事業等のリスク

 

2 【事業等のリスク】

当社グループの財政状態,経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する変動要因のうち,投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性があると考えられる事項には,主に以下のようなものがある。

なお,文中における将来に関する事項は,有価証券報告書提出日(2022年6月29日)現在において判断したものであり,今後のエネルギー政策や電気事業制度の見直しなどの影響を受ける可能性がある。

 

(1)事業環境の変化

当社グループを取り巻く事業環境は,世界経済の回復によるエネルギー需要増加や欧州における紛争などにより燃料価格が上昇,これに伴い電力卸売価格が高騰した。これにより,中部電力ミライズにおける電源調達コストや中部電力パワーグリッドにおける電力需給調整コストが増加したことなどにより,2019年に設定した中期経営目標である連結経常利益1,700億円に対し,大幅な未達となり,また今年度の事業環境も引き続き予断を許さない状況である。

また,太陽光発電の大量導入が進展する一方,既存火力発電所の休廃止などにより,需要の増加と太陽光発電量の低下が重なった際などには需給ひっ迫が生じやすくなっている中,設備のトラブルが発生した場合やロシアからの石炭やLNG(液化天然ガス)に関し我が国が禁輸などの厳しい制裁措置を講じた場合などには,日本国内における需給状況が悪化することが懸念される。

このような事業環境の変化に対して当社グループは,日本最大のLNG取扱量を持つJERAとも協調しつつ,グループ一丸となって安定供給を継続するとともに,「中部電力グループ中期経営計画」を策定し,電源調達におけるポートフォリオの最適化をはじめとした適切な対応策を講じることにより,まずは早期に従前の利益水準まで回復を図ったうえで,新たな中期経営目標である2025年度における連結経常利益1,800億円以上の達成を目指していく。

また,近年のデジタルトランスフォーメーション(DX)の進展や再生可能エネルギーをはじめとする分散型電源の導入拡大,さらにはエネルギー政策における脱炭素化への取り組みの進展などにより,エネルギー事業を取り巻く環境は今後も大きく変化していくと想定される。

当社グループは脱炭素社会の実現に向け「ゼロエミッション2050」を策定し,再生可能エネルギーの拡大や,水素・アンモニアサプライチェーンの構築を含むゼロエミッション電源の追求に取り組んでいく。

加えて,こうした中長期的な事業環境の変化に対応し,2050年の社会像を見据えて果敢にチャレンジするため,「中部電力グループ経営ビジョン2.0」を策定し,人財一人ひとりの成長・活躍を通じたお客さま・社会への多様な価値の提供による,地域・社会の持続的な発展に貢献していく。

ただし,欧州における紛争に起因する影響の拡大,各種市場における制度見直しの遅れや想定と異なる変更が行われるなど,当社グループを取り巻く事業環境が変化した場合,財政状態,経営成績及びキャッシュ・フローは影響を受ける可能性がある。

 

①燃料・電力価格の変動等

当社グループの電源調達費用は,  LNG,石炭,原油などの市場価格及び為替相場の変動により影響を受ける可能性があるが,燃料価格の変動を電気料金に反映させる「燃料費調整制度」により,一定の範囲で調整が図られるため,財政状態,経営成績及びキャッシュ・フローへの影響は緩和される。

また,JERAなどによる当社グループの燃料調達や中部電力ミライズなどによる市場などを通じた電力調達において,調達先の分散化,柔軟性の確保などを行っている。加えて,市場変動性の高まりを踏まえリスク管理の高度化や市場価格変動に柔軟に対応した販売施策に取り組んでいく。

ただし,欧州における紛争に起因する影響の拡大などの政治・経済・社会情勢の悪化や天候の変動,調達先の設備・操業トラブルなどにより,需給状況や市場価格が大きく変動することがある。その場合などには,調達費用の増減,調達価格と販売価格の差異,電力の市場価格・卸価格の変動などにより,財政状態,経営成績及びキャッシュ・フローは影響を受ける可能性がある。

 

 

