事業等のリスク

2【事業等のリスク】

(1)リスクマネジメントについて

 当社では、日々変化する経営環境を把握・分析し、社会的課題や当社の競争優位性、経営資源などを踏まえ、当社として備えるべき様々な「リスク」とさらなる成長「機会」の両面からリスクマネジメントを実施し、リスクをコントロールしながら収益機会の創生に努めています。

 かかる多様なリスクに関して、各担当部署がリスクと機会の適切な把握・対応に努め、経営幹部への報告・経営戦略への反映を行っています。

 特に、2022年4月から、当社経営における全社的リスクに係る重要事項の議論・決定の場として執行役社長を議長、CRMO(Chief Risk Management Officer)を副議長とする「リスクマネジメント会議」を新設しました。リスクを一元的・横断的に把握することで、成長戦略と連携した盤石な経営基盤の実現をめざしていきます。

 

(2)リスク要因

 当グループは、幅広い事業分野にわたり、世界各地において事業活動を行っています。また、事業を遂行するために高度で専門的な技術を利用しています。そのため、当グループの事業活動は、多岐にわたる要因の影響を受けています。その要因及び各リスク要因に対する対応策の主なものは、次のとおりです。

 なお、これらは当有価証券報告書提出日現在において合理的であると判断している一定の前提に基づいています。また、これらの対応策は各リスク要因の影響を完全に排除するものではなく、また、影響を軽減する有効な手段とはならない可能性があります。

 

①経済環境に係るリスク

経済の動向

 当グループの事業活動は、世界経済及び特定の国・地域の経済情勢や地政学的情勢の影響を受けます。各国・地域や日本の景気が減速・後退する場合は、個人消費や設備投資の低下等をもたらします。また、ウクライナ情勢に代表される国家間紛争、緊張の高まりにより、特定の地域での経済活動の制約や停止を余儀なくされることも考えられます。その結果、当グループが提供する製品・システム又はサービスの一部制限や需要の減少などにより、当グループの事業、財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 かかるリスクへの対応として、当グループは、様々な事業分野・地域において、多様な特性を持つ社会イノベーション事業を組み合わせる経営をしています。また、リスク評価等を通じて地政学的情勢の変化への迅速な対応を図っています。

 

為替相場の変動

 当グループは、取引先及び取引地域が世界各地にわたっているため、為替相場の変動リスクにさらされています。当グループは、現地通貨建てで製品・サービスの販売・提供及び原材料・部品の購入を行っていることから、為替相場の変動は、円建てでの売上の低下やコストの上昇を招き、円建てで報告される当グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。当グループが、売上の低下を埋め合わせるために現地通貨建ての価格を上げた場合やコストの上昇分を吸収するために円建ての価格を上げた場合、当グループの価格競争力が低下し、それに伴い、経営成績は悪影響を受ける可能性があります。また、当グループは、現地通貨で表示された資産及び負債を保有していることから、為替相場の変動は、円建てで報告される当グループの財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 2022年3月31日時点における2023年3月31日に終了する連結会計年度の為替感応度(見通しの為替レートから1円変動した場合の業績影響額)の見積りは、以下のとおりです。

 

通貨

見通し

為替感応度(億円)

売上収益

Adjusted EBITA

ドル

120円/ドル

195

15

ユーロ

130円/ユーロ

70

5

 

 かかるリスクへの対応として、当グループでは、先物為替予約契約や通貨スワップ契約等の為替変動リスクのヘッジや製品・サービスの地産地消戦略の推進等を実行しています。

 

資金調達環境

 当グループの主な資金の源泉は、営業活動によるキャッシュ・フロー、銀行等の金融機関からの借入並びにコマーシャル・ペーパー及びその他の債券、株式の発行等による資本市場からの資金調達です。当グループは、事業活動のための費用、負債の元本及び利子並びに株式に対する配当を支払うために、流動資金を必要とします。また、当グループは、設備投資及び研究開発等のために長期的な資金調達を必要としています。当グループは、営業活動によるキャッシュ・フロー、銀行等の金融機関からの借入及び資本市場からの資金調達により、当グループの事業活動やその他の流動資金の需要を充足できると考えていますが、世界経済が悪化した場合、当グループの営業活動によるキャッシュ・フロー、業績及び財政状態に悪影響を及ぼし、これに伴い当社の債券格付けにも悪影響を及ぼす可能性があります。債券格付けが引き下げられた場合、当社が有利と考える条件による追加的な資金調達の実行力に悪影響を及ぼす可能性があります。

