指標を用いた流動性管理態勢を構築しております。即ち、一定期間内に期日が到来する無担保調達資金及び同期間にストレスが発生した場合の資金流出見込額に対し、様々なストレスシナリオを想定したうえで、それらをカバーする流動性ポートフォリオが保持されていることを日次で確認しており、1年間無担保資金調達が行えない場合でも業務の継続が可能となるように取り組んでおります。

 当第4四半期日次平均のLCRの状況は次のとおりです。

 

 

 

(単位:億円)

 

 

 

 日次平均

(自 2022年1月

  至 2022年3月)

適格流動資産

(A)

26,421

資金流出額

(B)

35,225

資金流入額

(C)

17,502

連結流動性カバレッジ比率(LCR)

 

 

 

算入可能適格流動資産の合計額

(D)

26,421

 

純資金流出額

(E)

17,723

 

連結流動性カバレッジ比率

(D)/(E)

149.0%

 

<グループ全体の資金管理>

 当社グループでは、グループ全体での適正な流動性確保という基本方針の下、当社が一元的に資金の流動性の管理・モニタリングを行っております。当社は、当社グループ固有のストレス又は市場全体のストレスの発生により新規の資金調達及び既存資金の再調達が困難となる場合も想定し、短期の無担保調達資金について、当社グループの流動性ポートフォリオが十分に確保されているかをモニタリングしております。また、当社は、必要に応じて当社からグループ各社に対し、機動的な資金の配分・供給を行うと共に、グループ内で資金融通を可能とする態勢を整えることで、効率性に基づく一体的な資金調達及び資金管理を行っております。

 

<コンティンジェンシー・ファンディング・プラン>

 当社グループは、流動性リスクへの対応の一環として、コンティンジェンシー・ファンディング・プランを策定しております。同プランは、信用力の低下等の内生的要因や金融市場の混乱等の外生的要因によるストレスの逼迫度に応じた報告体制や資金調達手段の確保などの方針を定めており、これにより当社グループは機動的な対応により流動性を確保する態勢を整備しております。

 当社グループのコンティンジェンシー・ファンディング・プランは、グループ全体のストレスを踏まえて策定しており、変動する金融環境に機動的に対応するため、定期的な見直しを行っております。

 また、金融市場の変動の影響が大きく、その流動性確保の重要性の高い大和証券株式会社、株式会社大和ネクスト銀行及び一部の海外証券子会社においては、更に個別のコンティンジェンシー・ファンディング・プランも策定し、同様に定期的な見直しを行っております。

 なお、当社は、子会社のコンティンジェンシー・ファンディング・プランの整備状況について定期的にモニタリングしており、必要に応じて想定すべき危機シナリオを考慮して子会社の資金調達プランやコンティンジェンシー・ファンディング・プランそのものの見直しを行い、更には流動性の積み増しを実行すると同時に資産圧縮を図るといった事前の対策を講じることとしております。

 

(ⅱ)株主資本

 当社グループが株式や債券、デリバティブ等のトレーディング取引、貸借取引、引受業務、ストラクチャード・ファイナンス、M&A、プリンシパル・インベストメント、証券担保ローン等の有価証券関連業を中心とした幅広い金融サービスを展開し、ハイブリッド型総合証券グループとしての新たな価値の提供に資する投融資を行うためには、十分な資本を確保する必要があります。また、当社グループは、日本のみならず、海外においても有価証券関連業務を行っており、それぞれの地域において法規制上必要な資本を維持しなければなりません。

 当連結会計年度末の株主資本は、前連結会計年度末比43億円増加し、1兆2,864億円となりました。また、資本金及び資本剰余金の合計は4,778億円となっております。利益剰余金は親会社株主に帰属する当期純利益948億円を計上したほか、配当金637億円の支払いを行った結果、同310億円増加し9,427億円となりました。自己株式の控除額は同265億円増加し、1,342億円となっております。

 

③ 財務戦略

 当社グループの財務戦略の基本は、成長投資、資本効率性、財務健全性及び株主還元の最適なバランスを図り、健全な利益の確保を通じた持続的成長を実現することです。

 持続的な成長の実現に際しては、規制ならびに制度対応と適正な自己資本水準を維持することを重視しております。強固な財務基盤を堅持するため、財務基盤KPIとして連結総自己資本規制比率を採用しております。同比率については、今後のバーゼル規制の最終化による影響と過去の金融危機時のストレス・シナリオにも耐えうる資本のバッファーを加味し、18%を最低水準と設定しております。2019年度には規制上その他Tier1資本に係る基礎項目として取り扱われる、当社として初めての無担保永久社債(債務免除特約および劣後特約付)を2本立てで計1,500億円発行し、財務基盤の拡充を図りました。

 成長投資に関しましては、当連結会計年度も既存事業の競争力強化のための投資や事業ポートフォリオ多様化のための出資などを数多く実行いたしました。その結果、財務基盤KPIとして設定している連結総自己資本規制比率は速報ベースで18%を上回っており、今後も継続的な成長投資を行うための十分な資本余力を有しております。このため、証券ビジネスの顧客基盤拡大に向けた投資やハイブリッド型総合証券グループとしてコアビジネスと親和性のある周辺領域への投資は今後も常に検討してまいります。

 株主還元策については「第4提出会社の状況 3配当政策」に記載のとおりです。

 当社の資金調達の方法については、「② 資本の財源及び流動性に係る情報」に記載しております。

 

tremolo data Excel アドインサービス Excel から直接リアルタイムに企業の決算情報データを取得

お知らせ

tremolo data Excel アドインサービス Excel から直接リアルタイムに企業の決算情報データを取得