課題

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

(1) 当社グループを取り巻く経営環境

 当社グループを取り巻く経営環境は、自然災害の激甚化、人口減少に伴う市場の縮小や労働力の減少に加え、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う緊急事態宣言の長期化や変異株の拡大等により、社会経済活動全般が大きな影響を受け、当社グループにおいても、観光のご利用減、出張の抑制等の出控えや消費の減退等、ご利用が大きく減少するとともに、回復の見通しは不透明な状況です。また、国際情勢も不安定さを増しており、引き続き、かつてない厳しい環境におかれています。

 さらに、コロナ禍を契機に、ICTツールの活用によるデジタル空間の拡がり、働き方を含めた暮らしの多様化、価値観の変化等、お客様のニーズの変化が加速し、想像していた未来の姿が一気に到来するとともに、これからの変化を想像することが難しい状況になってきています。

 

(2) 経営の基本方針

 当社グループは、「福知山線列車事故のような事故を二度と発生させない」という確固たる決意のもと、事故の反省と教訓を重く受け止め、被害に遭われた方々への真摯な対応、安全性向上の取り組み、変革の推進という「経営の3本柱」を今後も経営の最重要課題として取り組んでいきます。

 変化の予測が難しい社会だからこそ、暮らしを支える企業グループとして、「人々が出会い、笑顔が生まれる、安全で豊かな社会」という「めざす未来」の実現に向けて地域と共に歩み続けます。

・経営の根幹は基幹事業としての鉄道の安全であり、「JR西日本グループ鉄道安全考動計画 2022」(以下、「安全考動計画 2022」)を堅持し、「組織全体で安全を確保する仕組み」と「安全最優先の風土」の構築に取り組むとともに、ハード・ソフトの組み合わせによる安全対策を進め、さらなる安全性向上に努めます。

・人と人との出会いやつながり、地域同士の結びつきで生まれる「笑顔」は、社会が変化しても変わらない価値であり、出会い、つながることによりイノベーションも生まれます。だからこそ、当社グループは人と人、地域をつなぎ、暮らしを支える地域共生企業として成長し続けます。そのために、新たな移動の創出や暮らしの提案に取り組み、「訪れたい、住みたいまちづくり」を進めていきます。

・一方で、繰り返し起こる災禍や、お客様・社会の行動変容によるご利用水準の低下を考えれば、鉄道の高コストな事業構造の改革が必要不可欠です。

・地域交通については、大量輸送という観点で鉄道の特性を発揮できず、地域にお住まいの方々のニーズに必ずしもお応えできるものとはなっていないことから、様々なご利用に適した輸送の形や新しい交通体系を地域と共に模索していきます。

・加えて、変化対応力を高めるため、イノベーションを生み出す文化の醸成、人財の多様化、ガバナンス強化に向けた機構・体制構築、グループデジタル戦略の推進に取り組みます。

 

(3) 中長期的経営戦略

 当社グループは、「JR西日本グループ中期経営計画2022」(以下、「中計2022」)に基づき、「めざす未来~ありたい姿」の実現に向け、グループ一体で取り組みを推進してきました。

 2020年10月には、経営環境の変化を踏まえ、中長期的な財務基盤の回復、社会変化を捉えた変革、安全と成長への道筋を示すべく、次期中期経営計画期間となる2027年度までを見通したうえでの方針策定と2022年度までの経営指標の見直しを行いました。

 この見直しにおいては、コロナ禍からの経営再建と事業構造改革の行程を、「変革・復興期(第Ⅰ期)」(~2022年度)、「変革・復興期(第Ⅱ期)」(2023~2027年度)、「進化・成長期」(2028年度~)の三期で捉え、各期に応じた優先順位付けを行っています。全期を通じて安全性の向上と地域共生に取り組みつつ、「変革・復興期」においては構造改革と財務基盤の立て直しによる経営の強靭化に取り組みます。特に「変革・復興期(第Ⅰ期)」では変化対応力を高めるべく、企業改革に集中的に取り組み、その後の「進化・成長期」におけるさらなる発展につなげていきます。

 なお、本見直し計画では、「変革・復興期」全般にわたる経営の方向性と、そのための「変革・復興期(第Ⅰ期)」の取り組み・経営指標を示しています。「変革・復興期(第Ⅱ期)」の具体的計画は、今後の社会変化を踏まえ次期中期経営計画で改めて策定します。