 当社は、資金調達を銀行等の金融機関からの借入に依存することにより金利上昇のリスクにさらされています。また、外部の資金源への依存を高めなければならなくなる可能性があります。負債への依存を高めることにより、当社の債券格付けは悪影響を受けることがあり、当社が有利と考える条件による追加的な資金調達の実行力にも影響を及ぼす可能性があります。かかる資金調達ができない場合、当グループの資金調達コストが上昇し、当グループの財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。当グループでは、金利上昇のリスクを軽減するための施策として、主に金利スワップ契約を締結しています。

 また、当グループの主要な取引金融機関が倒産した場合又は当該取引金融機関が当グループに対して融資条件の変更や融資の停止を決定した場合、当グループの資金調達に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

株価等の価格の下落

 当グループは、他社との事業上の関係等を維持又は促進するため、株式等の有価証券を保有しています。かかる有価証券は、価値の下落リスクにさらされています。株式の市場価格等の価値の下落に伴い、当社及び連結子会社は、保有する株式等の評価損を計上しなければならない可能性があります。さらに、当社及び連結子会社は、契約その他の義務により、株価の下落等にかかわらず、株式等を保有し続けなくてはならない可能性があり、このことにより多額の損失を被る可能性もあります。

 当事業年度末において、当社が保有している投資株式の銘柄数及び貸借対照表計上額は、以下のとおりです。

 

 

銘柄数

(銘柄)

貸借対照表計上額の合計額

(百万円)

非上場株式

152

23,341

非上場株式以外の株式

46

251,129

 

 かかるリスクへの対応として、当社は、取引や事業上必要である場合を除き、投資株式を取得・保有しないことを基本方針とし、既に保有している株式についても、保有意義や合理性が認められない限り、売却を進めています(保有目的が純投資以外の目的である投資株式の保有方針及び保有の合理性の検証について、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (5) 株式の保有状況」参照)。

 

②サプライチェーンに係るリスク

原材料・部品の調達

 当グループの生産活動は、サプライヤーが時宜に適った方法により、合理的な価格で適切な品質及び量の原材料、部品及びサービスを当グループに供給する能力に依存しています。需要過剰の場合、サプライヤーは当グループの全ての要求を満たすための十分な供給能力を有しない可能性があります。原材料、部品及びサービスの不足は、急激な価格の高騰を引き起こす可能性があります。また、米ドルやユーロをはじめとする現地通貨建てで購入を行っている原材料及び部品については、為替相場の変動の影響を受けます。石油、銅、鉄鋼、合成樹脂、レアメタル、レアアース等の市況価格の上昇は当グループの製造コストの上昇要因であり、当グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。一方、原材料及び部品等の商品価格が下落した場合には、棚卸資産の評価損等の損失が発生する可能性があります。さらに、自然災害等により、サプライヤーの事業活動やサプライチェーンが被害を受けた場合、当グループの生産活動に悪影響を及ぼす可能性があります。また、サプライヤーにおいて児童労働や強制労働などの労働者の権利侵害事象等を含む法令違反等が発生した場合、発注元としての当グループの評判の低下や、当該サプライヤーからの安定した原材料・部品の調達に支障が生じ、当グループの事業、財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 かかるリスクへの対応として、当グループは、複数のサプライヤーとの緊密な関係構築や製品・サービスの地産地消戦略の推進による各地域における需要変動への適切な対応、国内及び主要海外拠点における事業継続計画(BCP)の策定による事業中断リスクへの対応力強化、グループ全体としての調達機能の活用・強化等を実行している他、サプライヤーにおける法令違反等の発生を防ぐため、質問票を用いた自己点検や監査、理解促進の取組みを実施しています。

 

取引先の信用リスク

 当グループは、国内外の様々な顧客及びサプライヤーと取引を行っており、売掛金、前渡金などの信用供与を行っています。取引相手の財政状態の悪化や経営破綻等が生じた場合、当グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローに悪影響を及ぼす可能性があります。

 かかるリスクへの対応として、当グループでは、定期的な信用調査や信用リスクに応じた取引限度額の設定など、信用リスクの管理のための施策を実施しています。

 

