研究開発活動

5【研究開発活動】

当社グループは、主要領域の成長戦略に基づき、将来を担う新技術や新製品の開発に注力しました。加えて、人ひとりのくらしや社会の持続可能(サステナブル)な発展とともに心身が豊かな状態(ウェルビーイング)を目指した技術開発にも、積極的に取り組みました。

 

当連結会計年度におけるグループ全体の研究開発費は、4,198億円となりました。主な内訳は、「くらし事業」1,309億円、「オートモーティブ」1,012億円、「コネクト」864億円、「インダストリー」565億円、「エナジー」191億円です。

 

各報告セグメント及びその他の事業、部門の主な成果は、以下のとおりです。

(1) くらし事業

 主に「くらし」領域において、家電、空調、照明、電気設備や業務用機器など、家庭から店舗、オフィス、街にいたる様々な空間に対応した商品・サービスの研究開発を行っています。

主な成果としては、以下のとおりです。

・業界最高発電効率56%を実現した5kW純水素型燃料電池「H2 KIBOU」を開発

 燃料電池のキーデバイスであるスタック部材など一部の部品をエネファームと共用化するなど、これまで培った技術やノウハウをベースに、水素から直接発電し発電時にはCO2を排出しない、小型で業界最高の発電効率56%を有する5kW出力の純水素型燃料電池「H2 KIBOU」を開発しました。さらに、複数台を連結制御する技術を開発・搭載することで、電力需要に応じて発電出力のスケールアウトが可能になるほか、建物の屋上や狭小地などへの設置が可能になりました。また、草津拠点では、純水素型燃料電池と太陽電池を組み合わせた自家発電により事業活動で消費するエネルギーを100%再生可能エネルギーで賄う「RE100ソリューション」の実証にも取り組んでいます。

 今後も、水素の本格活用という再生可能エネルギーの導入拡大に向けた新たな選択肢の提案を通じて、脱炭素社会の実現に貢献してまいります。

・OHラジカル生成量が「ナノイー」比100倍の新「ナノイー X」デバイスを開発

 当社独自の「ナノイー」デバイスをさらに進化させ、円周状に放電してOHラジカル生成領域を大幅に増加させた「ラウンドリーダ放電」を産学連携で新たに開発し、OHラジカルが「ナノイー」比100倍生成する新「ナノイーX」デバイスを開発しました。これにより、花粉・ダニの死がいやフン(アレル物質)の抑制、ニオイの脱臭スピードが格段にアップしました。

 昨今、外出自粛の広がりや、テレワークの浸透など生活様式の変化に伴う在宅時間の増加により、より良い空気環境への関心がますます高まる中、「ナノイーX」や次亜塩素酸 空間除菌脱臭機「ジアイーノ」といった当社独自のクリーンテクノロジーを継続的に進化させ、くらしや社会のさまざまなシーンにおいて、清潔で快適な空間を提供してまいります。

 

(2) オートモーティブ

 主に車載向けのコックピットシステム、HUD(ヘッドアップディスプレイ)、先進運転支援システム(ADAS)などの研究開発を行っています。

 主な成果としては、以下のとおりです。

・視線追跡システムを搭載した、拡張現実HUD(AR HUD)2.0を開発

 デジタルカメラや液晶ディスプレイで培った独自技術を応用し、低歪で明るく鮮明な映像を可能にすると同時に、小型化と軽量化を実現したHUDをグローバルに展開しています。

 今回、ドライバーの視線を認識し、AR画像を最適化する視線追跡システム (ETS:eye tracking system)を開発しました。本技術を運転席前方の現実空間に奥行き感のある大画面映像を重ねて表示する方式のAR HUDに搭載することで、画像の明瞭性と正確性を向上させ、眠気、障害、注意散漫を検出するなどの運転サポートが可能になります。

 今後も、HUDの技術革新を続け、安全・安心で快適なドライビング環境に貢献してまいります。

・安全運転支援のための人を理解する技術開発

 人のくらしに寄り添ってきた当社の技術蓄積を活かし、人間の特性を理解した上での安全運転支援を実現するため、さらに人を理解する技術開発に取り組んでいます。

 大脳皮質の動作原理として有力な予測符号化を組み込んだ深層学習モデルをベースに、運転時にドライバーが認識したであろう映像を、直前の走行映像から生成するドライバー視覚モデルを当社で開発。実際の走行映像との比較分析により、交通ヒヤリハット事象の要因分析ができるようになりました。

