2 【事業等のリスク】
(1) リスクマネジメントの体制
当社グループでは、下図のとおりスリーラインモデルによるリスクマネジメント体制を構築しております。工場や関係会社を含む事業部門(第1ライン)では、リスク統制自己評価制度(Control Self-Assessment = CSA)を導入し、各部門が自らのリスクの抽出、評価、コントロールを実施しており、スタッフ部門(第2ライン)は第1ラインのリスクコントロールをサポートしております。更に内部監査部門(第3ライン)は定期的な監査の実施により、第1ラインのCSAのサイクルや第2ラインのサポートが有効に機能しているかを検証します。この内部監査によるCSAの状況が随時、常務会・取締役会及び主要な当社経営層に報告されております。
また、リスクマネジメントを統括する内部統制推進部がCSAによるリスク情報と第2ラインの管轄するリスク情報を集約して、経営層が審議すべき全社重要リスクを取りまとめ、リスクマネジメント委員会の審議を経て経営層に上程することにより、経営層が全社重要リスクの審議と決定に関与する仕組みになっております。
更にグループガバナンスを向上させるため、グループ会社内部統制委員会を年2回開催し、各社のCSAの状況報告を受けるとともに当社グループ全体の重要リスク情報を共有しております。
リスクマネジメントに関連する部署として、内部統制推進部は平時のリスクマネジメントに加えて有事の発生に対応するためのBCM委員会を管掌しており、リスクが発現した場合に備えるBCP(事業継続計画)を策定し、グループ全体への浸透を推進しております。またリスクマネジメントの重要な位置づけとしてコンプライアンスを司る総務・法務部をガバナンス本部内に集約しております。
なお、上記体制図及び組織図に示す「リスクマネジメント委員会」と「グループ会社内部統制委員会」は、管理部門全般を管掌する取締役兼専務執行役員がそれぞれの委員長として統括しております。
(注)BCM = Business Continuity Management(事業継続マネジメント)
BCP = Business Continuity Plan(事業継続計画)
(2) リスクマネジメント体制の運用
第1ラインのCSAはすべての部門において各年度末にリスクやそのコントロールの見直しが行われ、その結果を踏まえた翌年度のリスクマネジメント確認表が作成されます。なお、リスクの抽出にあたっては、網羅性を確保する観点から120項目にわたるリスク事例表を参考にしており、各部門で抽出された重要なリスクは「影響度」と「発生可能性」の二軸で評価されております。
第1ラインのCSAによる各部門の重要リスク情報は、事業グループ単位のリスクディスカッションを経て内部統制推進部に集約され、内部統制推進部は第1ラインのリスク情報と第2ラインのリスクコントロール状況を加味し、全社的に認識すべき重要リスクの一覧表を作成します。
この重要リスク一覧表は、常務会構成員によるグループディスカッション及び会長、社長の指示を経てリスクマネジメント委員会の議題として提出されます。スタッフ部門長によって構成されるリスクマネジメント委員会は年2回開催されており、重要リスク一覧表をベースに事業リスクの評価とコントロール方法が審議されます。その結果は常務会、取締役会に報告され、経営層はそれらのリスクマネジメントについて議論する仕組みとなっております。
(3) 重要な事業リスク
上記の経営層による議論の結果、当社グループは、本有価証券報告書に記載している事業のうち、投資者の判断に重大な影響を及ぼす可能性のあるリスク事象は下記のとおりと考えております。重要なリスク事象を抽出にあたっては、発生可能性よりも影響度の大きさを優先しておりますが、必ずしも重大な影響を及ぼすと判断できないものにつきましても積極的な情報開示の観点から記載しております。これらのリスクの内容とシナリオ及び対応策については、適宜取りまとめて下記(4)「重要な事業リスクの内容と対応策」に記述しております。
(4) 重要な事業リスクの内容と対応策
上記のリスク事象に関するリスクシナリオと対応策は以下のとおりです。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
①環境規制・気候変動に関するリスク(リスク事象一覧表 項番1関連) 影響度:大 発生可能性:高
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リスクの内容とシナリオ
各種環境法令違反、環境規制への不適合が生じた場合や、気候変動に対応するための製品開発や取組みについて企業としての明確な方向性を示せない場合には、地域社会や製品市場のみならず資本市場の大きな信用失墜を招き、受注機会の喪失、資本調達の制限、株価の低迷等により当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
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リスク対応策
当社グループではサステナビリティ経営会議で経営層が方向性を議論し、サステナビリティ推進部が主導して環境ドメイン製品への注力、環境負荷低減に向けたインターナルカーボンプライシングの運用、生産拠点での再エネ調達等を推進し、これらのリスクに対応しております。
