課題

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

2005年10月に大日本製薬株式会社と住友製薬株式会社が合併し、大日本住友製薬株式会社として発足してから16年半の間に、当社は、事業のグローバル化を実現するとともに、新たな研究領域への参入、大型買収、提携など数々の挑戦を行い、会社の姿が合併当時から大きく変容しました。そして、2022年4月1日、新たな事業ステージに向けて変化し、さらに発展し続けることを目指し、商号を大日本住友製薬株式会社から「住友ファーマ株式会社」に変更しました。

当社は、以下の変わらぬ企業理念と経営理念のもと、事業活動を進めてまいります。

 

企業理念

 人々の健康で豊かな生活のために、研究開発を基盤とした新たな価値の創造により、広く社会に貢献する

 

経営理念

■ 顧客視点の経営と革新的な研究を旨とし、これからの医療と健やかな生活に貢献する

■ たゆまぬ事業の発展を通して企業価値を持続的に拡大し、株主の信頼に応える

■ 社員が自らの可能性と創造性を伸ばし、その能力を発揮することができる機会を提供していく

■ 企業市民として社会からの信用・信頼を堅持し、よりよい地球環境の実現に貢献する

 

当社は、企業理念の実践を「CSR経営」と定義し、事業活動を通してSDGs(持続可能な開発目標)の達成にも貢献していきます。

 

中期経営計画2022

高齢化社会の進展や医療財政のさらなるひっ迫が想定されるなか、製薬業界は、デジタル技術を活用した創薬や治療方法の創出、予防医療の普及など「変革の時」を迎えています。かかる環境において、当社は、企業理念のもと、ヘルスケア領域での課題解決に貢献するため、新たなビジョン「もっと、ずっと、健やかに。最先端の技術と英知で、未来を切り拓く企業」と、2018年度を起点とした2022年度までの5か年の「中期経営計画2022」を2019年4月に発表しました。

「中期経営計画2022」では、ポスト・ラツーダ、すなわち、2023年2月20日以降に米国において非定型抗精神病薬「ラツーダ」の後発医薬品の市場参入が可能となる事業環境を見据えつつ、「変革の時」に対応するため、「成長エンジンの確立」と「柔軟で効率的な組織基盤づくり」により、事業基盤の再構築に取り組むことを基本方針としています。

この基本方針に則り、2019年12月からロイバント・サイエンシズ・リミテッド(以下「ロイバント社」)との戦略的提携を開始するとともに、新設子会社であるスミトバント・バイオファーマ・リミテッド(以下「スミトバント社」)の傘下に5社の子会社を迎えました。この戦略的提携では、米国における「ラツーダ」の独占販売期間終了後の持続的成長に向けて、大型化を期待するレルゴリクスおよびビベグロンを含む多数のパイプラインならびに当社のデジタル革新を加速するヘルスケアテクノロジープラットフォームであるDrugOMEおよびDigital Innovationとそれらに関わる人材を獲得しました。他方で、ポスト・ラツーダの成長ドライバーとして期待していたナパブカシンの開発を2021年3月に中止したことなどを踏まえて、「中期経営計画2022」で掲げた2022年度の経営目標について、2021年5月に次のとおり修正しました。

 

 

2022年度の経営目標

 

従来目標

(2019年4月発表)

修正目標

(2021年5月修正)

売上収益

6,000億円

6,000億円

コア営業利益

1,200億円

600億円

ROIC ※1

10%

3%

ROE ※2

12%

3%

 

※1 ROIC=(コア営業利益-法人所得税)/(資本合計+有利子負債)

※2 ROE=親会社の所有者に帰属する当期利益/親会社の所有者に帰属する持分

 

