事業等のリスク

2 【事業等のリスク】

 有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のようなものがあります。

 なお、文中における将来に関する事項は、当有価証券報告書提出日において当社グループが判断したものであります。

 

(1) 安全対策について

 鉄道事業においては、事故が発生した場合、お客様の生命・財産に係る大きな被害をもたらすことがあり、経営に対しても甚大な影響を及ぼすことがあります。

 鉄道を基幹事業とする当社においては、安全で安心され信頼される質の高い輸送サービスを提供していくことが、最重要課題であると考えております。

 しかしながら、2005年4月25日、福知山線塚口駅~尼崎駅間において極めて重大な事故を惹き起こしました。決してこのような事故を起こさないとの決意のもと、企業としてのめざすべき姿、価値観を示した「企業理念」及び安全に関する具体的行動指針として「安全憲章」を新たに制定し、これらの具現化に向けた取り組みを進めております。2018年2月には「安全考動計画2022」を策定し、さらなる安全レベル向上をめざし、重大な事故や労働災害の未然防止に向けた取り組みを開始しております。

 また、2006年に施行された改正鉄道事業法に基づき制定した「鉄道安全管理規程」のもと、安全管理体制の確立に努めており、新型コロナウイルス感染症の影響下においても着実に取り組んでまいります。

 

(2) 鉄道事業に係る法律関連事項について

① 鉄道事業法(昭和61年法律第92号)

 鉄道事業者は、本法の定めにより、営業する路線及び鉄道事業の種別ごとに国土交通大臣の許可を受けなければならない(第3条)とともに、運賃及び一定の料金の上限について国土交通大臣の認可を受け、その範囲内での設定・変更を行う場合は、事前届出を行うこととされております(第16条)。また、鉄道事業の休廃止については、国土交通大臣に事前届出(廃止は廃止日の1年前まで)を行うこととされております(第28条、第28条の2)。

② 旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律の一部を改正する法律(以下「JR会社法改正法」という。)(平成13年法律第61号)

 東日本旅客鉄道株式会社、東海旅客鉄道株式会社及び西日本旅客鉄道株式会社(以下「本州旅客会社」という。)を「旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律(以下「JR会社法」という。)(昭和61年法律第88号)」の適用対象から除外するJR会社法改正法が2001年12月1日(以下「施行日」という。)に施行されました。すなわち、本州旅客会社においては、JR会社法に定められる発行する株式等の募集及び長期借入金の認可(第5条)、重要な財産の譲渡等の認可(第8条)等の全ての規定の適用から除外されております。

 なお、本法附則により、国土交通大臣は、国鉄改革の経緯を踏まえ、利用者の利便の確保等を図るため、本州旅客会社及びその鉄道事業の全部又は一部を譲受・合併・分割・相続により施行日以後経営するもののうち国土交通大臣が指定するもの(以下「新会社」という。)がその事業を営むに際し、当分の間配慮すべき事項に関する指針として以下の3点について定めることとされております。この指針は2001年11月7日に告示され、2001年12月1日から適用となっております。国土交通大臣は、指針を踏まえた事業経営を確保する必要があるときには新会社に対し指導及び助言をすることができ、さらに新会社が正当な理由がなく指針に反する事業経営を行ったときには勧告及び命令をすることができるとされております。

・指針に定められる事項

(a)会社間(新会社の間又は新会社と北海道旅客鉄道株式会社、四国旅客鉄道株式会社、九州旅客鉄道株式会社及び貨物会社との間をいう。以下同じ。)における旅客の運賃及び料金の適切な設定、鉄道施設の円滑な使用その他の鉄道事業に関する会社間における連携及び協力の確保に関する事項

(b)日本国有鉄道の改革の実施後の輸送需要の動向その他の新たな事情の変化を踏まえた現に営業している路線の適切な維持及び駅その他の鉄道施設の整備に当たっての利用者の利便の確保に関する事項

(c)新会社がその事業を営む地域において当該事業と同種の事業を営む中小企業者の事業活動に対する不当な妨害又はその利益の不当な侵害を回避することによる中小企業者への配慮に関する事項

 また、施行日の前に本州旅客会社が発行した社債について、JR会社法第4条の一般担保の規定が施行日以後もなおその効力を有するとするなど、一定の経過措置が定められております。

 

(3) 運賃及び料金の設定又は変更について

① 運賃及び料金の認可の仕組みと手続き

 鉄道運送事業者が運賃及び新幹線特急料金(以下「運賃等」という。)の上限を定め、又は変更しようとする場合、国土交通大臣の認可を受けなければならないことが法定されております(鉄道事業法第16条第1項)。

