(1)経営成績等の状況の概要
① 財政状態及び経営成績の状況
当社は『顧客投資成績重視の経営』を経営理念に掲げ、損をしないことが利益に繋がるという「リスク管理追求型」のコンセプトの下、特許を取得している各種「自動売買」を始めとする利便性と安定性を追求した独自のサービスを提供するとともに、個人投資家の皆様に新しい投資スタイルを啓蒙すべく、当期は以下のような取り組みを行いました。
・2018年度からの3年間を計画期間とする2018年度版の中期経営計画を策定(5月)
・ネット証券で初となる経済産業省の「IT経営注目企業2018」に選定される(5月)
・東証、PTS市場、ダークプールの自動回送SORシステムを実装(8月)
・相場操縦行為等の不公正取引の調査を行う売買審査業務において、人工知能(AI)を導入(8月)
・現物株式手数料割引プラン「auで株式割」の割引対象をau IDを持つすべてのお客さまに拡大(8月)
・kabu.com API基盤刷新にAWSを採用(8月)
・「投資信託の販売会社における比較可能な共通KPI」のうち、「運用損益別顧客比率」について、インターネット 証券4社合算して公表(8月)
・店頭外国為替証拠金取引「シストレ FX」リニューアル(9月)
・HDI「Webサポート格付け」および「問合せ窓口格付け」で最高評価の「三つ星」を獲得(9月)
・業界初となる信用保証金代用有価証券を貸付する「代用貸株」を提供開始(10月)
・kabu.com APIとVR/ARの技術連携による投資情報ツールをCEATECに出展(10月)
・自然言語解析AIによる広告審査への応用について実証実験を実施(11月)
・公益社団法人企業情報化協会が主催する平成30年度「IT賞」において、「IT特別賞(組織風土改革賞)」を受賞(11月)
・株式会社じぶん銀行の銀行口座と当社の証券口座間の入出金を従来よりも便利に行える口座連携サービスの提供を開始(1月)
・従来の株式(現物/信用)取引に加え、先物・オプション取引に対応したスマートフォン専用トレーディングアプリ「kabu STATION for iPhone」及び「kabu STATION for Android」をリリース(1月)
・好きなドレスを選ぶだけで、自分の価値観にぴったりのファンドがわかる新しい体験 「FUND DRESS」提供(2月)
当期の財政状態及び経営成績は以下のとおりです。
(ア) 財政状態
当事業年度末の資産合計は、前事業年度末に比べ4,367百万円増加し、1,009,924百万円となりました。当事業年度末の負債合計は、前事業年度末に比べ6,969百万円増加し、967,772百万円となりました。当事業年度末の純資産合計は、前事業年度末に比べ2,601百万円減少し、42,151百万円となりました。
当事業年度末の財政状態の増減要因は以下のとおりです。
当事業年度末の資産合計は、前事業年度末に比べ4,367百万円増加(前期は59,436百万円増加)し、1,009,924百万円(前期は1,005,557百万円)となりました。これは主に、信用取引買建玉残高が減少したことにより信用取引資産が42,861百万円減少(前期は46,717百万円増加)した一方で、現金・預金が61,457百万円増加(前期は31,779百万円増加)したことによるものであります。
当事業年度末の負債合計は、前事業年度末に比べ6,969百万円増加(前期は57,585百万円増加)し、967,772百万円(前期は960,803百万円)なりました。これは主に、短期借入金が25,000百万円減少(前期は25,000百万円増加)した一方で、資金調達手段の多様化及び安定資金の確保を目的として活用を開始したコマーシャル・ペーパーが70,000百万円増加(前期は無し)したことによるものであります。
当事業年度末の純資産合計は、前事業年度末に比べ2,601百万円減少(前期は1,851百万円増加)し、42,151百万円(前期は44,753百万円)となりました。これは主に、当期純利益が4,295百万円計上による増加(前期は6,335百万円計上による増加)があった一方で、配当金の支払により6,331百万円減少(前期は4,004百万円減少)したことによります。
[委託手数料]
当期の委託手数料は7,090百万円と前期比21.4%の減少となりました。このうち、株式等委託手数料は6,158百万円(前期比22.4%減少)、先物取引及びオプション取引の委託手数料は872百万円(前期比8.5%減少)となっております。
当期の募集・売出し・特定投資家向け売付け勧誘等の取扱手数料は262百万円と前期比36.5%増加となりました。このうち、株式の募集等の取扱い手数料113百万円(前期比737.0%増加)、投資信託の募集の取扱い手数料144百万円(前期比18.3%減少)となっております。
当期のその他の受入手数料は1,468百万円と前期比7.5%減少となりました。このうち、店頭FXに係る手数料収入287百万円(前期比24.4%減少)、投資信託の代行手数料664百万円(前期比1.8%減少)、有料情報サービスによる手数料収入14百万円(前期比1.9%減少)となっております。
