事業等のリスク

 

2 【事業等のリスク】

花王グループ中期経営計画「K25」では、Vision(ビジョン)を、「持続可能で豊かな社会への道を歩む Sustainability as the only path」と定めて、3つの目的(1)持続可能な社会に欠かせない企業になる、(2)投資して強くなる事業への変革、(3)社員活力の最大化を掲げて取り組んでいます。詳細については「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」を参照ください。

新型コロナウイルス感染症の世界的流行が長期化し、事業環境は不透明な状況が続いています。また、事業がグローバルに拡大し、様々な分野で構造的変化が進む中、事業を取り巻くリスクの変化に迅速かつ適切に対応する必要があります。このような事業環境に対して、当社グループは、次のようなリスクと危機の管理を進めています。

当社グループは、経営目標の達成や事業活動に悪影響を与える可能性を「リスク」、このリスクが顕在化した状態を「危機」と定義し、リスク・危機管理委員会が、「リスク及び危機管理に関する基本方針」に基づいて、リスクと危機の管理体制と活動方針を定めています。そして、部門、子会社、関連会社は、この活動方針に基づいて、リスクを把握、評価し、対応策を策定、実行することでリスクを管理しています。また、危機発生時には、緊急事態のレベルに応じた対策組織を立ち上げ、迅速かつ適切に対応することで、被害、損害の最小化を図ります。

持続的な利益ある発展と社会のサステナビリティへの貢献に悪影響を与えるリスクとして、特に重要な次の14の主要リスクを、リスク・危機管理委員会、経営会議の審議の下で選定しています。そして、これら主要リスクの中で、経営への影響が特に大きく、対応の強化が必要なリスクを「コーポレートリスク」と定めて、年1回、社内外のリスク分析と経営陣へのヒアリングを基に、経営会議でリスクテーマと各テーマ対応の責任者(執行役員)を選定し、リスク・危機管理委員会で進捗管理を行っています。また、リスクと危機の管理活動について、定期的(年1回)及び適時、経営会議及び取締役会に報告しています。(★主なコーポレートリスクのテーマと対応を「主な取り組み」に記載しています。)

これら主要リスクは、5年以内に顕在化する可能性をもつリスクであり、当連結会計年度末における認識です。なお、記載されたリスク以外のリスクも存在し、それらが投資家の判断に影響を与える可能性があります。

 

 

主要リスクの内容

主な取り組み

新型コロナウイルス感染拡大に関するリスク

新型コロナウイルス感染症の拡大は、社会・経済活動や世界の人々の暮らしに引き続き大きな影響をもたらしています。世界各国でワクチン接種が進むものの、変異ウイルスの拡大もあり、経営環境は依然として不透明な状況が続いています。

新型コロナウイルス感染症の拡大の長期化は、生活者の衛生に対する意識の変化や、外出自粛やマスク着用の常態化に伴うメイク等に対する価値観の変化、また、Eコマース利用の急増等の消費行動の変化をもたらしています。

このような中で、当社グループの主要市場である日本のトイレタリー市場は、繰り返される感染症の再拡大や昨年発生した需要拡大の反動により、本格的な回復には至っていません。また、化粧品市場は、各地で続いた緊急事態宣言の影響が大きく、回復の力強さは見られない状況にあります。

以上の環境下における、新型コロナウイルス感染症の拡大と生活者の変化に伴うリスクは次のようなものがあり、適切な対応ができない場合、目標とする売上高、利益から大きな乖離が生じる可能性があります。

・感染力の高い変異ウイルスの影響等による、当社グループ拠点やサプライチェーン上での集団感染(クラスター)の発生、又は、国や自治体からの要請に伴う、操業の一時中断や製品・サービス提供への支障

・リモートワークができない業務が原因となる商品開発や発売計画の遅れ

・感染再拡大や長期化による、化粧品市場等の回復の遅れ

・生活者の意識や価値観の変化、消費行動の変化への対応不足による競争力の低下

 

新型コロナウイルス感染症への対応として、緊急事態対策本部会議(本部長:代表取締役社長執行役員)を開催して、社員と家族の安全確保、事業活動の継続を中心に、次のような対応を実施しました。

