課題

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

 文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1) 経営方針

 当社グループは、教育分野における測定技術の研究開発を行い、質の高いテスト及びラーニングの機会を提供することで、効果的な教育機会を実現し、個人個人の能力の発展に寄与するという日本発のEdTechカンパニーを目指しております。

 

(2) 経営環境

 国内教育市場は少子化の進行で大学受験者数が減少しているものの、英語教育は低年齢化し、2008年度からスタートしている小学5、6年生を対象とした小学校の英語教育は、2011年度に小学5年生から必修となり、2020年度からは、小学3、4年生からの必修化、小学5年生からの教科化が実施されております。
 また、英検協会では、1日で英語4技能を測定することができるコンピュータを用いた新しい受験形態の英検「S-CBT」を導入し、受験機会が従来の年3回実施から年間を通じた実施へと大幅に増加しております。このように、教育及びテストの両面においてICT化が加速しており、当社グループにとって大きな事業機会であると考えております。
 一方、海外におきましては、アジアの人口増加及び経済発展により教育市場が引き続き拡大しております。教育市場として世界における最大市場である米国において教育のICT化が大きく成長を牽引し、変革の流れを加速させております。

 

<新型コロナウイルス感染症の影響について>

 足元国内の新型コロナウイルス感染症の拡大は長期化しており、英検始め各種試験団体による大型会場での受験の中止や受験者数の減少が発生した場合、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。一方で、ワクチンの普及の効果により、私たちの生活に与える影響の縮小や、ライフスタイルの変化による学習やテスト受験のオンライン化、CBT化が加速化する傾向が続いております。

 

(3) 経営戦略等

 当社グループは、英語学習におけるラーニングツール及びテストシステムの提供等によるライセンス収入を安定的な成長の礎とし、以下3つの事業領域を中長期的な成長分野と位置付け、積極的に経営資源を投入し、事業拡大を図ることを中長期的な基本戦略としております。

① 教育プラットフォーム

733万人を超える英ナビ会員データベースを土台としたメディア事業および学習サービスの展開

② AIベースの技術ライセンス

既存のソフトウエア及びシステムに、AI-OCR、自然言語処理、レコメンドエンジン、試験監視システム等のAIベースの技術を実装したサービスの展開

③ テストセンター

直営及び委託会場を併せてCBTを提供するテストセンターを全国展開し、インフラ整備の上、テストシステムの拡充を図りCBT化を加速

 

(4) 事業上及び財務上の対処すべき課題

 当社グループは、教育分野における能力測定技術・コンピュータやインターネットを用いたテスト及び教育ツールの研究に注力し、特に語学を中心として「CASEC」、「英検S-CBT」に代表される試験を提供し、項目応答理論を用いた正確な能力測定技術を強みとすることで他社との差別化を図ってまいりました。また、英ナビ・スタディギアの会員基盤を対象として教育コンテンツを提供し、教育プラットフォームの構築に努めてまいりました。さらに、独自のAI技術を活かし、AI-OCR、自動採点システム、オンライン試験監督システムの開発等に努めております。今後は、これらに加え、テストセンター事業を通じて、各種試験のCBT化をシステム及びインフラ提供の両面から推進することとしております。
 当社グループでは、今後の業務展開及び経営基盤の強化のため、以下の課題に取り組んでまいります。

 

① ソフトウエア開発の強化

当社グループが今後も継続的な成長を果たしていくためには、当社グループが開発したCBTシステムや大規模試験での利用が可能な記述式答案の採点システム等について、市場での優位性を確保するための製品機能の強化が今後も不可欠であると認識しております。さらに、当社グループの提供するラーニングツールは、携帯端末向けのアプリを介して提供されることが主流となりつつありますが、快適なラーニング環境を提供するために必要な資源と時間は確実に増大しています。

また、当社グループで開発を進めているAIを用いた手書き文字認識技術(AI-OCR)を活かすための周辺機能の開発及び導入環境の整備や、AIを活用したアダプティブラーニング等を開発してまいりました。

当社グループは、時代の要請により変化する市場と今後も加速するテクノロジーの進歩に素早く対応するため、戦略に即した製品機能の強化、オプション機能の開発等を行い、競合他社との差別化を図ってまいります。

 

② コンテンツ開発の強化

当社グループが展開するテスト商品及びラーニング商品は、時代の変化による問題の陳腐化を避けるため、継続的に新たなテスト問題の作成やラーニングのためのコンテンツ制作を行うことが不可欠です。また教育プラットフォーム事業において児童・生徒の学習への関心や意欲を高めるコンテンツの開発力を高めることが重要です。質の高いコンテンツ開発を担当する経験豊富な人材の供給は限られており、当社グループは、戦略的ビジネスパートナーとの連携などを通じて、経験豊富な質の高い人材にアクセスし、優良な学習コンテンツのライブラリーの開発・提供を進めて商品の競争力を高めてまいります。

