文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1)経営方針
当社グループでは、世界的な視野で建設・建築技術の高性能化を図りながら、市場ニーズに呼応した社会資本の充実、貢献に努めております。
当社は、21世紀のスタート、2001年4月1日に新しい経営理念を掲げました。
変化と新しい価値の創造
顧客に満足される新しい機能の創造
社会、自然環境との調和
社員の個性尊重 -意欲と能力の発揮による各人の豊かさの実現-
Making Changes, Creation of New Values for the Next Stage
当社の製品は、創業以来日本の社会資本の形成に大きく寄与してきたと認識しておりますが、日本経済における社会資本の形成が一段落し、プロダクト・サイクルが成熟期に入ったとの認識のもと、新しい理念は、変化と新しい価値の創造により重点を置くものとなっています。
この理念には、日常生活に身近な社会資本も常に人々の新しい要求に対し変化させなければならない、エスイーグループはコアテクノロジーをもとに長年培ってきた経験を活かし、これからも変化を先取りしながら新しい価値を創造し提供し続けていきたいとの想いが込められています。
(2)経営環境及び中長期的な会社の経営戦略
新しい経営理念を策定した後、経営を取り巻く環境は大きく変わりました。2001年頃より日本政府は、財政再建を掲げて歳出削減を基本とし、公共事業費の大幅な削減が続くことになりました。それに対して、当社は、主に次の戦略・施策を実施しました。
①М&Aによる事業領域の拡大
公共事業への依存低減を図るべく、建築市場での民間需要向け資材販売事業へ参入し、さらには、公共・民間両市場をターゲットとした鉄鋼製品および鉄骨工事ならびにコンクリート製品の販売にも活動領域を拡げております。また、今後拡大が見込まれるインフラ設備の老朽化に対する補修・補強工事業の強化も実施しました。
②海外市場への事業地域の拡大
ベトナムにおいて2007年有限会社日越建設コンサルタントを設立しエンジニアリング分野の拡充を図ったほか、エスイー製品の海外への輸出にも注力しました。
М&Aは事業領域の拡大に大きく寄与し、2018年1月株式会社ホンシュウの株式取得をもって現在の連結子会社6社の体制になりました。また、新しい価値の創造については、超高強度合成繊維補強コンクリートであるESCONの開発、プラズマ発電事業の研究に注力してきました。
その結果、後述する「中期経営計画2020-2022」の直前の連結会計年度末においては、売上高228億39百万円、経常利益10億63百万円、親会社株主に帰属する当期純利益2億70百万円となりました。
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2009年3月期 |
2019年3月期 |
増減 |
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2020年3月期 |
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売上高 |
(百万円) |
11,412 |
22,412 |
+11,000 |
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22,839 |
経常利益 |
(百万円) |
463 |
1,079 |
+615 |
|
1,063 |
経常利益率 |
(%) |
4.1% |
4.8% |
+0.8 |
|
4.7% |
親会社株主に帰属する当期純利益 |
(百万円) |
243 |
699 |
+455 |
|
270 |
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総資産 |
(百万円) |
13,324 |
23,093 |
+9,768 |
|
22,031 |
純資産 |
(百万円) |
5,788 |
8,712 |
+2,924 |
|
8,326 |
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※М&A以前 |
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これらの結果を踏まえ、2020年3月には、2030年頃までの環境変化についての洞察を基に、2030年での「ありたい姿」「提供価値」について、「2030ビジョン」を策定しました。
「2030ビジョン」
【エスイーグループが2030年に目指す姿】
すべての人々に、Sustainableな発展を-
人々の豊かさへの希求に応える社会資本グローバル・リーディング・カンパニー
エスイーグループは、Sustain(支える・守る・つなぐ)のために培ってきた経験・技術を拡張・進化させ、深刻化する社会問題に新しいSustain(支える・守る・つなぐ)により解決し、Sustainableな社会の発展に貢献し、自らもSustainableな発展を遂げ、全てのステークホルダーの満足を追求し続けます。
