当社グループは、九州新幹線をはじめとした九州主要都市間を結ぶ鉄道ネットワークを有しており、鉄道事業に加えて、鉄道事業との相乗効果の高い不動産業(駅ビル商業施設、マンション、ホテル等)、小売業、飲食業、建設業等について九州を中心に展開しております。
本書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項には、以下のようなものがあります。
なお、これらは当社グループに関する全てのリスクを網羅したものではなく、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。文中におけるセグメント名称は、2022年4月1日以降の新しいセグメント区分に基づくものであります。
1 感染症に関する事項
2020年2月頃からの急速な新型コロナウイルス感染症の拡大及び緊急事態宣言の発令に伴い、社会経済活動に大きな制約が生じており、当社グループにおいても、鉄道利用者の大幅な減少、駅ビル等商業施設の休館又は営業時間短縮等による賃料収入の低迷、ホテルの休館又は客室稼働率減等に伴う売上減少、コンビニエンスストア及び飲食店舗等の休業、営業時間短縮又は利用者減少等による売上減少等の影響を受けております。提出日現在においても、新型コロナウイルス感染症の収束時期は不透明であり、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼしています。また、新型コロナウイルス感染症が収束する場合も、在宅勤務やオンライン授業の拡大などにより、人々が移動又は接触を避ける新しい行動様式が広まる場合には、当社グループの鉄道、駅ビル商業施設、ホテル、コンビニエンスストア及び飲食店舗等への需要が中長期的に減退する可能性もあります。
このように、新型コロナウイルス感染症、SARS(重症急性呼吸器症候群)、新型インフルエンザ等をはじめとする重大な感染症が国内外で発生・蔓延し、インバウンドを含めた人的移動の自粛や制限、企業活動の縮小、サプライチェーンの寸断等が生じることで経済活動全体が停滞した場合、当社グループの事業における需要の減退等により、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
国内外で重大な感染症拡大の恐れがある場合、対策本部を設置し、政府関係機関・自治体との連携や感染防止への措置など、事業継続に向けた対策を速やかに実施します。しかしながら、感染力が強く、社員や委託先に罹患者が大量発生した場合等は、事業の継続に影響を及ぼす可能性があります。
2 少子高齢化等の人口動向に関する事項
当社グループの主な事業エリアである九州は、人口減少率が国内の他のエリアよりも高く、加えて高齢者の割合も高い傾向が続くと予測されています。進行する人口減少に対して、当社グループは、沿線価値を高める駅ビル及びマンション開発等により沿線の定住人口を増やすとともに、ビジネスや観光、アジア各国との地理的なメリットを活かしたインバウンド需要の取り込み等により交流人口を増やし、鉄道事業の収入の確保や九州圏内の消費の活性化を図っております。
今後の九州の人口減少及び少子高齢化によって、通勤や通学等の定期収入、ビジネスや旅行等の定期外収入が減少する場合、運輸サービスグループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。また、当社グループの駅ビル等の商業施設や店舗等の利用者が減少する場合や、賃貸マンション・分譲マンションの利用者・購入者が減少する場合、不動産・ホテルグループや流通・外食グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
3 自然災害等に関する事項
当社グループは、九州を中心として幅広い事業を展開しており、そのなかで鉄道軌道、鉄道車両、不動産といった多くの固定資産を有しているため、地震、火山の噴火、津波、台風、地滑り、豪雨、大雪、洪水等の自然災害、テロリズムや武力紛争等の人的災害が発生した場合には、かかる保有資産の大規模な修繕に加え、当社グループの業務運営の全部若しくは一部を継続できない又は重大な支障が生じる可能性があります。特に当社グループの事業が集中する九州あるいは福岡において甚大な被害が生じた場合には、当社グループの経営成績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。2016年4月に発生した「平成28年熊本地震」では、九州新幹線をはじめとして当社グループの施設が大きな被害を受けました。また、2020年7月に発生した「令和2年7月豪雨」の影響により、久大本線及び肥薩線の鉄道施設に被害を受け、肥薩線においては、現在も一部区間において代行輸送を行っております。
