文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。
(1)企業理念
JCRは「医薬品を通して人々の健康に貢献する」を企業理念としております。
コアバリュー(価値観)
信頼:私たちは、法令遵守はもとより、高い倫理観をもって行動することにより、全てのステークホルダーから信頼される会社を築きます。
自信:私たちは、世界へ通用する医薬品提供を目標に、独自の視点で研究・開発を進め、自信をもって品質の高い製品と情報を提供します。
信念:私たちは、基本理念のもと、“自ら考え、自ら行動する”を信念として、更なる企業成長を目指します。
基本経営方針
以下に提唱する経営方針は3つのコア・バリューをもとに、より具体的に企業のあり方を示したものです。
1.顧客満足を念頭に置いた経営
顧客に対し、常に高品質の製品、正確な情報及びきめ細かなサービスを提供し、顧客満足を高めます。
2.法令・社内規則を遵守する社会的良識に基づいた経営
円滑に企業活動を行うために、コーポレート・ガバナンスに基づくコンプライアンスを推進し、内部統制システムの確立を図ります。その為の医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(「医薬品医療機器等法」)、会社法、独占禁止法などの関係法令及び、業界内の規約・ガイドライン等を遵守します。
3.世界に通用する医薬品開発を目指した経営
希少疾病分野での研究を基盤に、未来への更なる発展を目指して、世界に通用する治療薬の研究・開発に、独自の視点も盛り込みながら、積極的に取組みます。
4.職場環境への配慮を忘れない経営
製薬企業として信頼性の高い商品提供のために、各事業所の安全かつ働きやすい環境づくりを徹底します。
5.自ら考え、自ら行動する人材を育成する経営
「自ら考え、自ら行動する」ため、部署間の連携を基盤に、明確な目的意識と責任感を持つ仕事のプロの育成を目指します。
6.経営効率を高め、JCRファーマの長所を最大限にのばせる経営
競争の激しい医薬品市場でビジネスを展開する為、市場を見極める視点を忘れずに経営の基本となる「人・物・経費」の効率化を図ります。 また、社内連携をより強化することで、JCRファーマだからこそ取り組める個性ある事業を展開していきます。
(2)経営戦略等
当社は、2020年5月に3カ年中期経営計画「変革」(REVOLUTION into the Future)を策定、公表いたしました。本計画において、本格的なグローバル化に向けて、事業活動の質的・量的な「変革」だけでなく、当社の価値の源泉である「チームJCR」の社員一人ひとりが変わることで、中長期ビジョン「Toward 2030」の実現を目指すことを掲げております。
中期経営計画の中間年である2021年度には、ハンター症候群に対する世界初の血液脳関門通過型酵素補充療法治療薬であるイズカーゴ®を世界に先駆けて日本で発売(2021年5月)し、欧米およびブラジルにおける臨床第3相試験を開始いたしました。イズカーゴ®については特定地域における独占的な共同開発およびライセンス契約を武田薬品工業株式会社と締結し(2021年9月)、さらに、当社独自技術である「J-Brain Cargo®」を活用した遺伝子治療の共同研究について、武田薬品工業株式会社と契約を締結いたしました(2022年3月)。
当社にとって、J-Brain Cargo®を用いたイズカーゴ®の上市と、新たなモダリティとなる遺伝子治療の進展は、大変重要なマイルストーンの達成と考えております。今後も、革新的な創薬基盤技術を創出し、自社創製医薬品を提供することで、新しい価値を創造し続け、希少疾病にとどまらず、世界中の人々の健康と笑顔に貢献してまいります。
また、現段階では具体的なリスクとして顕在化していないものの、新型コロナウイルスの感染拡大や国際紛争による政治的混乱等によるサプライチェーンへの影響が製品の安定供給を損なうリスクの他、エネルギーコストの増大が持続的成長に影響を与えるリスクを引き続き注視してまいります。
アストラゼネカ社の新型コロナウイルスに対するワクチンの原液製造においては、バイオ医薬品製造技術を有する企業としての社会的責任を果たし感染収束に向けた一助となるべく取り組みを進め、予定された数量に相当する原薬の製造を完了いたしました。
(3)環境認識および対処すべき課題
世界の製薬業界においては、治療薬の研究開発や製造を行うだけでなく、予防・診断・予後の管理まで範囲を拡大し、トータルヘルスケアサービスを提供する製薬企業が増えてきております。また、高齢化社会の進展から社会保障費用が増大し、各国の医療制度は財政的な健全化が求められております。一方で、遺伝子治療やがん免疫療法などの画期的な医薬品のイノベーションは加速しております。このような新薬の価値を適切に評価し、価格へ反映するValue Based Health Care(VBHC)の取り組みが加速しており、研究開発型の製薬企業においては高付加価値の医薬品を創製することが求められております。そのためにアカデミアとの共同研究や製薬企業間の技術提携が活発化され、競争環境の変化はますます激しくなってきております。