【エスイーグループが提供する価値】
・自然と社会のレジリエンスの向上に貢献し、グローバルな経済の発展と地球環境の両立した社会を実現します。
①進化した Sustain (守る)
防災技術・製品のICT化により、グローバルで激甚化する災害からインフラを守り、復旧力を向上させます。
②拡張したSustain(守る)
Sustain の分野を拡大し、途上国のインフラ整備、エネルギー分野のインフラ整備等を進展させます。
・人々が住まう土地にあった社会インフラ構築に貢献し、全ての人々の自律的な生活を実現します。
③進化・拡張した Sustain(支える・つなぐ)
各地域のインフラ整備を支援し、それぞれの地方の実情にあったインフラを実現します。
(「Sustain(守る・支える・つなぐ)」は、エスイーグループがこれまで社会に貢献してきた機能を表象的に表す言葉です)
この長期ビジョンにおける主な環境認識は以下の通りです。
①土木建設資材市場
当社グループの建設用資機材の製造・販売事業セグメントにおいては、国や地方自治体の公共予算の動向に大きく左右されます。長期的な方向性としては、日本の経済の成長ステージと財政事情により、公共投資は減少していくものと認識しております。一方で中期的には、自然災害の激甚化への対応、高度成長期に建設された道路・橋梁等のインフラの老朽化対応により、一定の需要が見込まれるものと認識しております。これらは、内閣官房「国土強靭化基本計画」や国土交通省「インフラ長寿命化基本計画」にも表れております。
また、これらの中期的な方向性の中で、人口減少・高齢化社会の進行状況と予算の制約により、各地方自治体の具体的な対応は違いが生じてくると思われます。
②情報通信技術の浸透
昨今の情報通信技術の発達と浸透は、建設・建築業界においても例外ではなく、大量のデータを駆使したデジタル技術によりフィジカル(現実)空間の事象をサイバー空間に再現し、そこでの最適解をもってフィジカルな空間をロボット等の技術によって変えていくという取組は今後大きく進展していくものと見ています。国土交通省「i-Construction」、内閣府「官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)」における「革新的建設・インフラ技術/革新的防災・減災技術領域」といった官民あげての取組も進行中であります。
このような環境下、建設・建築業界は、従来の労働力の提供を軸にした垂直的な価値提供構造から、より高い付加価値を提供する企業等が水平分業的に協働する構造に変わっていくものと見ています。データ社会への対応が遅れれば、水平分業の輪の中に入れないこととなり、入れたとしても付加価値の高い物・サービスの提供でないと収益性の低いビジネスになってしまう可能性が高いと見ております。
一方で、このような動きは、当社グループにとってビジネス拡大の機会でもあると考えております。圧倒的なシェアを持つアンカー製品を中心にデータの持つポテンシャルを活せる可能性があること、当社グループがビジネス・プロセスで蓄積したインフラ構築に関係する構想・設計・調達のノウハウを製品の販売以外の方策でも提供可能になることが考えられます。
③地球温暖化とエネルギー
2015年の第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)においては,2020年以降の温室効果ガス排出削減等のための新たな国際枠組みとして,パリ協定が採択されました。日本政府は、温室効果ガス排出の削減について、2030年度目標は2013年度比26%削減、2050年目標を80%削減(基準年は明記されていない)することになっています。2018年度の実績は、2013年度比12.0%の減少となっております。
日本政府の長期戦略は、ビジネス主導の非連続なイノベーションを通じた「環境と成長の好循環」を実現することを基本としています。「エネルギー」については、再生可能エネルギー、蓄電池、水素、原子力、炭素回収利用・炭素回収貯蓄(CCUS)等、あらゆる選択肢の可能性とイノベーションを追求しつつ、2050年に向けて、「経済的に自立した再エネの主力電源化」するとのビジョンを掲げています。「産業」については、CO2フリー水素等非連続的なイノベーション、「地域・くらし」については、「地域循環共生圏」を創造し、可能な地域・企業等から、2050年を待たずにカーボンニュートラルを実現していくこととしています。
温暖化とエネルギー問題は、クリーン・エネルギー供給体制のサプライチェーン構築といった社会インフラへ与える影響は量的にも質的にも大きく、多岐に亘る一方、温室効果ガス関連規制の強化やカーボンプライシングといった企業活動そのものへの影響も考えられます。