昨今の自然災害の頻発及び激甚化を踏まえて、着実な安全投資を行い、新幹線脱線対策や構造物の耐震補強の対策や、降雨による線路沿線斜面の落石・崩落防止等の対策を講じるほか、机上訓練や避難誘導訓練等を実施する等、ハード及びソフト両面の防災及び減災対策の強化に努めております。
4 経済動向や国際情勢に関する事項
当社グループは、運輸サービス、不動産・ホテル、流通・外食、建設、ビジネスサービス等の様々な事業を主に九州で展開しており、消費増税や政府による経済政策の影響等、日本全体の経済環境のほか、福岡市やその他の主要都市部をはじめとした九州の経済環境の影響下にあります。また、為替相場の状況、ロシア・ウクライナ情勢をはじめとした政治的要因、自然災害、異常気象、事故、感染症の流行等の国内外の状況により、韓国、中国、台湾、香港その他の近隣のアジア諸国及び地域をはじめとした海外からの観光客の増減、資材やエネルギー調達価格の変動等の影響を受ける可能性があります。これらにより、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
5 中期経営計画に関する事項
当社グループは2022年3月に「JR九州グループ中期経営計画2022-2024」を発表し、経営数値目標を定めております。しかし、例えば、今後の新型コロナウイルス感染症の状況、人々の価値観やライフスタイルの変化、国内外及び九州の政治・経済情勢、大規模な自然災害、不動産市況、エネルギー価格の高騰、法令規制の変化、雇用環境の悪化、新規事業の経験不足、提携や買収の失敗、その他幅広いリスク・要因の影響を受け、重点戦略としている「事業構造改革の完遂」、「豊かなまちづくりモデルの創造」及び「新たな貢献領域での事業展開」やデジタル化の推進、事業ポートフォリオの組み換え、成長投資等を計画どおりに推進できない場合には、当中期経営計画における目標を達成できない可能性があります。また、当社グループの運輸サービスと不動産・ホテルの両事業は相互に関連しているため、一部の事業の低迷が他の事業にも影響する可能性があります。
その他、当社グループの施策が奏功しなかった場合、当社グループの前提及び予測が不正確若しくは不十分であった場合、又は顕在化したリスク要因に対して当社グループが適切な対応を実施できない場合等においては、当中期経営計画における目標の達成に影響を及ぼす可能性があります。
6 情報技術(IT)上の問題に関する事項
当社グループにおいては、鉄道事業をはじめとする様々な事業を安全かつ適切に運営するため、様々なITシステムを利用しています。また、当社グループと取引関係にある他の会社(各旅客会社間の収入清算等の計算業務を委託している鉄道情報システム株式会社等)においても同様にITシステムが利用されております。
当社グループではデジタル戦略を制定し、ITシステムのセキュリティ強化を進めるとともに、インシデントの早期検知や復旧等の対応能力向上に努めております。しかしながら、それらの施策にもかかわらず、当社グループ又は当社グループと取引関係にある他の会社のITシステムに関する事故、故障、サイバー攻撃及び人為的な過誤・不正操作等により、鉄道の遅延、不具合、きっぷの発券及び予約機能の障害又は遅延をはじめとして、当社グループの事業運営に様々な問題が起こる可能性があるとともに、当社グループの安全性又は信頼性に対する懸念が生じ、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
7 個人情報保護に関する事項
当社グループは、鉄道事業をはじめとする様々な事業を営んでおり、これらの性質上多数の個人・法人の顧客から様々な情報を取得し保有しております。個人情報に関して、当社グループは、個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)に基づき、個人情報取扱事業者として、個人情報保護に係る義務等の遵守が求められており、社内規程の整備、セキュリティ強化及び社員教育の徹底等の対策に努めております。
