(1)会社の経営の基本方針
当社は2022年5月9日より、当社グループの目指す姿として「企業理念」、「ビジョン」及び「大事にする価値観」を以下のとおり掲げています。
<企業理念>
~グローバルに信頼される ~
海運業を主軸とする物流企業として、人々の豊かな暮らしに貢献します。
<ビジョン>
全てのステークホルダーから信頼されるパートナーとして、グローバル社会のインフラを支えることで持続的成長と企業価値向上を目指します。
<大事にする価値観>
・お客様を第一に考えた安全で最適なサービスの提供
・たゆまない課題解決への姿勢
・専門性を追求した川崎汽船ならではの価値の提供
・変革への飽くなきチャレンジ
・地球環境と持続可能な社会への貢献
・多様な価値観の受容による人間性の尊重と公正な事業活動
当社は、海運業を主軸とする物流において、自社と社会の低炭素・脱炭素化の推進を通じて企業価値向上を図り、その実現のための新たな成長機会を追求していくことを基本方針としています。
(2)中期的な会社の経営戦略
事業環境が大きく変化しているなか、当社グループは2022年度から2026年度までの5か年の中期経営計画を公表しました。当社グループならではの強みである専門機能を磨き上げ、2050年に向けた自社と社会の低炭素・脱炭素化の実現と、収益成長を両立させるための長期経営ビジョンを達成していくため、足元の5年間で実行する施策を中期経営計画において明確化しました。船隊の代替燃料船への移行と並行してエネルギーインフラの転換を進めると同時に、この事業機会を確実に捉え、収益性と成長性を高めていくためにも、経営資源の集中と顧客とのパートナーシップの強化により企業価値の持続的な向上につなげてまいります。その実現のため、事業戦略の実行、事業基盤の構築及び資本政策の明確化に取り組みます。
企業価値向上への取組みを定量的に管理していくための経営指標及び目標をそれぞれ以下のとおり設定しました。
経営指標 |
目標 |
ROE |
10%以上 |
収支 |
2026年度に経常利益1,400億円(自営事業とコンテナ船事業の収益力をバランス) |
最適資本構成 |
当社グループとしての資本効率の最適化と戦略的な資金調達が可能となる財務の健全性を両立 |
株主還元方針 |
中期経営計画期間で4,000億円から5,000億円規模(最適資本構成を常に意識し、企業価値向上に必要な投資及び財務の健全性を確保のうえ、適正資本を超える部分についてはキャッシュフローも踏まえて、積極的に自己株式取得を含めた株主還元を進めます。) |
(3)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
<中期経営計画>
① 事業環境の変化と未来を見据えてファインチューンした「企業理念」、「ビジョン」及び「大事にする価値観」
事業環境の変化がもたらす当社グループへの影響の大きさと重要さを考慮したうえで、当社グループが目指す姿を再確認し、「企業理念」、「ビジョン」及び「大事にする価値観」を見直しました。
当社グループの事業領域は、海運業を主軸とする物流であることを再確認し、その事業領域において自社と社会の低炭素・脱炭素化の推進を通じた企業価値向上を図り、その実現のために成長を牽引する役割を担う事業に経営資源を集中し、低炭素・脱炭素化に向けた活動をともにできる顧客と成長機会を追求していく企業でありたいという方向性を明確化しました。
② 環境を梃子にした成長のための長期経営ビジョンの策定
ポートフォリオ経営の強化や低炭素・脱炭素化に向けた活動を通じて実現したい長期経営ビジョンを策定しました。
“川崎汽船グループならでは”の強みである専門機能を磨き上げ、自社と社会の低炭素・脱炭素化への貢献と収益成長を両立させるため、成長を牽引する役割を担う事業に経営資源を集中させ、自営事業とコンテナ船事業の2本柱で市況耐性の高い企業として持続的な成長を目指します。投資にあたっては資本コストをより意識し適切な資本政策をもって実施してまいります。
③ 事業ポートフォリオ戦略による経営資源の集中
事業ポートフォリオの新しい枠組みにより事業の役割を類型化し、各事業の役割に応じた戦略的方向性を明確化しました。
自社と社会の低炭素・脱炭素化を機会として「成長を牽引する役割を担う事業」には経営資源を集中的に配分して事業成長を実現します。「スムーズなエネルギー転換をサポートし新たな事業機会を担う役割の事業」では、事業リスクの最小化を図りながらも、代替燃料需要への対応を推進します。「稼ぐ力の磨き上げで貢献する役割の事業」では、他事業とのシナジーを追求するとともに、バルクキャリアにおいては契約期間に応じた船舶保有とすることでライトアセット化を進めるなど、対象事業の市況耐性を高め、安定収益を確保します。これら3つのポートフォリオについては、戦略的な事業資産の入れ替えを継続的に検討します。