当社グループは、改めて設定したこの経営目標を達成すべく、米国では進行性前立腺がん治療剤「オルゴビクス」、子宮筋腫治療剤「マイフェンブリー」、過活動膀胱治療剤「ジェムテサ」、日本では「ラツーダ」、2型糖尿病治療剤「ツイミーグ」などの新製品の拡大に注力していますが、新型コロナウイルス感染症の影響などにより、設定時の想定より市場浸透に時間を要している品目もあり、2022年度の業績見通しは、売上収益5,500億円、コア営業利益300億円と経営目標を下回る見込みです。しかしながら、これら新製品の伸長が米国における「ラツーダ」の独占販売期間終了後の収益確保の源泉であり、引き続き最大限注力してまいります。また、グループ全体での事業運営の効率化により基盤強化を進めるとともに、後期開発品への投資を中心に研究開発を進めることを通じて持続的に成長し、2020年代の後半にROE10%以上となることを目指してまいります。

 

2022年度活動方針

新型コロナウイルス感染症の世界的流行および欧州における地政学的リスクの高まりにより、当社グループが事業を展開する各国・地域において、情報提供活動の制限や臨床試験の遅延が生じるなど、事業活動への様々な影響が続いています。当社グループは、患者さんに確実に医薬品をお届けするため、原材料の確保から製品の製造および販売に至る各段階の活動が停滞しないよう細心の注意を払い、医薬品の安定供給に努めてまいります。また、医療関係者、取引先、従業員等の安全を最優先に事業活動を進めるとともに、オンラインコミュニケーションツールの活用など、テレワークにより対面での意思疎通ができないことを補う取組を推進してまいります。

2022年度は、「中期経営計画2022」の最終年度であるとともに、2023年度から2027年度までの次期中期経営計画(以下「次期中計」)を策定していくなど、当社の将来を方向付ける大変重要な年度です。

当社グループでは、次のとおり事業活動を進めてまいります。

 

①CSR経営

当社グループは、CSR経営を実践していくための重要課題をマテリアリティとして特定しています。マテリアリティでは、革新的な医薬品と医療ソリューションの創出、サイエンス発展への貢献などの持続的成長のために重要な独自性の高い「価値創造につながるマテリアリティ」と、コーポレートガバナンス、コンプライアンスなどの事業活動継続のために不可欠である「事業継続の基盤となるマテリアリティ」に分類し、各項目について、目標およびKPIを設定して取り組んでいます。今後も様々なステークホルダーからのご意見を踏まえ、当社の企業理念に整合する適切な目標となるよう継続的な見直しを行い、また、これを実践することを通じて、企業価値の向上に取り組んでまいります。

 

 


 

②研究開発活動

当社グループは、「グローバル・スペシャライズド・プレーヤー」を2033年の目指す姿として掲げています。精神神経領域、がん領域および再生・細胞医薬分野の重点3領域でグローバルリーダーになることを目指し、引き続き、積極的に研究開発に取り組むとともに、価値にフォーカスしたベストインクラス(既存薬に対して明確な優位性を持つ新薬)の医薬品の開発や、感染症領域の研究開発にも取り組んでまいります。また、医薬品以外のヘルスケア領域でのソリューションを提供することを目的として、フロンティア事業にも取り組んでまいります。また、独自のインシリコ創薬システムなどAIを用いた創薬、DrugOMEなどのデジタル技術の積極的な活用および日米各グループ会社の連携強化を通じたシナジー効果の発揮により、研究開発の生産性向上にも取り組んでまいります。

 


 

(ア)精神神経領域

先端技術を取り入れながら築いた自社独自の創薬技術プラットフォームを基盤に、競争力のある創薬研究を推進しています。精神疾患領域(統合失調症、うつ、神経疾患周辺症状など)においては、神経回路病態に基づく創薬によりアンメット・メディカル・ニーズを満たす画期性のある治療薬の創出を目指し、神経疾患領域(認知症、パーキンソン病、希少疾患など)においては、分子病態メカニズムに基づく創薬により神経変性疾患の根治療法薬等の創出を目指しています。また、製品や開発品の臨床データから得られた知見をトランスレーショナル研究に活用し、ゲノム情報、脳波、イメージング画像などのビッグデータから適切な創薬ターゲットやバイオマーカーを選定することで、研究開発の成功確度の向上を図ってまいります。

