当社は、代表の坪田一男の基本理念である“ごきげん”をキーワードに近視(*1)、ドライアイ(*2)、老眼(*3)の新たな治療法の開発を目指す慶應義塾大学発ベンチャーであり、2012年5月に慶應義塾大学医学部眼科学教室の研究成果を社会に届けるために、また、イノベーションを起こすために株式会社ドライアイKT(現 当社)を設立いたしました。
近視、ドライアイ、老眼は、超高齢社会における健康長寿とQuality of Visionの観点から眼科医療領域において大きな課題と認識されておりますが、いまだ原因療法が確立していないいわゆるアンメット・メディカル・ニーズ領域(*4)であります。世界では、近視は約26億人(出典1)、ドライアイは約7.5億人(出典2)、老眼は約18億人(出典3)の患者数が推定されており、これらの3領域の患者に対して革新的なイノベーションによる研究開発成果を届けるため、提携大学と連携し先進的な研究を行っております。その研究成果を評価するパートナー企業とともに共同開発を行い、新しい価値を提供する製品を上市しております。なお、当社の事業セグメントは、研究開発事業のみの単一セグメントであります。
出典1 Holden BA, et al. Ophthalmology. 2016;123(5):1036-42.
出典2 各国の対象年齢人口に罹患率を乗じることにより当社試算。各国の対象年齢人口は、世界銀行グループ統計データを基に当社推計。罹患率は、Tan LL, et al. Clinical and Experimental Optometry. 2015;98(1):45-53.
出典3 Fricke TR, et al. Ophthalmology. 2018;125(10):1492-9.
主な提携研究機関 :学校法人慶應義塾、学校法人順天堂
主なパートナー企業:株式会社ジンズホールディングス、ロート製薬株式会社、大日本住友製薬株式会社(現 住友ファーマ株式会社)、わかもと製薬株式会社、マルホ株式会社
当社のビジネスモデルは、パートナー企業との共同研究開発契約及び実施許諾契約による契約一時金、マイルストーン・ペイメントならびに事業化後(上市後)のロイヤリティ契約によるロイヤリティで収益化し、その収益を新しい研究に投資することで、新たな価値創造につなげております。
大学は研究のレベルが高く、特許を取得し、研究内容に関する論文の執筆までは行いますが、それを商業化できないために、社会までその研究開発成果を届けることが困難となっております。大学単独ではイノベーションが起きないことを踏まえ、当社では慶應義塾大学発ベンチャーとして、大学の研究成果・知的財産“サイエンス”を商業化“コマーシャリゼーション”してイノベーションを巻き起こすべく、日々研究開発・事業展開に取り組んでおります。
当社の事業領域は基礎的な研究開発から一部治験及び上市後のロイヤリティ収入までとしております。その研究開発成果に基づく製品は、患者様にご利用いただくことになりますが、当社は患者様との接点を有さず、患者様である最終ユーザーにチャネルを持つ大手企業が当社の直接的な顧客となるB to Bのビジネスモデルとなっております。
また研究開発では、外部委託研究員が多くの研究を進めていることも特徴の一つとなっております。各外部委託研究員は様々な領域で、専門性の高い研究をされている方たちとなりますので、当社の幅広いパイプラインに対しても、確りとしたエビデンスに基づく研究成果を上げ、新たなパイプラインへと繋げることができます。
また、医薬品、医療機器の開発・販売には時間を要するため、医薬品、医療機器と、それ以外のコモディティの開発・販売を平行で進めるデュアル戦略を採っております。また、コンサルティング業務などで安定的な収入も得ております。現在までに数十社の企業と早期的に契約を締結し、研究開発型の企業でありながら黒字化体質となっております。
当社のアイディア、知財をパートナー企業に提供し、その対価として、共同研究開発契約又は実施許諾契約の契約一時金、ならびに開発のステージに伴うマイルストーン・ペイメントを順次受け取ります。そして事業化後(上市後)はロイヤリティ収入を得るビジネスモデルであります。当社における収益構造の概要は以下のとおりです。
(当社における収益構造)
(事業系統図)
また、成長戦略の基本として両利き経営の概念を取り入れ、深化に70%、探索に30%の配分を指標としております。サイエンス(研究)においては、研究予算全体の70%を深化(研究の深堀、知財の導出等)に、30%を探索(基礎研究による発見、新規知財等)に配分し、バランスの取れた研究を目指しております。