 以上を踏まえた中長期戦略は、限られた資源で最大限の効果を発揮させるため、以下4つを軸に再構築します。

①「福知山線列車事故を原点とした安全性向上」…「全期」

②「地域共生の深耕と新たな価値創造への挑戦」…「全期」

③「経営の強靭化」…「変革・復興期(第Ⅰ期)」「変革・復興期(第Ⅱ期)」

④「変化対応力を高める企業改革」…「変革・復興期(第Ⅰ期)」

 

① 福知山線列車事故を原点とした安全性向上

ア.「組織全体で安全を確保する仕組み」と「安全最優先の風土」の構築

・福知山線列車事故後の安全の取り組みを教訓に照らして振り返り、組織として継承していくとともに、一人ひとりの考動に結びつける取り組みを推進

・ルールや仕組みを定めて、それを守ることによる安全確保に加え、一人ひとり及び組織がより能動的に考動することによる安全確保を推進

イ.踏切・ホームの安全対策の充実

・お客様との接点である踏切・ホームにおける安全対策をさらに推進

ウ.鉄道労災対策

・労働災害防止に向けて、過去の事象を踏まえた対策を実施するとともに、労災につながる作業自体の削減に向けた検査の車上化等を推進

エ.自然災害対策(防災・減災)、防犯対策

・自然災害の激甚化に備え、重要施設への浸水等を想定した対策等も推進

・列車内での犯罪行為に対する抑止力の向上、効率的な訓練による対応力向上

オ.新型コロナウイルス感染防止

・お客様の感染拡大防止に向けて、駅・車内での消毒や設備の抗ウイルス・抗菌化等を推進

・混雑回避に資するリアルタイムかつ詳細な情報提供

 

② 地域共生の深耕と新たな価値創造への挑戦

ア.地域共生の深耕

 当社グループがこれまで築いてきた、新幹線を基軸とした各エリアの鉄道ネットワークの充実と地域に根差した生活サービスとの融合により「訪れたい、住みたいまちづくり」につなげるスパイラルアップの展開にさらに磨きをかけ、地域の中核都市の発展への寄与と分散型社会への適応につなげます。

 そのためにも、デジタル技術も活用し、さらに便利で魅力的な移動・生活サービスを創造・提供します。

・広域鉄道ネットワーク充実のための山陽新幹線の利便性向上と北陸新幹線の新大阪への早期全線開業

・大阪・関西万博を契機とする関西都市圏ブランドの確立(鉄道ネットワークの利便性向上、重点線区でのまちづくりに向けた拠点駅開発推進)、将来の成長を見据えた基盤づくり

・「せとうちパレットプロジェクト」をはじめとした、鉄道・創造事業、地域が一体となった西日本各エリアの魅力創出

・ICOCA、MaaS、ネット予約サービスのシームレスな連携及び会員・ポイント共通化、データ利活用を通じた個々のお客様に合わせた便利で魅力ある移動・生活サービスの提供

・事業スキームの多様化、他社協業や再開発事業への参画によるサステナブルなまちづくり、地域のコミュニティを創出する生活密着型商業施設の展開

イ.最適な地域交通体系の模索・実現

 引き続き全ての線区を対象に、ご利用に応じた列車ダイヤの適正化に取り組むとともに、鉄道の特性が発揮できないと考えられる線区については、イノベーションの力も活用しながら、地域のニーズにより適した持続可能な新しい交通体系を、積極的に地域と共に模索し早期に実現していきます。

ウ.新たな価値創造への挑戦

 既存資源の最大活用や社会変化に対応した多様な暮らし方や働き方の提案につながる新たな価値を提供します。

・多拠点生活者向けの「住まいのサブスク」、不動産・ホテルにおける既存施設を柔軟に活用したサービス(シェアオフィス等)によるテレワーク・ワーケーション拠点の市場開拓や、新たな移動ニーズに対応するサービス創造

・データ分析を通じて得られたソリューション技術の外部展開、既存の事業資産を新たな用途で活用した事業展開への挑戦

 

③ 経営の強靭化

ア.財務基盤の早期回復による財務健全性の確保

 今後新たな感染症や自然災害といった災禍が起こった場合でも、社会インフラを担う企業グループとしての使命を果たし続けていくために、また、変化対応力を向上させ、さらなる発展につなげるためにも、早期に財務基盤の回復を図ります。