③地政学に係るリスク

海外における事業活動

 当グループは、事業戦略の一環として海外市場における事業の拡大を図っており、これを通じて、売上の増加、コストの削減及び収益性の向上等の実現をめざしています。これらの多くの市場において、当グループは、潜在的な顧客と現地企業との間の長期にわたる関係等の障壁に直面することがあります。さらに、当グループの海外事業は、事業を行う海外の各国において、以下を含む様々な要因による悪影響を受ける可能性があります。

・投資、輸出、関税、公正な競争、贈賄禁止、消費者及び企業に関する税制、知的財産、外国貿易及び外国為替に関する規制、人権や雇用・労働に関する規制

・契約条項等の商慣習の相違

・労使関係、労働慣行の変化

・対日感情、地域住民感情の悪化、各種団体等による批判やキャンペーン

・ウクライナ紛争の長期化

・国家間紛争の拡大と頻発

・その他の政治的及び社会的要因、経済の動向並びに為替相場の変動

 これらの要因により、当グループが、海外における成長戦略の目的を達成できる保証はなく、当グループの事業の成長見通し及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 かかるリスクへの対応として、当グループは、グローバルな政治・経済情勢などを定常的に把握して事業に及ぼす影響を分析し、海外リスク資産の移転を行うなど、グループ全体での対応を実行しています。

 

④環境に係るリスク

気候変動対策に関する規制強化等(脱炭素社会への移行リスク)

 当グループは、炭素税、燃料・エネルギー消費への課税、排出権取引などの導入に伴う事業コストの負担増、製品・サービスの技術開発の遅れによる販売機会の逸失、化石燃料を使用する一部の事業が使用しない事業へ転換することの遅れ、投資家や社会に当グループの気候変動問題への取り組み姿勢が評価されない場合に、当グループの事業活動、経営成績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 かかるリスクへの対応として、環境長期目標「日立環境イノベーション2050」を掲げ、カーボンニュートラルを実現するための様々な取り組みを進めており、今後も目標達成に向けた取り組みをさらに加速していきます。事業所においては2030年度カーボンニュートラルをめざしており、日立インターナルカーボンプライシング導入等による省エネ機器・再生可能エネルギーによる発電の導入の推進、生産・輸送のさらなる効率化、非化石エネルギー由来の電力利用の促進などにより、炭素税等の事業コスト負担増加などの回避・軽減や評価リスクの低減を図っています。事業においてはCO2排出量削減につながる革新的製品・サービスの開発・拡販、エネルギー削減につながる省エネルギー製品の開発、現在化石燃料を使用する製品の電気エネルギーへの転換などをめざしています。

 

⑤テクノロジーに係るリスク

情報システムへの依存

 当グループの事業活動において、情報システムの利用とその重要性は増大しています。コンピュータウイルスその他の要因によってかかる情報システムの機能に支障が生じた場合、当グループの事業活動、経営成績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。また、リモートワークの拡大は、情報漏洩などの新たなセキュリティリスクを生じさせる恐れがあります。

 かかるリスクへの対応として、当グループは、継続的にサイバーセキュリティ対策等を推進しており、また、リモートワークに適用される技術・製品・利用手順などを厳格に定めて運用していますが、従来にないサイバー攻撃を受けた場合や当社管理外のシステムに脆弱性があった場合には有効な手段とはならない可能性があります。

 

人材確保

 当グループの競争力を維持するためには、事業遂行に必要な優秀な人材を採用し、確保し続ける必要があります。特に、当グループは、現在、グローバルに活躍できる人材や顧客に近いところでニーズをくみ取り、最適なソリューション・サービスを提供することができるフロント人材、デジタルトランスフォーメーションを牽引するデジタル人材等を求めています。しかしながら、優秀な人材は限られており、かかる人材の採用及び確保の競争は激化しています。当グループがこのような優秀な人材を新たに採用し、又は雇用し続けることができる保証はありません。

 かかるリスクへの対応として、当グループは、国内外で必要な人材をタイムリーに確保するため、海外におけるデジタル人材の直接採用を拡大するとともに、多様な人材が働きやすい職場づくりの推進、グローバル共通の人事制度による優秀なグローバル人材の確保、グループ・グローバル共通のラーニングマネジメントシステムの活用や社内教育プログラムの実践による優秀な人材の確保・育成等を図っています。

 