またこれらの取り組みはTCFD提言に基づいた情報開示を推進しており、「1.経営方針、経営環境及び対処すべき課題(2)会社の対処すべき課題 ②中期経営計画2024 ⅱ基本方針2.サステナビリティ経営(ESG経営)の推進」においてその概略を記載しております。
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②資材調達に関するリスク(同 項番2関連) 影響度:大 発生可能性:高
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リスクの内容とシナリオ
当社グループの製品・システムは多種多様な部品・製品等を使用しており、それらは適切なタイミングで納品される必要がありますが、代替が困難なものもあり、部品不足や取引先の倒産等によりそれらの供給が停滞した場合、出荷や竣工の遅れ等が発生する可能性があります。また当社グループと各種契約を締結している下請企業(サプライヤー)が倒産した場合や不適切な労働慣行等があった場合、当社がそれらの企業との取引において下請法に抵触した場合には、当社グループの社会的信用力が低下し業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
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リスク対応策
当社グループではサプライチェーンの強化を図るため、調達部門において事業部横断的に取引先との更なるパートナーシップ強化を図るなど調達管理の徹底を推進するとともに、電子機器等供給サイクルの短い部品に関しては、将来の供給終了を想定した適正在庫の確保によって、これらのリスクへの対応を行っております。また、部品の仕様標準化を推進することにより可能な限り特定のサプライヤーに依存しない仕組みを整える一方、サプライヤーに対する当社による作業指導の推進によって複数の調達先を確保するなど、安定的な調達活動による部品の確保にも努めるのみならず、サステナブル調達ガイドブックを発行し、人権、環境、法令遵守、労働安全等の取組みを浸透させてまいります。
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③人財に関するリスク(同 項番3、10関連) 影響度:大 発生可能性:高
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リスクの内容とシナリオ
当社グループは、国内外で製品販売、プラント建設工事や保守サービスなど様々な事業を展開しており、それら事業での優位性を確保するためには、多種多様な人財の確保・育成が不可欠です。このような状況下で、定年退職の増加や採用活動の停滞等により必要人財の不足が発生した場合には、負荷の集中により長時間残業が発生し、心身の不調による労働効率の低下が発生するほか、技術・技能の伝承が滞り業界での優位性が低下することにより営業機会の喪失を招き、業績が悪化する可能性があります。
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リスク対応策
当社グループでは65歳定年制へ移行しその処遇制度を改定することによってモチベーションアップを図り、シニア層向け子会社設立によりライフスタイルに合わせた柔軟な勤務形態の選択を可能としております。
中間層に対しては年代毎のキャリア採用強化による労務構成の適正化を図り、若手層に対しては将来を見据えた安定的な新卒採用を継続し人財育成を強化するなど、各年代の現状を分析したうえで将来を見据えた人材の確保に努めております。
また、健康経営や働き方改革の施策の展開により、従業員の健康維持・増進を図り、RPA等を活用した業務改革による労働時間削減やテレワークの促進をはじめ、有給休暇取得推進や育児・介護支援等の各種制度化など、柔軟な働き方を推進しダイバーシティの実現を図り、更には職場における差別やハラスメントの防止など、人権にも十分に配慮した働きがいのある職場づくりを行うことで、健全な労働環境の確保に努めております。
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④業務上の災害・事故に関するリスク(同 項番4関連) 影響度:大 発生可能性:中
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リスクの内容とシナリオ
当社グループにおいて重篤な労働災害、火災事故や設備トラブルなどの不測の事態が発生し、従業員が被災した場合や生産活動が停止してお客様への納期が遅延した場合、若しくは地域住民の方々に被害を発生させた場合には、当社グループの社会的信用が低下し、生産性の低下に伴い業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
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リスク対応策