 また、その上限の範囲内での運賃等の設定・変更並びに在来線特急料金等その他の料金の設定・変更については、事前の届出で実施できることとなっております(鉄道事業法第16条第3項及び第4項)。

 鉄道運送事業者の申請を受けて国土交通大臣が認可するまでの手続きは、大手民営鉄道事業者における近年の例によれば次のようになっております。

 

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(注)1 鉄道事業法第64条の2に基づく手続きであります。また、国土交通省設置法(平成11年法律第100号)第23条では、運輸審議会が審議の過程で必要があると認めるとき又は国土交通大臣の指示等があったときに公聴会が開かれることが定められております。

2 鉄道営業法第3条第2項で、運賃その他の運送条件の加重をなす場合に7日以上の公告をしなければならないことが定められております。

 

 なお、各旅客会社における独自の運賃改定の実施の妨げとなるものではありませんが、国鉄改革の実施に際し利用者の利便の確保等を図るため、旅客会社では、現在、2社以上の旅客会社間をまたがって利用する旅客及び荷物に対する運賃及び料金に関し、旅客会社間の契約により通算できる制度とし、また、運賃について、遠距離逓減制を加味したものとしております。

② 運賃改定に対する当社の考え方

ア.当社では、1987年4月の会社発足以降、消費税等を転嫁するための運賃改定(1989年4月、1997年4月、2014年4月及び2019年10月)を除くと、これまで運賃改定を実施しておりません。

 大手民営鉄道事業者の場合、兼業部門も含めた総合的な経営判断に立って鉄道事業部門の税引後当期純利益に先行き赤字が見込まれる場合に運賃改定の申請が行われ、上記の手続きを経て改定が実施されている例が多いと見受けられます。当社の場合、兼業部門収入の全収入に占める割合が著しく小さいこと等を踏まえた上で、適正利潤を確保し得るような運賃改定を適時実施する必要があるものと考えております。

イ.事業経営に当たっては、収入の確保と合理化努力を進め能率的な経営に努めますが、適正利潤についてはこのような努力を前提とした上で、株主に対する配当に加え、将来の設備投資や財務体質の強化等を可能なものとする水準にあることが是非とも必要であると考えております。

ウ.鉄道事業の原価構成に大きな影響を与える設備投資については、事業者の明確な経営責任の下で主体的に取り組むことが必要であると認識しているところであります。

 

③ 国土交通省の考え方

 当社の運賃改定に関し、国土交通省からは、次のような考え方が示されております。

ア.西日本旅客鉄道株式会社を含む鉄道事業の運賃の上限の改定に当たっては、鉄道事業者の申請を受けて、国土交通大臣が、能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたもの(以下「総括原価」という。)を超えないものであるかどうかを審査して認可することとなっている(鉄道事業法第16条第2項)。

 なお、原価計算期間は3年間とする。

イ.総括原価を算定するに当たっては、他の事業を兼業している場合であっても鉄道事業部門のみを対象として、所要の配当を含めた適正な利潤を含む適正な原価を算定することとなっている。また、通勤・通学輸送の混雑等を改善するための輸送力の増強、旅客サービス向上等に関する設備投資計画の提出を求め、これについて審査を行い、必要な資本費用については原価算入を認めているところである。

ウ.総括原価を算定する方法としては、当該事業に投下される資本に対して、機会費用の考え方による公正・妥当な報酬を与えることにより資本費用(支払利息、配当等)額を推定するレートベース方式を用いる方針であり、総括原価の具体的な算定は以下によることとしている。

総括原価=営業費等(注1)+事業報酬

・ 事業報酬=事業報酬対象資産(レートベース)×事業報酬率

・ 事業報酬対象資産=鉄道事業固定資産+建設仮勘定+繰延資産+運転資本(注2)

・ 事業報酬率=自己資本比率(注3)×自己資本報酬率(注4)+他人資本比率(注3)×他人資本報酬率(注4)

 

(注)1 鉄道事業者間で比較可能な費用について、経営効率化を推進するため各事業者間の間接的な競争を促す方式(ヤードスティック方式)により、比較結果を毎事業年度終了後に公表するとともに、原価の算定はこれを基に行うこととしている。

2 運転資本=営業費及び貯蔵品の一部

3 自己資本比率30%、他人資本比率70%

4 自己資本報酬率は、公社債応募者利回り、全産業平均自己資本利益率及び配当所要率の平均、他人資本報酬率は借入金等の実績平均レート

 