当社の個人株式等売買金額における取引シェアは8.8%と前期とほぼ変わらなかったものの、当期の1日当たり個人株式等売買金額が1兆1,321億円(前期比12.6%減少)と減少したことで、株式等委託手数料は減少となりました。また、株式の募集等の取扱い手数料は増加したものの、投資信託関連収益、先物・オプション取引の委託手数料、外国為替証拠金取引の収入は減少となりました。受入手数料の構成比では、先物・オプションや投資信託代行手数料の比率は前期から上昇した一方で、株式等委託手数料や店頭FXの比率が低下しました。
(b) トレーディング損益
外貨建MMF、外貨建債券及び店頭FX(シストレFX)等に係る当期のトレーディング損益は、1,040百万円と前期比2.0%の減少となりました。店頭FXは、収益率が改善したものの取引高の減少をうけ、トレーディング損益が減少となりました。
(c) 金融収支
当期の金融収益は11,041百万円(前期比8.2%減少)、金融費用は2,751百万円(前期比7.8%減少)となり、差引の金融収支は8,290百万円(前期比8.3%減少)となりました。当期末の信用取引買建残高は1,415億円と前期末比30.8%減少となり、二市場信用取引買建残高シェアは6.00%と前期から上昇となりました。年度末は二市場信用取引買建残高シェアが上昇したものの、期中は二市場信用取引買建残高及び信用取引買建残高が低調に推移したことから、金融収支は年度ベースで過去最高だった前期から減少となりました。
(注) 信用取引買建平残とは、信用取引買建残高の前期末残高と当期末残高を単純平均した値です。
(d) その他の収支
三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社に対する当社ソフトウエア利用の許諾、同社が当該ソフトウエアを利用するにあたって必要となる追加開発及び保守に関しまして、その他の売上高298百万円(前期比48.9%減少)、売上原価184百万円(前期比62.4%減少)を計上し、差引の収支は114百万円(前期比21.5%増加)となりました。
(e) 販売費・一般管理費
当期の販売費・一般管理費は、12,386百万円と前期比5.2%減少となりました。主な内訳は、取引関係費4,761百万円(前期比16.9%減少)、不動産関係費2,365百万円(前期比8.1%増加)、人件費1,566百万円(前期比3.7%増加)、事務費941百万円(前期比4.2%減少)、減価償却費1,739百万円(前期比7.4%減少)です。
人件費及び不動産関係費が増加した一方、市場取引量が前期と比べ減少したことに加え、前期に実施したTVCMの集中投下による広告宣伝費の増加及びシステム関連費の一時的な増加が当期は無かったことにより、販売費・一般管理費は前期比5.2%の減少となりました。
受入手数料が前期比で18.4%の減少となったことから、当期の「受入手数料/システム関連費率」は174.8%、「受入手数料/販売費・一般管理費率」は71.2%と前期と比べ低下となりました。
(注) システム関連費は、ネット証券のインフラ面を構成する、不動産関係費、事務費及び減価償却費の合算値としています。
(f) 営業外損益
当期の営業外収益は、受取配当金42百万円等により58百万円となった一方、営業外費用は、支払手数料2百万円等により3百万円となり、差引で55百万円の利益となりました。
(g) 特別損益
当期の特別利益は、投資有価証券売却益281百万円、金融商品取引責任準備金戻入52百万円により334百万円、特別損失は、TOB関連費用により75百万円となり、差引で258百万円の利益となりました。
以上の結果、当期の業績は、営業収益が21,202百万円(前期比13.4%減少)、純営業収益が18,267百万円(前期比13.0%減少)、営業利益が5,881百万円(前期比25.9%減少)、経常利益が5,936百万円(前期比25.5%減少)、税引前当期純利益が6,195百万円(前期比32.0%減少)、当期純利益が4,295百万円(前期比32.2%減少)となりました。
当期純利益並びに自己資本当期純利益率(ROE)の推移は下表のとおりです。
② キャッシュ・フローの状況
当期における現金及び現金同等物(以下、「資金」という)は、営業活動による収入(資金の増加)が25,534百万円、投資活動による支出(資金の減少)が2,746百万円、財務活動による収入(資金の増加)が38,665百万円となった結果、当期末の資金の残高は149,818百万円となり、前期末比61,457百万円の増加となりました。
当期の各活動によるキャッシュ・フローの状況とそれらの増減要因は以下のとおりです。
当期における営業活動による資金の増加は、25,534百万円(前期は1,425百万円の増加)となりました。これは主に、有価証券担保借入金の減少による支出23,810百万円(前期は36,634百万円の収入)があった一方、信用取引資産及び信用取引負債の増減額による収入47,254百万円(前期は51,931百万円の支出)、顧客分別金信託の減少による収入9,992百万円(前期は17,413百万円の収入)があったことによるものです。