当社グループでは生産拠点における労働安全衛生マネジメントシステム(ISO45001)におけるリスクアセスメントの実施、労働災害の原因分析と再発防止の水平展開、バーチャルコンテンツの活用による安全教育の実施、職場パトロールの定期化などにより労働災害の発生防止に努めるほか、生産設備の計画的なメンテナンスと更新を実施することにより火災、爆発等の未然防止に努めております。
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⑤製品・サービスの品質に関するリスク(同 項番5関連) 影響度:大 発生可能性:高
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リスクの内容とシナリオ
当社グループの電力インフラグループ・社会システムグループにおける製品・サービスの仕様の未達や、産業電子モビリティグループにおけるモータ、電子部品等の汎用製品のリコールや製造物責任につながる品質問題が発生した場合には、製造原価の悪化や損害賠償の発生等により当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
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リスク対応策
当社グループではこのようなリスクに対応するため、契約前の段階で内在するリスクが特に高いと想定される事案に関して、関係部門の水平連携による事前のリスク抽出と対策検討を実施し、経営層がそれらを把握する制度を構築しており、契約後の製造・施工及びサービスの提供段階では、より一層の品質管理体制を整備し、高い品質水準の確保に努めております。また、製造物責任や製品リコールにつきましては必要な保険に加入し、品質問題が発生した場合の業績及び財政状態への影響を極力減らす対応をしております。
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⑥情報セキュリティに関するリスク(同 項番6、12関連) 影響度:大 発生可能性:中
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リスクの内容とシナリオ
外部からの不正アクセス、コンピューターウイルスの感染に加え、従業員の情報漏洩への危機意識不足、情報システムの不備及びその他不測の事態により社外に機密情報や個人情報が漏洩した場合、及び業務の停止が発生した場合は、営業機会の喪失、損害賠償の発生や社会的信用の失墜等により当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
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リスク対応策
当社グループではこれらのリスクに対応するため、監視、検知における境界対策、ウイルス対策、教育などの人的対策といった「多層防御」を念頭に置いて諸施策を実施しております。保有する個人情報や当社グループの技術・営業等の事業に関する機密情報等につきましては社内規程の整備と実施の徹底、各種セキュリティ管理システムを導入し、不審メール訓練やe-learningの実施など社内教育等を通じて防御意識の向上を図るとともに、新型コロナウイルスの影響により増加した社外へ持ち出すパソコンの暗号化の徹底、管理基準に基づく情報機器持ち出し台帳管理の徹底等の対策も実施しております。
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⑦パンデミック発生のリスク(同 項番7関連) 影響度:大 発生可能性:高
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リスクの内容とシナリオ
新型コロナウイルス等によるパンデミックの発生は、従業員の健康被害、通勤の制限、生産の遅延や停止、調達品の供給不足の要因となり、生産性の低下、受注機会の喪失等により当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
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リスク対応策
当社グループでは、新型コロナウイルス対策行動指針を策定し、従業員の安全衛生を第一とした感染防止を意識した行動を継続するとともに同指針に従い操業を継続する等により、事業活動への影響の低減を図っております。
また、海外拠点においても各国の政府方針に従った感染防止行動基準を策定し、在宅勤務や輪番出勤の導入、Webコミュニケーションツールの導入加速により、従業員の安全衛生と事業継続の両立を図っております。
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⑧自然災害発生のリスク(同 項番9関連) 影響度:大 発生可能性:中
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リスクの内容とシナリオ
自然災害の激甚化により各種事業活動に支障をきたすリスクは一般に広く認識されているところであり、特に当社グループの主要な製造拠点は関東から東海地方の南海トラフ地震の想定被災地域あるいは沿岸地域等に存在しているため、大規模な地震が発生し津波・液状化等による重大な損害を受け、生産設備の稼働が困難になった場合には、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