しかしながら、当社グループが保有する顧客情報等の個人情報やその他重要な情報が外部に漏洩した場合には、損害賠償請求や行政処分を受ける可能性があります。また、かかる事案に対応するための時間及び費用が生じ、当社グループの事業運営上の支障や社会的信用の低下による顧客喪失等により、当社グループの事業、業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
8 競合に関する事項
当社グループの各事業は競争に晒されています。運輸サービスグループにおいては、安全性、コスト、速達性、利便性、快適性その他の点で、他の鉄道会社に加え、自動車、バス、航空機、船舶等の他の輸送機関との間でも競合しております。特に九州では高速道路が多く利用されており、都市間を結ぶ当社グループの新幹線や特急列車と競合しています。
また、不動産・ホテルグループにおいては、利便性、顧客獲得能力、価格、賃料その他の賃貸条件、ブランド力の点で、他の不動産デベロッパーやホテル事業者と競合しています。そのほか、流通・外食グループにおいては利便性、価格、施設の魅力、顧客満足度等の点で類似の小売・飲食事業者と、建設グループ及びビジネスサービスグループにおいては九州全域又はその他の地域に所在し類似サービスを提供する事業者と競合しています。
当社グループが顧客の嗜好や需要の変化、技術の進展に対応できず、又は、競合他社の統合等により競争力を向上又は維持できない場合、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
9 保有資産の価値に関する事項
当社グループは、土地その他の不動産を中心に、多くの固定資産を所有しており、経営環境の変化や収益性の低下等により当該固定資産への投資額の回収が見込めなくなった場合には、減損損失を計上することが必要になり、また、将来かかる資産を簿価未満で売却する場合には、売却損を計上する可能性があります。
当社グループは、鉄道事業において継続的に多額の設備投資を実施しているため、将来において鉄道事業の業績が予想以上に低調となった場合には、鉄道事業固定資産について減損損失を計上する可能性があります。
また、当社グループの繰延税金資産は、税務上の繰越欠損金及び将来減算一時差異について、収益力及びタックス・プランニングに基づく将来の課税所得発生額を見積り、将来の税金負担額を軽減する効果を有すると認められる範囲内で計上しております。従って、将来の課税所得の予測・仮定に基づいて繰延税金資産の一部又は全部の回収ができないと判断した場合、繰延税金資産は減額される可能性があります。
さらに、市場金利の変動や発行主体の業績又は資産状況の悪化等により、当社が保有する投資有価証券等の金融資産の市場価値が下落する可能性があります。
このような事象が生じた場合、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
10 外部委託先や取引先に関する事項
当社グループは、事業上様々な局面において、第三者である外部事業者に対し、業務委託等を行っております。例えば、不動産・ホテルグループでは、建設業務の一部及び居住用物件の賃貸及び販売管理を第三者に委託しております。
さらに、流通・外食グループ及びビジネスサービスグループでは、第三者生産者、卸売業者及びメーカーより原材料や商品の仕入れを行い、コンビニエンスストアの運営については株式会社ファミリーマートとのフランチャイズ契約に基づいております。
このため、これらの第三者又はその再委託先が、当社グループの定める基準を満たす商品やサービスの提供等を怠った場合やこれらの第三者に起因する問題や事故が発生した場合、当社グループの社会的信用や当社グループの事業等に重大な影響を及ぼし、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
11 企業買収等に関する事項
当社グループは、成長戦略として企業買収等を行っており、また、将来行うことがあります。企業買収等の実施に当たっては、対象会社の財務内容等に関するデューデリジェンスを綿密に行いますが、当該デューデリジェンスの過程で検知できなかった偶発債務や未認識債務等が顕在化した場合等には、当社グループの業績及び財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。加えて、適切な対象企業を見つけることができないこと、受入可能な取引条件を交渉・合意できないこと、買収資金を調達できないこと、必要な同意や許可等を取得できないこと、法令上の問題を解決できないこと等の理由に基づき、企業買収等を行うこと自体ができない可能性もあります。
