業績

3【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

世界経済は、オミクロン株など新型コロナウイルス感染症(COVID-19)再拡大がみられたものの、前年度からの回復による反動もあり、通年では高い成長率となりました。国内経済は、相次ぐ緊急事態宣言の発令により回復が遅れていましたが、ワクチン接種の進展とそれに伴う活動制限の緩和を背景に個人消費の回復が明確化し、プラス成長となりました。このような事業環境のもとで当社は、2021年5月にローリングプランでの経営計画を発表し、自営事業4本柱の磨き上げ、アジアを中心としたグローバル展開の加速、新たな事業領域への挑戦、コンテナ船の事業の競争力向上、継続的な財務基盤の拡充に取り組んでまいりました。また2021年11月には、気候変動対策に対する取組みを強化するため、環境に関わる長期指針「“K”LINE 環境ビジョン2050」の一部を見直し、新たな2050年目標として「GHG(温室効果ガス)排出ネットゼロに挑戦する」という高い目標を定め、安全・環境・品質への取組みも積極的に進めてまいりました。

自営事業では船隊規模適正化の継続推進、安定収支を重視した投資の厳選、徹底した配船効率追求、顧客への提案力強化を通じた収益成長などにより、全セグメントでの黒字化を達成しました。また、当社の持分法適用関連会社であるOCEAN NETWORK EXPRESS PTE. LTD.(以下、「ONE社」という。)の業績が、旺盛な貨物需要に対応した機動的なオペレーションと高水準で推移した運賃市況などにより、大きく改善しました。これらの企業価値向上へ向けた取組みと、市況などに起因する収益の改善により、2030年の目標であった自己資本拡充と不採算船・事業からの撤退による構造改革を前倒しで達成しています。

これらの結果、当期の連結売上高は7,569億83百万円(前期比1,314億96百万円の増加)、営業利益は176億63百万円(前期は212億86百万円の営業損失)、経常利益は6,575億4百万円(前期比5,680億6百万円の増加)、親会社株主に帰属する当期純利益は6,424億24百万円(前期比5,337億28百万円の増加)となりました。

なお、ONE社の業績好調などにより、持分法による投資利益として6,409億92百万円を計上しました。うち、ONE社からの持分法による投資利益計上額は累計期間6,353億78百万円、当第4四半期連結会計期間においては2,203億3百万円となります。

 

経営計画の主な内容は「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (2)中期的な会社の経営戦略、(3)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題」をご参照ください。

事業環境が大きく変化しているなか、当社グループは2022年度から2026年度までの5か年の中期経営計画を公表しました。当社グループならではの強みである専門機能を磨き上げ、2050年に向けた自社と社会の低炭素・脱炭素化の実現と、収益成長を両立させるための長期経営ビジョンを達成していくため、足元の5年間で実行する施策を中期経営計画において明確化しました。

 

なお、当連結会計年度より、「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号 2020年3月31日)等を適用しています。

詳細は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(会計方針の変更)」に記載のとおりです。

 

業績等の概要

(1)業績

(単位:百万円)

 

 

前連結会計年度

(2021年3月期)

当連結会計年度

(2022年3月期)

増減額 (増減率)

売上高

625,486

756,983

131,496

(21.0%)

営業利益又は営業損失(△)

△21,286

17,663

38,949

( - )

経常利益

89,498

657,504

568,006

(634.7%)

親会社株主に帰属する当期純利益

108,695

642,424

533,728

(491.0%)

 

 

為替レートと燃料油価格が経常利益に与えた影響は以下のとおりです。

 

 

前連結会計年度

当連結会計年度

増減額

影響額

為替レート

¥106/US$

¥112/US$

¥6/US$

23.5億円

燃料油価格

US$363/MT

US$551/MT

US$188/MT

△3.2億円

 

           <為替の推移(¥/US$)>          <消費燃料油価格の推移(US$/MT)>

0102010_002.png 0102010_003.png

(注)為替・消費燃料油価格(平均補油価格)とも、当社社内値です。

 

また、当連結会計年度の事業セグメントごとの業績は、次のとおりです。

                                          (単位:百万円)

 

前連結会計年度

(自 2020年4月1日

  至 2021年3月31日)