・国や自治体の方針、又は、感染状況に応じた勤務体制、働き方(リモートワーク・在宅勤務の推進、出張制限、研修・イベント・見学の制限等)を「危機管理措置」として実施

・社員と家族における感染者・濃厚接触者等の状況を把握し、対象者のケアとクラスター発生防止対策の実施

・社員と家族に対するワクチンの職域接種の実施

・感染拡大国や地域における、感染防止対策の強化と、当社グループ会社間の連携による事業継続活動の実施

・業務のデジタル化の一層の推進と、リモートワーク等の新しい働き方に対する会社制度の見直し

また、事業戦略として、コアブランドへの集中投資や新しい生活様式に対応するデジタル化の推進、Eコマースの強化等に取り組みました。

★主なコーポレートリスクのテーマと対応

<パンデミック>

新型コロナウイルス感染症の経験を踏まえ、次のパンデミックに備えたガイドライン、行動計画の見直しを進めました。

社会的課題への対応に関するリスク

当社グループのコンシューマープロダクツ事業、ケミカル事業は、景気変動や消費者・顧客のニーズの変化に影響を受けます。

海洋プラスチックごみ問題、気候変動、水資源の枯渇、原材料調達に関する環境・人権の問題、そして、高齢化社会の進行や衛生等の社会的課題の増大は、生活者の環境や健康等に対する意識を高め、エシカル消費の潮流や、サステナビリティに対する顧客ニーズの高まりをもたらしています。そして、新型コロナウイルス感染症の世界的流行は、この傾向を一層高めています。こうした社会的課題に関する生活者の意識や顧客ニーズの変化に対して、適切な製品やサービスを提供できない場合、目標とする売上高、市場シェアが得られない可能性があります。また、社会的課題への取り組みが不十分と見なされた場合、企業価値の低下につながる可能性があります。

 

当社グループは、事業戦略にESG視点を融合させた、ESG戦略「Kirei Lifestyle Plan」(KLP)の下で、原材料の調達から生産、使用、廃棄に至るあらゆる段階での技術革新によるイノベーションと、当社グループメンバー全員がその目的や内容を正しく理解し、それぞれの役割と責任を果たすためのKLP推進活動を通じて、社会のサステナビリティへの貢献を目指しています。そして、この成果を早期に示せるよう、しっかり取り組むと同時に、これら取り組みを積極的にステークホルダーに示すことに努めています。

コンシューマープロダクツ事業においては、生活者との接点である各「ブランド」を通じて、対応すべき社会的課題を明確にし、モノ発想ではなく、生活価値視点でのマーケティングである『Life Value Solution Marketing』を推進しています。商品設計の段階から社会・環境に配慮した『ESGよきモノづくり』で、当社グループの持てる資産の最大化を行うことで、生活者のより豊かな暮らしと、社会のサステナビリティへの貢献に取り組んでいます。

ケミカル事業においては、ケミカルの技術革新を通じて社会的課題の解決に貢献し、顧客ニーズの変化や技術の高度化に対応しています。サステナブルで特徴ある油脂誘導体等の開発を強化し、情報材料・機能材料事業でも、さらなる環境負荷低減に導くソリューションを提供していきます。

 

 

主要リスクの内容

主な取り組み

流通環境の変化に関するリスク

コロナ禍で加速したEコマースの伸長は継続しており、さらに、ソーシャルコマース※1やクイックコマース※2等、あらたな購買チャネルも派生しています。一方で、リアル流通もOMO※3の推進や、業態を越えた合併や統合等、個々の戦略のもとに、環境変化への対応を進めています。このような流通環境の変化やスピードに対して、適切な販売活動を展開できない場合、目標とする売上高、市場シェア、利益が得られない可能性があります。

物流に関しては、物量増に伴う、ドライバー不足やコストの増加が顕在化しており、また、働き方改革関連法に伴うドライバーの時間外労働の上限規制が、2024年から物流業界にも適用されることもあり、大きな環境変化が見込まれます。このような環境変化に適切に対応できない場合、配送の滞りや、物流コストの大幅な増加等、当社グループの活動にも影響を及ぼす可能性があると捉えています。

※1 ソーシャルコマース

SNSに商品を購入できる機能を追加した販売チャネルの1つ

※2 クイックコマース

注文から配達まで短時間で届ける仕組みを備えたEコマース

※3 OMO(Online Merges with Offline)

オンラインとオフラインの両者を融合させる販売戦略

 