エ.なお、認可した上限の範囲内での運賃等の設定・変更、又はその他の料金の設定・変更は、事前の届出で実施できることとなっているが、国土交通大臣は、届出された運賃等が、次の(ア)又は(イ)に該当すると認めるときは、期限を定めてその運賃等を変更すべきことを命じることができるとされている(鉄道事業法第16条第5項)。

(ア)特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものであるとき

(イ)他の鉄道運送事業者との間に不当な競争を引き起こすおそれがあるものであるとき

④ 鉄道運賃・料金制度に関する動き

 新型コロナウイルス感染症の影響によるライフスタイルの変化や、デジタル技術の発展・普及への対応等、鉄道を取り巻く社会状況が大きく変化していることを踏まえ、国土交通省により2022年2月に「交通政策審議会陸上交通分科会鉄道部会 鉄道運賃・料金制度のあり方に関する小委員会」が設置され、これからの時代に求められる鉄道運賃・料金のあり方が議論されているところです。

 将来的に現行の鉄道運賃・料金制度等に変更が生じた場合、当社の経営成績に影響を与える可能性があります。

 

(4) 整備新幹線計画について

① 整備新幹線の建設計画

 整備新幹線とは、1970年に制定された全国新幹線鉄道整備法に基づき整備計画が決定された、北陸新幹線(東京都・大阪市)、北海道新幹線(青森市・札幌市)、東北新幹線(盛岡市・青森市)、九州新幹線(鹿児島ルート[福岡市・鹿児島市])及び九州新幹線(西九州ルート[福岡市・長崎市])の5路線を指し、このうち当社は北陸新幹線(上越市・大阪市)の営業主体となっております。

 この5路線については、国鉄の経営悪化等のため建設が見合わされておりましたが、以下のとおり、JR発足後財源問題等の解決等整備スキームの構築が図られ、順次着工されてまいりました。これまでに北陸新幹線(長野・金沢間)、東北新幹線(盛岡・新青森間)、九州新幹線(博多・鹿児島中央間)及び北海道新幹線(新青森・新函館北斗間)が開業し、現在、北陸新幹線(金沢・敦賀間)、北海道新幹線(新函館北斗・札幌間)及び九州新幹線(長崎ルート[武雄温泉・長崎間])の3路線において、建設主体である独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構により工事が進められております。

 

[整備スキームの構築]

・1988年8月(政府・与党申合せ)  3線5区間の着工優先順位及び整備規格等を決定

・1990年12月(政府・与党申合せ)  並行在来線はJRから経営分離すること等を決定

・1996年12月(政府与党合意)    JR負担は受益の範囲内の貸付料等とすること等を決定

・2000年12月(政府・与党申合せ)  新たな着工区間、整備規格・整備期間の見直し等を決定

・2004年12月(政府・与党申合せ)  新たな着工区間、整備規格・整備期間の見直し等を決定

・2011年12月(政府・与党確認事項) 今後の整備新幹線の取扱いについて確認

<2011年12月政府・与党確認事項における北陸新幹線に関わる内容>

 新たな区間については、収支採算性と投資効果を改めて確認した上で、以下の条件が整い、かつ、課題について対応が示されていることを確認した区間から、所要の認可等の手続きを経て着工。

区間

認可・着工に先立ち満たすべき条件

想定完成・開業時期

白山総合車両基地・敦賀間

・JR西日本の同意

・並行在来線の経営分離に関する沿線

地方自治体の同意

長野・白山総合車両基地間の開業(2014年度末)から概ね10年強後

・2015年1月(政府・与党申合せ)  今後の整備新幹線の取扱いについて確認

<2015年1月政府・与党申合せにおける北陸新幹線に関わる内容>

 北陸新幹線金沢・敦賀間の完成・開業時期を2025年度から3年前倒しし、2022年度末の完成・開業をめざす。

 

[北陸新幹線のうち当社管内の着工・開業]

・1992年8月 石動・金沢間(24㎞) 新幹線鉄道規格新線(スーパー特急方式)着工

・2001年4月 上越・富山間(110㎞) フル規格着工

(うち糸魚川・黒部宇奈月温泉間は1993年9月に新幹線鉄道規格新線〔スーパー特急方式〕として着工され、この時点でフル規格化された。)

・2005年4月 富山・金沢間(59㎞) フル規格着工

(うち石動・金沢間は1992年8月に新幹線鉄道規格新線〔スーパー特急方式〕として着工され、この時点でフル規格化された。)