当社においては、独創的な研究開発により創製された医薬品を世界中の患者さんに届けること、さらに、革新的な創薬基盤技術を創出し続け希少疾病領域以外の様々な疾患にも貢献することを使命と考えております。今後も持続的、安定的に成長を続けるため、引き続き「変革」を推し進めるため、以下の課題に対処してまいります。
最重要経営課題「品質保証体制の質・量的拡充」
中期経営計画「変革」では、希少疾病領域におけるライソゾーム病治療薬の研究開発を着実に進捗させるほか、グローバルにおける当社の重要性がさらに高まることを見据え、「品質保証体制の質・量的拡充」を最重要経営課題といたしました。近年、医薬品に対する信頼を損ねる事例が相次ぎ、安定供給と品質に対する製薬企業の姿勢が改めて厳しく問われております。迅速かつ安定的に高品質の製品を臨床現場に提供することは製薬企業の最も重要な責務であり、企業の存立を左右する重大な課題と認識しております。
当社では、高品質で有用な医薬品・医療機器を社会に提供するため、国内および海外のGMP(Good Manufacturing Practice:医薬品の製造管理および品質管理規則)に沿って、原材料の納入から生産、製品の出荷まで科学的に品質を保証する体制を整えており、さらにその水準を高める努力を続けております。さらに業界の不祥事が相次いだことを受け、当社内での不祥事を防止するため、新たな教育プログラムを開始し、これまで以上に社員全体へのコンプライアンス教育を強化しております。
製品の品質・安全性においては、法律に則った三役連携体制を、営業本部、生産本部から独立した信頼性保証本部に設けており、製品の品質・安全性を科学的に評価する体制としております。また、昨年、品質試験部門を生産本部から分離し、試験法の開発部門と統合する組織変更を行いました。これにより、研究初期の試験法の検討から商業生産時の出荷時の試験まで一連で実施可能な品質管理体制のもと、実務的に無駄のない効率的な運営を目指してまいります。
今後数年間のうちに、J-Brain Cargo®技術を適用した複数の開発品目がグローバル臨床試験入りを予定しており、グローバル化を見据えたサプライチェーンの構築にも積極的に取り組んでまいります。当社の独自技術であるJ-Brain Cargo®は、未だ治療法のない中枢神経症状を呈する疾患に対する初めての治療法となる可能性があります。そのような認識のもと、未だ満たされない医療ニーズに研究開発で応える製薬企業として、迅速かつ安定的に高品質な製品を提供する責務の重大性を認識し、これまで以上に品質保証体制の質・量的拡充に努めてまいります。
「既存製品の持続的成長のための取り組み」
当社が開発しているライソゾーム病における一連の治療薬においては、今後数年以内に複数品目がグローバル試験入りし、2025年以降にグローバルで上市することを見込んでおります。積極的な研究開発の順調な進捗に伴い研究開発費の増大が予想されるため、既存製品の収益の持続的成長は、引き続き重要な経営課題であると認識しております。特に当社売上高の多くを占めるヒト成長ホルモン製剤「グロウジェクト®」の売上高の維持および成長を図り、2021年5月に販売を開始した「イズカーゴ®」の市場浸透の加速や、開発品目におけるグローバルでのアライアンスを実現することで、強固な収益基盤づくりをすることが極めて重要と認識しております。
成長ホルモン製剤を販売する各社による適応追加や疾患啓発、さらに長期作用型ヒト成長ホルモン製剤の開発等の活動により、現在においても成長ホルモン製剤市場は拡大を続けております。一方、成長ホルモン製剤は主に小児の成長障害に使用されておりますが、日本国内における少子化により近い将来、市場全体の成長が減少に転じることを予測しております。
当社の注入器は在宅自己注射製剤として国内で唯一の電子制御による電動デバイスであり、その特長を活かし日本国内におけるシェア拡大を続けてまいりました。今後もさらに患者さんや医療従事者のニーズに応えられるように、専用注入器やそれと連携するスマートフォンアプリケーションソフトウェアの開発、患者さんに寄り添った使い勝手の良い製剤や長期作用型製剤の開発を通じて、治療満足度のさらなる向上を目指してまいります。このような活動の他、効果的・効率的な情報提供活動をさらに推し進めることで、想定される市場規模の減少、薬価改定の影響を吸収し、売上高の維持、成長を図ってまいります。
その他の品目についても、事業環境の変化に応じて適切に対応することにより、売上高の維持、成長を図ってまいります。
「基礎研究の拡充」