当社グループは、こうした環境変化を受け、Eコマース専業企業との取り組みを強化するとともに、リアル流通とのOMOへの取り組み、クイックコマース新興企業との連携、積極的な対応を進めています。また、SNSの花王アカウント会員獲得も精力的に進めており、会員様へのダイレクトな情報発信や、キャンペーンを通した店頭への送客、新しいアプローチにも取り組んでいます。化粧品分野においては、オンラインカウンセリングの充実や、ライブコマース※4のソーシャルメディアの積極活用も含め、D2C※5を推進していきます。

物流に関しては、国土交通省や経済産業省が進める、ホワイト物流推進運動を、流通業とともに進めております。一過性のコスト対応ではなく、他メーカーや他ベンダーとの連携を含めて、持続可能な物流体制の構築を目指して取り組んでいきます。

※4 ライブコマース

インターネットでの動画ライブ配信で商品紹介と物販を組み合わ

せた販売手法

※5 D2C(Direct to Consumer)

自社のEコマースサイトで直接消費者に販売するビジネスモデル

海外事業に関するリスク

当社グループは、成長戦略のひとつとして海外事業展開を進めており、特に経済成長率が高く、市場規模が大きくなることが予想されるアジア等の強化を重視しています。しかしながら、事業を進める上で、新型コロナウイルス感染症の影響以外にも、各国の経済成長の鈍化、政治的・社会的に不安定な情勢、小売店・代理店等の取引先との問題、急激な法規制・税制の変更、模倣品の氾濫、レピュテーションリスク等が発生する可能性があり、これらの影響により事業計画に大幅な遅れが生じた場合、目標とする売上高、利益が得られない可能性があります。

※「レピュテーションに関するリスク」を参照

 

当社グループでは、生産・販売国の経済・政治・社会的状況に加えて、事業に関連する各国法規制の情報を日々収集し、必要な対応を行っています。特に各国の環境関連規制の強化、製品の安全性・品質関連規制の強化、また、輸出入関連規制の変更の当社グループへの影響に注視しています。一方、模倣品等の知的財産権の侵害については、特にアジア地域を中心とした模倣品対策に注力しており、消費者・顧客に安心して製品を使用して頂けるよう取り組んでいます。

事業投資に関するリスク

当社グループは、企業価値と相関関係の高いEVAによる投資判断のもと、事業成長のために積極的な設備投資やM&Aを進めています。これら成長投資を今後も進めるとともに、継続的なEVA改善を通して企業価値の向上に努めていきます。しかしながら、投資判断時に想定していなかった水準で、市場環境や経営環境が悪化し、業績計画との乖離等により期待されるキャッシュ・フローが生み出せない場合、設備投資により計上した有形固定資産や、M&Aにより計上したのれんや無形資産の減損処理により、財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

当社グループは、重要な投資に対して、四半期決算毎に業績が当初計画から大きく乖離していないかを確認し、経営会議で報告しています。必要に応じて、関係部門は、今後の方向性や業績改善のための対策を検討しています。

 

 

主要リスクの内容

主な取り組み

製品品質に関するリスク

当社グループの品質保証活動の基本は、「花王ウェイ」で示された生活者・顧客の生活を豊かにする“よきモノづくり”です。原料から研究開発、生産、輸送、販売までのすべての段階において、徹底した生活者・顧客視点で、高いレベルで製品の安全性を追求し、絶えざる品質向上に努めています。しかしながら、重大な製品事故や、製品に対する安全性や環境問題への懸念が生じた場合、当該ブランドの問題だけではなく、当社グループ全体の信用低下につながる可能性があります。

コロナ禍における衛生関連商品に対する誤った使用方法の流布や、高齢者による製品事故リスクの高い状態が継続しています。また、各国法規制の変更や、安全性・環境問題の解決及び製品の成分や安全性等の透明性に対する要求が高まっています。特に、商品流通のボーダレス化の進展による販売エリアの拡大は、多地域での法適合性に関するリスクがあります。

 

当社グループでは、製品関連法規の遵守並びに自主的に設定した厳しい基準に従って、設計、製造を行っています。発売前の開発段階では、徹底的に試験、調査研究を行い、安全性を確認しています。発売後には、各国消費者相談窓口を通じて、商品への意見、要望等を一元的に集約し、当社グループ内で共有することにより、さらなる品質向上に努めています。