また、企業買収等実行後の事業環境の変化に伴い、対象会社の収益力が低下した場合や期待するシナジーが実現できない場合、減損損失を認識する必要が生じ、投資の回収が不可能となる等、当社グループの業績及び財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。
12 環境規制や気候変動に関する事項
当社グループは、主として運輸サービスグループ及び不動産・ホテルグループにおいて、不動産を所有しております。当社グループは、かかる不動産の取得に際し、土壌汚染、水質汚濁、建物へのアスベスト等の有害物質等の使用に関する環境調査を実施しておりますが、かかる調査によりすべての有害物質等の存在又は使用等が事前に判明する保証はありません。また、土地の所有者は、土壌汚染対策法(平成14年法律第53号)に基づき、さまざまな場面において、土壌汚染に関する調査を実施しなければならず、また、人体への健康被害を生じうる土壌汚染が判明した場合には、その所有者は、土壌汚染に関する帰責性の有無及び善意・悪意を問わず、当局より有害物質等の除去を命じられる可能性があります。また、建築基準法(昭和25年法律第201号)及び大気汚染防止法(昭和43年法律第97号)に基づき、既存建物の解体、修繕等に関し、アスベストの除去又はその他一定の措置を講じる必要があります。有害物質等の存在は、不動産の販売、賃貸借、開発又は担保としての利用の制約となる可能性があり、また、資産価値の低下、有害物質等の除去等に要する費用の増加等を生じる可能性があります。さらに、かかる有害物質に起因して、現実に人体への健康被害等が生じた場合には、当社グループは、損害賠償等の責任を負う可能性があります。その結果、当社グループの事業、業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
また、2015年の国連気候変動枠組条約第21回締約国会議での「パリ協定」採択を機に、世界的に脱炭素社会に向けた動きが広がっております。こうしたなか、低炭素化に向けた政策・規制の見直しが実施され、税負担、事業活動における諸材料・エネルギーの調達コスト、設備・車両の変更等の対応費用が増加した場合、当社グループの事業、業績及び財政状況に影響を与える可能性があります。
当社グループでは、脱炭素社会の実現を重要課題の一つと位置付け、気候変動問題への対応を進めており、2021年2月に、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」提言への賛同を表明するとともにTCFDに沿った気候関連情報を開示しました。また、鉄道事業における省エネ型車両の導入や建物の省エネ化などの取り組みを推進するとともに、2022年3月には2050年CO₂排出量実質ゼロに向けたロードマップを策定しました。しかしながら、このような取り組みにも関わらず、株主・投資家から低炭素化への取り組みが不十分である、又は気候変動に関する情報開示に的確に対応していない、などと判断され信頼・評価が低下した場合、当社グループの事業、業績及び財政状況に影響を与える可能性があります。
13 運輸サービスグループに関する事項
(安全対策について)
当社グループは、基幹事業である鉄道事業における安全は最大の使命であり、企業価値の源泉であるという認識の下、経営トップの主体的関与により安全管理に係るPDCAサイクルを適切に機能させ、安全監査及び安全点検等を実施することにより、更なる安全の確保に努めています。
鉄道事業にかかる重大事故があった場合、第三者から損害賠償等の請求を受ける可能性があるほか、損傷した鉄道路線の修繕や交換に要する多額の支出、運休による収入の減少及び当社グループの評判や社会的信頼の毀損を生じる可能性があります。なお、新幹線を中心に、鉄道ネットワークは相互連携しているため、比較的小規模な事故が当社グループの鉄道の運行に広範囲にわたって支障を来たす可能性があり、当社グループの収益の減少又は鉄道サービスや設備の安全性そのものに対する懸念や、場合によっては当社グループの鉄道事業以外の事業に対する社会的信頼やブランド価値に影響を及ぼす可能性があります。
(法的規制について)
(1)鉄道事業に係る法律関連事項
当社は、鉄道事業者として鉄道事業法の定めに基づき事業運営を行っております。また、JR会社法の適用対象からは除外されたものの、同法の附則に定められた「当分の間配慮すべき事項に関する指針」等に配慮した事業運営が求められております。これらの詳細については、以下のとおりです。