近視は、失明の主要因であり、有病率の増加は大きな社会問題となっております。近視が激増している現在、世界保健機関(WHO)が発表した「THE IMPACT OF MYOPIA AND HIGH MYOPIA」によると、世界には2020年時点において約26億人の患者が存在しており、2050年には約48億人にもなると試算されています。また、近視は単にメガネをかければよいものではなく、失明につながる重大な疾患であり、予防方法の確立が急がれています。その市場規模は数兆円ともいわれ、巨大なアンメット・メディカル・ニーズが存在する研究領域であります。
当時、当社代表取締役社長坪田一男が教授を務めていた慶應義塾大学医学部眼科教室では2017年に、バイオレットライト(波長360~400nmの可視光)(*5)の光が近視の予防に効果がある事を発見いたしました。
バイオレットライトは、下の図のように、OPN5(*6)という非視覚系光受容体(*7)を刺激し、脈絡膜(*8)を介した眼の血流を維持、増大することが判明いたしました。これら一連の発見の知財化を進めてきております。「現代社会で欠乏しているバイオレットライトを効率的に子供たちに供給することにより近視の進行を抑える」ということが当社の基盤技術となっております。
ヒトは9種類の光受容体を持っておりますが、このうち4つが視覚系光受容体(*9)であり、5つが非視覚系光受容体であります。非視覚系光受容体は海で生まれたため、ほとんどの受容体がブルーに最大吸収波長帯があり活性化されますが、OPN5はバイオレットライトに最大吸収波長帯がありこの光によって活性化されます。
ここ最近、非視覚系光受容体の重要な機能がわかってきており、大きな研究領域となっております。OPN5においては体温調整、眼の血管の発達、サーカディアンリズム(*10)、毛根細胞の刺激など、さまざまな効果が次々に発見されており、現在特許申請中であります。
太陽光の中にはバイオレットライトが豊富に含まれておりますが、屋内にはほとんどこの波長帯の光が存在しないことを当社での測定により確認いたしました(Torii H, et al. Violet Light Exposure Can Be a Preventive Strategy Against Myopia Progression. EBioMedicine. 2017;15:210-9.)。光源である白色LEDはほとんどが青色LEDをベースにしたものであり、バイオレットライトを含んでおりません。蛍光灯も同様にバイオレットライトを発しません。さらに最近の窓ガラスは有害な紫外線(*11)を除去するために紫外線カットと称して、眼に見える光であるバイオレットライトまでブロックしてしまっております。さらに、紫外線カットされていない旧来のガラスの場合でも、バイオレットライトは窓周辺にしか存在していません。そこで、パートナー企業とともに屋内にいてもバイオレットライトを取り込むための共同研究開発を展開しております。
TLG-001は、バイオレットライトを1日に3時間310μW/cm2の強度(東京における水平方向で東西南北方位の年間平均バイオレットライト放射照度)で供給することにより、子供の近視の予防を行うメガネフレーム型近視予防デバイスであります。
2019年より、目標症例数40例(20例被験機群、20例対照機群)で6ヵ月間の探索治験を行い、バイオレットライトの安全性が確認されました。本結果を踏まえ、医療機器製造販売承認に向け、2023年3月期より最終的な検証治験(*12)を行う予定であります。
当社は株式会社ジンズホールディングスと日本国内における実施許諾契約を締結しており、近視予防を請求できる医療機器製造販売承認を株式会社ジンズホールディングスが取得し販売開始する計画があります。ビジネスモデルとしては開発契約金に加えて、マイルストーン・ペイメント、ロイヤリティ収入を受け取る契約となっております。
TLM-003は1日1回~2回の点眼によって近視の進行を予防する、新しいタイプの近視進行予防点眼薬であります。バイオレットライトにより眼の血流を増大させ近視予防をするのに対して、本点眼薬は強膜の菲薄化を抑制することにより(下図参照)、強膜の伸展を抑え、近視となることを抑制します。すでにマウスの動物実験において、近視進行抑制効果を証明しており(特許第6637217号、特許第6856275号)、ロート製薬株式会社と長期の開発契約を締結し、治験を行い近視予防点眼薬として上市することを計画しております。