さらに、品質保証に関するリスクの変化への対応として、正しい使用方法の伝達のため、製品Q&A等の情報発信の充実、ユニバーサルデザインの推進と多言語情報提供等による、多様な顧客への商品満足度の向上を図ります。また、各国法規制や安全性・環境問題に対する要求を先回りした代替技術の開発による競争力の確保、品質保証活動の見える化と全ステークホルダーとのコミュニケーションによる信頼性向上、そして、グローバル品質保証活動の深化として、迅速に各国法規制への適合性を確認できるシステムの構築等に取り組んでいます。

★主なコーポレートリスクのテーマと対応

<重大品質問題発生時のリスク>

品質問題により重大な被害が生じた場合の全社対応の強化と、重大品質問題発生防止に向けた社内啓発の強化を進めています。

大地震・自然災害・事故に関するリスク

化学プラントでの事故や、自然災害が多く発生している昨今、大規模化学プラントを有する企業への安全操業に対する要求は、ますます高まってきています。

大地震や気候変動に伴う大型台風、洪水等の自然災害により、従業員、設備、サプライチェーン等の被害で、市場への製品供給に大きな支障をきたした場合、経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。また、当社グループの工場で、火災・爆発事故等により従業員や周辺地域に大きな被害が発生した場合、経営成績に重大な影響を及ぼすとともに、社会の信用を失う可能性があります。

 

火災、爆発及び化学物質漏えいを防止し、安全で安定な操業を維持するために保安力を強化する取り組みを行なっています。自然災害を想定した設備対応と定期訓練を行い、緊急事態に備えています。事故、災害の発生に対しては、緊急事態連絡網を通じてグローバルで把握する仕組みを構築しています。また、首都圏での地震により本社が被災することを想定して、東日本・西日本それぞれに対策組織を整えており、通信手段を強化し、代表取締役社長執行役員等を本部長とする緊急事態対策本部を即時に立ち上げ、人命を第一とした対応計画、事業継続計画(BCP)が実行できるよう、対応の強化を進めています。

★主なコーポレートリスクのテーマと対応

<大地震・自然災害>

近年の気候変動に伴う大型台風、洪水等の自然災害に対して、各拠点の水害リスク調査を行い、ハード面ソフト面の対策強化を行うとともに、社員に向けてハザードマップや避難に関する防災教育を行いました。また、大地震等に対する緊急事態対応訓練、通信手段の強化、BCP訓練を通して対応の強化を進めました。

情報セキュリティに関するリスク

当社グループは、ITを活用して事業や業務を効率的に進めるとともに、データを活用したビジネスを進めています。研究開発、生産、マーケティング、販売等に関する機密情報(トレードシークレット(TS))を保有し、また、販売促進活動、会員サイト運営やEコマースを進める上で、多くのお客様の個人情報を保有しています。

当社グループは、情報セキュリティポリシーのもと、TS・個人情報及びハードウェア・ソフトウェア・各種データファイル等の情報資産の保護を目的とした情報セキュリティの強化を図っています。しかしながら、サイバー攻撃を含む意図的な行為や過失等により、機密情報や個人情報が外部に流出する可能性があります。また、サプライチェーン等の事業活動が一時的に中断する可能性があります。このような事象が発生した場合、信用の低下や、目標とする売上高、利益が得られない可能性があります。

 

情報セキュリティの人的・組織的対策としては、グローバルで規程や体制を整備し、PDCAサイクル(啓発活動、自己点検、改善目標の設定)によるTS・個人情報・情報セキュリティの保護推進活動を実施しています。また、インシデント発生時の対応体制の強化を進めています。技術的対策としては、情報セキュリティ委員会が実施すべきセキュリティ対策の方針を決定し、ウイルス対策ソフト導入、ソフトウェア更新による脆弱性解消、不正アクセス防止、メールのなりすまし防止等の対策を実施しています。

★主なコーポレートリスクのテーマと対応

<サイバー攻撃・個人情報保護に関するリスク>

インシデント発生時の対応フローの作成や訓練を実施しています。また、グローバルでの情報セキュリティと個人情報保護の体制強化を進めています。

 

 

主要リスクの内容

主な取り組み

レピュテーションに関するリスク

グローバルでのソーシャルネットワーキングサービス(SNS)の広がりは、生活者同士又は生活者と企業との多岐にわたる相互コミュニケーションを可能としました。また、コロナ禍での外出自粛といった生活の中で、年代性別等を問わず、幅広い人々が膨大な「情報」と「繋がり」を求めてSNSを利用するようになってきています。