福井駅部 着工

・2006年4月 白山総合車両所 着工

・2012年6月 白山総合車両所・敦賀間(114km) 着工

・2015年3月 長野・金沢間 開業

② 整備新幹線建設の費用負担

 整備新幹線の建設費は、1996年12月の政府与党合意に基づき1997年に全国新幹線鉄道整備法及び関連法令が改正され、「国、地方公共団体及び旅客会社が負担すること」、「旅客会社の負担は、整備新幹線の営業主体となる旅客会社が支払う受益の範囲を限度とした貸付料等をあてること」と定められております。

 また、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構の交付する既設新幹線の譲渡収入の一部を財源とする交付金については、国の負担すべき費用の一部とみなすこととされております。

 なお、整備新幹線の営業主体であるJRが支払う貸付料の額については、「独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構施行令」第6条において、当該新幹線開業後の営業主体の受益に基づいて算定された額(定額部分)に、貸付けを受けた鉄道施設に関して同機構が支払う租税及び同機構の管理費の合計額を加えた額を基準として、同機構において定めるものとされております。

 北陸新幹線上越妙高・金沢間の貸付料につきましては、同機構により算定された定額部分の年額80億円が当該新幹線開業に伴う当社の受益の範囲内にあると判断し、2015年3月に同機構との合意に至るとともに、当該貸付料の額について、同機構は2015年3月に国土交通大臣の認可を受けております。

 今後開業が予定されている区間の貸付料につきましても、同様に、当社と同機構との合意を経て決定されるものと認識しております。

 

③ 北陸新幹線に対する当社の考え方

 2011年12月の政府・与党確認事項に基づき、国土交通省から当社に対して、白山総合車両基地・敦賀間の建設着工の同意、並びに軌間可変電車を導入し新幹線と在来線との間で直通運転を行う計画についての意向確認がありました。

 当社としては、新幹線整備により大幅な時間短縮効果が見込まれることから、早期の大阪までの全線開業が望ましいと考えております。しかし、関西・中京圏と北陸圏との結節点である敦賀までの整備であっても、一定の時間短縮効果が期待されることに加え、軌間可変電車で運行すれば敦賀での乗換が回避されることから、2012年4月、白山総合車両基地・敦賀間の建設着工に同意するとともに、軌間可変電車を導入する計画についても異存ない旨、国土交通省へ回答しております。なお、軌間可変電車の導入にあたっては、安全性、耐久性及び保守性の確認と雪対策等の課題への対応を十分見極める必要があると考えておりました。

 その後、2018年8月に与党整備新幹線建設推進プロジェクトチームにおいて、九州新幹線(西九州ルート)検討委員会より九州新幹線(西九州ルート)への軌間可変電車の導入断念が報告されました。これを踏まえて、国土交通省より北陸新幹線への軌間可変電車の導入は難しいとの考えが報告されました。報告にあたり、北陸新幹線の営業主体である当社に対して、国土交通省より、北陸新幹線への軌間可変電車の導入に関する意向確認があり、当社としては、2022年度末に迫る金沢~敦賀間の開業には間に合わないこと、また新大阪開業までの暫定的かつ短期間の軌間可変電車への投資判断は選択し得ないことから、北陸新幹線に軌間可変電車を導入することはできない旨を回答いたしました。

 一方、2017年10月には国土交通省から独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構に対して北陸新幹線金沢~敦賀間の工事実施計画(その2)が認可されました。これを受けて、敦賀駅では幹在の乗換利便性を高めるべく、上下乗換設備の工事が開始されております。営業主体である当社としては、同設備を活用し、可能な限り円滑に乗り換えていただけるよう取り組んでまいります。

 2015年1月の政府・与党申合せにおいては、金沢~敦賀間の完成・開業時期を2025年度から3年前倒しし、2022年度末の完成・開業をめざすこととされ、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構において工事が進められておりましたが、2020年12月、国土交通省より、1年程度の遅延によって3年前倒しの目標は2年に留まることが報告され、2021年3月に工事実施計画の変更が認可されました。当社としては、新たに示された目標である2023年度末の金沢~敦賀間開業に向けて着実に準備を進めてまいります。

 次に、敦賀以西については、2017年3月に与党整備新幹線建設推進プロジェクトチームより出された結論に基づき、「小浜京都ルート」(敦賀駅-小浜市(東小浜)附近-京都駅-京田辺市(松井山手)附近-新大阪駅)の環境影響評価の手続きが現在進められております。当社としては、これらの内容を引き続き注視してまいります。

 なお、全線開業に向けた着工区間の延伸に際しても「当社の負担は受益の範囲内であること」、「並行在来線の経営分離」という従前からの基本原則が守られる必要があると考えております。