また、原則としてテーマを発案した研究者がリーダーとして初期臨床開発段階までプロジェクトを進める新しい研究プロジェクト制を2017年度から導入していますが、2021年度は2品目の臨床移行、多くの開発候補品の前臨床移行を達成するなどの成果を得ており、今後も研究プロジェクト制による研究開発を推進してまいります。

開発段階では、日米が一体となったグローバル臨床開発体制のもと、戦略的な開発計画を策定し、効率的に臨床開発を推進して、早期の承認取得を目指しています。

この方針に則り、大塚製薬株式会社(以下「大塚製薬」)との共同開発および販売に関するライセンス契約の対象となった4品目について、同社との協働により開発を加速してまいります。このうち、後期開発品であるulotaront(開発コード:SEP-363856)については、米国での統合失調症を対象としたフェーズ3試験ならびに日本および中国での統合失調症を対象としたフェーズ2/3試験を着実に推進するとともに、2つの追加適応症候補について、開発計画を策定のうえ、臨床試験の開始を目指してまいります。同じく後期開発品であるSEP-4199については、2021年に米国および日本で開始した双極Ⅰ型障害うつを対象としたフェーズ3試験を推進してまいります。

 

(イ)がん領域

当社グループは、これまでの研究開発活動を通じて、様々な知見を得るとともに、創薬力を強化し、特長を有する複数の開発パイプラインを創出してまいりました。これらを生かし、引き続きアンメット・メディカル・ニーズの高いがん領域の研究開発に注力してまいります。

創薬においては、自社が有する新規技術を用いたモダリティ展開やアカデミアとの共同研究などの取組を通じて競争力を高め、革新的な新薬の創出を目指してまいります。

開発段階では、初期臨床評価中の複数の開発パイプラインについて、短期・小規模の試験でデータを慎重に評価することなどにより、最適な対象がん種および製品価値を見極め、成功確度の向上と早期の承認取得を目指してまいります

 

(ウ)再生・細胞医薬分野

オープンイノベーションを基軸に、高度な工業化・生産技術と最先端のサイエンスを追求する当社独自の成長モデルにより早期事業化を目指し、複数の研究開発プロジェクトを推進してまいります。神経領域および眼疾患領域に関するプロジェクトを着実に推進するとともに、立体臓器の再生を含む次世代の再生医療の取組も視野に入れ、グローバル(日本、米国およびアジア)での展開を目指し、まずは日本および米国を中心に次期中計の期間での収益貢献を目指してまいります。

パーキンソン病を対象として京都大学にて医師主導治験実施中の「非自己iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞」について、治験予定の全7例の細胞移植が完了しました。当社グループは、京都大学と連携して実用化を進め、米国においても治験の開始に向けて取り組んでまいります。また、「他家iPS細胞由来網膜色素上皮」(開発コード:HLCR011)について、加齢黄斑変性等を対象として、2022年度中の企業治験開始を目指し、網膜色素変性、脊髄損傷および腎不全の研究開発プロジェクトについても提携先とともに積極的に推進してまいります。さらには、米国での事業展開に向けて、新たな再生・細胞医薬製造施設を米国内に設置すべく、準備を進めてまいります

 

(エ)感染症領域

薬剤耐性菌感染症治療薬、マラリアワクチンおよびユニバーサルインフルエンザワクチンの共同研究を推進するなど、グローバルヘルスやパンデミックへの備えに貢献するため、引き続き研究開発に積極的に取り組み、次期中計の期間中の実用化を目指してまいります。

開発段階では、北里研究所との共同研究により創製されたKSP-1007について、2022年1月に米国で開始した複雑性尿路感染症および複雑性腹腔内感染症を対象としたフェーズ1試験を進めてまいります。また、中国において、細菌性市中肺炎を対象として2021年10月に申請したlefamulinについて、承認取得に向けた活動を推進してまいります。

 

 

(オ)その他の領域

米国における「ラツーダ」の独占販売期間終了後の当社グループの成長に向けて、価値にフォーカスしたベストインクラスの医薬品の開発などを推進してまいります。米国において、rodatristat ethylの肺動脈性肺高血圧症(PAH)を対象としたフェーズ2試験、「ジェムテサ」の前立腺肥大症を伴う過活動膀胱を対象としたフェーズ3試験などを着実に進めてまいります。