① 鉄道事業法(昭和61年法律第92号)
当社グループの鉄道事業においては、鉄道事業法の規制を受けております。鉄道事業者は本法の定めに従い、営業する路線及び鉄道事業の種別ごとに国土交通大臣の許可を受けなければならない(第3条)とともに、旅客の運賃及び料金について国土交通大臣の認可を受け、その範囲内での設定・変更を行う場合は、事前届出を行うこととされております(第16条)。また、鉄道事業の休廃止については、国土交通大臣に事前届出(廃止の場合は廃止日の1年前まで)を行うこととされております(第28条、第28条の2)。この他、国土交通省の指針や事業の公益性の観点から鉄道事業において大きな方針転換を図ることができない可能性があります。
② 旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律の一部を改正する法律(平成27年法律第36号)(以下「JR会社法改正法」という。)
JR会社法改正法附則第2条において、当社及び当社の鉄道事業の全部又は一部を譲受け、合併等により施行日以降経営する者のうち国土交通大臣が指定するもの(以下「新会社」という。)が事業を営むに際し、当分の間配慮すべき事項に関する指針(以下「指針」という。)を定めると規定されております。この指針は2015年12月に告示され、2016年4月1日より適用されております。指針に定められた内容は概ね次のとおりです。
・会社間(新会社との間又は、新会社と北海道旅客鉄道株式会社、四国旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社又は東日本旅客鉄道株式会社、東海旅客鉄道株式会社、西日本旅客鉄道株式会社、並びにその事業の全部若しくは一部を譲受、合併、分割、相続によりJR会社法の改正法(平成13年法律第61号)の施行日以後経営するもののうち国土交通大臣が指定するものとの間をいう。)における旅客の運賃及び料金の適切な設定、鉄道施設の円滑な使用その他鉄道事業に関する会社間における連携及び協力の確保に関する事項
・国鉄改革の実施後の輸送需要の動向その他新たな事情の変化を踏まえた現に営業している路線の適切な維持及び駅その他の鉄道施設の整備に当たっての利用者の利便の確保に関する事項
・新会社がその事業を営む地域において当該事業と同種の事業を営む中小企業者の事業活動に対する不当な妨害又はその利益の不当な侵害を回避することによる中小企業者への配慮に関する事項
国土交通大臣は、指針を踏まえた事業経営を確保するため必要があると認めるときは、新会社に対し、その事業経営について必要な指導及び助言をすることができるとされており(附則第3条)、さらに正当な理由がなく指針に反する事業運営を行ったときには、勧告をすることができるとされております(附則第4条)。
なお、当社はこれまでも指針に定められた事項に沿った事業運営を行ってきており、この指針は今後の当社の事業運営に大きな影響を及ぼすものではないと考えております。
(2)運賃及び料金の設定又は変更
当社が鉄道事業における運賃及び料金を設定又は変更する際には、鉄道事業法に規定された必要な手続きを経る必要があり、何らかの理由により当該手続きに基づいた運賃及び料金の設定又は変更を機動的に行えない場合には、当社の収益に影響を与える可能性があります。手続きの詳細については以下のとおりです。
① 運賃及び料金の認可の仕組みと手続き
鉄道運送事業者が旅客の運賃及び新幹線特急料金(以下「運賃等」という。)の上限を定め、又は変更しようとする場合、国土交通大臣の認可を受けなければならないことが法定されております(鉄道事業法第16条第1項)。
また、その上限の範囲内での運賃等の設定・変更及び在来線特急料金等その他の料金の設定・変更については、事前の届出で実施できることとなっております(鉄道事業法第16条第3項及び第4項)。
鉄道運送事業者の申請を受けて国土交通大臣が認可するまでの手続きは、過去の例によれば概ね次のようになっております。
(注)1 鉄道事業法第64条の2に基づく手続きであります。また、国土交通省設置法第23条では、運輸審議会が審議の過程で必要があると認めるとき又は国土交通大臣の指示等があったときに公聴会が開かれることが定められております。
2 鉄道営業法第3条第2項で、運賃その他の運送条件の加重をなす場合に7日以上の公告をしなければならないことが定められております。