 

③ 海外拠点におけるソフトウエア開発・コンテンツ開発・採点業務の推進による生産性と収益性の向上

第一に、当社グループは、現在、ソフトウエア開発について自社の海外の開発拠点であるインドのプネ、アメリカのボストン及びアイルランドのダブリンにて、先端的なAIの開発に取り組んでおります。当社グループはこれらの体制を通じて質の高い豊富な海外の開発リソースを確保し、グループ全体のシステム開発及び運営の生産性の向上を目指してまいります。

第二に、英語関連コンテンツ開発及び採点業務をアメリカのシアトルにて行っております。当社グループは、主要サービスである英語関連サービスの更なる品質向上のために、テスト理論や英語教育分野の修士課程修了者を中心に高度な訓練を受けた人材を確保し、約15名の専門家集団及び約40名のコントラクターを活用して英語コンテンツの開発および採点業務を行っております。今後もグローバルなサプライチェーンを活用し、さらなる生産性向上を実現してまいります。

 

④ テストセンター事業の安定的運営と更なる拡大の両立

当社グループは、英検協会による1日で英語4技能を測定することができる受験形態の「英検S-CBT」の実施にあたり、その実施会場であるテストセンターの安定的な運営を実現できる体制構築に注力しており、2022年9月末現在で41の直営のテストセンターを運営しております。直営のテストセンターの運営には、テストセンターの賃料や会場運営等に係る固定費の発生に伴う稼働リスクが生じますが、今後この事業を一層安定的に運営し、「英検S-CBT」受験の普及・拡大及び英検協会以外の顧客の獲得等を通じて中長期にわたる事業拡大を実現してまいります。

 

⑤ 戦略的ビジネスパートナーとの連携強化に基づく教育プラットフォーム事業の拡大

当社グループは、現在展開している学習サービスをスタディギアブランドに統一し、英検の唯一の公式ラーニングサービスである「スタディギア for EIKEN」に続き、漢検、数検等、新たな公式ラーニングサービス提供をスタートさせました。今後も、スタディギアブランドの価値を高めるために戦略パートナーとの更なる連携強化が重要であると認識しております。当社グループは、的確なマーケティング戦略及び営業戦略を通じて本事業の収益化を図ってまいります。また、当社グループは2022年7月、株式会社増進会ホールディングスとの資本業務提携契約を締結しております。主にテスト分析・コンサルティング、教育機関・法人向け営業の拡充、独自の能力測定技術を生かしたサービスの付加価値向上、AIを活用した採点業務の効率化などの領域において、両社の事業シナジーを活かしたビジネスを拡充し、双方の企業価値向上を目指してまいります。

 

⑥ AI-OCR技術である「DEEP READ」の早期の事業応用とAI技術の活用領域の充実

各種学力調査は、「知識・技能」を中心に問う手法から「知識・技能」と「思考力・判断力・表現力」を総合的に評価する手法へと移行しつつあり、記述式の出題が増加する傾向にある一方、これに伴う採点費用も増加しています。当社グループは、大規模な学力調査における記述式解答の採点効率化の観点から、ディープラーニングに基づくAI技術を用いた高精度な手書き文字認識技術「DEEP READ」を開発してまいりました。当社グループは、早期に「DEEP READ」を事業応用し、記述式解答の採点プロセスのイノベーションを実現することで競合他社との差別化を図っております。また、この文字認識技術は教育IT分野のみならずOCR(光学的文字認識)関連市場など他分野にも応用可能な技術と考えており、他分野への技術転用を積極的に進め当社グループのビジネスの拡大を図ってまいります。このため、当社グループは、子会社DoubleYard Inc.を通じて、優秀なAI人材の確保と研究開発活動に努めております。「DEEP READ」については、既に外資系大手金融機関、大手BPO会社、政府関連機関、大学等との協業プロジェクト等の受注実績がありますが、これまで進めてまいりましたAPI環境の整備や、多様なユーザーニーズに応える提供形態(クラウドサービス型・オンプレミス型・クラウドとオンプレミスの複合型)を整えながら、将来の大規模な受注に向けて、精度面、機能面、サポート面の更なる強化を図っております。