 

(5) 長期債務について

 1987年の会社設立に際し、当社は、日本国有鉄道改革法(昭和61年法律第87号)に基づき、国鉄の長期債務のうち1兆158億円を承継いたしました。さらに、1991年10月1日、当社は、新幹線鉄道に係る鉄道施設の譲渡等に関する法律(平成3年法律第45号)に基づき、保有機構より山陽新幹線に係る鉄道施設(車両を除く)を9,741億円で譲り受けました。保有機構との契約により、譲受価格のうち8,591億円については25.5年、1,149億円については60年の元利均等半年賦により鉄道整備基金(現:独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構)に支払うこととなっており、これらの未払金は鉄道施設購入長期未払金として計上しております。なお、譲受価格のうち8,591億円については、2017年1月に返済を完了しています。

 2022年3月期においては、2021年3月期と同様に、新型コロナウイルス感染症の流行による厳しい経営状況を前提に、早め厚めの資金確保に努めた結果、2022年3月31日現在、連結長期債務残高は前期比10.6%増の1兆7,248億円(1年以内返済分を含む。)となっており、支払利息は、214億円であります。(なお、2020年3月期、2021年3月期の支払利息は、それぞれ194億円、204億円であります。)

 当社グループでは、引き続き経営の安定性を保つために長期債務残高や支払利息の水準を注視してまいりますが、今後の当社グループの財政状態及び経営成績に影響を与える可能性があります。

 

(6) 経済情勢について

 当社グループは、日本経済の情勢とりわけ主な営業エリアである西日本地域における景気動向の影響を受けており、新型コロナウイルス感染症の影響を含めた今後の国内経済情勢が、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を与える可能性があります。

 また、海外の景気動向、政治情勢等に伴う訪日外国人の状況が、当社グループのご利用状況、経営成績に影響を与える可能性があります。

 そのほか、物価上昇、取引先の倒産等により、特定の資材が入手困難になることやその資材を購入する費用が増加すること等で、経営成績に影響を与える可能性があります。

 

(7) 少子高齢化等人口動態の変化について

 2017年4月に国立社会保障・人口問題研究所が発表した「日本の将来推計人口(出生中位・死亡中位推計)」によると、日本の総人口は、2015年時点の1億2,709万人から、以後長期の人口減少過程に入り、2053年には1億人を割って9,924万人まで減少すると推計されております。また、生産年齢(15~64歳)人口は、1995年の8,726万人をピークに減少局面に入り、2015年時点の7,728万人から、2029年には6,950万人まで減少する一方、老年(65歳以上)人口は、2015年時点の3,386万人から、2029年には3,699万人まで増加すると推計されております。

 当社グループは、西日本地域を主な営業エリアとして、鉄道事業、流通業、不動産業及びホテル業等の事業を展開しております。当社グループの営業エリアである西日本地域においても人口減少や少子高齢化が今後進展することが予測されており、同地域の人口減少や少子高齢化が進行した場合、長期的には輸送人員の減少、これに伴う当社グループ施設・店舗の利用者減少等、当社グループの業績に影響を与える可能性があります。また、当社グループの事業運営を支える従業員の確保が困難になることや人件費が増加する可能性があります。

 

(8) 競合について

① 鉄道事業

 当社グループは、鉄道事業において、他の鉄道会社及び航空会社、自動車、バス等の対抗輸送機関と競合しております。

 特に、航空会社との間では、コロナ禍による需要減少の中においても運行頻度、航空運賃の価格戦略等、依然として競合関係にあります。

 新幹線においては、首都圏滞在時間の拡大や所要時間の短縮等の「のぞみ」の利便性向上、お客様のご利用増減にあわせた列車の設定、車内の快適性を向上したN700Sの投入や「EXサービス」、「e5489」等のインターネット予約サービスの充実等を進めております。また、アーバンネットワークにおいては、通勤時間帯の一部特急列車の停車駅や運転区間の拡大、運転間隔の見直し、特急「はるか」への新型車両投入や着座ニーズに対する施策の展開等、鉄道ネットワークの充実や快適性と利便性の向上によりご利用促進を図っております。さらに、地域との連携による各種キャンペーンの展開や「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」や「WEST EXPRESS 銀河」の運転等、観光面でのご利用促進に努めております。加えて、お客様にご利用していただきやすい鉄道づくりに向け、エレベーターやエスカレーター等のバリアフリー設備の整備を進めております。

 今後は、フリークエントユーザーへの優遇サービスや、機動的な価格設定等により、新幹線の競争力を強化するとともに、ICOCAポイントの活用等、ICカードの利便性を高めることで、一層のご利用促進を図ってまいります。