なお、各旅客会社における独自の運賃改定の実施の妨げとなるものではありませんが、国鉄改革の実施に際し利用者の利便の確保を図るため、旅客会社では、現在、2社以上の旅客会社間をまたがって利用する旅客及び荷物に対する運賃及び料金に関し、旅客会社間の契約により通算できる制度とし、また、運賃について、遠距離逓減制を加味したものとしております。
② 運賃改定に対する当社の考え方
イ 当社では、1987年4月の会社発足以降、消費税等を転嫁するための運賃改定(1989年4月、1997年4月、2014年4月及び2019年10月)を除くと、1996年1月10日に初めての運賃改定(平均7.8%)を実施いたしました。今後も総合的な経営判断に立ち、適正な利潤を確保し得るような運賃改定を適時実施する必要があると考えております。
ロ 事業経営に当たっては、まず収入の確保と合理化努力を進め効率的な経営に努めますが、適正利潤についてはこのような努力を前提とした上で、将来の設備投資や財務体質の強化等を可能なものとする水準にあることが是非とも必要であると考えております。
ハ 鉄道事業の資本費用に大きな影響を与える設備投資については、安全・安定輸送を前提とし、案件ごとに必要性等を勘案しつつ実施しております。
なお、当社としましては、事業者の明確な経営責任の下で主体的に設備投資に取り組むことが必要であると認識しているところであります。
③ 国土交通省の考え方
当社の運賃改定に関し、国土交通省からは、次のような考え方が示されております。
イ 当社を含む鉄道事業の運賃の上限の改定に当たっては、鉄道事業者の申請を受けて、国土交通大臣が、能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたもの(以下「総括原価」という。)を超えないものかどうかを審査して認可することとなっている(鉄道事業法第16条第2項)。
なお、原価計算期間は3年間とする。
ロ 総括原価を算定するに当たっては、他の事業を兼業している場合であっても鉄道事業部門のみを対象として、所要の株主配当を含めた適正な利潤を含む適正な原価を算定することとなっている。また、通勤・通学輸送の混雑等を改善するための輸送力の増強、旅客サービス向上等に関する設備投資計画の提出を求め、これについて審査を行い、必要な資本費用については原価算入を認めているところである。
ハ 総括原価を算定する方法としては、当該事業に投下される資本に対して、機会費用の考え方による公正・妥当な報酬を与えることにより資本費用(支払利息、配当金等)額を推定するレートベース方式を用いる方針であり、総括原価の具体的な算定は以下によることとしている。
総括原価=営業費等(注1)+事業報酬
・事業報酬=事業報酬対象資産(レートベース)×事業報酬率
・事業報酬対象資産=鉄道事業固定資産+建設仮勘定+繰延資産+運転資本(注2)
・事業報酬率=自己資本比率(注3)×自己資本報酬率(注4)+他人資本比率(注3)×他人資本報酬率(注4)
(注)1 鉄道事業者間で比較可能な費用について、経営効率化を推進するため各事業者間の間接的な競争を促す方式(ヤードスティック方式)により、比較結果を毎事業年度終了後に公表するとともに、原価の算定はこれを基に行うこととしている。
2 運転資本=営業費及び貯蔵品の一部
3 自己資本比率30%、他人資本比率70%
4 自己資本報酬率は、公社債応募者利回り、全産業平均自己資本利益率及び配当所要率の平均、他人資本報酬率は借入金等の実績平均レート
ニ なお、認可した上限の範囲内での運賃等の設定・変更、又はその他の料金の設定・変更は、事前の届出で実施できることとなっているが、国土交通大臣は、届出された運賃等が、次の(a)又は(b)に該当すると認めるときは、期限を定めてその運賃等を変更すべきことを命じることができるとされている(鉄道事業法第16条第5項)。
(a)特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものであるとき
(b)他の鉄道運送事業者との間に不当な競争を引き起こすおそれがあるものであるとき
なお、1999年の鉄道事業法改正により総括原価方式に基づく現行の鉄道運賃・料金制度が法定化されてから20年以上が経過するなか、新型コロナウイルス感染症の影響によるライフスタイルの変化やデジタル技術の発展・普及への対応、地域における交通モード間における連携強化等、現行の鉄道運賃・料金制度における課題について議論する「交通政策審議会陸上交通分科会鉄道部会鉄道運賃・料金制度のあり方に関する小委員会」が、国土交通大臣の諮問により2022年2月に設置されました。当社も、ヒアリング対象として出席した同委員会において柔軟な鉄道運賃・料金制度への見直しが必要であることについて意見を述べており、同委員会での議論及び鉄道運賃・料金制度見直しの動向を注視してまいります。