しかし、SNSのコメントの中には企業に対する批判的な評価や評判も含まれており、それらが拡散されることで、ブランド価値や企業の信用が低下し、財務的、又は非財務的な損失を被る「レピュテーションリスク」の増加が懸念されています。

当社グループにおいても、SNSを用いた様々な情報発信やブランドのマーケティング活動は今後も増えていくことが想定され、当社グループの広告等における不適切な表現が、SNS等を通じて拡散された場合や、事業活動やブランドイメージへの批判的な評価や誤った情報が拡散された場合、当社グループのブランド価値や企業の信用を低下させる可能性があります。

 

当社グループでは、ESGの観点を含め、広告及びSNS活用時の不適切表現を防止する対策として、事前チェック体制の整備と社内教育に取り組んでいます。また、国内外におけるSNS等のモニタリングを行い、早期のリスク発見にも努めており、事業及びブランドの活動に悪影響を及ぼすレピュテーションリスク事象が発生した場合は、迅速に対応すると同時に、必要に応じて適切なタイミングで、情報や企業姿勢を公表する等、当社グループのレピュテーション(評判・信用)の維持に努めています。

★主なコーポレートリスクのテーマと対応

<レピュテーションリスク>

上記の取り組みを進め、より早い段階でリスクを発見できるよう、特にSNS等のモニタリング体制を強化し、レピュテーションリスク発生時の緊急対応体制のさらなる強化を進めました。

<デジタルメディア活用に伴うリスク>

広告等での不適切表現やステルスマーケティング等のレピュテーションリスクにつながるリスクに対して、継続して社外のSNS検定や社内教育を実施し、予知予防活動を強化しました。

原材料調達に関するリスク

当社グループの製品で使用している天然油脂や石油関連の原料の市場価格は、世界景気、地政学的リスク、需給バランス、異常気象、為替の変動等の影響を受けます。市場価格に急激な変動が生じた場合、目標とする利益が得られない可能性があります。また、当社グループの製品で使用している原材料には、調達上希少な原材料も一部含まれており、安定調達に関わるリスクがあります。需要の急激な変化やサプライヤーのトラブル発生により、製品の市場への供給に支障をきたした場合、目標とする売上高、利益が得られないだけでなく、当社グループの信用の低下につながる可能性があります。

一方、当社グループの原材料はパーム油や紙・パルプ等の自然資本に大きく依存しており、省資源、地球温暖化防止、生物多様性保全等の環境側面、安全・衛生、労働環境、人権等の社会側面に十分配慮し、持続可能な調達を実現することで、企業としての社会的責任を果たしていく必要があります。しかしながら、サプライチェーン上の何らかの理由で、持続可能で責任ある調達への取り組みが不十分と見なされた場合、当社グループのブランドイメージ、信用の低下につながる可能性があります。

 

当社グループは、原材料価格の上昇に対して、原価低減や売価への転嫁の施策を行い、その影響の軽減を図っています。また、安定調達に関わるリスクに対しては、主力サプライヤーでの設備増強と、リスク分散のためのセカンドサプライヤーの育成を実施しています。また、サプライヤーとの契約見直しや協働を積極的に行いリスク低減を進めています。

一方、持続可能で責任ある調達の実践に向けて、今回新たに、“サプライチェーンにおけるESG推進ガイドライン”を公表し、サプライチェーン上での人権保護や環境保全の確認を進めています。特にリスクの高いサプライチェーンをハイリスクサプライチェーンと定義し、本質的な課題解決に向けて、サプライヤー並びにNGOとの連携の下、取り組んでいます。また、原材料の使用量削減や、非可食バイオマス由来の原材料等への転換にも取り組んでいます。

Sedexによるサプライヤーのモニタリング、サプライヤーのコンプライアンス違反ゼロに向けた監査体制の整備、CDPサプライチェーンプログラム等の取り組みを通じてサプライヤーとの連携を強化しており、さらに、パーム油の持続可能なサプライチェーンの構築を目指し、インドネシアの小規模農園に対し、「生産性向上と持続可能なパーム油に対する認証取得を支援するプログラム」を現地のパートナーと協働で実施しています。

これら取り組みを積極的かつ透明性をもってステークホルダーに公開しています。

コンプライアンスに関するリスク

当社グループは、事業活動を行う上で、製品の品質・安全性、保安、環境保全、化学物質管理、会計基準や税法、労務、取引管理等の様々な法規制の適用を受けています。世界的競争が激化する中で、製品の差別化、販売スケジュールや製品納期の遵守、業績目標達成の圧力等に関連した不正を働く誘因がますます高まることが懸念されます。また、世代間の価値観の相違や社員の多様化により、ハラスメント等のリスクが増加する可能性があります。