(c) TLM-007 (Tsubota Lab Medicine-007)
TLM-007は血流増大の効果がある緑内障の点眼薬を適用拡大し、近視の進行を予防する点眼薬としての開発です。現在まだ基礎研究段階ではありますが、今後もう一つの近視抑制点眼薬のパイプラインとして、引き続き研究を進めて参ります。
ドライアイは現代社会において急激に激増している病気であり、文字どおり眼が乾くことにより起きますが、外部環境として眼からの蒸発、内部環境として涙液の分泌低下、この2つによって引き起こされます。
現代の視覚情報化社会において眼は酷使され、乾燥による蒸発増大や、現代社会のストレスによる涙液分泌の低下によりドライアイを引き起こします。症状としては眼が乾く、眼が疲れる、眼が重いなどの不定愁訴(*13)が多く、日本だけで2,000万人(ドライアイ研究会ホームページより)の潜在患者がいると考えられております。ドライアイ研究会によると、「ドライアイは、様々な要因により涙液層(*14)の安定性が低下する疾患であり、眼不快感や視機能異常を生じ、眼表面の障害を伴うことがある。」と定義されています。
また近年世界のドライアイ研究者を集め、当社代表取締役社長坪田一男らが2019年にドライアイ研究会の「ドライアイ診療ガイドライン」の定義付けをしました。
このようにドライアイは涙液層の不安定さを伴う不定愁訴であり、現代社会においては急増しており、特に新型コロナウイルス感染症の影響による在宅勤務の増大により、ドライアイ症状を持つ患者が急増していると考えられております。涙液層の不安定化の原因は主に3つの要因から成り立っており、涙液そのものの減少、ムチン層(*14)の減少、異常及び油層(*14)の異常による蒸発量の亢進とされております。現在この3つのメカニズムについて全世界で治療法の開発が行われており、当社では眼の周りの環境を整えるためのメガネや、涙液の量を増やすためのサプリメントの開発などを行っております。
(出典:ドライアイ研究会)
ドライアイは上図にありますように3層からなる涙液層が不安定になり、慢性疼痛を引き起こす疾患です。3層は油層、涙液層(水層)、ムチン層から構成されておりどの層が障害を受けても涙液層は不安定となります。最近増えているタイプのドライアイはこのうち油層に影響するものが多いとされています。油層を構成する油成分はまぶたの縁にあるマイボーム腺という脂腺から分泌されます。加齢や炎症によってこの脂腺の機能が落ちますが、我々はビタミンD関連物質がこの機能を回復させることを動物実験および臨床研究によって証明しました。現在ビタミンD関連物質を主体とした眼軟膏を開発しており、すでにマルホ株式会社と全世界の導出に関する契約を結んでおります。開発が進むにつれてマイルストーン収入を得ますとともに、上市されればロイヤリティ収入を受け取る契約となっております。
老眼は加齢によって水晶体が硬くなるために生じる調節力障害であり、40歳以降の多くの人が罹患します。顕著な症状として、近くのものが見にくくなります。従来は多焦点メガネや眼内レンズ等で対応しておりますが、根本的に老眼を予防治療する医薬品はまだ開発されておりません。しかし、2015年時点では世界の老眼人口は約18億人(出典1)の患者がいると考えられ、市場規模はアジア太平洋地域で1,936億円(出典2)、北米地域では1,826億円(出典3)と考えられています。
(出典1) Fricke TR, et al. Ophthalmology. 2018;125(10):1492-9.
(出典2) Research Nester Private Limited. “Asia-Pacific Presbyopia Treatment Market Segmentation By Age Group (Less Than 40, 40-60-Year-Old, Above 60) and By Treatment Type (Corrective Eyeglasses, Contact Lenses, Refractive Surgery, Lens Implants, And Pharmacological Treatment) - Demand Analysis & Opportunity Outlook 2028.” (2020年12月10日).
(出典3) Report Ocean 社 PR Timesプレスリリース. https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000725.000067400.html (2021年2月2日).