急速な技術革新

 当グループの事業分野においては、新しい技術が急速に発展しています。先端技術の開発に加えて、先端技術を継続的に、迅速かつ優れた費用効率で製品・システム・サービスに適用し、これらの製品等のマーケティングを効果的に行うことは、競争力を維持するために不可欠です。例えば、現在、デジタル化・ロボット等による自動化、電動化、脱炭素や資源循環等の環境への技術革新への対応等が重要となっています。このような変化の潮流を捉え、お客様に価値を提供し続けるために、自社内の研究開発及びコーポレートベンチャーファンドを通じたスタートアップへの投資に対して多くの経営資源を投入しております。これらの先端技術の開発が予定どおり進展しなかった場合、当グループの事業、財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 かかるリスクへの対応として、当グループは、産官学によるオープンイノベーションやデジタル人材の確保・育成、Lumadaによる協創プロセスを通じた顧客ニーズの把握のほか、これらを通じたイノベーションエコシステムの形成を図っています。

 

⑥パンデミック・自然災害に係るリスク

COVID‐19

 COVID-19の流行は、移動の制限・生産活動の制約、個人消費や設備投資等の減少、サプライチェーンの混乱による原材料価格の高騰や半導体不足、供給制約によるインフレなどの世界経済の悪化を招いており、当グループの事業の財政状態及び経営成績を悪化させています。COVID-19との共存を前提とした新たなフェーズに移行しつつありますが、今後の状況によっては、更なる悪影響を及ぼす可能性があります。

 かかるリスクへの対応として、当グループは、Lumadaを活用したサービス型のデジタル事業の強化等による安定的な収益の拡大、安全確保を前提とした生産活動の継続、デジタル環境の強化によるリモートワーク等を活用した多様な働き方の拡充、キャッシュ・マネジメントの強化やサプライチェーンの強靭化、事業構造改革によるコスト低減等を図っています。

 

大規模災害及び気候変動による物理的影響等

 当グループは、日本国内において、研究開発拠点、製造拠点及び当社の本社部門を含む多くの主要施設を有しています。過去において、日本は、地震、津波、台風等多くの自然災害に見舞われており、今後も、大規模な自然災害により当グループの生産から販売に至る一連の事業活動が大きな影響を受ける可能性があります。また、海外においても、アジア、米国及び欧州等に拠点を有しており、各地の自然災害によって、当グループの事業拠点のほか、サプライチェーンや顧客の事業活動にも被害が生じる可能性があります。さらに、気候変動に起因して、渇水や海面上昇、長期的な熱波や洪水等の大規模な自然災害が、今後より一層深刻化する可能性があります。かかる大規模な自然災害により当グループの施設が直接損傷を受けたり破壊された場合、当グループの事業活動が中断したり、新たな生産や在庫品の出荷が遅延する可能性があるほか、多額の修理費、交換費用その他の費用が生じる可能性があり、これらの要因により多額の損失が発生する可能性があります。大規模な自然災害により当グループの施設が直接の影響を受けない場合であっても、流通網又は供給網が混乱する可能性があります。また、感染症の流行や、テロ、犯罪、騒乱及び紛争等の各国・地域の不安定な政治的及び社会的状況により、当グループの事業活動が混乱する可能性があり、当グループの従業員が就労不能となったり、当グループの製品に対する消費者需要の低下や販売網及び供給網に混乱が生じる可能性があります。さらに、全ての潜在的損失に対して保険が付保されているわけではなく、保険の対象となる損失であってもその全てが対象とはならない可能性があり、また、保険金の支払いについて異議が申し立てられたり遅延が生じる可能性があります。自然災害その他の事象により当グループの事業遂行に直接的又は間接的な混乱が生じた場合、当グループの事業活動、経営成績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 かかるリスクへの対応として、当グループは、BCPの策定による事業中断リスクへの対応力強化等を図っており、また、工場新設時における洪水被害を想定した建設・工場内設備の配置等を行っています。

 