当連結会計年度

(自 2021年4月1日

  至 2022年3月31日)

増減額 (増減率)

ドライバルク

売上高

181,983

276,478

94,495

(51.9%)

セグメント損益

△9,136

23,744

32,881

(-)

エネルギー

資源

売上高

77,641

89,726

12,085

(15.6%)

セグメント損益

1,071

4,766

3,695

(344.9%)

製品物流

売上高

339,667

380,196

40,528

(11.9%)

セグメント損益

104,545

640,814

536,269

(513.0%)

その他

売上高

26,193

10,580

△15,612

(△59.6%)

セグメント損益

1,084

△106

△1,191

(-)

 

① ドライバルクセグメント

 

[ドライバルク事業]

大型船市況は、上半期は中国をはじめとした各国において輸送需要が堅調に推移し、期央にかけて各国の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止に伴う検疫体制の強化や極東での滞船増加により、船腹需給が引き締まり、総じて高水準で推移しました。下半期には、中国の粗鋼生産抑制や鉄鉱石及び石炭の主要産地における荒天による出荷減少の影響を受け市況が軟化したものの、年間を通じ振れ幅を伴いながら概ね堅調に推移しました。

中・小型船市況は、上半期は中国の経済活動再開、ブラジル出し中国向け穀物の堅調な輸送需要等に加えて石炭、マイナーバルクなどの輸送需要が増加し、滞船の影響も受け、期央にかけ上昇しました。下半期は滞船の緩和やインドネシア炭の輸出禁止による混乱に伴い軟化しましたが、ロシア・ウクライナ情勢の影響により穀物が代替地から積み出されるなどの輸送パターンの変化を受け期末に再度上昇しました。

このような状況下、ドライバルクセグメントでは、市況エクスポージャーを適切に管理すると同時に運航コストの削減や配船効率向上に努めました。

 

以上の結果、ドライバルクセグメント全体では、前期比で増収となり、黒字に転換しました。

 

0102010_004.png

 

② エネルギー資源セグメント

 

[油槽船事業・電力事業]

大型原油船、LPG船及び電力炭船は中長期の傭船契約のもとで順調に稼働し、安定的に収益に貢献しました。

 

[液化天然ガス輸送船事業・海洋事業]

LNG船、ドリルシップ(海洋掘削船)及びFPSO(浮体式石油・ガス生産貯蔵積出設備)は中長期の傭船契約のもとで順調に稼働し、安定的に収益に貢献しました。

オフショア支援船事業においては、油価は回復したものの、市況低迷が継続しました。

 

以上の結果、エネルギー資源セグメント全体では、前期比で増収増益となりました。

 

0102010_005.png

 

③ 製品物流セグメント

 

[自動車船事業]

世界自動車販売市場は、半導体及び自動車部品の供給不足並びにロシア・ウクライナ情勢により、一部で生産・出荷への影響があったものの、前年度の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響からの回復基調が継続しました。燃料単価上昇の継続による影響を受けたものの、輸送需要は回復しました。

 

[物流事業]

国内物流・港湾事業では、国内コンテナターミナルの取扱量は前期比で増加しました。曳船事業では作業数が堅調に推移しました。倉庫事業は継続して堅調に推移しました。

国際物流事業では、航空フォワーディング事業の荷動きが改善しました。完成車物流事業では、在庫保管サービスの取扱量は低調に推移しました。

 

[近海・内航事業]

近海事業では、鋼材・木材の輸送需要は、堅調に推移しましたが、バルク輸送では、当期の輸送量は前期を下回り、近海船全体では、当期の輸送量は前期を下回りました。

内航事業では、フェリー輸送の市況は堅調に推移し、輸送量は前期を上回りました。定期船輸送では、木材製品・食品貨物などの取り込みを図り、輸送量は前期を上回りました。不定期船輸送では、石灰石・石炭の各専用船は安定した稼働となり、一般貨物船では国産材の需要増により、輸送量は前期を上回りました。

 

[コンテナ船事業]

当社持分法適用関連会社であるONE社は、サプライチェーンの混乱と旺盛な荷動きにより輸送需給がひっ迫するなか、全航路において運賃が高水準で推移したことにより、業績は前期比で大幅な改善となりました。