「株主として事業を支え収益基盤を安定させる役割の事業」では、継続的な人的支援と経営ガバナンスへの関与を通じた企業価値の最大化を目指します。「新規事業領域」では、当社グループのシナジーを追求し、当社の強みを生かせる事業領域を拡張してまいります。
④ 組織・人材計画をベースに機能戦略による当社グループならではの技術・専門性の磨き上げにより事業戦略を実現する事業基盤の構築
事業戦略を実現するための強固な事業基盤を構築します。当社グループの提供価値の源泉である、人材・組織とそれらを支えるシステム・技術に投資することで、専門・技術部門の連携による組織力の強化を行い、持続的成長を目指します。また、今後の成長を実現するうえで不可欠である環境・技術開発と安全・船舶品質管理については、継続的な取組みと、グローバル拠点の強化によるサポート体制と組織の確立により、対応をさらに強化してまいります。
⑤ 当社における最適な資本政策の整理と、それを実行するための経営管理の高度化
最適資本構成に基づき、中長期的な事業環境変化をとらえた成長投資、資本効率の最適化、財務基盤の維持・向上、及び株主還元に対する資源配分を戦略的に実行します。基礎配当に加え、追加配当・自己株式取得を機動的に実施することで株主価値の向上に努めます。また、経営管理の更なる高度化及び事業投資マネジメント導入による投資規律の維持・強化により、財務基盤の安定と最適化を進めてまいります。
<サステナビリティ経営の推進>
◆ 当社サステナビリティ経営の具体的取組み
当社は創業以来、海運を中核とする総合物流企業として国際的な社会インフラを担ってきましたが、人々の生活や経済を支えるライフラインとしての使命を果たすには、経営にサステナビリティ(環境・社会・経済の持続可能性)を重視する視点が欠かせません。そこで、2021年度はサステナビリティ経営の更なる推進・強化に向け、種々の取組みを実施しました。
まず、サステナビリティ推進の実務を担う部署として、「サステナビリティ推進・IR・広報グループ」「GHG削減戦略グループ」「カーボンニュートラル推進グループ」を新設しました。
「サステナビリティ推進・IR・広報グループ」は、従来のCSR・IR・広報機能を統合し、サステナビリティ経営の推進主体として、社内外のステークホルダーとのコミュニケーションを促進することを目的としています。2022年4月には、当社グループの環境マネジメントの実務を担っていた「環境推進グループ」と統合し、新たに「サステナビリティ・環境経営推進・IR・広報グループ」として、E(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)の機能を一つのグループに集約し、サステナビリティ経営の更なる強化を図っています。
「GHG削減戦略グループ」は、次世代環境船舶戦略を技術面で統括することを目的として設置され、アンモニア、水素といった新燃料対応、電気推進(EV)、CCS(二酸化炭素回収・貯留)やメタネーションといったGHG 削減技術の研究・実現に取り組むとともに、実用段階にあるLNG 燃料船の導入を推進しています。
「カーボンニュートラル推進グループ」は、洋上風力を含む再生エネルギー関連事業、二酸化炭素回収・利用・貯留(CCUS)事業、燃料転換(LNG バリューチェーン)事業、排出権取引など、カーボンニュートラル事業を推進しています。
また、サステナビリティを司るガバナンス体制として、社長執行役員を委員長とする「サステナビリティ経営推進委員会」を、従来の「社会・環境委員会」を発展的に改組する形で発足させました。更に、その下部組織として、従来の「CSR専門委員会」を「サステナビリティ専門委員会」に改組し、既存の「環境専門委員会」と合わせ、企業価値向上に資する方向性を討議し、内外への発信施策を策定する体制を整備しました。
一方、2021年10月には、従来の「代替燃料プロジェクト委員会」と「環境・技術委員会」の機能を統合し、新たに「GHG削減戦略委員会」を設置しました。「GHG削減戦略委員会」には、下部組織として「CII・2030年環境目標対応プロジェクトチーム」「次世代代替燃料推進プロジェクトチーム」「安全環境支援技術プロジェクトチーム」の3つのプロジェクトチームを置き、次世代燃料や新技術の検討、環境規制への技術面も含めた組織的な対応方針の策定を担っています。
◆ 安全・環境・品質の取組み
当社グループは重大海難事故ゼロの維持を命題として、『統合船舶運航・性能管理システム“K-IMS”』の開発・導入やエネルギーマネジメントシステムの構築等により、世界トップクラスの安全運航の維持に取り組んでいます。