⑦その他会社経営全般に影響を及ぼすリスク

長期請負契約等に係る見積り、コストの変動及び契約の解除

 当グループは、インフラシステムの建設に係る請負契約をはじめ多数の長期契約を締結しており、かかる長期請負契約等に基づく収益を認識するために、当該契約の成果が信頼性をもって見積ることができる場合、工事契約の進捗に応じて収益及び費用を認識しています。収益については、主に、見積原価総額に対する実際発生原価の割合で測定される進捗度に基づいて認識しています。また、当該契約の成果が信頼性をもって見積ることができない場合には、発生した工事契約原価のうち、回収される可能性が高い範囲でのみ収益を認識し、工事契約原価は発生した期間に費用として認識しています。長期請負契約等に基づく収益認識において、見積原価総額、見積収益総額、契約に係るリスクやその他の要因について重要な仮定を行う必要がありますが、かかる見積りは変動する可能性があります。当グループは、これらの見積りを継続的に見直し、必要と考える場合には調整を行っています。当グループは、価格が確定している契約の予測損失は、その損失が見積られた時点で費用計上していますが、かかる見積りは変動する可能性があります。また、コストの変動は、当グループのコントロールの及ばない様々な理由によって発生する可能性があります。さらに、当グループ又はその取引相手が契約を解除する可能性もあります。このような場合、当グループは、当該契約に関する当初の見積りを見直す必要が生じ、かかる見直しは、当グループの事業、財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 かかるリスクへの対応として、当グループは、契約締結前からリスクの把握・管理を行い、契約締結後も継続的に事業部門と財務部門間で管理・共有し、適時に正確な見積りができるよう努めています。

 

競争の激化

 当グループの事業分野においては、大規模な国際的企業からスタートアップを含む専業企業に至るまで、多様な競合相手が存在しています。先端的な製品・システムやサービス等においても汎用品化や低コストの地域における製造・開発・サービス提供やクラウド化・自動化が進んでおり、価格競争を激化させています。かかる状況下で競争力を維持するためには、当グループは、その製品等が価格競争力を有するものでなければならないと考えています。かかる製品等の汎用品化は、当グループの価格決定力に影響を及ぼします。当グループが競合相手の価格と対等な価格を設定できない場合、当グループの競争力及び収益性が低下する可能性があります。一方で、競合相手の価格と対等な価格を設定することにより、その製品等の販売が損失をもたらす可能性があります。また、当グループの製品等は、技術、品質及びブランド価値の面においても競争力を有するものでなければなりません。当グループは、かかる製品等を適時に市場に投入する必要がありますが、当グループが提供する製品等が競争力を有する保証はなく、かかる製品等が競争力を有していない場合、当グループの事業、財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 かかるリスクへの対応として、当グループは、研究開発によるイノベーションの強化やLumada事業の拡大、顧客との協創、製品等の高付加価値化を図っています。

 

需要と供給のバランス

 当グループが他社と競合する市場における急激な需要の減少と供給過剰は、販売価格の下落、ひいては売上の減少及び収益性の低下を招く可能性があります。加えて、当グループは、需要と供給のバランスを取るため、過剰在庫や陳腐化した設備の処分又は生産調整を強いられる場合があり、これにより損失が発生する可能性があります。例えば、情報機器、昇降機や半導体、自動車機器等の市場における需要と供給のバランスが崩れ、市況が低迷した場合、当グループの関連事業の財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 かかるリスクへの対応として、当グループは、製品等の競争力の強化に加え、需要予測に基づく製品等の供給・在庫の管理等を図っています。

 

コスト構造改革への取組み

 当グループは、事業全体のバリューチェーンにおける各活動について、グループ横断でコスト構造を抜本的に改革する「Hitachi Smart Transformation Project」を実施しています。当グループは、かかる施策により、経営基盤強化による収益性の安定化とキャッシュ・フローの増強をめざしていますが、かかる施策は、当グループが現在期待している効果を得られない可能性があります。また、かかる取組みによって、当グループが収益性の維持又は向上を実現できる保証はありません。

 

社会イノベーション事業強化に係る戦略

 当グループは、事業戦略として、主に社会イノベーション事業の強化によって、成長性が高く、安定的な収益を得られる事業構造を確立することをめざしています。当グループは、社会イノベーション事業を強化するため、設備投資や研究開発等の経営資源を重点的に配分することを計画しているほか、企業買収・新規プロジェクトへの投資も行っています。また、市場の変化に応じて社会イノベーション事業を効果的に展開するため、適切な事業体制の構築を図っています。かかる戦略を実行するため、当グループは、多額の資金を支出しており、今後も継続する予定です。かかる戦略のための当グループの取組みは、成功しない、又は当グループが現在期待している効果を得られない可能性があります。また、かかる取組みによって、当グループが収益性の維持又は向上を実現できる保証はありません。