 資金使途の優先順位は、①安全投資、②債務削減・成長投資・株主還元とし、基幹事業である鉄道の安全投資を最優先に、早期の債務削減に重点を置くとともに、より効果の高い成長投資と長期安定的な株主還元を実行します。

イ.構造改革

 予測困難な未来に対応しながら価値を提供し続けるとともに、行動変容によりご利用減少が継続したとしても安定した利益が創出できる事業構造への改革を進めます。

・生産性向上(CBM確立を軸とするメンテナンスのシステムチェンジ、駅での販売のあり方見直し等)

※Condition Based Maintenance:設備状態の常時監視による品質と効率性を両立させる予防保全

・鉄道輸送におけるご利用ピーク時間帯や時期の平準化に応じた列車ダイヤの適正化

・創造系各事業における市場変化に柔軟に対応したスピーディな事業ポートフォリオの見直しやアライアンス強化、業務プロセス見直しによる高効率化の実現

・組織構造改革、働き方改革による本社・支社機能の見直しと間接部門の生産性向上

 

④ 変化対応力を高める企業改革

ア.企業風土改革、人財、組織

 変化の予測が難しい社会において成長し続けるためには、既存事業のオペレーション改善や強みの深掘りといった既存分野と、環境変化に対応した新たな機会獲得や事業領域の開拓といった新規分野の両面において、果敢に挑戦し、さまざまな人やパートナーと出会い、試行錯誤を積み重ね、イノベーションを起こすことが重要です。それを実現していくのは人財であり、人の可能性を最大限引き出し、成長できる場づくりを重視して、組織と人財が共に変化に対応し成長していくための基盤づくりに取り組みます。

・不確かなものへの挑戦を促す企業風土への改革

・多様な人財が活躍し、それぞれが認め合い、能力を高め合う組織風土構築とさらなる成長支援

・グループ経営強化を実現する実行力と変化対応力を兼ね備えた組織と仕組みの構築

イ.JR西日本グループデジタル戦略の推進

 デジタル技術により当社グループが持つ豊富で多彩なデータの利活用を促進し、駅や店舗、地域のリアルな体験へとつなげることで、新しい価値を生み、提供し続け、西日本エリアの活性化に貢献、さらにそのプロセスを通じた業務変革を進めます。

 

<デジタル戦略の軸 ~3つの「再構築」~>

① 顧客体験の再構築(お客様ニーズに応じたサービスのあり方の追求)

② 鉄道システムの再構築(技術ビジョンの実現)

③ 従業員体験の再構築(働き方改革)

 

(4) 対処すべき課題

 「中計2022」の見直しにおいては、お客様の行動変容による市場構造の変化に対応するために、鉄道の高コストな事業構造を改革すること、新たな価値を創造すること、ならびにグループ全体で予測困難な未来への変化対応力を向上させることが重要な経営課題です。

 引き続き、ご利用回復の見通しを立てることが困難な状況に変わりはなく、また、コロナ禍の収束後も、お客様の志向や通勤、出張のご利用等、質・量双方において、従来どおりに戻ることはないと考えています。

 しかしながら、社会の変化を変革の契機と捉え、当社グループの存在意義、変わらぬ価値観を改めて確認し、安全性の向上に取り組むとともに、大阪・関西万博開催といった機会も活かし、地域と共に成長し続け、持続可能な社会づくりに貢献していきます。

 あわせて、当社グループが取り組むサステナビリティにかかる重点分野のひとつである地球環境について、脱炭素社会の実現に向け、環境長期目標「JR西日本グループ ゼロカーボン2050」で掲げた、2050年に当社グループ全体のCO2排出量「実質ゼロ」をめざすとともに、その達成に向け、2030年度にCO2排出量46%削減(2013年度比)をめざします。また、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言への賛同を表明しており、提言に基づく情報開示を行っていきます。

 さらに、これまで「JR西日本技術ビジョン」の具体化に挑戦する駅としてさまざまな実証実験を行ってきた「うめきた(大阪)駅」をイノベーションの実験場「JR WEST LABO」の中心と位置づけ、オープンイノベーションを加速させていきます。「JR WEST LABO」でのさまざまなパートナーとの共創により、新たな価値創造を推進するとともに、経営課題や社会課題を解決する最先端の技術を社会に発信し続けていきます。

 

 なお、文中における将来に関する事項は、当有価証券報告書提出日において当社グループが判断したものであります。

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