当社グループ及び委託先等が重篤なコンプライアンス違反を起こした場合は、当社グループの信用、財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

当社グループは、「正道を歩む」(法と倫理に則って行動し、誠実で清廉な事業活動を行う)をコンプライアンスの原点と位置づけ、すべてのステークホルダーの支持と信頼にこたえていくための指針とし、行動規範である「花王ビジネスコンダクトガイドライン」の継続的な教育やコンプライアンス通報・相談への適切な対応等の活動を進めています。また、重篤なコンプライアンスリスクの低減にフォーカスした活動として、事業に適用される法令遵守推進を計画的に実施し、特に重要な法令についてはその実施状況をコンプライアンス委員会がモニタリングしています。また、重篤なコンプライアンス違反を発見した場合、すぐに経営陣に報告され適切な対応を行えるよう、風通しの良い職場の実現を目指した活動を推進しています。

 

 

主要リスクの内容

主な取り組み

人財確保に関するリスク

当社グループは、経営計画を実行する上で、多様な人財が挑戦・共創できる場の創出に努めています。現在は、グローバルでの競争激化や日本における超高齢化社会の到来といった潮流に加え、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により従来に増して変化に柔軟に対応していく変革力が求められています。また、個人のキャリアや働き方に対する価値観がこれまで以上に多様化し、人財の流動化が社会全体でより一層進むと考えられます。

このような状況の中、大きな環境の変化を先取りし、各分野で必要とする高度な専門性を持つ人財や、変化を先導するリーダーの確保と育成が推進できない場合には、新事業・新製品開発におけるイノベーションの加速、中期経営計画の遂行に影響を及ぼす可能性があります。

 

当社グループで最も重要な資産は「人財」であるという認識のもと、社員活力の最大化に向けて、多様なバックグラウンドや専門性を持つ人財が、大きな挑戦と部門や国、組織を超えた共創により、能力と個性を最大限に発揮するための取り組みを推進しています。2021年より全員チャレンジと社内外での連携・共創強化を目的としOKRを導入しました。

また、グローバル人財情報システムの活用や、様々な社員意識調査・アンケートの実施による組織力の向上、グローバル共通の等級制度・評価制度・教育体系・報酬ポリシーによる人財マネジネントや健康増進プログラム、柔軟で多様な就業環境と制度の整備等を実施しています。

これらの取り組みに加えて、持続的な成長を支える人財の配置・育成や効果的な組織運営について、経営トップをメンバーとする人財企画委員会で毎月議論し、推進しています。

為替変動に関するリスク

当社グループは、海外でも事業活動を進めており、為替相場の変動は、外国通貨建ての売上高や原材料の調達コストに影響を及ぼします。また、連結決算における在外連結子会社の財務諸表の円貨換算額にも影響を及ぼします。

当社グループの機能通貨である円に対して外貨の為替変動が想定以上となった場合、財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

外国通貨建て取引については、外貨預金口座を通じての決済、為替予約や通貨スワップ等のデリバティブ取引により為替変動リスクをヘッジすることで、経営成績に与える影響を軽減しています。なお、投機的なデリバティブ取引は行っていません。また、主要通貨の変動と事業への影響をモニタリングし、適時、経営会議に報告しています。そして、必要に応じて経営陣指示のもと、関係部門は事業への影響を軽減する対策を検討しています。

訴訟に関するリスク

当連結会計年度において、当社グループに重要な影響を及ぼす訴訟等は提起されていません。しかしながら、当社グループは、グローバルで多岐にわたる事業展開をしており、様々な訴訟等を受ける可能性があります。訴訟等の動向によっては、当社グループの信用、財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

当社グループは、事業に関わる各種法令を遵守するとともに、安全・安心な製品の提供、知的財産権の適正な取得・使用、契約条件の明確化、相手方との協議の実施等により紛争の発生を未然に防ぐよう努めています。また、グローバルで、重要な訴訟の提起や状況に関する報告が迅速かつ確実になされる仕組みを構築するとともに、各国の関係会社の担当者及び弁護士事務所等と連携し、訴訟等に対応する体制を整備しています。

 

 

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