 かかるリスクへの対応として、当グループは、各ビジネスユニット(BU)においてフェーズゲート管理を行っています。加えて、市場動向、他社動向、技術動向及び潜在リスクなど様々な視点からの分析・議論についても、投融資戦略委員会、経営会議、取締役会及び監査委員会において実施しています。

 

企業買収、合弁事業及び戦略的提携

 当グループは、各事業分野において、重要な新技術や新製品の設計・開発、製品・システムやサービスの補完・拡充、事業規模拡大による市場競争力の強化及び新たな地域や事業への進出のための拠点や顧客基盤の獲得等のため、他企業の買収、事業の合弁や外部パートナーとの戦略的提携に一定程度依存しています(当グループの経営成績及び財政状態に重大な悪影響を及ぼす可能性がある案件について、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 注5.事業再編等」参照)。このような施策は、事業遂行、技術、製品及び人事上の統合又は投資の回収が容易でないことから、本質的にリスクを伴っています。統合は、時間と費用がかかる複雑な問題を含んでおり、適切な計画の下で実行されない場合、当グループの事業に悪影響を及ぼす可能性もあります。また、事業提携は、当グループがコントロールできない提携先の決定や能力又は市場の動向によって影響を受ける可能性があります。これらの施策に関連して、統合に関する費用や買収事業の再構築に関する費用など、買収、運営その他に係る多額の費用が当グループに発生する可能性があります。これらの費用のため、大規模な資金調達を行う場合、財政状態の悪化や資金調達能力の低下が発生する可能性があります。また、投資先事業の収益性が低下し、投資額の回収が見込めない場合、のれんの減損など、多額の損失が発生する可能性があります。当連結会計年度末時点で、ITセグメントにおいて1,137,719百万円、エネルギーセグメントにおいて513,616百万円、インダストリーセグメントにおいて168,475百万円ののれんを計上しています(セグメント別ののれんの金額について、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 注4.セグメント情報」参照)。これらの施策が当グループの事業及び財政状態に有益なものとなる保証はなく、これらの施策が有益であるとしても、当グループが買収した事業の統合に成功し、又は当該施策の当初の目的の全部又は一部を実現できない可能性があります。

 かかるリスクへの対応として、当グループは、各ビジネスユニット(BU)におけるフェーズゲート管理に加え、市場動向、業界動向、戦略、買収価格、PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)プロセス及び潜在リスクなど様々な視点からの分析・議論を、投融資戦略委員会、経営会議、取締役会及び監査委員会において実施しています。

 

事業再構築

 当グループは、以下の事業ポートフォリオ再構築の取組み等により、成長性が高く、安定的な収益の得られる事業構造の確立を図っています。

 ・不採算事業からの撤退

 ・当社の子会社及び関連会社の売却

 ・製造拠点及び販売網の再編

 ・資産の売却

 当グループによる事業再構築の取組みは、各国政府の規制、雇用問題又は当グループが売却を検討している事業に対するM&A市場における需要不足等により、時宜に適った方法によって実行されないか、又は全く実行されない可能性があります。また、当社は、上場子会社を有しており、上場子会社の株主の利害と当グループの利害が衝突する可能性もあります。かかる利害衝突によって、上場子会社が当事者となる合併、会社分割その他のこれに類する取引を含むグループ全体の方針を適時に実行することが困難になる可能性があります。事業再構築の取組みは、顧客又は従業員からの評価の低下等、予期せぬ結果をもたらす可能性もあり、また、過去に事業再構築に関連して有形固定資産や無形資産の減損、在庫の評価減、有形固定資産の処分及び有価証券の売却に関連する損失などが生じましたが、このような多額の費用が将来も発生する可能性があります。現在及び将来における事業再構築の取組みは、成功しない、又は当グループが現在期待している効果を得られず、当グループの事業、財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 かかるリスクへの対応として、当グループは、市場動向、業界動向、戦略、売却価格、プロセス及び潜在リスクなど様々な視点からの分析・議論を、投融資戦略委員会、経営会議、取締役会及び監査委員会において実施しています。

 

持分法適用会社の業績の悪化

 当社及び連結子会社は、多数の持分法適用会社を有しています。持分法適用会社の損失は、当社及び連結子会社の持分比率に応じて、連結財務諸表に計上されます。また、当社及び連結子会社は、持分法適用会社の回収可能価額が取得原価又は帳簿価額を下回る場合、当該持分法適用会社の株式について減損損失を計上しなければならない可能性もあります。