当期における投資活動による資金の減少は、2,746百万円(前期は727百万円の減少)となりました。これは主に、有形固定資産の取得による支出223百万円(前期は395百万円の支出)及び無形固定資産の取得による支出2,763百万円(前期は1,796百万円の支出)があったことによるものです。
当期における財務活動による資金の増加は、38,665百万円(前期は31,097百万円の増加)となりました。これは主に、短期借入金の純減少による支出25,000百万円(前期は25,000百万円の収入)及び配当金の支払による支出6,331百万円(前期は4,004百万円の支出)があった一方、コマーシャル・ペーパーの純増加による収入70,000百万円(前期は無し)があったことによるものです。
(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
本項に記載した将来に関する事項は、当事業年度末現在において当社が判断したものです。これらの事項は、不確実なものであり、将来生じる実際の結果と大きく異なる可能性があります。
当社の財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に基づき作成しております。具体的には、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」(1963年大蔵省令第59号)の規定のほか「金融商品取引業等に関する内閣府令」(2007年内閣府令第52号)及び「有価証券関連業経理の統一に関する規則」(1974年日本証券業協会自主規制規則)に準拠して作成しております。当社は、財務諸表を作成するにあたり、かかる企業会計の基準に基づき、下記の事項などについて重要な判断や見積もりを行っておりますが、前提となる条件、仮定等に変化があった場合などには、これらの見積もりが実際の結果と異なる場合があります。
当社では、投資有価証券等のトレーディング商品に属さない有価証券を保有しております。このうち時価のある有価証券については、時価が著しく下落した場合、減損処理を行っております。具体的には、決算期末の市場価格が取得原価に比べて50%以上下落した場合などには、回復する見込みがないと判断して、減損処理を行っております。また、市場価格のない有価証券については、決算期末日時点の直近期の1株当たり純資産額が、当該株式を取得した時の取得価額と比較して50%以上下落したときは、回復する見込があると客観的に認められるときを除き、減損処理を行っております。
立替金等の債権の貸倒れによる損失に備えるため、一般債権については貸倒実績率により、貸倒懸念債権等特定の債権については個別に回収可能性を勘案し、回収不能見込額を計上しております。
当社は、将来減算一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性を「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第26号 2018年2月16日)に従い検討した上で、繰延税金資産を計上しております。
財政状態の分析については、『第2 事業の状況「3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」(1)経営成績等の状況の概要 ① 財政状態及び経営成績の状況 (ア)財政状態』に記載したとおりです。
当社の純営業収益に占める商品別収益の過去3事業年度の構成比の推移は下表のとおりです。当事業年度は、取引シェアは前期とほぼ変わらなかったものの、二市場株式等個人委託売買代金が前期から減少となったことから、当社の株式委託手数料は前期比22.4%減少となりました。二市場における信用取引買建期末残高は減少となり、期中も残高が低調に推移していたことから、金融収支は前期比8.3%減少となり、過去最高だった前期から減少となりました。また、先物・オプション委託手数料は前期比8.5%減少し、投資信託関連収入も前期比5.2%減少し、FX市場も取引が減少したことから、外国為替証拠金取引関連収益も前期比7.3%減少となりました。一方、三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社に対する当社ソフトウエア利用の許諾、利用にあたり必要となる追加開発及び保守に係る売上が前期に比べて減少しましたが、収支は増加したことなどにより、その他収入が前期比3.3%増加となりました。これらの結果、純営業収益は前期比13.0%減少となりました。商品別収益の構成比は、株式現物委託手数料が3.2ポイント低下する一方で金融収支の同比率が2.4ポイント上昇することとなりました。
当社では、個人投資家の金融資産分散投資へのニーズや投資リテラシーは着実に高まってきていると認識しております。株式を引き続き中核商品として注力していくとともに、今後も個人投資家によるオンライン取引ニーズが拡大していくと見込まれる投資信託、デリバティブ取引等も拡充してまいります。
(注) 株式委託手数料にはETF等が含まれております。
株式委託手数料収入は、市場全体の個人委託売買金額、それらに占める当社のシェア及び当社の株式委託手数料率によって増減しますが、それらの数値を記載すると下表のとおりとなります。