②競争への対応等

電気をはじめエネルギー事業においては,JEPX(日本卸電力取引所)の価格高騰による電源調達コストの増加などを背景に新電力の撤退が相次いでいる中,価格面の競争だけでなく,お客さまが望まれる料金メニューやサービスによる差別化が求められるなど,ご家庭のお客さまを中心に厳しい競争環境は継続しており,今後調達環境が改善した際にはさらに競争は激化すると想定される。

この競争を勝ち抜くべく,中部電力ミライズでは,最大限の効率化を前提に,お客さまごとに必要なコストに応じた販売価格の見直しとともに,「とどける」「よりそう」「つなげる」をキーワードに,お客さまの暮らしを豊かにし,ビジネスを支えるサービスを展開している。

具体的には,2021年4月に「生涯にわたってお客さまによりそう」をコンセプトに「中部電力ミライズコネクト」を設立し,電気・ガスに加えて,お客さまのライフステージに応じたサービスを拡充していく。

JERAは,安定的な供給力の確保を前提に,発電,電力・ガスの販売に至る一連のバリューチェーンを最適に運用するとともに,JERAのスケールメリットを活かすことにより,火力発電事業の効率的な運営に努めていく。

ただし,欧州における紛争のさらなる高まりによる調達環境の悪化,競争激化や景気動向・気温変動などにより,財政状態,経営成績及びキャッシュ・フローは影響を受ける可能性がある。

 

③新成長分野の事業化

当社グループは,レジリエントで最適なエネルギーサービスと暮らしを便利で豊かにするデータサービスを融合して,コミュニティサポートインフラとしてお届けしていく。具体的には,「お客さま起点」「脱炭素化」「デジタル化」をキーワードに,エネルギー事業に加え,新成長分野の事業化を加速し,省エネや快適な住環境から,不動産事業や医療・健康といった生活関連事業,資源循環・上下水道・地域交通などといった地域インフラ事業へのさらなる領域拡大により,お客さまの生活の質を向上させる「新しいコミュニティの形」を具体化し,その提供を加速していく。

海外事業においては,再生可能エネルギーなどの「グリーン領域」,水素・アンモニアなどの「ブルー領域」,マイクログリッド・アジア配電事業などの「小売・送配電・新サービス領域」及び「新技術領域」の4領域を組み合わせて最適なポートフォリオを形成し,各国・地域の社会課題解決への貢献と,収益の拡大を目指している。

これらの事業の展開にあたっては,参入時に適切にリスク評価を行うとともに,定期的にモニタリングを実施していく。

ただし,これらの事業が,他事業者との競合の進展などにより,当社グループの期待するような結果をもたらさない場合には,財政状態,経営成績及びキャッシュ・フローは影響を受ける可能性がある。

 

④金利の変動等

当社グループの有利子負債残高は,2022年3月末時点で2兆8,002億円と,総資産の45.4%に相当し,市場金利の変動により支払利息が増減するが,有利子負債残高のうち87.1%は,社債,長期借入金の長期資金であり,その大部分を固定金利で調達しているため,財政状態,経営成績及びキャッシュ・フローへの影響は限定的である。

ただし,今後調達する社債・借入金にかかる支払利息や当社グループが保有する企業年金資産などの一部は,金利などの変動によって増減するため,財政状態,経営成績及びキャッシュ・フローは影響を受ける可能性がある。

 

⑤地球環境保全

国の2050年カーボンニュートラル宣言のもと,2021年10月に新たなエネルギー基本計画が閣議決定されるなど,地球環境保全に向けた取り組みは喫緊の課題となっている。

当社グループでは,「中部電力グループ環境基本方針」に基づき,カーボンニュートラル実現に向けた取り組みを「ゼロエミチャレンジ2050」としてとりまとめた。社会やお客さまとともに,エネルギーインフラの革新を通じて「脱炭素」と「安全・安定・効率性」の同時達成を目指していく。