以上が「2030ビジョン」策定時の気候温暖化とエネルギーについての認識でしたが、2020年9月の菅政権発足後、状況は大きく変化し、日本は「2050年にカーボンニュートラルの実現」「温室効果ガスの2030年削減目標を従来の26%から46%に変更」を対外的に宣言し、各国が目標を競い合い、自国に有利な経済環境作りに奔走する状況となっております。上記の認識は、想定より早く実際の企業活動に影響を与えるようになると思われます。
④グローバル・インフラ
2016~2030年で成長率が高いと予想されているのは、ほとんどがアジアの国と言われており、それらの国々では、インフラ需要が旺盛であるが、十分な投資がなされておりません。資金面での不安は残るものの、アジアへの投資は現状より増加すると考えられます。
また、必ずしも先進国と同様の成長過程をたどるとは限らず、先進国でのIT化が共時的に途上国の発展に影響を与え、独自の過程をたどる可能性にも留意する必要があります。
一方、先進国では都市と地方の経済格差が問題となっておりますが、途上国を含めてメガシティの都市間競争は一層激化するものとみております。都市の先進的なインフラ構築は、先進国・途上国を問わず、続いていくと思われます。
(3)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
長期ビジョンの実現、その前提となる環境変化に優先的に対処するための中期的な課題は以下のように認識しております。
①国土強靭化等の公共事業予算の追い風のある建設用資機材の製造・販売事業での着実な業容拡大と利益体質の強化。
②今後の成長を牽引する新事業、新製品・新サービスなどの新しい価値の創造と早期収益化。
③海外関連の事業再構築による業容を拡大。
④企業価値向上のための資産効率の向上と経営基盤の強化。
⑤建設用資機材の製造・販売事業以外では、
・建築用資材の製造・販売業での利益体質の強化、
・建設コンサルタント事業の新たな収益の柱の育成、
・補修・補強工事業においては抜本的な拡大策の展開
(4)中期経営計画2020-2022
以上の課題に対処するため、2020年3月に「中期経営計画2020-2022」を作成しております。
①中期経営計画の位置付け
この「中期経営計画2020-2022」は、「2030ビジョン」の実現に向けて、新しい価値の創造の先行投資と事業基盤の再構築による収益体質強化を両立させる期間として位置付けております。
②基本方針
a)思い切った経営資源の戦略的投入
・・・事業環境が良好な建設用資機材の製造・販売事業を中心として、人員、製造新規設備等の資源投資を積極的に実施します。先行投資により、2021年3月期・2022年3月期の利益水準は2020年3月期比低い水準となりますが、2023年3月期には戦略的な資源投入の成果により飛躍的な成長を遂げることを狙っていきます。
b)既存事業基盤の再構築と新たな価値の創造
・・・上記の資源投入は、既存事業の収益体質の強化と新たな価値創造に重点的に配分します。既存事業、商品において、収益機会の拡大と取り込みを徹底し、様々なプロセス改革による収益性および生産性の向上にも取り組みます。
新たな価値の創造については、海外事業本部の新設やプラズマ発電事業への戦略的な資源投入により、本中期経営計画終了後の飛躍的な成長の為の仕込みを実施します。
c)持続可能な企業価値向上のための経営基盤の強化
・・・上記の事業の展開を持続的な企業価値の向上に結び付けるために、資本効率の向上・財務体質の強化を意識した財務戦略を展開します。
営業キャッシュ・フローを拡大し、それを成長投資と長期安定的な株主還元に配分します。また、財務体質を強化し、安定した資金調達だけでなく、事業拡大に向けた財務余力の確保にも取り組みます。
(5)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
経営指標につきましては、先行投資により、2021年3月期・2022年3月期の利益水準は2020年3月期比低い水準となりますが、2023年3月期には戦略的な資源投入の成果により、2023年3月期には飛躍的な成長を遂げる目標を掲げております。
資本効率の向上に係る目標の指標は、自己資本当期純利益率(ROE)及び株主資本配当率(DOE)としております。
また、目標達成の成否の鍵となる建設用資機材の製造・販売事業を重点注力セグメントとして指標としております。
基本財務目標 |
2020年3月期 |
|
2023年3月期 |
|
|
売上高 (百万円) |
22,839 |
|
26,000 |
|
経常利益 (百万円) |
1,063 |
|
1,600 |
|
親会社株主に帰属する当期純利益 (百万円) |
270 |
|
1,023 |
|
|
|
|
|
収益性・配当 |
|
|
|
|
|
営業利益率 (%) |
4.7 |
|
6.3 |
|
自己資本当期純利益率(ROE) (%) |
3.2 |
|
10%超 |
|
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|
|
|
|
株主資本配当率(DOE) (%) |
3.7 |
|
3.5%目安 |
|
|
