以下の記載事項のうち将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものである。
(1)経営方針・経営戦略等
ア.当連結会計年度の経営環境
当社グループを取り巻く経営環境は、海外を中心にコロナ禍からの市場回復が進む一方で、ロシアによるウクライナ侵攻や、長引く半導体不足、素材・物流費の高騰等、不透明感の強い状況が継続している。
一方で、地球温暖化対策の国際的な取組みの進展や、エネルギー供給の不安定化に伴う世界的なセキュリティ意識の高まりにより、リアリティのあるエナジートランジションのニーズが高まっており、社会の課題に技術でソリューションを提供する当社グループの役割は、より一層大きくなっている。
イ.中期経営計画「2021事業計画」
事業環境の急激な変化にいち早く対応するため2020年10月から開始した中期経営計画「2021事業計画」では、「収益力の回復・強化」及び「成長領域の開拓」を重点テーマとし、2024年度以降の飛躍とTOP*1達成に向け、収益性、成長性、財務健全性及び株主還元の4つの指標を定めて各種施策に取り組んでいる。
「収益力の回復・強化」としては、固定費の削減や生産性の向上に加え、サービス比率の向上、業務プロセスの改善等、事業体質の変革に取り組み、2023年度末「事業利益率7%」、「ROE12%」を目指している。
また、「成長領域の開拓」としては、エネルギー供給側で脱炭素化を目指す「エナジートランジション」とエネルギー需要側で省エネ・省人化・脱炭素化を実現する「社会インフラのスマート化(モビリティ等の新領域)」を強力に推し進めている。これらの成長分野には「2021事業計画」期間中に1,800億円を投資し、将来的には1兆円規模の事業への成長を目指す。
初年度である当連結会計年度は、グループ一丸となって取り組んだ各種施策が奏功し、収益性は概ね想定どおり、財務健全性も想定以上の改善を達成することができた。
*1 Triple One Proportion(売上収益:総資産:時価総額=1:1:1の状態)
これは、事業成長と財務健全性のバランスを取った経営により長期安定的に企業価値を向上させることを目指す上で、その達成状況を総合的に評価するための当社グループ独自の指標である。
ウ.カーボンニュートラル宣言
当社グループは、製品・技術による貢献のみならず、事業プロセス全体における各種活動を通じて、地球環境問題をはじめとする様々な社会課題の解決に向けて取り組んでいる。また、前連結会計年度に設定した当社グループが取り組むべき重要課題(マテリアリティ)への取組みを通じて、サステナビリティ経営を事業面でも具現化すべく推進している。加えて、地球規模の課題であるカーボンニュートラル社会の実現に向け、脱炭素分野での実績を活かして貢献していくことは当社グループの最大のミッションであると考えている。2050年の政府目標達成のためには、これに先駆けて当社グループの目標達成が必要との認識に基づき、2021年10月に「2040年カーボンニュートラル宣言」を公表した。
この宣言では、当社グループの生産活動に伴う工場等からのCO2排出量(Scope1、Scope2*2)を2030年までに2014年比50%削減し、2040年までに実質ゼロにすることを第一の目標としている。さらに、当社グループ製品の使用による顧客のCO2排出量(Scope3*2)削減に、CCUS*3による削減貢献分を加味したバリューチェーン全体からのCO2排出量を2030年までに2019年比50%削減し、2040年までに実質ゼロにすることを第二の目標としている。
これらの目標達成に向けて、当社グループは「MISSION NET ZERO」というテーマの下、世界中のパートナー、国、自治体、研究機関等と積極的に連携して取り組んでいく。
*2 Scope1は当社のCO2直接排出を、Scope2は主に電気の使用に伴うCO2間接排出を、Scope3はScope1、Scope2以外の当社グループバリューチェーン全体でのCO2間接排出を示す。算定基準は温室効果ガス(GHG)排出量の算定と報告の国際基準であるGHGプロトコルに準じる。
*3 Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage(二酸化炭素回収・利用・貯蓄)
(2)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当社グループは、「MISSION NET ZERO」で掲げるカーボンニュートラルを達成し、サステナブルで安全・安心・快適な社会の実現に貢献していく。そのためには、「エネルギー供給側の脱炭素化」と、「エネルギー需要側の省エネ・省人化・脱炭素化」を両面で進めることが必要であり、「2021事業計画」においては、「収益力の回復・強化」によって2023年度の目標を着実に達成しつつ、これらの「成長領域の開拓」を推進するための各種取組みを引き続き展開していく。
ア.エネルギー供給側の脱炭素化(エナジートランジション)