 今後も、さらなる安全運転支援を実現する技術開発をしてまいります。

(3) コネクト

 主に「サプライチェーン」「公共サービス」「生活インフラ」「エンターテインメント」分野での企業・法人向けのハードを含むソリューションの研究開発を行っています。

主な成果としては、以下のとおりです。

・顔認証技術を活用した富士五湖周辺エリアで観光型MaaS「手ぶら観光サービス」実証実験を開始

 ディープラーニングを応用した世界最高水準の顔認証技術を活用し、国内初の観光型MaaS「手ぶら観光サービス」として富士五湖周辺エリアで実証を開始しました。複数の観光施設や交通機関の利用や決済を共通のIDで顔認証利用できる統合ID管理機能、鉄道駅での顔認証改札、周遊eチケットのダイナミックプライシング、利用者の位置情報などに応じたレコメンド配信機能、各観光施設の混雑可視化機能を開発し、本サービスに適用しています。これにより、エリア内に点在する複数の観光施設と交通機関における入場や決済が、顔一つでシームレスに利用が可能になりました。

 今後も、顔認証の技術を基盤として、観光や鉄道、空港、スマートシティなど、様々な業界に向けてユーザーと運営側の利便性を向上する仕組みを提供してまいります。

・世界最高水準の話者識別・マルチモーダル認証技術を開発

 世界最高水準の話者識別技術と顔認証技術を組み合わせたマルチモーダル認証技術をアメリカの大学研究グループと共同開発しました。話者識別技術は、当社独自のディープラーニング学習手法と類似度計算手法により、多様な収録条件下の音声に対応することが可能になります。マルチモーダル認証技術は、顔認証技術と話者識別技術を組み合わせることで、顔が隠れている場合でも大幅な精度向上を実現します。

 今後は、高度な認証が必要な用途に向けマルチモーダル認証技術を活用し、さらには指紋認証技術等を組み合わせた「非接触マルチモーダル認証ソリューション」を創出し、より安心・安全・便利な社会の実現に貢献してまいります。

 

(4) インダストリー

 主に電子部品、FA・産業デバイス、電子材料などのBtoB事業を中心とした幅広いソリューションの研究開発を行っています。

主な成果としては、以下のとおりです。

・高速通信ネットワーク機器向け「低伝送損失多層基板材料 MEGTRON 8」を開発

 高多層基板に求められる伝送損失の低減と耐熱性・信頼性とを両立する独自の樹脂設計・材料配合技術をベースに低誘電正接ガラスクロス・低粗度銅箔との複合化技術を確立し、業界最高の低伝送損失(当社従来材比 約30%改善)を有する多層基板材料「MEGTRON 8」を開発しました。これによりデータ通信の大容量・高速化に貢献、また低伝送損失化は消費電力低減にもつながります。5Gなど通信ネットワークの高速化・高周波化ニーズは急速に高まっており、今後も電子回路基板や部品など材料デバイス技術の進化を加速してまいります。

・業界最長の125℃ 5,500時間保証の導電性高分子アルミ電解コンデンサ「SP-Cap KXシリーズ」を開発

 今まで培ってきた独自技術である導電性高分子の形成技術と製造プロセス技術を組み合わせた導電性高分子アルミ電解コンデンサ「SP-Cap® KXシリーズ」を開発し、従来品(JXシリーズ)の1.8倍となる業界最長の125℃ 5,500時間の耐久性保証を実現しました。また、積層セラミックコンデンサ(MLCC)と同等の実効静電容量で使用個数を削減できるため、複数のMLCCをSP-Cap®に置き換えることで、実装面積の省スペース化が図れ、機器の小型化を実現するとともに、使用部材の削減による環境負荷の低減にもつながります。これにより、通信基地局やサーバーなどの電源回路の信頼性向上に貢献してまいります。

 当社は、低ESRと大容量特性に優れた導電性高分子アルミ電解コンデンサの開発により、電源回路の安定化に貢献してまいります。

 

(5) エナジー

 主に乾電池、二次電池、産業用電池、車載用電池の研究開発を行っています。

主な成果としては、以下のとおりです。

・車載用新型高容量リチウムイオン電池「4680」セルを開発

 長年培ってきた電池技術・製造知見を生かし、電極や電解液、生産プロセスにインフォマティクスを活用して技術開発を加速し、エネルギー容量が従来の「2170」セルの約5倍となる車載用新型高容量リチウムイオン電池「4680」セルを開発しました。これにより高品質・高安全という当社の強みをさらに磨きつつ、徹底した生産性向上によって業界をリードするコスト力の実現を目指して、和歌山工場に生産設備を設置し量産検証を実施します。

 当社は、車載用円筒形セルを現在約50GWh/年生産しており、これは年間800万トンのCO2削減に相当しています。世界が温室効果ガスの削減に向け取り組む中、電気自動車のキーデバイスであるリチウムイオン電池開発を通じ、今後も地球温暖化対策に貢献してまいります。

・東大生研とPPES、パナソニック、豊田通商、電池の資源・リサイクルに関する産学連携研究を開始

 リチウムイオン電池に使用される資源ならびにリサイクル材を原料とした電池材料開発・製造プロセスを題材に、革新的な新規プロセス構築を行い、電池のサプライチェーン全体でのカーボンニュートラルならびに大幅な生産コスト低減の実現を目指し、東京大学生産技術研究所(東大生研)、プライム プラネット エナジー&ソリューションズ株式会社(PPES)、豊田通商株式会社と共同研究を開始しました。当社は電池適用に向けた原料基準の明確化など電池メーカーとしての知見を広く活用し、サプライチェーン強靱化ならびにリサイクル等の社会システム構築に向けて貢献してまいります。