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リスク対応策
当社グループでは災害に対する事業継続についての方針・施策を審議・決定する機関として、BCM委員会を設置しており、経営レベルの戦略的な活動と位置づけ、BCPの策定や維持・更新、対策の実施や点検・改善、取組みを浸透させるための教育・訓練を推進しております。
また、当社グループの国内外各拠点で防災対策・防災訓練を実施するとともに、製造拠点での災害発生も想定したBCPの構築を推進しており、今後サプライチェーンも含めたBCP構築を目指してまいります。
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⑨コンプライアンスに関するリスク(同 項番11、13、15関連) 影響度:大 発生可能性:低
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リスクの内容とシナリオ
当社グループでは、国内外の法令、慣習その他すべての社会規範を遵守して事業活動を行っておりますが、それらに反する事象が発生した場合、法的制裁や社会的信用の失墜に伴う受注機会の減少により、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
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リスク対応策
当社グループでは、過去に発生させた独禁法違反等の再発防止をはじめ、今後決して法令違反を起こさないことを最重要の経営課題としており、総務・法務部を事務局とするコンプライアンス委員会の下、グループすべての従業員に対して「企業行動規準」の周知徹底を図っております。更に各職場へのコンプライアンスマネージャの配置、通報制度の設置など、違法行為や不適切行為の防止及び早期解決を図る枠組を整備しており、階層別・職種別などの各種コンプライアンス研修においては、独禁法、下請法、建設業法、個人情報保護法などの法令や、贈収賄の防止など、幅広くコンプライアンス・倫理に対する意識・知識の向上を図っております。
更に生産部門においては品質検査データの不正を防止するため品質不正防止ワーキンググループを設け、各部門の自主点検と品質管理部による監査の実施と啓発活動により、不正発生の芽を摘み取る活動を実施しております。
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⑩海外事業運営に関するリスク(同 項番16、17関連) 影響度:大 発生可能性:低
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リスクの内容とシナリオ
当社グループでは、中国、東南アジア、インド、米国、欧州等に生産拠点や営業拠点を有しておりますが、各国若しくは地域の金融不安、政情不安、大規模災害の発生といったいわゆるカントリーリスクによって、当社の事業活動や従業員の安全に影響が及ぶ可能性があります。また当社グループによる人種、民族、国籍などに基づく差別的な行為や、生産拠点における児童労働、強制労働などの人権に反する行為があった場合には、社会的な信用の失墜による受注機会の喪失によって当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
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リスク対応策
当社グループでは、海外地域別の統括会社と各事業グループが協調して構築している社内外のネットワークを通じて情報を管理し、カントリーリスクの発生に対しては人命最優先で対応することとしております。また本社コンプライアンス通報窓口に海外拠点からの通報を可能にしていることに加え、中国及び東南アジアの一部の現地法人では独自の通報窓口を設置することにより、不適切な行為の早期発見、早期是正に取り組んでおります。
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(5) 危機管理(クライシスマネジメント)の体制
当社グループでは災害が現実に発生した場合に備えるため、事業継続計画(BCP)基本方針書を制定しており、その基本的な方針を次のとおりとしております。
①災害時においては、全従業員・家族・お客様の安全確保を最優先して対応する。
②社会インフラを支える企業としての社会的責任に鑑み、災害からの早期復旧・復興に貢献する。
③お客様及び当社事業への影響を最小限に留める。
また、災害に対する事業継続についての方針・施策を審議・決定する機関として、常務会構成員による、社長を委員長とするBCM委員会を設置しております。BCM委員会は年2回開催されており、委員会に属する推進会議や連絡会の場を通じてBCPの策定や維持・更新、対策の実施や点検・改善、取組みを浸透させるための教育・訓練を推進しております。
災害が現実に発生した場合には、社長を本部長とする全社災害対策本部が設置され、災害発生時の初動フェーズから復旧フェーズに至るまでチームごとに分担を決めて対応する仕組みになっております。