当社では、近視、ドライアイ、老眼に関する研究開発に注力しており、当事業年度における研究開発費は
各領域に関する研究開発活動は以下のとおりであります。
近視領域では、当社が特に注力しているバイオレットライトによる近視進行抑制の研究を進めております。近視は日本での失明原因の第4位となっている重大な疾患でありますが、いまだその進行を抑制する方法は確立しておらず、社会的な急務となっております。
近視の発症や進行の根本的な機序がいまだ不明である中で、当社の画期的な研究成果として、バイオレットライトによる近視進行抑制効果が挙げられます。当社の一連の研究で、ヒヨコ近視モデル及び学童近視、成人強度近視におけるバイオレットライトの近視進行抑制効果が明らかとなり、その分子メカニズムとして転写因子EGR1(*1)の関与が示唆され、またマウス近視モデルの確立にも成功しております。さらに、フードファクターである(*2)クロセチンに近視進行抑制効果があることも発見いたしました。
当社の共同研究開発先として慶應義塾大学医学部のリサーチパークプロジェクト公募に「近視予防法の確立とその治療標的となる分子機序の同定」が採用され、さらに研究が加速しております。特にバイオレットライトによる近視進行抑制の根本的な機序解明を、進化的、生物学的な必然性から検証してきております。
また、当社ではバイオレットライトが近視だけでなく、うつ病や認知症等を制御することを新たに発見いたしました(特願2019-565489)。現在までにバイオレットライトの照射によって脳波を含めた脳機能を制御し、うつ病の治療に効果を持つ可能性が示されております。バイオレットライトによって活性化する光受容体であるOPN5が眼の機能だけでなく、脳波誘導や脳機能にも重要だと考えられます。副作用がなく簡便に利用可能なバイオレットライトを用いた機器TLG-005は、薬に代わる新しいうつ病治療法として期待されております。また、うつ病だけでなく認知機能の改善も研究成果が得られていることから、バイオレットライトという光環境を適切にコントロールすることで新しい脳機能制御及び疾患治療法の開発を目指し、様々な大学や企業との共同研究を活発に進めております。
さらに、当社では円錐角膜に対するバイオレットライトによる新しい治療法「ケラバイオ」(*3)の研究を進めております。円錐角膜は、ハードコンタクトレンズで視力矯正を行いますが、重症化した場合は角膜移植に至ることがあります。角膜クロスリンキング(*4)の登場により、病期の進行を遅延できるようになりましたが、この手法は手術時に角膜上皮を剥離するために疼痛を伴い、まれに角膜感染症を生じることがあります。当社はこうした合併症を回避し、低侵襲で治療可能なバイオレットライト眼鏡型治療機器TLG-003を開発いたしました。これまでにTLG-003装用とリボフラビン点眼を組み合わせた探索的臨床研究を実施し、良好な有効性と安全性を確認いたしました。
ヒト角膜内に含まれている内因性リボフラビンに着目してリボフラビン点眼を一切使用せず、TLG-003単独で治療する臨床研究も進めております。ケラバイオは、手術ではないため在宅での治療が可能で患者様の負担が少ない治療法であります。特に角膜クロスリンキングを行うにはハードルが高い発症早期の小児円錐角膜をターゲットとした展開を考えております。TLG-003を医療機器として上市するために、治験やステークホルダーの整備を現在進めております。
ドライアイ領域の研究では、ドライアイにさせたマウスを用いて、薬剤やフードファクターのスクリーニングができる体制を築いてきました。マウスにストレスを与えて風を当てると涙が減ることに着目し、豊かな環境で育てたマウスは涙が減らないことを世界に先駆けて発見し、点眼薬の開発にとどまらず、ライフスタイルに介入したドライアイ薬剤サプリメントの開発を行っております。また、なぜ涙が出なくなるのかという根本的課題に対しては、高次脳機能に最先端のニューロサイエンス(神経科学)的手法や生体イメージング技術を用いて挑み、涙が出るサプリメントの開発を進めております。
当社は、涙によいフードファクターとして、既にローヤルゼリーやマキベリー、乳酸菌WB2000、ケルセチン(*5)を発見しており、一部は既に商品化に成功しております。
また、環境湿度を高めると眼が乾燥しなくなるという基本原則に則り、眼の環境湿度や温度をコントロールする機器の開発を行っており、既に第一世代の「JINS PROTECT MOIST」は共同研究開発先である株式会社ジンズホールディングスから発売されております。
老眼領域では、老眼の原因である加齢とともに水晶体が硬くなるという根本的な課題に対し、研究を進めております。当社は水晶体の硬さを測定する装置を開発し、乳酸菌やレスベラトロール(*6)が水晶体の硬化予防に効果があることを発見し、現在サプリメントへの開発を進めております。
また、慶應義塾大学医学部生化学教室と共同で、水晶体の代謝の網羅的解析研究の結果、加齢により水晶体が硬くなるばかりでなく、肝臓や心臓、脳、そして筋肉等全身が硬くなることを発見いたしました。既存薬再開発(*7)から見つけた薬剤は水晶体の硬化を抑えることに加えて、体全体の硬化も抑えることから、抗加齢薬としての期待がもたれます。
さらに、当社では水晶体の硬さを超音波とOCT(*8)のデータを用いて無侵襲に解析する装置を開発しており、この機器の開発によって水晶体硬化の本研究は飛躍的に進むものと期待されております。
<用語解説>
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