(整備新幹線について)
(1)整備新幹線の建設計画
整備新幹線は、1970年に制定された全国新幹線鉄道整備法(昭和45年法律第71号)に基づき、1973年に整備計画が決定されており、当社は九州新幹線(鹿児島ルート(福岡市~鹿児島市)、西九州ルート(福岡市~長崎市))について営業主体とされました。
このうち、九州新幹線(鹿児島ルート)については、2004年3月13日に新八代・鹿児島中央間、2011年3月12日に博多・新八代間がそれぞれ開業しました。
九州新幹線(西九州ルート)については、武雄温泉・長崎間(西九州新幹線)がフル規格で建設主体である鉄道建設・運輸施設整備支援機構(以下「鉄道・運輸機構」という。)により工事が進められており、2022年9月23日に武雄温泉駅で博多・武雄温泉間を走行する在来線特急と対面乗り換えを行うこと(いわゆるリレー方式)により暫定開業する予定です。
また、新鳥栖・武雄温泉間については、当初、在来線を活用する軌間可変電車を導入する予定であったものの、2017年7月14日の国土交通省の軌間可変技術評価委員会において、軌間可変電車の安全性、経済性について引き続き課題が残っているものと評価されるなど、軌間可変電車の開発状況に鑑み、2018年7月19日に与党整備新幹線建設推進プロジェクトチーム九州新幹線(西九州ルート)検討委員会(以下「検討委員会」という。)により導入が断念されました。その後、2019年8月5日の検討委員会において、「九州新幹線(西九州ルート)の整備のあり方等に関する基本方針」が示され、武雄温泉駅での対面乗換が恒久化することはあってはならず、新鳥栖・武雄温泉間はフル規格(複線)で整備することが適当であることと、今後は、国土交通省、佐賀県、長崎県、当社の間で協議を行い、検討を深めていくべきであり、国土交通省に対し、協議の実施と検討委員会への報告を求めることとされました。以後、これまでに国土交通省と佐賀県との間で複数回の協議がなされ、この間、国土交通省と当社、国土交通省と長崎県との間でも個別に協議が行われましたが、合意には至っておりません。したがって、現時点において、新鳥栖・武雄温泉間の整備方式は決定しておりません。
(2)整備新幹線建設の費用負担
整備新幹線は、鉄道・運輸機構が建設を行っており、その費用は国、地方公共団体及びJRが負担することとされていますが、当社の負担については、整備新幹線の営業主体となるJRが支払う貸付料を充てることとされています。
1997年10月の北陸新幹線高崎・長野間の開業に伴い、整備新幹線の営業主体であるJRが支払う貸付料の額の基準が設けられ、現在は独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構法施行令(平成27年政令第392号)(以下「施行令」という。)第6条に規定されています。
施行令において、貸付料の額は、当該新幹線開業後の営業主体の受益の程度を勘案し算定された額に、貸付けを受けた鉄道施設に関して鉄道・運輸機構が支払う租税及び鉄道・運輸機構の管理費の合計額を加えた額を基準として、鉄道・運輸機構において定めるものとされています。ここでいう受益は、新幹線が開業した場合の当該新幹線区間及び関連線区区間の収支と、開業しなかったと仮定した場合の並行在来線及び関連線区区間の収支を比較し、前者が後者より改善することにより営業主体が受けると見込まれる利益とされており、具体的には、開業後30年間の需要予測及び収支予測に基づいて算定されることとなります。なお、この受益の程度を勘案し算定された額については、開業後30年間は定額とされています。また、租税及び鉄道・運輸機構管理費相当額については、営業主体の当該新幹線開業後の経費として、受益算定の際に反映されています。
整備新幹線の建設を行う鉄道・運輸機構は建設費の調達を行い、建設した施設を保有することとされています。当社は完成後にこの施設の貸付けを受け、開業後に上記の貸付料を支払うこととなっており、建設期間中における同機構への建設費の直接負担は原則としてないものとされています。
