研究開発活動

5【研究開発活動】

(1)研究の目的及び主要課題

 当グループ(当社及び連結子会社)は、デジタルとグリーンを軸とした社会イノベーション事業に対して重点的に研究開発資源を配分して、DX及びグリーントランスフォーメーション(GX)による価値創成を強化し、事業の継続と将来の成長及びお客さまと社会の課題解決に努めるとともに、人々のQoLを高めることをめざしています。

 事業活動のグローバル競争力強化に加え、将来の成長に向けた中長期的な取り組みとして、顧客課題・社会課題解決に向けた協創活動、世界No.1技術及び破壊的技術の創生に投資するとともに、成長エンジンであるLumada事業拡大やグローバル展開を推進するために、デジタル技術基盤の拡大と、海外の研究リソースの強化を図っています。関連するGlobalLogic、日立エナジーや日立Astemo㈱等の各研究開発部門とともに社会イノベーション事業のさらなる進化を加速します。

 

(2)研究開発体制

 当グループの研究開発においては、当社及びグループ各社の研究開発部門が相互に緊密な連携をとりながら、研究開発効率の向上に努めています。さらに、国内外の大学やその他の研究機関との連携に加え、2019年4月にコーポレートベンチャリング室を新設し、2021年10月には第2号ファンドを設立するなど、スタートアップ企業との連携強化にも積極的に取り組んでいます。

 当社は、社会イノベーション事業によるグローバルな成長の加速に向けて、北米、欧州、中国、アジア及びインドの研究開発拠点・人員の拡充及び現地主導型研究の拡大により、現地のニーズに迅速に対応できる研究開発の推進を図っています。また、2015年には、国内外の研究開発拠点を再編し、お客さまとともに課題を見出し、新たなソリューションを協創する「社会イノベーション協創センタ」、注力分野の技術基盤を応用・融合することにより革新的な製品やサービスを創出し、新たなソリューション開発を支援する「テクノロジーイノベーションセンタ」、オープンイノベーションを活用し、独創的なビジョンに基づく探索型基礎研究で新領域を開拓する「基礎研究センタ」とする体制としています。2019年には、お客さまやパートナーとのオープンな協創を加速するための研究開発拠点として「協創の森」を開設し、2020年4月には、データサイエンティストのトップクラスの人材を集結させてデジタルソリューションによるさらなる価値向上を図るため、「Lumada Data Science Lab.」を協創の森内に開設しました。

 

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協創の森(中央研究所)

 

(3)研究開発費

 当連結会計年度における当グループの研究開発費は、売上収益の3.1%にあたる3,173億円であり、セグメントごとの研究開発費は、次のとおりです。

 

 

セグメントの名称

研究開発費

(億円)

 IT

515

 エネルギー

383

 インダストリー

106

 モビリティ

306

 ライフ

505

 オートモティブシステム

758

 日立建機

254

 日立金属

124

 その他

18

 全社(本社他)

200

  合  計

3,173

 

 

 

 研究開発費の推移

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(注)( )内の数値は、研究開発費の売上収益合計に占める割合です。

 

 

(4)研究成果

 当連結会計年度における研究開発活動の主要な成果は、次のとおりです。

①企業内の「ダークデータ」に着目した「データ抽出ソリューション」を提供開始(ITセグメント)

 「ダークデータ」と呼ばれる、日々の企業活動で生成・蓄積されるものの有効活用できていない膨大なデータに光をあて、新たな価値を見出す「データ抽出ソリューション」を開発し、提供を開始しました。本ソリューションは、日立が参画する米国スタンフォード大学の企業参画プログラムで開発されたAIを中核としたダークデータ分析エンジンを活用し、請求書や診療明細書といった発行元によって様式や表記が異なる非定型ドキュメントの利活用において、取得したいデータの抽出作業を自動化・高度化するものです。日々蓄積する膨大なダークデータの中から、価値あるデータを導き出し、データ利活用による経営判断の迅速化やビジネスの変革に貢献します。

 

②「協創の森」で、日立の脱炭素関連技術を活用したエネルギーマネジメントシステム実証環境の運用を開始(エネルギーセグメント)

 研究開発拠点「協創の森」に、日立の発電・蓄電・設備保守などの技術を結集させたエネルギーマネジメントシステムの実証環境を構築し、運用を開始しました。本エネルギーマネジメントシステムの効果を国分寺サイトで2020年度に検証した結果、2018年度との比較で、CO2排出量を20%削減しながら、エネルギーコストを30%削減できることを確認しました。今後、日立は本環境を活用し、日立とお客さまのゼロエミッション化を推進するとともに、環境分野での顧客協創を推進し、新たなエネルギーソリューションの創出をめざします。

 

③製造業・社会インフラ分野のDX推進に向け5G SAとARを活用した組み立て作業支援を実証(ITセグメント、インダストリーセグメント)