老眼は、老眼研究会より以下のように医学的老視と臨床的老視の2つの定義がされています。
(老眼の定義)
老眼は、加齢による水晶体の硬化することにあり、これにより調節力が低下し、40~50歳になるとその調節力が十分でないために、30cmほど先方の近見の視力が低下することを言います。現在、患者数は40歳または50歳以上の全人類に相当するといわれ、超高齢化社会の到来とともに老眼問題はさらに拡大するのが予測されます。従来、老眼鏡、多焦点のコンタクトレンズや眼内レンズなどが使用されてきましたが、近年になり、より簡便で治療可能な点眼やサプリメントなどの需要が高まってきている領域であります。
水晶体は前面の水晶体上皮、ほぼ全域をカバーする水晶体皮質及び中心部の水晶体の核によって構成されています。若いときはこの水晶体に弾力があり、ピントを合わせるために弾力をもって動きますが、加齢によりこれが硬くなりピントの度数合わせができなくなります。水晶体のたんぱく質はクリスタリン(*15)と呼ばれるたんぱく質で透明性を保ち、なおかつ弾力性を持ちます。加齢によりクリスタリンのたんぱくの架橋が増進し、柔軟性が失われることで、ピントの度数調整が困難となり老眼になると考えられております。
水晶体の老化は、まさにエイジングそのものであるため、代謝からの新しい切り口により、医薬品等の開発を進めて参ります。
眼が脳の神経組織の一部であることを考えると、バイオレットライトが眼の血流を上げるだけでなく脳の血流も上げることを予期し研究を重ねた結果、実際にこの現象を発見いたしました。バイオレットライトには、近視の予防効果があることに加えて、うつ病や認知症等、脳に対しても効果があることが徐々に解明されており(特願2019-565489)、成人に対する製品群の開発を行っております。また、疾患ではないものの、睡眠改善や集中力増大にも効果が期待できます。
うつ病や軽度認知障害(MCI)等の疾患については複数の特定臨床研究を行っております。なお、うつ病に関しては、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)より公的研究費の支援を受けることができました。
TLG-003は、バイオレットライトが角膜の中に存在するリボフラビン(*16)と反応することにより、角膜を硬くし円錐角膜(*17)の進行を予防するデバイスであります。本製品を使用した新たな治療法を「ケラバイオ」と定義しています。
円錐角膜は、思春期に発症する進行性に角膜が菲薄化・突出・不整化する疾患であります。有病率は2,000人に1人とされております。円錐角膜はハードコンタクトレンズで視力矯正を行いますが、重症化した場合は角膜移植に至ることがあります。角膜クロスリンキング(*18)の登場によって、病期の進行を遅延可能となりましたが、角膜クロスリンキングは手術時に角膜上皮を剥離するために疼痛を伴い、まれに角膜感染症を生じることがあります。
ケラバイオは、手術ではないため在宅での治療が可能となり、上記のような合併症を回避することができます。なお、リボフラビン点眼薬との併用による臨床研究はすでに完了し、安全性と有効性を共に確認しております。本研究中にヒトの角膜の中には内因性のリボフラビンが存在することを発見し、点眼を行わなくてもTLG-003本体のみで円錐角膜を予防できることを発見しました。現在リボフラビン点眼を使用せずに、円錐角膜の予防を行えることを証明するため、特定臨床研究を遂行中であります。
以下の表は、当社の開発製品並びにその適応症、市場、開発段階及び本書提出日現在の進捗状況を示しております。
なお、製品の開発に際しては様々なリスクを伴います。当社製品の開発リスクの概要については、「第2[事業の状況] 2[事業等のリスク]」の通りであります。
(注記:日=日本、米=米国、欧=欧州、亜=アジア、中=中国、台=台湾、星=シンガポール、韓=韓国、香=香港、英=英国、仏=フランス、独=ドイツ、伊=イタリア、印=インド、伯=ブラジル、以=イスラエル、PCT=特許協力条約に基づく国際出願)
(医薬品・医療機器)
(医薬品・医療機器以外)
本書提出日現在における、当社の特許権は近視領域21件、ドライアイ領域13件、老眼6件及びその他11件の合計51件(うち、登録済24件)であります。なお、当該特許権については、出願人が当社である案件だけではなく、出願人が学校法人慶應義塾であり、発明者が当社代表取締役社長坪田一男である特許権も含めております。また、同じ特許権でも国際出願又は分割出願等、同じ出願に属するものは1件としてカウントしております。そして、他社のみが出願人となっているものは含めておりませんが、一方で他社と当社で共同出願している特許権は含めております。以下は当社の主要な特許権の一覧表であります。
(注記:日=日本、米=米国、欧=欧州、中=中国、台=台湾、星=シンガポール、韓=韓国、香=香港、英=英国、仏=フランス、独=ドイツ、伊=イタリア、比=フィリピン、泰=タイ、越=ベトナム、印=インド、尼=インドネシア、馬=マレーシア、伯=ブラジル、以=イスラエル、PCT=特許協力条約に基づく国際出願)
<用語解説>
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