なお、九州新幹線(鹿児島ルート)については、JR会社法改正法及び九州旅客鉄道株式会社の経営安定基金の取崩しに関する省令(平成27年国土交通省令第61号)に基づき、上記貸付料の定額部分につき、2016年4月1日から各区間の開業後30年までに係る貸付料の全額(約2,205億円)を一括して2015年度末に鉄道・運輸機構に支払っております。
また、武雄温泉・長崎間(西九州新幹線)については、当該路線の営業主体となる当社が、建設主体である鉄道・運輸機構に支払う新幹線鉄道施設の貸付料は、現段階で決定しておりません。
(3)並行在来線の扱い
九州新幹線(鹿児島ルート)については、2004年3月の新八代・鹿児島中央間の開業時に、並行在来線である鹿児島本線八代・川内間は経営分離され、「肥薩おれんじ鉄道株式会社」に引き継がれました。
また、九州新幹線(西九州ルート)については、長崎本線肥前山口・諫早間は経営分離せず、2022年9月23日に予定されている開業時点で上下分離し、当社は、当該開業時点から3年間は一定水準の列車運行のサービスレベルを維持するとともに、当該開業後、23年間運行を維持することを関係6者(当社、佐賀県、長崎県、検討委員会、国土交通省及び鉄道・運輸機構)にて確認しております。
(4)整備新幹線建設に関する当社の考え方
(2)記載の貸付料のうち、受益の程度を勘案して算定される額は、実際の収益に関わらず定額を支払うこととされているため、収支が予測を下回る場合、当社の鉄道事業の業績に影響を及ぼす可能性があります。
さらに、建設の遅滞等により開業の遅れが発生した場合や、開業後の収益が予測を下回った場合、当社グループの事業の業績に影響を及ぼす可能性があります。
当社は、2019年3月27日の検討委員会において、リレー方式による運営が長期化又は固定化することは、地域振興効果が極めて限定的になること等から、到底受け入れられない旨の表明をしており、少しでも早期に全線開業できるよう要望しているところです。
さらに、2019年4月12日に国土交通省より鉄道・運輸機構に対して、工事予算の増額等を主旨とする工事実施計画(武雄温泉・長崎間)の変更認可がなされました。なお、2018年11月28日の与党整備新幹線建設推進プロジェクトチームにおいて、当社は、整備新幹線の建設費に応じて貸付料を引上げることについて、整備新幹線の基本的なスキームを大幅に逸脱するものであり受け入れられるものではない旨の表明をしております。
また、2021年6月14日に検討委員会より、九州新幹線(西九州ルート)について、新鳥栖・武雄温泉間の在来線については、JR九州が運行を維持することが不可欠である等の検討状況が示されました。なお当社は、経営上極めて重要な課題となる並行在来線の取扱いについては、
・在来線の利便性の問題は、地域の皆さまにとって重要な課題である
・必ずしも経営分離を前提とせず、佐賀県等から具体的な課題認識のご意見を拝聴しながら、真摯に議論を
深めたい
・佐賀県と国土交通省の「幅広い協議」において、「フル規格」という選択肢にある程度の目途がつきそう
な段階になれば、議論を深めたい
との考えを、国土交通省との協議において示しております。
14 不動産・ホテルグループに関する事項
当社グループの不動産・ホテルグループにおいては、収益化まで長期にわたるプロジェクトの各過程で多額の投資を行います。そして、建設資材価格及び人件費の上昇による建設費の増加、金利水準並びに金融政策をはじめとする当社グループが制御できないさまざまな外部要因により、完成に要する時間と投資額等が増加し、想定していた収益を生まないことがあります。
不動産販売業においては、販売価格の低下や、完成した販売用不動産を長期にわたって保有せざるを得ない場合に評価損を認識することがあります。不動産賃貸業においては、大型テナントの喪失、空室率の上昇や賃料の低下が生じる場合があり、駅ビル商業施設のテナント売上が減少した場合は、賃料収入の売上連動部分が減少します。ホテル業においては、景気動向の影響を受けやすいため、景気低迷による企業活動の縮小や個人消費の減退が続いた場合、過当な価格競争による売上減少、また、これに伴う事業収支の悪化により、有形固定資産の減損損失を計上する可能性があります。
また、当社グループは、プロジェクトの完成後にも、テナント、居住者その他の利用者に生じた不測の損失、損害、被害の責任や、建築瑕疵の補償費用の負担を負うことがあります。
このような事象が生じた場合、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
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