 今後ますます市場拡大が見込まれるリチウムイオン電池に対し、より一層の安定供給とライフサイクル全体でのCO2排出量低減・低コスト化を図るため、技術革新、社会実装に取り組んでまいります。

 

(6) その他

エンターテイメント&コミュニケーション

 主に有機ELテレビなどのAV機器、デジタルカメラ、ヘッドホン、電話機などのコミュニケーション機器等の映像・音響・通信関連の商品・サービスに関する研究開発を行っています。

主な成果としては、以下のとおりです。

・業界初の4K放送の無線伝送によるレイアウトフリーテレビを開発

 映像・音響・通信機器の開発で培った無線伝送技術と4K映像圧縮技術により、民生用テレビとして業界で初めて4K放送の無線伝送を可能にする技術を開発しました。これにより、テレビ(モニター)とチューナー部を分離し、4K画質にも対応した無線接続により、テレビ(モニター)のアンテナ線接続が不要になります。また、テレビ設置の自由度をさらに高めるためにキャスター付きスタンドを採用し、使いたい場所に簡単に動かして使えるレイアウトフリーを実現しました。部屋のインテリアにもフィットするスタイリッシュなデザインでありながら、BS4K・110度CS4Kダブルチューナー搭載で2TBの内蔵ハードディスクへの新4K衛星放送の裏番組録画が可能となるなど、豊富なネット動画サービスにも対応しています。

 今後も映像・音響・通信の技術で、人々に新しい「感動と安らぎ」を提供してまいります。

 

ハウジングシステム

 主に住宅設備・建材や技術を活かしたデバイス・ソリューションの研究開発を行っています。

 主な成果としては、以下のとおりです。

・アブラヤシ廃材を活用した再生木質ボード化技術「PALM LOOP(パームループ)」を開発

 地球温暖化防止の新たな取り組みとして、業界で初めてアブラヤシ廃材を活用した再生木質ボード化技術を開発しました。食用油や洗剤の原料となるパーム油はアブラヤシ果実から採取され、採取後のアブラヤシ廃材の多くは放置され、腐敗時にメタンガスを含む温室効果ガスが発生し問題視されています。アブラヤシ廃材の幹は水分や不純物を多く含み活用が困難でしたが、洗浄工程により不純物を除去し、抽出した長繊維を圧縮成形する中間材化技術を開発。これにより、アブラヤシ廃材を任意の配合率で再生木質ボードに再生することができるとともに、炭素固定により廃材1本分で約1.3トンの温室効果ガス削減(CO2換算値)を可能にします。

 また、中間材化により輸送性・保管性も向上し、世界各地の既存木質ボード工場で生産が可能となり、原料の海上輸送の効率化による温室効果ガス削減にも貢献してまいります。

 

技術部門

 主に技術・モノづくりに関わる全社戦略の統括、中長期視点での先端技術開発、生産技術・要素技術開発などを行っています。

 主な成果としては、以下のとおりです。

・環境分野にも貢献する遠赤外領域での新たな光学デバイスやセンサ技術を開発

 エネルギーマネジメントや自動運転の需要の高まりから、当社は高感度化・低価格化が要求される遠赤外線センサの普及に貢献するデバイス技術群の開発に取り組んでいます。

 ①独自のガラスモールド成形工法と金型技術により、遠赤外線の透過特性に優れるカルコゲナイドガラスを材料とした遠赤外非球面レンズの量産技術を開発し、低価格化(従来比約1/2)が可能になりました。また、世界初の接着剤不使用で高気密なフレーム一体レンズを実現し、鏡筒への組付け時にレンズ周辺部が欠けやすいという課題を解決するとともに、ガス封入などでの断熱構造が可能になり、センサ感度向上に寄与します。

 ②フォノニック結晶構造を搭載した遠赤外線センサの感度向上技術を開発しました。従来の断熱性能を大きく上回るフォノニック結晶構造をSiウェハ上に量産適用可能な作製方法で形成し、熱検出感度を飛躍的に向上することができます。本技術を遠赤外線センサの受光部に適用することで、受光部からの熱の漏れを約1/10に抑制し、従来のSiベースの遠赤外線センサに比べて約10倍の感度向上が可能になります。

 今後も、新たなセンシングソリューションの提供で、サステナブルな地球環境の実現に貢献してまいります。

 

tremolo data Excel アドインサービス Excel から直接リアルタイムに企業の決算情報データを取得

お知らせ

tremolo data Excel アドインサービス Excel から直接リアルタイムに企業の決算情報データを取得