具体的には,2030年頃に向けた再生可能エネルギーの拡大目標(保有・施工・保守含む)に関し,320万kW以上を目指すとともに,安全性の向上と地域の皆さまの信頼を最優先にした浜岡原子力発電所の活用,水素・アンモニアサプライチェーンの構築,非効率石炭火力発電のフェードアウト,火力発電のさらなる高効率化,需給運用の高度化・広域化,COフリーメニューの多様化などのあらゆる施策を総動員し,「2030年までに,お客さまへ販売する電気由来のCO排出量を2013年度比で50%以上削減」を達成する。さらに,イノベーションによる革新的技術実用化・採用を通じ,「2050年までに,事業全体のCO排出量ネット・ゼロに挑戦」していく。

なお,気候変動に伴う重要なリスクについては,社長が議長を務めるリスクマネジメント会議で審議,経営基本計画に反映し,取締役会で決議したうえで,適切に施策を実施している。

加えて,気候変動のリスクについてはTCFDの提言に沿ってシナリオを選定したうえで,事業への影響を評価し,中部電力グループレポート(統合報告書)にて開示している。

ただし,今後の規制措置への対応に加え,非化石価値の動向や技術革新などを踏まえたビジネスモデルの変革を当社グループが的確に実施できない場合,財政状態,経営成績及びキャッシュ・フローは影響を受ける可能性がある。

 

(2)原子力発電設備の非稼働

当社では,浜岡原子力発電所全号機の運転停止が10年以上を経過しており,現在,新規制基準を踏まえた対策を着実に実施するとともに,3・4号機について,原子力規制委員会による新規制基準への適合性確認審査を受けている。同基準への適合性を早期に確認いただけるよう,社内体制を強化し確実な審査対応に努めていく。

福島第一原子力発電所の事故以降に計画した地震・津波対策や重大事故対策などの4号機の主な工事は概ね完了している。今後も,審査対応などにより必要となった追加の設備対策については,可能な限り早期に実施していく。3号機については,4号機に引き続き,新規制基準を踏まえた対策に努めていく。5号機については,海水流入事象に対する具体的な復旧方法の検討と並行して,新規制基準を踏まえた対策を検討し,審査の申請に向けた準備を進める。

また,防災体制の整備や教育・訓練を通じた現場対応力の強化など発電所内を中心としたオンサイト対応を継続するとともに,住民避難を含む緊急時対応の実効性向上に向けて,国・自治体との連携強化を通じ,発電所周辺地域における原子力災害に備えたオフサイト対応の充実に努めていく。

当社グループは,浜岡原子力発電所全号機の運転停止状況下において,火力電源での代替を行っており,これによる電源調達費用の大幅な増加などにより,財政状態,経営成績及びキャッシュ・フローは影響を受ける見込みである。

また,新規制基準への対応などに伴う浜岡原子力発電所の運転停止状況の継続や当社グループが受電している他社の原子力発電設備の運転停止状況などによっては,財政状態,経営成績及びキャッシュ・フローは影響を受ける可能性がある。

 

(3)原子力バックエンド費用等

原子力のバックエンド事業は,使用済燃料の再処理,放射性廃棄物の処分,原子力発電施設等の解体など,超長期の事業で不確実性を有する。この不確実性は国による制度措置などに基づき,必要な費用を引当て・拠出していることにより低減されているが,原子力バックエンド費用及び原子燃料サイクルに関する費用は,制度の見直し,制度内外の将来費用の見積り額の増減,再処理施設の稼働状況などにより増減するため,財政状態,経営成績及びキャッシュ・フローは影響を受ける可能性がある。

 

(4)大規模自然災害等

当社グループの事業活動においては,南海トラフ地震・巨大台風・異常気象などの大規模自然災害,武力攻撃,テロ行為,疫病の流行,事故などのリスクが存在する。

 

当社グループでは,これらの事象が発生した場合に備えて,BCP(事業継続計画)などを策定のうえ,設備の形成,維持,運用などの事前対策に取り組むとともに,発生後における体制の整備や訓練などを実施している。

