研究開発活動

5【研究開発活動】

  当社グループでは、お客様の生涯の健康に役立つ商品をご提案するための研究開発、技術蓄積を旨として、「生涯健康」をスローガンに研究活動を進めております。

  特に、水産・食品分野を中心として、①食品領域、②水産・養殖領域、③機能性領域、の3つの領域に注力いたしました。

  当連結会計年度における研究開発費の総額は1,647百万円であり、特定のセグメントに区分できない研究開発費の各セグメントへの配賦額を含めたセグメント別の内訳は、水産資源事業1,064百万円、加工事業596百万円、物流事業20百万円、全社費用配賦差額△34百万円であります。

 

  主なセグメント別の研究の目的、主要課題、研究成果は次のとおりであります。

 

水産資源事業

  世界的な人口増加と新興国の経済成長により、良質かつヘルシーなたんぱく源である魚の需要が世界規模で急増しているなか、水産、養殖分野での取り組みの重要性が高まっております。特にSDGs目標14「海洋と海洋資源を持続可能な開発に向けて保全し、持続可能な形で利用する」に貢献することを目指して、養殖魚の餌となる天然魚や魚粉原料をできる限り使用しない低魚粉、低魚油飼料を開発すべく、昆虫ミールに着目した研究開発を行っております。また、ブリやカンパチは、血合肉が変色しやすく改善が求められているため、これまでに血合肉の変色を抑制できる養殖用飼料の開発・実用化を手掛け、おいしさの部分においても、呈味成分等を詳細に分析することで客観的な指標を見出し、さらに高いレベルの品位を目指して改良を進めております。

  沿岸域での海面養殖だけではなく、台風や赤潮などの自然環境に影響されにくく、残餌や糞により海洋環境を汚すことのない閉鎖循環型陸上養殖については、研究助成を受けて産官学と連携を取りながら、山形県遊佐町において、サクラマス陸上養殖実証試験に係る研究開発を進めておりました。助成研究は2020年度で終了となりましたが、事業化に向けた研究を継続中であり、さらに飼育設備を拡充し、遺伝子情報を活用した高成長種苗の育種や高密度飼育技術の開発・検討に取り組んで参ります。

  種苗生産研究では、2020年4月に、増養殖事業部傘下の「南さつま種苗センター」を、中央研究所管轄の新会社として組織変更した「㈱マルハニチロ養殖技術開発センター」の本格稼働により、2021年度はブリ111万尾とカンパチ27.6万尾を生産し、順調に安定生産技術を積み重ねております。ブリでは、これまで天然親魚からの採卵でしたが、昨年度から、より養殖に適した人工孵化第一世代の親魚から採卵して完全養殖を達成しており、高成長系統の選抜育種も併用し、養殖の生産性をさらに上げていく予定です。また、2021年3月に、完全養殖クロマグロ育種改良のための基盤・応用技術の開発に関して、国立研究開発法人水産研究・教育機構と協働していくことで合意し、共同研究を開始しました。この取り組みによって、人工種苗を用いたクロマグロ養殖の体質強化と持続的発展に資する技術開発を進めていきます。

  水産・養殖現場では、AI(人工知能)やIoT(Internet of things)を活用して、生産性向上や省力化を目指した取り組みを進めております。ICT(情報通信技術)に関する先端技術と水産・養殖現場の課題を適切にマッチングさせ、費用対効果がでるような技術開発、例えば、AIの画像認識技術を活用した魚の尾数をカウントするシステム「かうんとと」の開発、養殖向けの環境データモニタリングシステムの開発など、様々な課題に取り組んでいます。

  2015年4月の制度化で誕生した「機能性表示食品制度」は、科学的根拠の提示と適切な品質管理のもと、事業者責任において食品に機能性を表示することを可能とした制度です。この制度は、加工食品のみならず、農水産物などの生鮮食品も対象としておりますが、生鮮食品の各種栄養成分や機能性関与成分の含量は加工食品と比べて安定しにくいため、規格管理が難しいことが障壁となっておりました。当社ではこのハードルを越えるべく、代表的な養殖魚として知られる「カンパチ」の機能性関与成分であるDHA(ドコサヘキサエン酸)・EPA(エイコサペンタエン酸)量について、年間を通じた調査を行い、規格管理を実施することで2018年1月に生鮮食品区分の水産品として初の機能性表示食品の届出が受理され、2018年8月より販売を開始しております。さらに、株式会社ベイシアとの取組みで、水産売場において中性脂肪を低下させる効果がある機能性表示食品として販売することを検討し、届出が受理され、2021年4月よりベイシア各店での販売に至っております。現在、魚種拡大の可能性についても検討を進めており、機能性をもつ生鮮食品の販売拡大を目指しております。