 

(カ)フロンティア事業

自社医薬事業とシナジーが見込める領域として、メンタルレジリエンス(精神神経疾患の兆候を早期に把握することによる悪化の未然防止)およびアクティブエイジング(高齢者の健康の意識レベルからの改善および維持・向上)にフォーカスし、核となる技術(情報系、工学系等)やネットワーク(アライアンス、ベンチャー投資等)などの事業基盤により、次期中計の期間中に成長エンジンとして確立することを目指しています。

手指麻痺用ニューロリハビリ機器、認知症周辺症状用機器、メンタルヘルスVRコンテンツなどについて、提携先との連携のもと、2022年度からの本格的な事業開始に向けて活動を強化してまいります。

 

③各セグメントにおける事業活動

(ア)日本セグメント

薬価改定などの薬剤費抑制策により厳しさを増す市場環境に対応すべく、より一層の効率的な事業運営を推進してまいります。精神神経領域では、 「ラツーダ」および非定型抗精神病薬「ロナセンテープ」の販売拡大に努めてまいります。糖尿病領域では、2021年9月に上市した「ツイミーグ」の市場浸透に努めるとともに、2型糖尿病治療剤「トルリシティ」、「エクア」お よび「エクメット」の販売拡大に努めてまいります。

 

(イ)北米セグメント

ポスト・ラツーダを見据えた成長路線の確立を目指し、サノビオン・ファーマシューティカルズ・インク(以下「サノビオン社」)およびスミトバントグループにおいて事業活動を進めてまいります。サノビオン社では、当社グループの現在の収益の柱である「ラツーダ」の最大化、また、パーキンソン病に伴うオフ症状治療剤 「キンモビ」 の販売拡大に注力してまいります。スミトバントグループにおいては、マイオバント・サイエンシズ・リミテッド(以下「マイオバント社」)では、「オルゴビクス」および2021年6月に上市した「マイフェンブリー」について、ファイザー・インク(以下「ファイザー社」)とのコ・プロモーションにより速やかな市場浸透および販売拡大に注力してまいります。ユーロバント・サイエンシズ・リミテッド(以下「ユーロバント社」)では、2021年4月に上市した「ジェムテサ」の販売拡大に努めてまいります。エンジバント・セラピューティクス・リミテッドでは、2021年10月に小児先天性無胸腺症を適応症として承認を取得し、2022年3月に販売を開始した再生医療製品「リサイミック」について、治療を望むすべての患者さんに早期に提供できるよう努めてまいります。また、マイオバント社およびユーロバント社の販売にサノビオン社が有するコマーシャル機能を有効活用するなど、北米での販売活動の効率化に努めてまいります。
 

(ウ)中国セグメントおよび東南アジア

当社グループは、中国を第3の柱として基盤強化に取り組むとともに、アジアを成長市場として捉えて足場固めを推進してまいります。中国セグメントでは、2022年度は、薬剤費抑制策の影響が見込まれるものの、引き続き、カルバペネム系抗生物質製剤 「メロペン」 、「ラツーダ」などの販売に注力してまいります。

東南アジアでは、自社パイプラインに適した国での事業拡大を進めるとともに、提携企業との連携による「メロペン」および「ラツーダ」の販売拡大に努めてまいります。

 

 

  ④柔軟で効率的な組織基盤の構築

当社グループは、「変革の時」に対応し、「ちゃんとやりきる力」を強化するため、「粘り強く精緻に物事を進める文化」を維持しつつ、環境変化を好機と捉えて潮流を読み、自ら変革して柔軟に動く文化の醸成および人材の育成を推進してまいります。

また、事業環境の変化に対応していくため、基盤強化を進めるとともに、Digital Innovationの利用拡大などデジタル革新を推進してまいります

 

株主還元

当社は、株主への還元について、安定的な配当に加えて、業績向上に連動した増配を行うことを基本方針としており、「中期経営計画2022」で掲げているとおり、2018年度から2022年度までの5年間における平均の配当性向20%以上を目指してまいります。

 

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

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