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|
|
重点注力セグメント(建設用資機材の製造・販売事業) |
|
|
|
|
|
売上高 (百万円) |
10,803 |
|
13,650 |
|
営業利益 (百万円) |
834 |
|
1,496 |
|
営業利益率 (%) |
7.7 |
|
11.0 |
(6)中期経営計画の策定後の環境変化と計画のローリング
計画策定時には想定していなかった大きな環境変化が起こりました。2020年の日本及び世界経済は、新型コロ
ナウイルス感染症の影響により2008年のリーマンショック以来の大幅な落ち込みを見せ、経済活動そのものが制
限される極めて厳しい状況となりました。
当社グループの事業においても、建築用資材の製造・販売事業における建築金物分野の需要が急減し、また特
に海外への渡航が大幅に制限され現地活動が困難となり、2020年度は建築金物分野や海外事業において計画を大
きく下回る結果となりました。また、実施予定であった施策のいくつかは繰越になる事態が発生しました。国内
の建設資機材の製造・販売事業が好調を維持したため全体の成績は大幅な増益となりましたが、このような環境
下において中期経営計画後の成長をより確固たるものとなるよう、計画の初年度である2020年度を終えた時点
で、この環境変化と実績を踏まえた2021年度と2022年度の計画のローリングを実施しました。
内装工事等民間建築需要の低迷の長期化、海外工事・設計の遅延・中断による輸出の減少の長期化等を想定
し、連結売上高の計画値を下方に修正しました(2021年度は10億円減、2022年度は5億円減)。更に戦略的な先
行投資の金額等も実績及び今後の方向性を踏まえて見直しました。その結果、連結経常利益の計画値は、2021年
度は当初計画比1億30百万円増の11億円、2022年度は当初計画比据え置きの16億円としました。
但し、目指すべき方向性や戦略・施策に大きな修正はないため、全体的には軽微な修正に止まっております。
【2021年度の中期経営計画見直しでの経営上の目標達成状況を判断するための客観的な指標等】
基本財務目標 |
2023年3月期 |
|
当初計画比 |
||
|
売上高 (百万円) |
25,500 |
|
△500 |
|
|
経常利益 (百万円) |
1,600 |
|
±0 |
|
|
親会社株主に帰属する当期純利益 (百万円) |
1,037 |
|
+14 |
|
|
|
|
|
|
|
収益性・配当 |
|
|
|
||
|
営業利益率 (%) |
6.3 |
|
+0.0 |
|
|
自己資本当期純利益率(ROE) (%) |
10%超 |
|
不変 |
|
|
|
|
|
|
|
|
株主資本配当率(DOE) (%) |
3.5%目安 |
|
不変 |
|
|
|
|
|
|
|
重点注力セグメント(建設用資機材の製造・販売事業) |
|
|
|
||
|
売上高 (百万円) |
13,446 |
|
△203 |
|
|
営業利益 (百万円) |
1,575 |
|
+79 |
|
|
営業利益率 (%) |
11.7 |
|
+0.8 |
(7)当連結会計年度以降の経営環境等
当連結会計年度の実績の詳細については後述しますが、建築金物分野や海外事業については新型コロナウイルス
感染症の影響が色濃く残る結果となりました。2021年10月に発足した岸田内閣においても「防災・減災、国土強靭
化」が主要政策の一つとして維持されたこともあり、国内の建設用資機材の製造・販売事業が好調を維持し、スポ
ット的な要因も重なり、各利益において計画を大きく上回り、過去最高水準を記録しました。
しかしながら、世界的なコロナ禍からの急速な需要の回復、及びそれに端を発するサプライチェーンの混乱は、
原材料価格の高騰や各国金融当局の金融引き締めへの転換に波及しており、更にウクライナ情勢も加わり、環境の
不透明感は急激に強くなっております。
次年度については、原材料費の高騰を折り込んだ業績予想をしておりますが、ウクライナ情勢の影響について
は、状況を注意深く把握し、迅速に必要な対応をしていくことにより影響を最小限にしていくことを考えておりま
す。
中期的には、引き続き「防災・減災、国土強靭化」の需要面での好環境は続くと考えております。また、地球温
暖化対応強化(カーボンニュートラルの実現)につきましては、当社グループの脱炭素のイノベーションを活かす
機会ととらえることが可能である反面、環境対応の負担増への対応も必要となってきます。更に中長期的には、日
銀の超金融緩和政策の修正やウクライナ情勢を踏まえた日本の安全保障政策の動向次第では、予算配分に影響が出
てくる可能性もあります。
当社グループとしては、現中期経営計画で掲げる「新たな価値の創造」をより一層加速させ、2023年度からの次
の中期経営計画において具体化していくことを目指していきます。
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