② 鉄道以外の事業

 当社グループは、鉄道事業以外に、流通業、不動産業及びその他(ホテル業等)の事業を展開しております。

 流通業においては周辺における他社の小売店舗の新規進出、不動産業においても、他社の新規進出や周辺商業施設のリニューアル、その他については、ホテル業における外資系高級ホテル、国内他社による宿泊特化型ホテルの進出等、既存及び新規の事業者との競合により、それぞれ競争が激しくなっており、当社グループの収益に影響を与える可能性があります。

 しかしながら、当社グループは主に駅及びその周辺で事業を展開していることから、立地は良く競争においては有利な立場にあるものと考えております。

 当社グループは、鉄道を利用されるお客様や沿線で生活される皆様の期待に応える質の高い商品やサービスの提供、地域ビジネスの創造や育成等を通じて、線区価値及び地域価値の向上を実現し、定住人口、関係人口、交流人口の拡大をめざします。

 

(9) イノベーション及び技術革新について

 当社グループは、鉄道を中心として流通・不動産・ホテル等の事業を営んでいますが、新しい技術の登場や、新たなビジネス・価値提供の仕組みの登場により、それぞれの事業の収益が中長期的に影響を受ける可能性があります。

 例えば、シェアリングエコノミーや自動車の自動運転等の新しい技術・仕組みにより交通サービスが大きく変化する可能性があります。

 また、直近の新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、テレワーク等の技術の普及が加速し、定着した新しい生活様式や、お客様の志向の変化を踏まえた新しいサービスが登場した結果、当社グループの収益が影響を受ける可能性があります。

 当社グループもまた、こうしたイノベーションの成果を事業に適用し、新しい時代のお客様の期待に応えられるサービスの提供をめざします。

 

(10) コンピュータシステムについて

 当社グループは、列車運行に関わるシステム、指定席等の販売に関わるシステム、運輸収入に関わるシステムのほか、事業全般にわたり様々な分野のシステムを用いております。また、当社グループと密接な取引関係にある他の会社や、各旅客会社間の収入清算等の計算業務を委託している鉄道情報システム㈱においても、コンピュータシステムが重要な役割を果たしております。

 したがって、そのコンピュータシステムに人的ミス、自然災害、停電及びサイバー攻撃等による障害が生じた場合にその事業遂行に影響を受ける可能性があります。また、コンピュータシステム上で管理されている個人情報等が外部に流出した場合、当社グループの信用の低下等により、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を与える場合があります。

 当社グループでは、自社システムの点検、情報セキュリティ対策、機能向上や社員教育を実施し、障害防止及び事故防止に努めるとともに、障害及び事故が発生した場合においても、その影響を最小限のものとするよう、速やかな初動体制の構築等に努めております。

 また、業務におけるIT依存度も一層高まっており、コンピュータシステムの安定稼働を維持するための設備・インフラ面の強化・見直し等、自然災害による被災対策を計画的に進めております。

 

(11) 地球環境への対応について

 当社グループは、地球環境保護を重要な経営課題と認識しており、車両をはじめとした鉄道設備のさらなる省エネルギー化、ごみや発生品等の3R(Reduce:資源使用量や廃棄物の削減、Reuse:再使用、Recycle:再資源化)の推進、事業活動による自然や生態系への影響の抑制等に努めており、また、地球温暖化防止(省エネルギー)、循環型社会構築への貢献(省資源)、地域・自然との共生について、より長期的な観点で検討を深め、取り組みを進めております。

 一方、「SDGs」「パリ協定」「グラスゴー気候合意」等を踏まえ、企業を取り巻く事業環境は大きく変化しており、環境対応への社会的要請が一層高まることが想定されることから、脱炭素社会、循環型社会への移行の加速に伴い、環境に配慮した開発への投資や既存設備の更新等、追加の対策と関連する費用が発生する可能性があります。

 とりわけ、気候変動関連のリスクと機会について、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に基づく情報開示を行っており、その中で、我が国の電源構成の見直しに伴う再生可能エネルギー発電促進賦課金の金額上昇、炭素税導入による税負担の増加、また台風・洪水の発生頻度増加による被害の増加といったリスクや、鉄道の環境優位性が評価され、MaaS普及等による利便性向上も通じたご利用増加といった機会についての分析を開示しています。

(参照URL:https://www.westjr.co.jp/company/action/env/pdf/tcfd_20211227.pdf)