 

以上の結果、製品物流セグメント全体では、前期比で増収増益となりました。

 

④ その他

 

その他には、船舶管理業、旅行代理店業及び不動産賃貸・管理業等が含まれており、当期業績は前期比で減収となり、損失を計上しました。

 

(2)キャッシュ・フロー

当連結会計年度末における現金及び現金同等物は2,443億16百万円となり、前連結会計年度末より1,143億15百万円増加しました。各キャッシュ・フローの状況は次のとおりです。

営業活動によるキャッシュ・フローは、税金等調整前当期純利益等により、当連結会計年度は2,264億60百万円のプラス(前連結会計年度は333億97百万円のプラス)となりました。

投資活動によるキャッシュ・フローは、有形固定資産の取得による支出等により、当連結会計年度は58億48百万円のマイナス(前連結会計年度は169億87百万円のプラス)となりました。

財務活動によるキャッシュ・フローは、長期借入金返済等に係る支出等により、当連結会計年度は1,160億1百万円のマイナス(前連結会計年度は348億45百万円のマイナス)となりました。

 

生産、受注及び販売の状況

 

 当社グループは、海運業を中核とする海運事業グループであり、ドライバルク事業、エネルギー資源事業、製品物流事業を行っています。この他、船舶管理業、旅行代理店業及び不動産賃貸・管理業等を展開しています。従って、生産、受注を行っておらず、セグメントごとに生産規模及び受注規模を金額あるいは数量で示すことはしていません。

 

セグメント別売上高(外部顧客に対する売上高)

 セグメント別売上高(外部顧客に対する売上高)の実績は、下記のとおりです。

セグメントの名称

前連結会計年度

(自 2020年4月1日

   至 2021年3月31日)

当連結会計年度

(自 2021年4月1日

   至 2022年3月31日)

金額(百万円)

比率(%)

金額(百万円)

比率(%)

ドライバルク

181,983

29.1

276,478

36.5

エネルギー資源

77,641

12.4

89,726

11.9

製品物流

339,667

54.3

380,196

50.2

その他

26,193

4.2

10,580

1.4

合計

625,486

100.0

756,983

100.0

 

当社(川崎汽船㈱)の営業収益実績(参考)

 提出会社のセグメント別営業収益の実績は、下記のとおりです。

区分

前事業年度

(自 2020年4月1日

   至 2021年3月31日)

当事業年度

(自 2021年4月1日

   至 2022年3月31日)

金額(百万円)

比率(%)

金額(百万円)

比率(%)

(ドライバルク)

172,345

43.2

260,456

47.2

(エネルギー資源)

56,961

14.3

69,288

12.6

(製品物流)

169,895

42.5

221,575

40.2

海運業収益

399,202

100.0

551,320

100.0

(その他)

52

0.0

52

0.0

その他事業収益

52

0.0

52

0.0

合計

399,255

100.0

551,372

100.0

 

経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析

 

(1)重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されています。この連結財務諸表の作成にあたり、見積りが必要な事項につきましては、一定の会計基準の範囲内にて合理的な基準に基づき、会計上の見積りを行っています。

詳細は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載のとおりです。

 

(2)当連結会計年度の経営成績の分析

① 売上高

売上高は前年度に比べ21.0%増収の7,569億83百万円となりました。報告セグメント別では、ドライバルクセグメントは、前年度に比べ、51.9%増収の2,764億78百万円となりました。エネルギー資源セグメントは、前年度に比べ、15.6%増収の897億26百万円となり、製品物流セグメントは、前年度に比べ、11.9%増収の3,801億96百万円となりました。

その他セグメントは、59.6%減収となりました。

 

② 売上原価、販売費及び一般管理費

売上原価は、前年度の5,900億46百万円から915億59百万円増加し、6,816億5百万円(前年度比15.5%増)となりました。営業収入に対する売上原価の比率は4.3ポイント減少して90.0%となりました。販売費及び一般管理費は9億87百万円増加し、577億14百万円(前年度比1.7%増)となりました。