 当連結会計年度末において、持分法で会計処理されている投資は、以下のとおりです。

 

 

(単位:百万円)

 

セグメント

2022年3月31日

IT

50,397

エネルギー

49,854

インダストリー

23,789

モビリティ

31,055

ライフ

124,750

オートモティブシステム

10,271

日立建機

26,661

日立金属

11,611

その他

3,778

小計

332,166

全社及び消去

79,035

合計

411,201

 

 かかるリスクへの対応として、当グループは、投下資本利益率(ROIC)を用いた投資収益管理を推進し、収益性・成長性の高い分野へ投資を集中させるとともに、投資した持分法適用会社については投資実行後も事業計画の達成状況や財務状況を把握し、低収益事業や将来の競争力に懸念のある投資先については売却を行うなどの施策を行っています。

 

訴訟その他の法的手続

 当グループは、事業を遂行する上で、訴訟や規制当局による調査及び処分等に関するリスクを有しています。訴訟その他の法的手続により、当グループに対して巨額又は算定困難な金銭支払いの請求又は命令がなされ、また、事業の遂行に対する制限が加えられる可能性があり、これらの内容や規模は長期間にわたって予測し得ない可能性があります。過去、当グループは、一部の製品において、競争法違反の可能性に関する日本、欧州及び北米等の規制当局による調査の対象となり、また、顧客等から損害賠償等の請求を受けています(当グループの経営成績及び財政状態に重大な悪影響を及ぼす可能性がある案件について、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 注30.コミットメント及び偶発事象」参照)。これらの調査や紛争の結果、複数の法域において多額の課徴金や損害賠償金等の支払いが課される可能性があります。かかる重大な法的責任又は規制当局による処分は、当グループの事業、経営成績、財政状態、キャッシュ・フロー、評判及び信用に悪影響を及ぼす可能性があります。

 さらに、当グループの事業活動は、当グループが事業を行う国々で様々な政府による規制の対象となります。かかる政府による規制は、投資、輸出、関税、公正な競争、贈賄禁止、消費者及び企業に関する税制、知的財産、外国貿易及び外国為替に関する規制、人権や雇用・労働に関する規制、環境及びリサイクルに関する規制を含みます。これらの規制は、当グループの事業活動を制限し又はコストを増加させ、また、新たな規制又は規制の変更は、当グループの事業活動をさらに制限し又はコストを増加させる可能性もあります。さらに、規制違反に係る罰金又は課徴金など、規制の執行が、当グループの経営成績、財政状態、キャッシュ・フロー、評判及び信用に悪影響を及ぼす可能性があります。また、個人データ保護規制等への対応についても、事業に悪影響を及ぼす可能性があります。

 かかるリスクへの対応として、当グループは、規制の適用を受ける業務の特定、リスク評価、リスクに応じた措置の実行及び従業員に対する教育等を実施しています。

 

製品の品質と責任

 当グループの製品・サービスには、高度で複雑な技術を利用したものが増えています。また、部品等を外部のサプライヤーから調達することにより、品質確保へのコントロールが低下します。当グループの製品・サービスに欠陥等が生じた場合、当グループの製品・サービスの質に対する信頼が悪影響を受け、当該欠陥等から生じた損害について当グループが責任を負う可能性があるとともに、当グループの製品の販売能力に悪影響を及ぼす可能性があり、当グループの経営成績、財政状態及び将来の業績見通しに悪影響を及ぼす可能性があります。

 かかるリスクへの対応として、当グループは、品質保証体制の強化に加え、事故未然防止活動、技術法令の遵守活動、リスクアセスメントの徹底、品質・信頼性や製品事故発生時の対応に関する教育等を行っています。

 

機密情報の管理

 当グループは、顧客から入手した個人情報並びに当グループ及び顧客の技術、研究開発、製造、販売及び営業活動等に関する機密情報を様々な形態で保持及び管理しています。かかる情報が権限なく開示された場合、当グループが損害賠償を請求され又は訴訟を提起される可能性があり、また、当グループの事業、財政状態、経営成績、評判及び信用に悪影響を及ぼす可能性があります。