 また、脱炭素社会の実現に向け、環境長期目標「JR西日本グループ ゼロカーボン2050」を策定し、2050年に当社グループ全体のCO2排出量※「実質ゼロ」、そしてその中間目標として、2030年度にCO2排出量※46%削減(2013年度比)をめざしており、達成に向けては、①新技術による鉄道の環境イノベーションの推進、②省エネルギーのさらなる推進、③地域との連携による脱炭素社会実現への貢献の3つの軸で取り組みを進めてまいります。※スコープ1及びスコープ2排出量

(参照URL:https://www.westjr.co.jp/company/action/env/pdf/zero-carbon2050-1.pdf)

 当社グループは、社会の構成員として、地球環境保護の取り組みを通じて、事業活動の基盤である社会の持続可能性を高め、お客様の暮らしを支えつつ、社会インフラ企業グループとしての使命を果たし続けることで、めざす未来の実現に貢献していきます。

 

(12) 自然災害等の発生について

 地震、台風、地すべり、洪水等の自然災害によって、当社グループの事業及び輸送網インフラは大きな被害を受ける可能性があります。特に1995年1月に発生した阪神・淡路大震災では、山陽新幹線及び東海道本線を中心に大きな被害を受けました。

 当社としては、将来においても、事業にもたらす影響の大きな自然災害等による被害を最小限のものとするよう、防災や減災に努めているところです。具体的には、新幹線における早期地震検知警報システムや在来線も含めた緊急地震速報システム等の対策や、今後発生が予想される南海トラフ地震に備えた高架橋柱や駅舎の耐震補強工事等を着実に実施するほか、津波に備えて避難誘導標等を整備し、「津波避難誘導心得」を制定するなど速やかな避難・誘導等が行えるように取り組みを進めるとともに、実践的訓練を進めております。また、2004年10月の新潟県中越地震での新幹線脱線を踏まえ、新幹線の地震対策の検討や関連する技術開発を推進することを目的に設置された「新幹線脱線対策協議会」の提言等を受け、地震動により走行中の列車が逸脱し被害が拡大することを防止するために、山陽新幹線において逸脱防止ガードの整備を進めており、2015年12月に新大阪・姫路間の整備が完了し、姫路・博多間において、引き続き整備を進めております。また、近年、短期間に集中化する豪雨による災害が激甚化しており、2015年3月に、近年の降雨形態の変化や過去の災害雨量を考慮し、在来線における降雨時運転規制について、規制値・雨量指標等を一部見直しました。さらに、大雨や落石への防護設備等の対策を実施するなど、重大な被害の発生を可能な限り回避するための取り組みを推進してまいります。

 なお、当社では、これらの自然災害等に備えるため、あらかじめ定めた条件によって資金調達が可能なコミットメントラインを金融機関から導入するとともに、主な鉄道施設を対象とする地震保険を含めた損害保険に加入しておりますが、必ずしもこれらの方策によって全ての被害をカバーできない可能性があります。

 また、上記のような直接の被害のほかにも、大規模な自然災害に伴い、電力不足等が生じた場合には、鉄道事業をはじめとする当社グループの事業に支障が出る可能性があります。

 

(13) 重大な犯罪行為・テロ等の発生について

 重大な犯罪行為や、テロ活動、武力攻撃等により当社グループの設備等に被害を受けた場合、事業に影響を受ける可能性があります。

 当社では、これらに備え、不審物及び不審者への警戒警備の強化や防犯対策訓練の実施、防護装備品の配備等の各種対策を行っています。

 

(14) 感染症の発生・流行について

 2020年より新型コロナウイルス感染症が流行し、長期間にわたり西日本エリアをはじめ日本国内や海外において広く継続しており、法令等により経済活動の制限や行動自粛がなされ、お客様が出控えたりするなど、当社グループの業績に影響を与えています。

 当社は、2013年4月に施行された新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく指定公共機関として、新型インフルエンザ等対策の実施に資するため、「西日本旅客鉄道株式会社新型インフルエンザ等対策に関する業務計画」を定めています。この業務計画に基づき、政府関係機関や各自治体等と緊密に連携しながら、お客様や社員の安全確保のための取り組み等を講じ、社会インフラとしての鉄道輸送サービスの事業継続に万全を期し、感染症の発生・流行期においても、ご利用いただくお客様の安心感の醸成に努めています。

 

(15) コンプライアンスについて

 コンプライアンスは、単に法令等を遵守するだけでなく、世の中の基準に照らして、その期待に誠実に応え、当社事業に対してご信頼をいただく取り組みであると認識しています。