製薬業界において新たな基盤技術が医薬品として実現するには、基礎研究を含め10年を超える歳月を要します。当社の最重要課題であるライソゾーム病における一連の治療薬の開発は、研究開発が順調に進捗すれば今後10年程度で概ね完了するものと予測しております。そのため、ライソゾーム病治療薬開発の後を見据えた新たな基盤技術と革新的な医薬品の創出を目的とした基礎研究への取り組みを加速させております。
2021年度には、当社の独自技術であるJ-Brain Cargo®を適応した初めての開発品目であるイズカーゴ®を実臨床の現場に届けることができました。このJ-Brain Cargo®技術は脳や様々な組織へ薬物を送達することができる技術であり、ライソゾーム病だけでなく様々な疾患に応用が考えられております。この技術を適応した複数の開発品目より得られた知見から、核酸やタンパク質等、送り届けたい物質の特性に応じてJ-Brain Cargo®を最適化することで、効率的に脳やそれ以外の目的組織へ送達できることがわかってまいりました。J-Brain Cargo®プラットフォームテクノロジーを多様なモダリティに適用することで、様々な疾患に応用ができる可能性が高まってまいりました。
今後、当社の成長と新たな機会創出のため、医薬品候補品の活用や技術相補的なシナジー効果を目的とした他社との協業を進めてまいります。引き続き当社の強みである基礎研究を進め、他社に導出しうる新たな基盤技術を創出し、安定的な収益の柱を確立してまいります。
「生産・研究への積極的な設備投資の検討・着手」
当社は現在、製造販売中の6製品に加えて、今後、10以上のライソゾーム病治療薬をグローバルに製造販売する計画となっております。安定供給のためには、現在の国内4製造所では能力が不足する見込みとなっております。そのため、令和2年度ワクチン生産体制等緊急整備事業(厚生労働省)に基づいて神戸市西区に建設中のワクチン原薬製造所を、ワクチンを製造しない時期に他品目を製造できるよう設計しております。本製造所は2023年後半より商業製造を開始できる予定となっております。これに加えて、隣接する事業用地を購入済みであり、ここにさらに原薬あるいは製剤製造所を建設する予定となっております。
必要な設備投資については、中長期的な予測の元、事業環境を注視しながら積極的に進めてまいります。
「エビデンス構築を含む製品戦略の立案」
ライソゾーム病治療に取り組んでいる世界中の臨床現場に有用な情報を提供することは、ライソゾーム病領域において治療薬を開発する製薬企業の重要な責務であり、また、当社の事業価値向上につながることから、エビデンス構築を含む製品戦略の立案を重要課題として進めてまいります。
例えば、J-Brain Cargo®を利用したライソゾーム病治療薬では、未だ満たされていない医療ニーズである中枢神経症状の改善による予後改善が期待されます。しかしながら、短期間の治験では長期的なモニタリングが必要な予後に関するデータを取得することは困難です。このようなデータは臨床現場にとっても極めて重要であるため、2021年5月に世界に先駆け日本で販売を開始したイズカーゴ®において、積極的かつ戦略的な情報収集活動を行い、実臨床での使用経験や長期的な有効性・安全性のデータを、日本から世界に提供できるように取り組んでまいります。
ライソゾーム病には中枢神経症状のみが主症状であるために、診断が困難な疾患が存在いたします。また、中枢神経症状は通常不可逆的であり、一度発症すると回復することが困難となります。このような疾患においても当社のライソゾーム病治療薬は有効である可能性があることから、早期発見、早期治療の活動も当社にとって重要な責務と認識しております。
「業務および組織構造改革」
当社はグローバルで存在感のある研究開発型企業を目指し、創業50周年を迎える2025年には、あらゆる面で大きな変化を遂げていなければなりません。一方で、当社の価値の源泉は当社の企業文化に共感する「チームJCR」一人ひとりであると確信しており、これは本格的なグローバル時代においても変わることなく「モノづくり」「研究」における新たな価値創造の源泉であり続けます。
2021年度末において当社グループの社員数は810名に達し、前中期経営計画初年度である2015年度に比して約300名増加いたしました。さらに、研究開発の順調な進捗やグローバル展開に伴い、より一層人員規模や業務が拡大することとなります。
一方、当社では、「チームJCR」の企業文化の維持発展には、本格的なグローバル化において多様性に富む人材確保に取り組みつつ、顔の見える範囲に規模を抑えることが重要と考えております。グローバル化の加速や急激な業容拡大期にあっても、一定規模の人員で業務を行えるよう付加価値の高い業務への注力、業務プロセスの電子化の推進による効率化、必要な組織構造改革を進めてまいります。さらに、グローバルで活躍できる人財や当社を引率できる次世代育成など、「チームJCR」一人ひとりのさらなる成長のための人財育成を進めてまいります。
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