ディープラーニングを活用した技術及びサービスの開発手法は、他の分野へ応用することが比較的に容易であることから、当社グループは、手書き文字認識技術の開発で培ったAIを活用した開発力を他の分野に展開して当社グループ全体の商品及びサービスの競争力を高めていく方針です。当社グループがAIの活用を進める領域は、レコメンドエンジン(商品名:CAERA)、自然言語処理(英語:Natural Language Processing、略称:NLP)、オンライン試験監督システム(商品名:CheckPointZ)になります。これらの開発により、当社の全セグメントにおいて商品及びサービスの競争力の向上及び利益率の改善を図ることができると考えております。

 

⑦ 大型公共プロジェクトの安定的運用

当社グループは、文部科学省が実施する令和5年度 全国学力・学習状況調査(小学校第6学年の児童を対象)を増進会グループとの協業を通じて、受託いたしました。また、世界的にも先進的なIRT(Item Response Theory、項目応答理論)を用いて個人及び学年の経年的な学力の進捗を測定する埼玉県学力・学習状況調査を開始以来7年連続で受託しております。これらをはじめとした大型の公共プロジェクトを、当社グループの強みであるテスト理論、AIソフトウエアや採点システム等を活用して安定的かつ効率的に運用し、収益の安定化を図ってまいります。

 

 

⑧ コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の強化

当社は、特定の顧客との間の一部取引における一連の経緯や価格の妥当性を踏まえた経済合理性について、2021年8月2日付の当社取締役会において、特別調査委員会の設置を決議し、調査を行いました。2022年2月25日に特別調査委員会から最終報告書を受領し、その内容を踏まえて、2016年9月期から2020年9月期までの有価証券届出書及び有価証券報告書、並びに2018年9月期第3四半期報告書から2021年9月期第3四半期までの四半期報告書について一連の訂正を行っております。当社は、財務報告に関して内部統制が十分機能することの重要性を再確認し、再発防止策として2022年1月25日に改善報告書を東京証券取引所へ提出した後、2022年2月25日に特別調査委員会の最終報告書を受領し、また、上記を受けて、株式会社東京証券取引所より当社の内部管理体制等について改善の必要性が高いと認められたため、当社株式は同年4月1日に東京証券取引所から特設注意市場銘柄に指定されており、これより1年後に内部管理体制確認書を提出し、東京証券取引所による審査を受ける予定であります。当該審査において、内部管理体制に問題が認められない場合には、指定は解除になりますが、問題があるとされる場合は、原則として上場廃止、又は6か月間の特設注意市場銘柄指定の延長後の再審査となります。さらに、当社は、2022年5月19日付「「改善計画・状況報告書」の公表について」のとおり、「改善計画・状況報告書」を策定しその内容を開示しておりますが、改善措置の実施状況及び運用状況を記載した2022年12月7日付「改善状況報告書」を提出いたしました。

改善状況報告書によれば、上記の過年度訂正に至った大きな要因として、主に以下の事項が報告がされております。

●連結業績優先の経営姿勢

●取締役会を始めとした各監督機能の課題

●適切な会計処理及び開示に対する理解の不足

 ●顧客との取引における価格(含む資産取引)の妥当性や、関係会社向けのライセンス価格の適正性の検証体制

●社内規程等を遵守する意識及び規程違反のモニタリング体制における課題

●内部牽制体制の不足

●内部監査体制の及び内部通報制度の機能不全

●経理部・監査法人・会計アドバイザー間のコミュニケーションの課題

また、当社としては、役職員の適切な会計処理及び開示に関する理解が不足していたと認識しております。

当社グループは、特別調査委員会の提言等に基づき、改善計画を策定し、取締役会の構造改革、経営責任の明確化、当社グループ役職員における会計処理に対する理解の醸成、コンプライアンス意識の徹底、ガバナンス体制の強化、管理・監査体制の強化、経理部、監査法人、会計アドバイザーの連携強化等を実施し、再発防止に向けたコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の一層の強化を図っております。

なお、当社が有価証券報告書等に虚偽記載を行ったこと等により損害を被ったとし、当社株主21名より損害賠償を求められており、その訴額は約1億7,000万円であります。当社といたしましては、今後、訴訟における原告の主張を踏まえて適切に対処してまいります。

 

 

⑨ 人材の確保と育成

当社グループは日本市場のみならず海外市場での事業の拡大を見据え、研究開発、事業開発、営業・マーケティング、内部管理の全ての面において、海外オペレーションにも対応可能な優秀な人材の確保、採用、育成が重要な課題であると認識しております。特に、専門性の高いAIエンジニア、項目応答理論等のテスト理論の専門家、教育コンテンツ開発の専門家等を積極的に採用してまいります。新たに採用した人員に対しては充実した研修を実施するなど人材の育成に取り組んでおり、今後も採用と並行して新入社員への研修・教育制度を整備することで優秀な人材の確保・育成に取り組む方針です。

 

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