 製造業や社会インフラ分野でのDX推進に向けたユースケース創出のため、SA(注1)方式の5G環境下で、AR(注2)技術を活用した組み立て作業支援のアプリケーションが安定稼働できるかを確認する実証実験を実施しました。本アプリケーションは、作業現場の映像データをAIでリアルタイムに分析・判断し、作業台上にプロジェクターから作業者がとるべき行動をプロジェクションマッピングで表示することで、的確な作業支援を行うものです。今回、NTTドコモが提供する5Gサービスを用いて実証を行った結果、4G LTEでは満たせなかったアプリケーションの安定稼働のための許容条件をクリアできることを確認しました(㈱NTTドコモとの共同実証)。

(注)1.SA:5G専用の基地局と5G専用のコアネットワークを用いる方式。

2.AR:プロジェクターなどの端末を通して実環境にデジタル情報を重ね合わせる技術。

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④標準型エレベーター「アーバンエース HF」が「グッドデザイン賞」「iF DESIGN AWARD」及び「十大新製品賞」を受賞(モビリティセグメント)

 標準型エレベーターの新モデル「アーバンエース HF」が、(公財)日本デザイン振興会が主催する「2021年度グッドデザイン賞」、iF International Forum Design GmbHが主催する「iF DESIGN AWARD 2022」及び㈱日刊工業新聞社が主催する第64回(2021年)「十大新製品賞 日本力(にっぽんぶらんど)賞」を受賞しました。「アーバンエース HF」は、「かご内クリーン運転」や「密集回避運転」、「非接触登録装置」などの最新の感染症リスク軽減ソリューション、ビルオーナー・管理者向けダッシュボード「BUILLINK」をはじめとするLumadaのソリューションの適用などによって、ニューノーマル時代のスタンダードとなる安全・安心・快適を提供し、新たなエレベーター利用体験を実現します(㈱日立ビルシステムとの共同受賞)。

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「アーバンエース HF」

 

⑤体内で放射線がん治療を行う「アルファ線内用療法」に必要な材料、アクチニウム225の高効率・高品質な製造技術を世界で初めて確立(ライフセグメント)

 放射線がん治療法の一つであるアルファ線内用療法に必要な、アクチニウム225を、高効率・高品質に製造可能な技術を世界で初めて確立しました。アルファ線内用療法は、がん細胞を破壊するアルファ線を放出する物質と、がん細胞に選択的に集積する薬剤を組み合わせた治療薬を患者に投与し、体内からがん細胞を攻撃する新しい治療法です。体内に広く分散したがん細胞など、既存の方法では治療困難ながんにも効果があることが知られ、早期実用化が期待されています(国立大学法人東北大学及び国立大学法人京都大学との共同開発)。

 

⑥インホイール式EVの実現に向けて小型・軽量のダイレクト駆動システム「Direct Electrified Wheel」を開発(オートモティブシステムセグメント)

 脱炭素社会の実現に向けて普及が進むEV向けに、ホイール内部にモーターとインバーター、ブレーキを一体で搭載可能な小型・軽量のダイレクト駆動システム「Direct Electrified Wheel」を開発しました。開発したモーターは、EVの走行に必要となる高い駆動力をホイールに直接伝えるとともに、モーターを軽量化することで、従来のインホイール式で課題だったホイール内の重量増加を大幅に抑制しました。また、小型化したモーターにインバーターとブレーキを一体化することで、サスペンションなどの既存構造を大きく変更せずにホイール内部への搭載を可能としました。本技術の実用化に向けた研究を進め、車内空間やバッテリー設置スペースの拡大が容易なインホイール式のEVの実現に貢献していきます(日立Astemo㈱との共同開発)。

 

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ダイレクト駆動システム「Direct Electrified Wheel」(赤色部分をホイール内部に搭載)

「Direct Electrified Wheel」をホイール内部に

搭載したEV(モックアップ)

 

⑦サイバー攻撃を受けた際に、機密性を保ちながら対策情報を他組織と迅速に共有可能な技術を開発(ITセグメント、全社(本社他))

 サイバー攻撃を受けた際に、機密性を保ちながら、対策情報を他組織の専門家と迅速に共有可能な技術を開発しました。本技術では、攻撃を受けた組織は対策状況を記載したインシデントチケットを作成し、協調防衛に参加する組織ごとの機密管理の信頼度や、チケットを送付することで自組織が得られる利益の期待値に基づき、チケットの記載内容を加工します。攻撃への対処実績がある相手組織にチケットを共有して有用なフィードバックを得ることで、自組織の攻撃対処を円滑に進めることを可能とし、安心・安全なデジタル社会の実現に貢献していきます(慶應義塾大学及び中部電力㈱と共同開発)。

 

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