また,台風災害で得られた教訓などを踏まえ,アクションプランに基づき,各種復旧支援システムの整備による設備復旧体制の強化,ホームページやスマートフォンアプリによるお客さまへの情報発信の強化,自治体・他電力会社などとの連携強化に取り組んでいる。さらに,レジリエンス(強靭化・回復力)の強化に向けて,自治体などと連携しながら,予防保全のための樹木の事前伐採や無電柱化の一層の加速,水力発電用ダムの洪水発生が予想される場合における治水協力などに取り組んでいく。

ただし,大規模自然災害,武力攻撃,テロ行為,疫病の流行,事故などにより,供給支障や設備の損壊などが発生した場合には,その被害状況などによっては,財政状態,経営成績及びキャッシュ・フローは影響を受ける可能性がある。

 

(5)新型コロナウイルス等感染症

当社グループでは,新型コロナウイルス感染症などの流行拡大に対し,従業員・家族・パートナー・お客さまの安全と健康を最優先に,安定供給とサービスレベルを維持していくという考えのもと,在宅勤務や時差通勤などの積極活用,一人ひとりの基本的な感染予防策の徹底,ワクチンの職域接種の実施などを通じて,感染予防や有事の際のバックアップ要員確保に取り組んでいる。

また,新型コロナウイルスなどの感染拡大に伴う暮らしや働き方などの新しい生活様式の浸透など,大きく変容する社会構造や個人の価値観・行動様式を見据えつつ,社会課題の解決に向けて,コミュニティサポートインフラなどによる新たなサービスの開発・提供を一層加速していく。

ただし,新型コロナウイルス感染症などの影響がさらに拡大・長期化した場合や,当社グループが社会構造の変容を十分に先取りできなかった場合などには,財政状態,経営成績及びキャッシュ・フローは影響を受ける可能性がある。

 

(6)セキュリティ(経済安全保障・情報管理等)

当社グループでは,重要インフラであるエネルギーの安定供給を確保するため,サイバー攻撃などによる電力の供給支障や機微情報漏えいのリスクに対応すべく,ガバナンス体制の強化,電力ISACなどを通じた他事業者・関係機関などとの情報共有・分析,各種セキュリティ対策や訓練などを継続的に実施している。

今後も,国際情勢などの変化を常に注視し,サイバー攻撃に対する最新の対策を実施していく。

また,個人情報(特定個人情報を含む)をはじめとした各種情報の管理を徹底するため,個人情報保護法など,関係法令に基づき,専任部署の設置,規程類の整備,教育や意識啓発活動の実施などの取り組みを行っている。

加えて,リスクアセスメントの実施・分析を通じて,より高度なガバナンス体制の構築やITシステムの脆弱性の発見・解消,運用ルールの強化などに努め,さらなるセキュリティ確保に万全を期す。

ただし,サイバー攻撃やITシステムの不備,情報の漏えいなどにより,対応に要する直接的な費用のほか,社会的信用の低下などが発生した場合には,財政状態,経営成績及びキャッシュ・フローは影響を受ける可能性がある。

 

(7)コンプライアンス

当社グループでは,法令及び社会規範の遵守に関する基本方針及び行動原則を示した「中部電力グループコンプライアンス基本方針」のもと,設備の保安を含む業務運営全般におけるコンプライアンスの徹底,企業倫理の向上に努めている。

具体的には,2019年には「中部電力グループ贈収賄・腐敗防止方針」及び「金品授受に関するガイドライン」を制定するなど,取り組みを強化している。

このような中,当社及び中部電力ミライズ株式会社などは2021年4月13日及び同年10月5日,独占禁止法違反の疑いがあるとして,公正取引委員会の立入検査を受けた。これらの事実を真摯に受け止め,同委員会の調査に対し全面的に協力しているところである。

また,当社グループにおいて,太陽光発電の開発事業にかかる運営のあり方に対し,地元行政から指導を受けている事象なども発生しており,これらについても適切に対応していく。

当社グループは,今後も,常にコンプライアンスに関する取り組み状況を確認し,その結果に基づいて説明責任を果たすことにより,コンプライアンス徹底に向けた不断の取り組みを進めていく。

ただし,コンプライアンスに反する事象により,社会的信用の低下などが発生した場合には,財政状態,経営成績及びキャッシュ・フローは影響を受ける可能性がある。

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