  エビは調理後の食感や味を向上させるために浸漬剤による処理を行っており、エビの加工現場で用いる独自配合の浸漬剤の開発・実用化を進めています。これら浸漬剤を用いた処理により、素材が持つ美味しさを保ちつつ、品質を向上させることができ、特に食感や色の改良が認められております。これらエビの浸漬に関する技術は、特許を出願、取得しております。さらに、浸漬処理の技術は、エビだけではなく、その他の水産物への応用にも取り組んでいます。

  魚介類の国内での消費量が減少し続ける中、魚介類の価値を高めるための一つの取り組みとして、魚由来の成分の健康に及ぼす影響、さらに、日常の食生活の中で魚を中心とする食事の健康への効果を実証するための各種検討を進めております。

  水産加工現場から排出される未利用資源の有効利用に関する技術開発を行い、環境負荷低減の取り組みを進めております。

  主に海外で漁獲される魚介類の鮮度保持技術の開発を行っており、原料それ自体の鮮度での差別化を指向した取り組みも併せて進めております。

加工事業

  食品の見た目、香り、味や食感などの特徴を官能評価で数値化し、プロファイリングを行い、栄養成分や物性などの美味しさに関わる科学的な要素を分析し比較することで、理論的に食品の特徴をコントロールする取り組みを行っております。

  食塩を控えるなど健康志向の強い消費者に対応できるよう、減塩しても美味しさが変わらない技術や噛みやすく飲み込みやすい食感(物性)が必要な介護食を安定して製造するための技術開発に取り組み、当社商品への応用展開を進めております。

  機能性表示食品は、健康の維持や増進など、科学的な根拠に基づいた機能が事業者の責任でわかりやすく表示されているため消費者が正しく選ぶことができ、さらに、安全性も確保されているものです。当社では、長年続けてきた魚油由来の健康成分であるDHAとEPAに関する研究成果をもとに、機能性表示食品の開発にいち早く取り組みました。その結果、業界初やカテゴリー初となる機能性表示食品を次々に開発し、これまでに、DHA・EPAを関与成分とした中性脂肪を低下させる機能がある食品、DHAを関与成分とした情報の記憶をサポートする機能がある食品として、多数の品目について消費者庁で届出を受理されております。また、多様な生理活性を有する脂質研究を基に開発されたプロスタグランジン製剤など、多くの医薬品を創製してきた小野薬品工業株式会社と当社が協業し、エビデンスに基づく機能性脂質製品の商品開発に共同で取り組んでいます。具体的には、当社水産加工現場から排出される未利用資源よりDHAが結合したリン脂質を含むイクラ油を基にしたサプリメントを共同で開発しました。それには睡眠の質あるいは活気・活力の向上に役立つ機能があることを臨床試験で確認し、機能性表示食品として受理されました。両社は、信頼できるパートナーとして、お互いの知見や事業ノウハウを有効活用することで、食品と医薬品の間に位置する予防・未病の分野を開拓し、より多くの方へ生涯にわたる健康をお届けしてまいります。

  DHA以外にも、当社が原料調達などでの優位性を有する他の素材についても検討を進めており、サケ白子に含まれるプロタミンの抗菌性を活用した口腔ケア等への応用研究、スケソウダラ由来魚肉タンパク質の機能性研究など、水産物由来の機能性成分に関する研究を推進しております。

  自然解凍冷凍食品、フローズンチルド商品など、多様なカテゴリーからなる当社商品に関して、商品の安全性担保のための基盤となる微生物制御技術の研究を進めております。独立行政法人製品評価技術基盤機構との共同研究では、近年注目を浴びているマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法(MALDI-TOF MS)を用いた、食中毒原因菌であるセレウス菌(Bacillus cereus)の迅速かつ精密な識別・同定(菌種特定)法を2018年に確立いたしました。さらに、当該分析法を用いた同定精度向上とともに、食中毒菌等の迅速検出技術、増殖予測技術についても研究を進めております。

  また、新たな取り組みとして、持続可能な“次世代の魚タンパク”の商業化生産を目指し、2021年8月に細胞培養スタートアップのインテグリカルチャー株式会社と「魚類」の細胞培養技術の確立に向けた共同研究を開始しました。同社は、細胞農業(細胞培養)が普及する世界の実現に向けて、培養コストの低価格化と、細胞培養の大規模化技術の開発を行う革新的なスタートアップ企業です。同社が独自に展開する食品グレード培養液と汎用大規模細胞培養システム “CulNet System™”は、これまで牛と家禽の細胞で有効性が確認されており、本研究ではこれらを新たに魚類の細胞にも拡張します。検証に必要な生きた魚(細胞)の提供をマルハニチロが担って、研究を推進して参ります。

  さらに水産・食品分野のリーディングカンパニーとして、関連学会での発表はもとより、関連セミナーにおける講師、理科授業の実施など、成果や技術力の情報発信に加え、社会に対する貢献活動に継続して取り組んでまいりました。

 

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