③ 営業利益

売上総利益の増加により、前年度の212億86百万円の営業損失に対し176億63百万円の営業利益となりました。

④ 営業外収益(費用)

6,409億92百万円の持分法による投資利益(前年度は1,181億65百万円の持分法による投資利益)を計上したことが主な要因となり、営業外損益は6,398億40百万円の利益(前年度は1,107億84百万円の利益)となりました。

⑤ 税金等調整前当期純利益

固定資産売却益などにより特別利益は301億5百万円となりました。また、減損損失などにより特別損失は285億16百万円となりました。これらの結果、税金等調整前当期純利益は6,590億93百万円(前年度は1,138億54百万円の税金等調整前当期純利益)となりました。

⑥ 法人税等

法人税等は、主として法人税、住民税及び事業税の増加により、前年度の27億72百万円から96億87百万円増加し124億59百万円となりました。

 

⑦ 非支配株主に帰属する当期純利益

非支配株主に帰属する当期純利益は、川崎近海汽船株式会社などの非支配株主に帰属する当期純利益が増加し、前年度の23億86百万円から18億22百万円増加し、42億9百万円となりました。

⑧ 親会社株主に帰属する当期純利益

親会社株主に帰属する当期純利益は、前年度の1,086億95百万円に対し、6,424億24百万円となりました。1株当たり当期純利益は、前年度の1,165.34円に対し、6,887.54円となりました。

(3)資本の財源及び資金の流動性についての分析

① キャッシュ・フローの状況

「第2 事業の状況 3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 業績等の概要 (2) キャッシュ・フロー」をご参照ください。

② 資金需要

当社グループの運転資金需要のうち主なものは、当社グループのドライバルク事業や自動車船事業の運営に関わる海運業費用です。この中には港費・貨物費・燃料費などの運航費、船員費・船舶修繕費などの船費及び借船料などが含まれます。このほか物流事業の運営に関わる労務費等の役務原価、各事業についての人件費・情報処理費用・その他物件費等の一般管理費があります。また、設備資金需要としては船舶投資や物流設備・ターミナル設備等への投資があります。当連結会計年度中に434億42百万円の設備投資を実施しました。

 

③ 財務政策

当社グループの事業維持・拡大を支える低コストで安定的な資金の確保を重視しています。長期の資金需要に対しては金融機関からの長期借入金を中心に、社債発行、新株発行により調達しています。短期的な運転資金を銀行借入、コマーシャルペーパー(CP)発行等により調達し、一時的な余資は安定性・流動性の高い金融資産で運用しています。また、キャッシュマネージメントシステム等を利用して、国内・海外グループ会社の余剰資金を有効活用しています。

流動性の確保としまして、CP発行枠600億円に加え、国内金融機関と1,400億円の複数年のコミットメントラインを設定し、緊急の資金需要に備えています。

当社は日本格付研究所(JCR)から格付を取得しており、2022年6月23日0時現在の発行体格付は、「BBB」となっています。また、短期債格付(CP格付)については「J-2」を取得しています。

 

(4)財政状態

当連結会計年度末の資産合計は、前年度末比6,003億51百万円増加し1兆5,749億60百万円となりました。流動資産は、現金及び預金の増加等により、前年度末比1,648億79百万円増加し4,310億89百万円となりました。

固定資産は前年度末比4,354億72百万円増加し1兆1,438億70百万円となりました。固定資産のうち有形固定資産は、船舶の減少等により、前年度末比93億4百万円減少し3,820億29百万円となりました。投資その他の資産は、投資有価証券の増加等により、前年度末比4,448億14百万円増加し7,583億26百万円となりました。

当連結会計年度末の負債合計は、前年度末比683億68百万円減少し5,900億77百万円となりました。短期借入金及び長期借入金の減少等により、流動負債は2,515億38百万円となり、固定負債は3,385億38百万円となりました。

当連結会計年度末の純資産合計は、前年度末比6,687億20百万円増加し、9,848億82百万円となりました。純資産のうち株主資本は、主に利益剰余金が6,464億6百万円増加したことにより、8,644億24百万円となりました。その他の包括利益累計額は、為替換算調整勘定が増加したことを主な要因として、前年度末比201億19百万円増加し202億9百万円となりました。

 

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