 当社においては、事業活動を営む上で、会社法、金融商品取引法、独占禁止法、個人情報の保護に関する法律等、一般に適用される法令のほかに、鉄道事業法等の業態ごとに適用される法令、さらには事業種別に応じて規制当局の監督を受けております。これらの法的規制等に違反があった場合、規制当局から調査を受け、また、場合によっては何らかの処分を受ける可能性があります。これら法令等違反の結果、当社グループの社会的な信用低下を招き、加えて対策費用が発生するおそれがあり、かかる事態が発生した場合、当社グループの業績に影響を与える可能性があります。

 なお、当社は、2009年9月に福知山線列車事故に関する航空・鉄道事故調査委員会の調査の過程で発生したコンプライアンス上の重大な問題に対して、国土交通大臣から実態調査を行うとともに、調査結果を踏まえた再発防止策等の改善措置を講じて報告するよう命令を受けました。

 当社としては、同年11月に社外有識者からなるコンプライアンス特別委員会や社長直属の社内チームによる実態調査の結果及び再発防止等の改善措置を取りまとめ、国土交通大臣に報告し、再発防止とコンプライアンス体制の強化に取り組んでおります。具体的には、コンプライアンス推進機能を集約した「企業倫理・リスク統括部」及び企業倫理の確立に向けた「企業倫理委員会」を設置したほか、コンプライアンスに関する相談・連絡の窓口として、「倫理相談室」及び取引先企業の従業員向けの通報窓口に加え、当社グループ役員・社員のための相談窓口を社外にも設置するとともに、企業倫理教育の拡充に努めてまいりました。2010年12月にはこれらの取り組みをはじめとする改善措置の実施状況について、国土交通大臣に報告を行い、2012年2月には、これまでの議論及びそれらを踏まえた提言を取りまとめた報告書が「企業倫理委員会」から提出され、その提言内容を今後の取り組みに反映いたしました。

 また、リスクの多様化に伴い、事業運営に伴い発生する固有リスク以外にも当社グループ経営に重大な影響を及ぼす重要リスクを当社社長以下、責任ある立場のものが適切に把握し、一元的なリスクの管理と低減に努めるリスクマネジメントスタイルの定着を図るため、2017年4月に「リスクマネジメント委員会」を新たに設置し、従来のリスクマネジメント体制を強化いたしました。具体的には、コンプライアンス及び自然災害・犯罪・テロ等に関するリスクについて同委員会で適切に評価し、年度ごとに全社で重点的に取り組むリスクを定めることにより、リスク低減の取り組みを進めてまいりました。

 なお、グループ経営体制を強化していくと同時にグループ全体でのガバナンスの強化・充実を図るため、企業倫理・リスク統括部と総務部の一部機能を一元化し、「ガバナンス推進本部」を2021年6月に設置しております。

 

(16) 人権への対応について

 近年、「SDGs」や「ビジネスと人権に関する指導原則」等による企業の事業環境の大きな変化に加えて、日本政府により2020年10月に「ビジネスと人権に関する行動計画」が策定されるなど、企業の人権尊重責任を問う動きが活発化しています。このような社会情勢の変化に伴い人権に関する認識が大きく変化する中で、世の中における人権課題は多様化、複雑化しており、人権侵害の未然防止に向けた仕組みの整備や取り組みの推進等、追加の対策と関連する費用が発生する可能性があります。

 また、当社グループの事業活動において、人権を侵害する問題が発生した場合、当社グループの社会的な信用低下を招き、お客様のご利用や人財の確保に影響を与える可能性があります。

 当社グループでは、経営基盤づくりの重点分野の一つとして「人権」を掲げ、2019年4月に制定した「JR西日本グループ人権基本方針」に基づき、人権尊重に向けて取り組んでいるところです。今後、「ビジネスと人権に関する指導原則」等を踏まえて「人権デューデリジェンス」の取り組みを推進し、すべてのお客様に安心・快適にご利用いただける商品・サービスの提供、及び従業員が安心していきいきと働ける職場環境の実現に向けて、着実に取り組んでまいります。

 

(17) 福知山線列車事故について

 当社は、2005年4月25日、福知山線塚口駅~尼崎駅間において、106名のお客様の尊い命を奪い、500名を超えるお客様を負傷させるという、極めて重大な事故を惹き起こしました。

 被害に遭われた方々への対応につきましては、引き続きご被害者の皆様のご意見等に真摯に向き合い、一層の努力を重ねてまいります。

 なお、今後も事故に伴う補償等の支出が見込まれますが、これらについては、現時点では金額等を合理的に見積もることは困難であります。

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