 かかるリスクへの対応として、当グループは、機密情報管理に関する規則・運用を定め、暗号化や認証基盤の構築によるID管理とアクセス制御等を行うとともに、サプライヤーに対しても情報セキュリティ状況の確認・審査等を行っています。

 

知的財産

 当グループの事業は、製品、製品のデザイン、製造過程及び製品・ソフトウェアを組み合わせてサービスの提供を行うシステム等に関する特許権、意匠権、商標権及びその他の知的財産権を日本及び各国において取得できるか否かに依存する側面があります。当グループがかかる知的財産権を保有しているとしても、競争上優位に立てるという保証はありません。様々な当事者が当グループの特許権、意匠権、商標権及びその他の知的財産権について異議を申し立て、無効とし、又はその使用を避ける可能性があります。また、将来取得する特許権に関する特許請求の範囲が当グループの技術を保護するために十分に広範なものである保証はありません。当グループが事業を行っている国において、特許権、意匠権、著作権及び企業秘密に対する有効な保護手段が整備されていないか、又は不十分である可能性があり、当グループの企業秘密が従業員、契約先等によって開示又は不正流用される可能性があります。

 かかるリスクへの対応として、当グループは、出願前に公知例調査を行うことで、権利の成立可能性の向上及び事業に即した権利の取得を図っています。また、知的財産の保護手段が整備されていない、または、不十分な国においては、従業員や契約先との契約等により、不正利用の抑制を図っています。

 当グループの多くの製品には、第三者からライセンスを受けたソフトウェア又はその他の知的財産が含まれています。当グループは、競合他社の保護された技術を使用することができない、又は不利な条件の下でのみ使用しうることとなる可能性があります。かかる知的財産に関するライセンスを取得したとしても経済的理由等からこれを維持できる保証はなく、また、かかる知的財産が当グループの期待する商業上の優位性をもたらす保証もありません。

 かかるリスクへの対応として、当グループは、当該第三者と契約・交渉により良好な関係を維持し、知的財産の実施権の確保を図っています。

 当グループは、特許権、意匠権及びその他の知的財産に関して、提訴され、又は権利侵害を主張する旨の通知を受け取ることがあります。これらの請求に正当性があるか否かにかかわらず、応訴するためには多額の費用等が必要となる可能性があり、また、経営陣が当グループの事業運営に専念できない可能性や当グループの評判を損ねる可能性があります。さらに、権利侵害の主張が成功し、侵害の対象となった技術のライセンスを当グループが取得することができない場合、又は他の権利侵害を行っていない代替技術を使用することができない場合、当グループの事業は悪影響を受ける可能性があります。

 かかるリスクへの対応として、当グループは、新たな製品の販売やサービスの提供開始前に、当該製品やサービスについて他社特許クリアランスを実施するとともに、必要な場合には製品やサービスの設計変更を行うこと等で、他社との係争の回避を図っています。

 

退職給付に係る負債

 当グループは、数理計算によって算出される多額の退職給付費用を負担しています。この評価には、死亡率、脱退率、退職率、給与の変更及び割引率等の退職給付費用を見積る上で利用される様々な数理計算上の仮定が含まれています。当グループは、人員の状況、市況及び将来の金利の動向等の多くの要素を考慮に入れて、数理計算上の仮定を見積る必要があります。数理計算上の仮定の見積りは、基礎となる要素に基づき、合理的なものであると考えていますが、実際の結果と合致する保証はありません。数理計算上の仮定が実際の結果と異なった場合、その結果として実際の退職給付費用が見積費用から乖離して、当グループの財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。割引率の低下は、数理上の退職給付に係る負債の増加をもたらす可能性があります。また、当グループは、割引率等の数理計算上の仮定を変更する可能性があります。数理計算上の仮定の変更も、当グループの財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 かかるリスクへの対応として、2019年4月1日から当社の従業員を対象として、従来の確定拠出型企業年金制度からリスク分担型企業年金制度に移行し、当社の掛金負担を固定化することにより、資産運用リスク等を低減しています。

 

株式の追加発行に伴う希薄化

 当社は、将来、株式の払込金額が時価を大幅に下回らない限り、株主総会決議によらずに、発行可能株式総数のうち未発行の範囲において、株式を追加的に発行する可能性があります。将来における株式の発行は、その時点の時価を下回る価格で行われ、かつ、株式の希薄化を生じさせる可能性があります。

 

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