「エナジートランジション」に関しては、カーボンニュートラルの必要性が世界へ浸透していくに伴って、より具体的な検討が加速する段階に入っている。これを受け、当社グループは、既存火力発電設備の脱炭素化のため、ガスタービンの水素焚きへの転換に向けた実証を「高砂水素パーク」で進める。これにより、2025年には中小型ガスタービンで、2030年には大型ガスタービンで、水素100%専焼の商用化を目指す。これと並行して、移行段階の対策として、既存火力発電設備の高効率化とアンモニア混焼による低炭素化にも取り組む。
脱炭素及びエネルギー安全保障の観点から再評価されている原子力発電については、国内での既設プラントの再稼働や燃料サイクル確立の支援に着実に取り組んでいく。加えて、安全性を向上させた次世代軽水炉につき2030年代の新設を目指して設計を進めるとともに、大量かつ安定的な水素製造を可能とする高温ガス炉の開発や、米国テラパワー社との高速炉開発に向けた協力など、リーディングカンパニーとして多様な取組みを推進していく。
カーボンニュートラルの達成には、こうした取組みによって大気中へのCO2の排出を抑えるだけではなく、CO2の回収が必須である。当社グループは、電力・化学産業等向けの大型CO2回収装置において高い世界シェアを誇っており、この分野での事業拡大を図る。また、近い将来に必要となる鉄鋼、セメント等のCO2排出削減が困難な産業でのCO2回収にも対応していくとともに、需要増大が予想される産業プラント向けの中小型回収装置の商用化を進め、大型から中小型までのラインナップ拡充を図り、更なる普及につなげていく。また、自動運転や遠隔監視といった技術の活用に加え、CaaS*4と呼ばれるCO2回収装置の設置・運営・保守や、CO2回収・輸送・貯留・利活用といったプロセスに着目した新たなサービス事業を創出し、CO2エコシステムの実現に伴う多様なニーズに応えていく。加えて、CO2の利活用を促進するため、オープンイノベーションによる技術の探索や、CO2流通量を可視化するデジタルプラットフォームの開発も進め、この分野におけるキープレーヤーを目指していく。
*4 Capture as a Service, CO2 as a Service
イ.エネルギー需要側の省エネ・省人化・脱炭素化(社会インフラのスマート化)
エネルギー供給側の脱炭素化である「エナジートランジション」の推進と並行して、需要側でもシステムの省エネ・省人化・脱炭素化を進め、「社会インフラのスマート化」を通じて、安全・安心・快適な暮らしの実現に貢献していく。
まず、物流の知能化の分野では、優れた物流機器、電力機器、冷熱機器を顧客のニーズに応じて組み合わせ、ワンストップのソリューションを提供するため、物流を支える各製品の競争力を着実に強化する。既に無人フォークリフトや自然冷媒冷凍機では実績を積んでいるが、今後はこれらの機器を連携させて自動化し、更なる効率化・最適化を図っていく。例えば、物流の自動化・省人化と、冷熱・電力供給を統合・協働させることで画期的な省エネと脱炭素化を実現していく。
また、省エネと脱炭素化は、デジタル社会の進化に伴いデータの通信量や処理量が顕著に増大しているデータセンターにおいても強く求められている。当社グループは、大規模データセンター向けに高効率の冷熱機器や発電システムを提供しているが、更なるエネルギー効率の最大化により運用コスト低減と信頼性向上を両立させたインフラの構築にも貢献していく。また、今後はデータの分散処理が進展して、データセンターの小型化需要が高まると予測しており、コンテナ型のマイクロデータセンターの商用化も進めていく。
以上に加え、当社グループは、高信頼、堅牢かつ高精度な製品やサービスの提供を通じて、データ解析、AI技術、シミュレーション技術等のデジタルトランスフォーメーションの技術基盤を有している。これらを活用して製品やサービスを「かしこく・つなぐ」ことにより、複合的な機械システムとしての潜在能力を更に発揮させるようなソリューションやバリューチェーンを顧客とともに創出していく。
ウ.収益力の回復・強化
海外を中心に市場回復は進む一方、新型コロナウイルス感染症の今後に対する不透明感や、半導体不足、ロシアによるウクライナ侵攻を契機とするエネルギー需給変動、物価上昇・輸送費高騰といった懸念材料は尽きない。当社グループは、こうした外部環境の変化を注視しながら、臨機応変に施策を展開して収益力を維持・拡大していく。
火力発電システム事業や製鉄機械事業では遠隔システムによる運用・保守等のデジタルサービスの提供を進め、中量産品事業では販売網やサービス網の強化・拡大を加速して伸長を図る。一方、市場低迷が長期化している民間航空機Tier1(ティア1)事業では市場回復まで固定費削減等の損益改善策を継続するほか、各事業で原材料費や輸送費等の高騰に対応して適正な価格設定を行っていく。また、世界情勢の不安定化に伴う国家安全保障の分野でも政府の方針に則り然るべく対応していく。このほか、アセットマネジメントによるキャッシュ・フローの創出、デジタルトランスフォーメーションを活用した更なるコーポレート部門の業務効率化、人員リソースのシフト、事業ポートフォリオの見直しを含む構造改革にもこれまで同様に取り組んでいく。
当社グループは、「MISSION NET ZERO」の活動を通じ、環境価値と経済価値を両立させながらカーボンニュートラルの実現に向けて取り組み、社会課題の解決とサステナブルな社会の実現に貢献していく。このように事業を発展し成長させていく上では、従来どおりコンプライアンスが重要課題であるとの認識の下で各種施策を進めていく。
お知らせ