当事業年度は、当社のシェアが前期とほぼ変わらなかったものの、二市場株式等個人委託売買代金が前期比12.6%減少したことから、株式委託手数料収入は前期比22.4%の減少となりました。
当社の中核商品である株式のシェアの一層の拡大は、今後も重要な経営課題であると認識しており、引き続き当社株式委託取引シェアの拡大を図り、株式委託手数料を含む営業収益全般の増加を図ってまいります。
(注) 1.二市場の株式委託売買金額合計に対する当社取扱金額の比率
2.株式委託手数料にはETF等が含まれております。
当社の金融収支は、信用取引に伴う活動及び市況により大きく左右されます。信用口座数、信用取引買建残高、二市場全体の信用取引買建残高に対する当社のシェアの推移は下記のとおりです。
当事業年度は、当社シェアが増加する中、信用口座数は順調に増加した一方で、二市場信用取引買建期末残高が前期末比33.8%減少したことから、期末時点の1口座当たりの信用取引買建残高は前事業年度から減少しました。また、期中の二市場信用取引買建残高も低調な推移となったことから、信用収支が減少し、金融収支/信用取引買建期末平残比率も減少となりました。信用取引口座増加に向けての営業施策、1口座当たりの信用取引残高の増加及び調達コストの抑制と資金管理の効率化による高金融収支率の維持の3点を引き続き重視してまいります。
当社は、ネット専業によるブロカレッジ業務においては経営の効率性が非常に重要であると考えており、ROE(自己資本利益率)を重要な経営目標と定め、純営業収益経常利益率及び受入手数料のみで販売費・一般管理費やシステム関連費の何倍をカバーできるかというコストカバー率等の指標を用い、常に経営効率性を監視しております。ROE及び純営業収益経常利益率については下表の、またコストカバー率の推移については、『第2 事業の状況「3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」(1)経営成績等の状況の概要 ① 財政状態及び経営成績の状況 (イ)経営成績 (e)販売費・一般管理費』に記載した表のとおりです。
当事業年度のROEは9.9%となり、2018年5月に策定した中期経営計画の2020年度にROE20%とする経営目標を下回る状況となっております。収益力の増強、経営効率の向上に加え、資本効率を高めることにより、経営目標としている20%の達成を目指してまいります。
キャッシュ・フローの分析については、『第2 事業の状況「3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」(1)経営成績等の状況の概要 ② キャッシュ・フローの状況』に記載したとおりです。
当社の業務は、株式売買の媒介・取次などブロカレッジ業務を中心としており、基本的に買掛金や売掛金、トレーディング商品等の増減による営業活動上のキャッシュ・フローは発生しません。顧客からの預り金や信用取引等に係る保証金の入出金と金融商品取引法に定められた顧客分別金の信託勘定への入出金、信用取引資産・負債の純増減額等が、営業活動による主なキャッシュ・フローとなります。当期は、営業活動による収入が25,534百万円、投資活動による支出が2,746百万円、財務活動による収入が38,665百万円となった結果、期末の現金及び現金同等物は前期末に比べて61,457百万円の増加となる149,818百万円の残高となりました。
当社の業務特性を勘案すると十分な現金及び現金同等物残高を維持し、また個別銀行からの融資枠としての当座貸越枠で十分な借入枠を確保するとともに、A+という比較的高い信用格付けを活かし市場性資金の調達も十分に行えていることから、財政状態には問題がないものと判断しております。
当事業年度末現在、当社の自己資本比率は4.2%(前期末4.4%)、自己資本規制比率は369.0%(前期末371.7%)となっております。当社は、原則として商品有価証券の保有等自己売買リスクを取らないことを経営方針としており、それゆえ必要以上に高い自己資本比率や自己資本規制比率を維持することは不要と考えております。経営環境等を考慮の上、これらの資本比率を適正な範囲に収めるべく諸施策を実施してまいります。
④ 経営方針・経営戦略等又は経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社は2018年5月に2018年度からの3年間を計画期間とする2018年度版の中期経営計画を策定いたしました。高品質・高付加価値な金融関連サービスの提供を通じて、お客さまの資産形成と日本の金融資本市場の発展に貢献することを当社の使命とし、2020年度に目指すべき姿として「カブコム2.0」を標榜して「ネット証券からMUFGデジタル金融企業への進化」を掲げ、デジタルイノベーションのフロントランナーとして、先進性No.1、多様性No.1、効率性No.1を目指してまいります。具体的な経営目標としては下表のとおり2020年度にROE20%、年間の配当方針については配当性向50%以上かつDOE(純資産配当率)8%以上とした配当の実施を基本方針としております。
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