また、当社グループは事業活動が地球環境に負荷を与えることを自覚し、それを最小限にするべく、環境憲章にその決意を掲げ、これに基づく環境マネジメントシステムにより、具体的な環境保全活動並びに数値目標を定め、その達成状況を基に改善を図っていくなど、環境保全のための様々な取組みを行っています。例えば、省エネ型荷役機器導入や燃料節減によるCO2排出量削減、運航船のバラスト水管理のための処理装置の搭載、SOxスクラバーの搭載や低硫黄燃料使用によるSOx排出量削減、NOx排出低減のための排ガス再循環装置搭載などの環境保全対策を実施しています。これらの取組みが評価され、2021年にはCDP2021気候変動で6年連続Aリストに選定され、また『サプライヤー・エンゲージメント・リーダー・ボード』にも4年連続で選定されました。また事業以外でも、海岸清掃活動など環境保護活動を積極的に実施しています。
2015年3月には、2050年に向けた環境に関する長期方針「“K”LINE 環境ビジョン2050」を定め、2020年6月には「“K” LINE 環境ビジョン2050」改訂版を発表しました。ここではシナリオ分析の結果を踏まえて取り組むべき課題及び目標の一部を見直すとともに、目標を「脱炭素化」「環境影響の限りないゼロ化」の2軸で再整理し、新たに2050年のゴールと2030年中期マイルストーンを設定しました。更に、2021年11月には、同長期方針の2050年目標を改定し、「2050年GHG排出ネットゼロへの挑戦」というより高い目標に引き上げ、更なる挑戦を行うことを表明しています。
特に「脱炭素化」に向けては、①次世代型環境対応LNG燃料焚き自動車専用船“CENTURY HIGHWAY GREEN”の竣工、②LNG燃料供給事業の開始、③風力を利用した自動カイトシステム“Seawing”の実装化など取組みを進めているものもございますが、更なる「脱炭素化」への取組みを一層進めてまいります。
また、SBTイニシアチブ(Science Based Target Initiative)の認証を取得している「2030年までにCO2排出量25%削減(2011年比)」達成を測る指標として、国内外主要連結グループ会社の燃料消費や電気使用量などの環境負荷データを、環境データ集計システムを通じて収集・集計し、当社ホームページに掲載しています。2021年において当社グループの事業に伴う温室効果ガスの排出量は、スコープ1(化石燃料の使用に伴う直接的な排出)6,583,464トン、スコープ2(供給を受けた電力等による間接的な排出)13,515トン、スコープ3(スコープ1・2を除くその他の間接的排出)4,566,051トンという結果となりました。今後も、グループ全体の環境負荷を把握すると同時に、グループ各社での自主的な取組みを促し、必要に応じて追加施策を実施すべく、環境パフォーマンスの見える化に取り組んでまいります。更に、年間の実績データは、第三者機関によるデータ精査と認証を受けたうえで社外へ開示しステークホルダーからの評価を次の施策に生かしながら、継続的な改善を図ってまいります。
また、2017年6月に当社グループ全体で環境マネジメントを推進するための体制「DRIVE GREEN NETWORK(DGN)」を構築し、運用を開始いたしました。これは、当社グループ全体で日常業務の中に環境の課題を見出し取り組むことで、グループ全体として持続可能な社会の実現を目指しています。DGNは段階的に当社グループ全体への導入を進めており、2020年には大部分の国内外グループ会社の加入が完了いたしました。
◆ コーポレートガバナンス体制の強化
グループ価値を高める戦略実施に際して最も重要となるガバナンス体制の整備に関して、当社はユニット統括制の導入による業務執行責任体制の一層の明確化や、社外取締役増員による重要方針の決定に向けた取締役会モニタリング体制の強化、女性取締役登用による多様性の向上等を推進してきました。リスクマネジメントでは、危機管理委員会とその下部組織(コンプライアンス委員会・安全運航推進委員会・経営リスク委員会・災害対策委員会)がグループのリスク管理にあたり、重要な投資については、投資委員会がその審議にあたる体制としています。
(4)コンプライアンスの徹底
当社は、公正取引委員会による立入検査を受けて以降、外部専門家の協力を得て、各種コンプライアンス強化策を策定・実施していますが、これらの強化策を今後もより一層推進することにより、再発の防止に努めてまいります。
なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末時点において当社グループが判断したものです。
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